■■ 始まりの場所〜永遠の国 ■■
そこには、ひとりだけだった。
緑の草原(くさはら)がどこまでも続く大地。雲ひとつない鮮やかな青がどこまでも続く美しい空。
彼女はひとりでポツンとそこに立ち尽くし、嘆く。
――望んだのは、こんな世界じゃなかったのに――
太陽は暖かくて、風は穏やかで。
けれどここには命がない。
獣も鳥も虫すらも。
欲しかったのは、今はもうない生まれ故郷。
山間の、小さな小さな村だった。
村人たちは、人ではない彼女にも優しかった。
空を見上げて視界に入ったその青に、水を、思い出す。
あの村はもう水の底に沈んでいて、そこに住まう人たちは町へと越していった。
帰る場所はなくなった。
暖かい人が集うあの村は、もう、どこにもないのだ。
どこにもないから、世界を創った。
けれどここには、誰も、いなかった。
彼女の力では、世界を創ることはできても命を創ることはできなかったのだ。
だが、希望はまだある。
彼女が生まれたあの世界だって、最初から命が在ったわけじゃない。
最初は何もない暗闇で、宇宙が生まれ星が育ち、奇跡のような偶然から小さな命が現われ、進化した。
……上手く、やれば。
いくつもの世界を創れば、どこかでそんな偶然が生まれるかもしれない。
彼女は、祈るように考えた。
そうして彼女は、いくつもの世界を創り出す。
宇宙の、惑星の、生命の――誕生をなぞったいくつもの世界を。
* * * * *
奇跡はいつか現実となり、創られた宇宙に命が生まれる。
創られた宇宙に生まれた命は、創られたものではなく。
彼らは、彼ら自身の生を歩んで行く。
命の数だけ、様々な物語を紡ぎながら……。