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 IMITATION LIFE〜初期設定ver 1話 

 子供は、目を覚まして起きあがるなりどこか不機嫌そうな口調で言った。
「おじさん、誰?」
 ここは古代人リディアが遺した遺跡の最深部。
 世界一のトレジャーハンターと呼ばれるほどの腕を持つ自分でさえここまで来るのに多大な労力を要した。
 その、最深部に眠っていた子供。数々の機械に囲まれて、厳重なガードに守られて眠り続けていた子供。
 目指すリディアの宝かもしれない。そう期待して子供を目覚めさせたフォレスは、唖然としてその光景を見つめていた。
 子供はぷぅっと頬を膨らませ、腰に手を当てて拗ねた口調で言う。
「もぉっ、聞いてるの?」
 それでも答えないフォレスに、子供は大声で怒鳴りつける。
「あ・・・ああ」
 フォレスが返事を返した事に少し機嫌を直したのか、子供はにっこり・・・いや、ニンマリと言うべきか。楽しそうに、からかうように笑った。
「おじさんはどこに住んでるの?」
「・・・この大陸の北にあるミレルという村だ」
 警戒心のない笑みに、フォレスは思わず普通に答えてしまった。
「そう、それじゃ先に行ってるね」
 子供はにっこりと笑った。そして、その笑みを最後に、唐突に姿を消した。
 未だ呆けているフォレスを置いて・・・・・・・・・・・・


 ―――それから数年後。

 フォレス・ノーティが住んでいた家には、少年が一人で暮らしていた。たいして珍しくもない青い髪と、あまり見かけない赤い瞳。年齢は、一応十三歳ということになっている。
 その少年の名は、ラシェル・ノーティと言う。
 すでに老齢だったフォレスは数日前にこの世を去り、ラシェルは一人でこの家に暮らしているのだ。
 フォレスは、死ぬ前に生活の仕方、行き抜く術、その他もろもろのいろいろな知識を与えてくれた。おかげで、ラシェルは一人になっても全く不自由する事はなかった。
 ただ、少しばかりの罪悪感というか・・・本当に良いのだろうか? という想いが心のどこかに存在していた。
 ラシェルがフォレスと出会ったのはほんの一年前。
 ラシェル自身は覚えてないが、森の中で倒れていたのをフォレスが見つけてくれたらしい。
 目覚めた時、ラシェルはなにも思い出す事が出来なかった。自分の生まれも、名前すらも覚えていなかったラシェルは、そのままフォレスの家で世話になることになったのだ。
 そう、フォレスとは血は繋がっていない。フォレスとの付き合いは一年弱。そんな自分がフォレスの家と財産を貰いうけてしまっていいのだろうか?
 その問いにフォレスは笑って答えてくれた。今、家族と呼べる者はラシェルしかいないのだから、家族が遺産を受け取って何が悪い、と。


 フォレスがいなくなって数日が経った朝。
 数日前まではフォレスの声で目を覚まし、起きた時にはもう朝食が出来ていた。
 まだ慣れられない一人きりの生活に、ラシェルは小さく溜息をついてベッドから起きあがった。
 けれどラシェルの心を占めていたのは、フォレスがいないことではなかった。
「また、あの夢・・・・・・」
 以前からよく見ていたが、フォレスがいなくなって以来夢の内容がはっきりしてきたような気がする。
 こんなに同じ夢を見るなんて、きっと実際にあった事・・・多分、記憶喪失になる前のことなんだと思う。

 その夢はいつも暗闇から始まる――
 その夢の中で、自分は泣いていた。何故、泣いていたのかは思い出せない。
 暗闇の中、遠くに光を見つけ自分は光に向かって駆け出した。
 背中から声が聞こえる。自分を制止する女の子の声。
 けれど、ラシェルは止まらなかった。
 そのまま光に向かって駆けて行く。
 光が目の前に迫り、視界が真っ白に染まったところでその夢は終わるのだ。

 いつまでも考えこんでいてもわからないんだから仕方ないと、ラシェルはいつもと同じように着替え、朝食の準備をしようとベッドから下りた。
 けれどまだ着替えも終らないうちに扉が叩かれる。
「はいはーいっ」
 軽い声とともに扉を開けると、そこには村で唯一の同年代の子供、フィズ・クリスが立っていた。
「どうしたんだ? こんな早くに来るなんて珍しい」
「宿屋のおじさんに伝言頼まれたの」
「伝言?」
「うん・・・・・フォレスさんに用があるって人が来てるんだって」
 フィズは頷き、しばらくの間を置いてから先ほどの明るさが嘘のような口調で言った。
「え? でもじーちゃんは・・・」
 沈み込むフィズとは対照的に、淡々とした口調でラシェルは答える。
 フィズがその言葉の後ろを続けた。
「うん、おじさんもそう言ったみたいなんだけど、そしたらフォレスさんに息子か孫はいないかって」
「んで、オレに言いに来たと」
 フィズはコクンと頷き、宿に行けば会えるだろうと教えてくれた。
 フィズに礼を言い、ラシェルは一度部屋に戻る。
 着替えをし、出かける準備を整えたラシェルの目に碧いペンダントが映った。
 ラシェルの身元を知るための唯一の手がかりだとフォレスは言っていたが、そのわりに扱いは粗雑だ。
 無造作にペンダントを掴んで首にかける。
「よし」
 忘れ物はないか確認してラシェルは家を出た。もちろん、行き先は宿屋だ。
 けれどその必要はなかった。
 家の前に見なれぬ青年が立っていたのだ。
 年の頃は二十歳前後。銀の髪と青い瞳。どこか冷たい印象を受ける瞳が印象的だった。
「ここがノーティさんの家だと聞いたのですが・・・・」
 青年は控えめにそう尋ねてきた。
「あんたがじーちゃんを訪ねて来た奴か」
「ええ、レオル・エスナと言います」
 折り目正しくお辞儀をして名乗り、それから、本当はフォレスさんに依頼したかったのですけど・・・・・と前置きをしてから用件を告げた。
「リディアの宝を探して欲しいんです」
「リディアの宝?」
 ラシェルはその名前に聞き覚えがあった。
 今でこそ平和なこの世界だが、リディアの時代には怪物がはびこる危険極まりない世界だったそうだ。
 そして、怪物たちに対抗するためにたくさんの兵器が造られた。
 その最高傑作と伝えられているのがリディアの宝だ。だが、それはただの伝説だ。一般ではそう思われているし、ラシェルもそれが本当にあるとは思っていない。
「あんなのただの伝説だろ?」
 伝説から真実を探る職業とも言えるトレジャーハンターとしては失格の発言かもしれないが、トレジャーハンターという仕事は生活のためにやっているだけ。歴史などにあまり興味のないラシェルには現実味のないただの伝説でしかなかったのだ。
「いいえ、伝説は本当に存在してるんです」
 レオルは静かに首を振って、ラシェルの言葉を否定した。
「リディアの宝は史上最強の兵器です。それゆえに、いくつもの安全装置が存在しています。兵器の本体である”ヴァルナ”。兵器の力の源となっている四つの石。そして、制御装置”シフォーネ”。この全てを揃えて初めてリディアの宝はその力を発揮するのです」
 言って、その視線をラシェルに向ける。
 よく見れば、視線の先にはラシェルが下げているペンダントがあった。
「貴方が首から下げているのが”シフォーネ”です。そして、”シフォーネ”を持っている貴方にお願いがあります」
「リディアの宝の捜索・・・か?」
 ここまで言われれば依頼内容は簡単に予想がつく。レオルはその通りだと頷いて、自分では”ヴァルナ”が眠っていると思われる遺跡に入れなかったのだと言い足した。
「多分、中に入るのにそれが必要なんでしょう」
 ラシェルはしばらく考えこんだ後、とりあえず現実的な質問をした。報酬のことだ。金がなければ生活できない。依頼を受けるも受けないも報酬次第だ。
 レオルは予想外の報酬を約束してくれた。
 それは、記憶。
 彼は記憶を失う前のラシェルに会った事があると言うのだ。
 もちろんその言葉を鵜呑みにして信用する気はない。しっかり、それとは別に現金による報酬も約束させて(ちょっと前金貰った)仕事を受けることにしたのであった。

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