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 IMITATION LIFE〜裏話・独立への道 

「あーあっ。仕込みの途中だったのにぃっ!」
「あんまり大声出すなよ。ここがどこだかわかってんのか?」
「わかってるわよ。でもさぁ、いつもいつもタイミング悪すぎっ!」
「じゃぁ来なきゃいいだろ?」
「それはもっといや。第一あいつら追い払わなきゃ集中できないでしょ? そんな状態でおいしい料理が作れるわけないじゃない」
  エリアルはぶつぶつと文句を言いながらも目はしっかりと前方を見据えていた。
  数時間前、街の近くで戦闘が起こそうな気配があると見張りの人から街中に連絡があった。
  こういう場合たいてい、そのとき時間の空いてたものが街の外に出る。実際には、どんなに忙しくても子供や怪我人病人の面倒を見ているもの以外はほとんど皆でてくるが。
  エリアルもその日の店の仕込みの途中ででてきたのだった。


  このラキアシティの近くで大きな遺跡が見つかったのは二十年ほど前。
  それはずいぶんと珍しい、価値のある遺跡だったらしく、その権利を欲しがるものが大勢いた。
  発見者は三人。普通ならばそのうちの誰か一人、もしくは三人で所有ということになるのだろうが、欲に目が眩んだ彼らは、誰一人として譲ろうとしなかった。
  ここで中央(主都)が首を突っ込んで仲裁に入っていれば戦にはならなかったかもしれない。
  しかし現実は違った。
  ここで問題なのは遺跡を欲しがったのは金儲けが大好きな連中だったということ。連中はそれまでに貯めた金を使い、人を雇って力ずくでその遺跡を手に入れようとした。
  そしていくつもの勢力がぶつかり合う不毛な戦が始まった。もちろん中央も戦を止めようと軍隊を送った。
  しかしそれは多対一で怪物を倒すための警備隊みたいなもであり、一対一で怪物と闘える戦士にはとてもかなわない。

  ・・・・・・誰も頼れないならどうするか。
  自分の身と自分たちの街。そして大事なものを守るために自ら武器を取って闘った。
  まだ十六歳になったばかりの彼女――エリアルも周りから自然と武器の扱い、身の守り方、戦のなかでの生き方を覚えた。
  普段は普通の少女でしかないエリアルだが、こと戦闘においてはそこらの大人に負けない強さを持っていた。
  その強さには運も多く含まれていたが、要は勝てればよいのだ。
  エリアルの強さは街中どころか街の外でも噂になっており、ついた呼び名が”伝説の女ゲリラ”なんてまるで冗談みたいなもの。・・・・・・本人はその呼称には少しばかり不満を持っているが。
  そして今、エリアルは武器を持ってこの戦場にいる。女も子供も関係なく――生きるために、守るために自ら戦いに赴いた。


  街から遺跡まで歩いて三十分ほど。遺跡の近くで戦闘が起こること、イコール街の近くで戦闘が起こることなのだ。そして街の近くで戦闘が起これば当然流れ弾が街に飛んでくることもある。
  それを防ぐには遺跡の近くで戦闘をさせないこと。だから、遺跡の近くで戦闘が起こりそうになれば、こちらから出て行ってそれを止めなければならない。
  街を出て十分としないうちに戦闘区域が見えた。
「うそっ。こんな近くでやってたんだ」
「こりゃぁ早く止めないと確実に街に被害がでるぞ」
「うん」
  そしてエリアル含む数千人の街の住人たちは各自の武器を手に戦闘区域に入っていった。

  エリアルはずっと思っていた。
  このままでは何も変わらない。
  今、自分たちは街に被害が及ばぬよう一時的に戦闘を止めているだけ。
  戦そのものが終わらない限りこの状態を脱することはできない。

  そんな変わらない――変えたいのに変わらない毎日を過ごしていたある日。
  やっと、中央が戦力を整えてこの地方に向かっているという情報が入った。
  戦が始まってから十五年。最後にラキアシティに軍隊を送ってから十年以上経ってからのことだった。
  エリアルは戦を終わらせるため、そして夢を叶えるために・・・・・・その軍隊の元へ向かった。


  さて、遺跡を巡る戦を終わらせるため軍隊に入ることを決心したエリアル。
  エリアルは配属された部隊の隊長さんに自己紹介をしたのだが・・・・・・。
「ち・・・ちょっと待っててくれ・・・・・・」
  そう言い残して隊長は部屋から出て行ってしまった。
  置いて行かれたエリアルは、憤然とした態度でぐるりと部屋を見渡した。
  他の隊員たちは、なぜか目が合った瞬間苦笑して視線を逸らす。
「・・・・・・なによ、信じらんない! あんだけ待たしといてまだ待たせる気なの?」
  ちなみに女性はエリアル一人。しかも最年少。
  青年たちは、エリアルに同意してはくれなかった。
  エリアルに自覚はなかったが、多分当然の反応だろう。
  彼女は、こう自己紹介したのだ。
『はじめまして! エアリアル・シェリア・カーソンです。故郷を守るために一刻も早く戦を終らせたくて軍に志願しました。
  特技は料理。趣味は新しいレシピを考えること。将来の夢は世界一の料理人!
  みなさんよろしくお願いします♪
  ・・・・・・あ、そーだ。ねぇ、ここの料理って自動調理器? それともそれ専門の人がいるの? 良かったら料理させてもらえると嬉しいなあ。やっぱ何日も料理しないってのはちょっと落ち着かないから。
  ・・・・・皆さんどうかしたんですか?』
  そして、最初の隊長さんの台詞に繋がる。


  数分後。どこか疲れた表情で戻ってきた隊長は、全員を格納庫へ案内してくれた。
  そこには武器と戦闘用の巨大ドールがあった。このドールは人が乗って操作するもので、いろいろな武器がオプションにつけられる。
「すっごーい!こんな大きいのはじめて見たぁ」
「ああ、これか。見たことないのも無理はない。遺跡を傷つけたら元も子もないからな。遺跡付近では使われていないのだ」
「へぇーー」
  隊長は全員にとりあえず初心者でも扱いやすい武器を与え、格納庫のはずれにある訓練室を指し示した。
  ここは移動要塞であるためしっかりした訓練室などない。ゆえに、訓練室と呼ばれてはいるものの、実際
  には格納庫のすみに的がいくつか置かれているだけで訓練室と言うよりは訓練スペースといった感じだ。
「とりあえず諸君の腕が見たい。一人ずつあの的に向かって撃ってみてくれ」
  隊長の言葉を受けて一人ずつ銃を撃つ。だが、全員が十発撃って半分当たるかな? といったレベルだった。
  もともと向こうは怪物相手に戦う冒険者・傭兵といったものが主力。中央の上層部は最初から、まともに行って勝てるとは思っていない。
  作戦と質より量で勝負する気でいた。そのため一応戦闘訓練受けましたといった程度の新兵も戦いに狩りだされているのだ。隊長もその辺は理解しているようで、まぁこんなもんだろうと妥協していた。
  そして最後はエリアル。
  上官の言葉、そして『伝説の女ゲリラ』の噂は嘘ではなかったらしい。
  百発百中。しかもすべてど真ん中。
  ・・・・・・全員が、言葉を失っていた。
「え? えっと・・・どしたの? 私なんかまずいことした?」
  隊長が一番早く呆然から脱出した。
「いや、その逆だ。話には聞いていたがまさかこれほどとは・・・・・・」
  ――部屋がゆれた。
  格納庫にあるモニターに電源が入り司令室からの通信が入った。
「何事だ!?」
「敵です! ヴァレルの軍だと思われます!!」
  ヴァレルというのは遺跡を手に入れたがっている人間の一人だ。
  その通信で詳しい情報を聞くと隊長は新兵たちに向かって言った。
「早速だが諸君にも戦ってもらう。エリアル、君はゲリラ戦が得意だそうだな?」
「はい。っていうかゲリラ戦しかやったことありません。」
「ふむ・・・・・・ここにはゲリラ部隊はないんだが」
  どうやらすでにエリアルについてある程度の情報を聞いていたらしい隊長は、たいして悩む様子もなく
「好きにやってくれていいよ。君と同じようにゲリラ戦法で戦ってるのもいるから、詳しい話は彼に聞くといい」
  さらりと告げたのだった。
  こうして、エリアルの軍隊生活は波乱の幕開けとなった。

  隊長が去った格納庫で、エリアルは一人取り残されていた。
(・・・・・・えっと)
  いくらなんでもいきなり好きにやれと言われても困ってしまう。
  同じように戦ってる人がいるとは聞いたが――時間がなかったせいもあるだろう、エリアルは彼らの特徴をまったく聞かされていなかった。
  とりあえずは状況確認が最優先と判断したエリアルは、その辺の人に今の状況を聞くことに決めて――が、良く考えたらエリアルはまだ二つの部屋しか知らない。
  最初に通された部屋と、それから今いるこの場所――格納庫。
「どこにいけば人がいるのかしら・・・」
  行動に困ってしまって、通路をうろちょろしていると、
「あっ、いたいた!! ・・・エアリアルさんだよね?」
  唐突に、後ろから声がかかった。
  エリアルは後ろを見た。そこにいたのは自分よりもさらに二つ三つ下の少女。
(あれぇ? 確か私が最年少なんじゃ)
「私、フィズ・クリスって言うの♪ 隊長さんにエアリアルさんを案内してやれって言われたの」
  彼女はエリアルの戸惑いなどまったく気にせずに、にこにこと楽しげな笑顔で告げた。これから戦闘だと言うのに緊張感は皆無だ。
  ・・・・・・エリアルもあまり人のことばかりは言えないが。
「ねぇ、ひとつ聞いていい?」
  呑気な口調での問いかけに、フィズもまた呑気な口調で首を傾げた。
「なに?」
「私が最年少って聞いてたんだけど・・・・・・あなた私より年、下だよねぇ?」
「ああ、普通の軍人さんはね。私は軍人じゃなくって、冒険者」
「冒険者?」
「そう。目には目をってわけ」
  なにがそんなに楽しいのか、フィズはクスクスと小さな笑いを漏らした。
「でもお金が無くってそういうのは雇えないって聞いたけど」
「ああ、私たちはトレジャーハンターだから。この戦が終わったら遺跡の調査に参加させてもらうって条件で協力してるの」
  それからもしばらく話しこんでしまい、数分も経った頃――少し離れたところから声が聞こえた。
「あ、やっば」
「もしかして連れの人?」
「そう、思ったより話し込んじゃったからなぁ。怒られるかも」
  声の主はフィズと同じくらいの少年。フィズが予想したとおり、・・・・・・少しばかり怒っていた。
「フィズ・・・・・・そんなにのんびりできる状況じゃないだろ?」
「あはははっ。ごめん、女の子同士だと話が盛り上がっちゃって」
  彼はしばらくフィズを睨みつけていたが、見せつけるような溜息をついてからエリアルの方へ向き直った。
「オレはラシェル。しばらくはいっしょに行動することになる。よろしくな」
  差し出された右手を握り返して、エリアルはにっこりと笑顔で返した。
「こちらこそ、よろしく! ・・・・・・で、好きにやれってどうすればいいの?」
  シン、と。
  場が静まり返る。
  なぜか疲れたような表情を見せた彼――ラシェルは、その一瞬後には苦笑しつつ、簡単にだが説明してくれた。
「こっちが有利になるように戦場を引っ掻き回してやればいいのさ。まあ説明聞くより実際にやった方が早いか。
  戦闘経験はあるんだろ? でなきゃこっちに回すわけないもんな」
「ええ」
  ふっと。自信に満ちた笑みで答えると、ラシェルは楽しげに笑う――ぱっと見の外見にそぐわない、不敵な笑みだった――。
「武器はこの辺にあるもん持ってきゃいいから」
「おっけぃ♪」
  しばらくその辺をうろうろした後、エアリアルが選んだのは・・・・・・威力は高いが重さもあり、扱い難さナンバー一の大型弾丸銃だった。
「ホントに大丈夫なの?」
  さすがに不安になったらしいフィズに、エリアルはパチンとウィンクで答える。
「使えないもの持ち出したりしないわよ」
  その答えを聞いて、ラシェルは納得した様子でエリアルを見、唐突に体の向きを変えた。・・・・・・その視線の先には外がある。
「じゃ・・・・・・行くか!」
  ラシェルの声と共に、三人は外へと駆け出した。

  エリアルはここでも、『伝説の女ゲリラ』の噂を思いきり発揮した。
  いきなり巨大ドールを撃破したのだ。これは普通生身で対抗できるようなものでもないはずなのだが・・・・・・。
  扱いにくい変わりに威力も強大な武器をまるで手足のように使いこなし、影からの不意打ちであっというまに戦場を沈黙させてしまった。
  その後もいくつもの戦場でエリアルは大活躍し、それからわずか数ヶ月で戦を終結させてしまった。
  今までの長く、終わらない戦がまるでただの悪夢だったかように・・・・・・。
  もちろんそれにはフィズとラシェル、そして正規の軍人たちもも多大に貢献していたが。


  そして戦の終結からさらに数ヵ月後・・・・・・。
「よし! 手伝ってくれてありがと。遺跡のほうはいいの?」
  ラキアシティに戻ってきたエリアルは、念願の自分の店を手に入れた。
  ちなみに、その資金は中央軍からの報奨金である。
  手伝ってくれているフィズに問いかけると、フィズは賑やかに、可愛らしい笑みを見せた。
「大丈夫。ラシェルが行ってるし、実は私トレジャーハンターって言っても、ラシェルについて回ってるだけだし。今はエリアルのお手伝いしたいの♪」
「じゃ、お礼に店が開店したらラシェルとフィズに世界一の料理をご馳走してあげる」
「ありがとう、楽しみにしてるね」

  その後、エリアルのお店はその料理で大陸じゅうに名前が知れ渡るほどの店となり、以前からの口約通り、誰もが認める大陸一の料理店となるのだが・・・・・・。
  それはまだもうちょっと先の話だ。

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