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 始まりの場所〜永遠の国 

 そこには、ひとりだけだった。
 緑の草原(くさはら)がどこまでも続く大地。雲ひとつない鮮やかな青がどこまでも続く美しい空。
 彼女はひとりでポツンとそこに立ち尽くし、嘆く。

――望んだのは、こんな世界じゃなかったのに――

 太陽は暖かくて、風は穏やかで。
 けれどここには命がない。
 獣も鳥も虫すらも。

 欲しかったのは、今はもうない生まれ故郷。
 山間の、小さな小さな村だった。
 村人たちは、人ではない彼女にも優しかった。

 空を見上げて視界に入ったその青に、水を、思い出す。
 あの村はもう水の底に沈んでいて、そこに住まう人たちは町へと越していった。
 帰る場所はなくなった。
 暖かい人が集うあの村は、もう、どこにもないのだ。
 どこにもないから、世界を創った。
 けれどここには、誰も、いなかった。
 彼女の力では、世界を創ることはできても命を創ることはできなかったのだ。

 だが、希望はまだある。
 彼女が生まれたあの世界だって、最初から命が在ったわけじゃない。
 最初は何もない暗闇で、宇宙が生まれ星が育ち、奇跡のような偶然から小さな命が現われ、進化した。
 ……上手く、やれば。
 いくつもの世界を創れば、どこかでそんな偶然が生まれるかもしれない。

 彼女は、祈るように考えた。

 そうして彼女は、いくつもの世界を創り出す。
 宇宙の、惑星の、生命の――誕生をなぞったいくつもの世界を。



* * * * *



 奇跡はいつか現実となり、創られた宇宙に命が生まれる。
 創られた宇宙に生まれた命は、創られたものではなく。
 彼らは、彼ら自身の生を歩んで行く。
 命の数だけ、様々な物語を紡ぎながら……。

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