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 IMITATION LIFE〜初期設定ver 2話 

 レオルの依頼を受けてから数日後・・・・・
 ラシェルはレオルに教えられた遺跡に足を運んでいた。
 レオルの話によるとここにリディアの宝の一つ、”ヴァルナ”が眠っているらしい。
「で、・・・・どうやって入るんだ・・・これ」
 フォレスから遺跡についての知識は一通り習っていた。が、これはそのどれとも違う、見たことないタイプの遺跡だった。
 草っ原のど真ん中に小さな石碑が一つ。それだけだ。
 レオルはこれが遺跡への入り口なんだと言っていたが、言われなければ誰もこれが遺跡への入り口だなんて思わないだろう。
 ラシェルは、無造作にその石碑に触れた。瞬間、石碑が淡く光り出す。
「え?」
 そう、呟いた直後にはラシェルはもうそこから姿を消していた。

 視界が青白い光に包まれる。光に遮られ、周囲の様子が全く見えなくなる。
 そして、それからほんの一瞬。視界が戻ってきた時、そこは全く見知らぬ場所だった。
 どこを見てもそこにあるのは白い金属の壁。どうやらあの石碑は転移装置で、何らかの理由でそれが作動したらしい。
 レオルの話を信じるならば、それはペンダントのおかげなのだろう。なんとなく、身につけていると安心出来る碧い石。今もそれはラシェルの首から下げられている。
 一応周囲を警戒しながら歩き出す。
 たいてい重要物は最深部にある。史上最強の兵器”ヴァルナ”が封印されているというのならきっと厳重なガードに守られて一番深い場所にあるのだろう。
 だが、意外にも罠らしい罠も、警備システムすらまったく作動しないまま奥に進む事が出来た。
 罠を解除したわけでもない。警戒はしていたものの、それらしき作動装置も見つからなかった。
 まさか警備システムが存在しないわけはない。それでは封印すべき兵器が簡単に表に出されてしまう。
「一体ここはなんなんだ・・・・?」
 ぽつりと、口を出た呟き。
 封印の意味を成さない封印の遺跡。これほどわけのわからないものもないだろう。
 それでも、先に進む以外の選択肢を選ぶつもりはなく、ラシェルはやはり警戒を崩さぬままに先に進んでいった。
 そうして数時間も歩きつづけただろうか。
 ラシェルは何にも害される事なく最深部と思われる場所に到達することが出来た。
 パスワードが必要だと思われる扉、移動装置。その全てが、ラシェルが触れただけで作動してしまった。
 疑問は残るが今は依頼された調査を優先しようと、ラシェルは最深部の機械に目を向けた。
 ガラス(?)の蓋に覆われた柩のような形の機械。その奥の壁に鏡のような――遠目から見れば鏡に見えるのだが、実際近づいてみるとそれは何も映し出していないのだ――物がある。
 まずは柩を見てみる。中はベッドのようになっていた。子供が眠るのにちょうど良いくらいの大きさ。だが、そこには何もなかった。
 次に目を向けたのは鏡もどき。
 近づいてもやはりその鏡もどきは何も映し出さない。
「なんの為の物なんだろうなぁ?」
 もう少しよく見ようとして近づいた時だ。何も映し出していなかった鏡もどきに女の子の姿が映し出されたのは。
 ペンダントと同じ碧の瞳。長い金髪をポニーテールにしてまとめている。
 それより何より、一番目に付いたのは尖った耳と背中の四枚の羽根。まるで物語に出てくる妖精のような姿だ。
 最初は小さく映し出されていた彼女の姿がどんどん大きくなり、最初は手が、鏡から抜け出してきた。
 そのまま勢いよく飛び出し、ラシェルに抱きつく。姿だけでなく、サイズも絵本の妖精そのものだった。身長三十センチ程度だ。
 彼女はラシェルの肩にしがみついたまま、大声で泣いていた。
「あの・・・?」
 わけのわからない物とはいえ、女の子に泣かれて気分が良いわけがない。ラシェルは困った様に彼女を引き剥がし、とりあえずさっきの柩の上に乗せた。
 彼女はまだ泣いている。そして泣きながら、言った。
「よかった、戻ってきてくれて。ヴァルナがいなくなってからずっと一人で・・・寂しかったんだからね」
「あの・・・さ。誰かと間違えてないかな? オレの名はラシェル。ヴァルナじゃないよ」
 確か・・・・・・ヴァルナは兵器の名ではなかっただろうか? 兵器が人型をしているということか?
 そんな疑問を胸に抱えつつラシェルは彼女を宥めようと、できるだけ優しく声をかけた。
「うそっ! 私が間違えるはずない・・・・・・ヴァルナのことを」
 彼女はばっと顔をあげ、強い意思のこもった瞳でラシェルを見る。
 その勢いに圧されラシェルは少しばかり引いた声音で問い返す。
「でも・・オレは君の事を知らないし、オレの名前はヴァルナでもない。第一”ヴァルナ”ってのは兵器の名前なんだろ? なんでそれがオレなんだよ」
 怪訝な表情でそう言った途端、彼女の瞳が不安そうに揺れた。
「おぼえてないの・・・・・・?」
 そして早口に言葉を続ける。
「ねぇ、じゃあどうしてここに来たの? ねぇ・・・・どうして・・・・・」
 そこまで言ったところで彼女はまた、泣きだしてしまった。両手で顔を覆って静かに涙を流す。
「なんでって言われても・・・・」
 ラシェルは困った様に頭を掻いて、ある人に依頼されて調査に来た事と話した。そして、遺跡の中で起きた不思議も――警備システムが作動しなかった事と、移動装置や扉があっさり開いた事だ。――
 今のままの生活を守りたいなら話すべきではなかったのかもしれない。でも、知りたかった。
 だから、今の自分の記憶が一年分しかないことも話した。それより前のことを一切覚えていない事も。
 それを聞いて、彼女の表情が険しくなった。
「貴方に依頼をした人はそれが”シフォーネ”だって言った」
 彼女はラシェルのペンダントを指差して言った。それはほんのついさっきラシェルが彼女に言った事だ。ラシェルはこくりと頷いて肯定する。
「確かに、それも正しい。貴方がかけているそれは強大すぎる”ヴァルナ”の能力を抑えるための物だから。でも、本当の制御装置”シフォーネ”は・・・・・・・”ヴァルナ”を感情を持たない兵器に育てる役目を持った機械のこと。・・・・・・私のことよ」
 ラシェルの頭に疑問符が浮かぶ。それはそのまま表情にも現れ、彼女はそれに応えて説明してくれた。
「リディア最盛期のころ、この世界は怪物だらけだった。それに対抗するために数々の兵器が造られていったけど、普通の兵器だと結局生身の人間が戦闘に赴く事になる。出来るだけ被害者を減らそうとした結果生まれたのが、意思を持つ、人間型の兵器」
 そうして彼女が語ったのは、使い捨てられた兵器たちの話だった・・・・・・。

――最初は、機械人形。その機械人形たちは、強力な武器と、強靭な体。決して人間に逆らわず、いつでも冷静な状況判断を下せる人工脳を持って怪物たちと戦った。けれど、怪物たちは特殊能力を持っていることが多く、それに対抗する力を持たない機械人形たちは次々と倒されていった。
 やはり怪物たちの能力に対抗するには同じような特殊能力を持っていなければ不可能だ。
 そんな結論に行き当たり、科学者達が造り上げたのは人工の人間。生まれる前から数々の遺伝子操作を施された人間。生物兵器・・・・・・その最高傑作が、ヴァルナだった。
 彼らの活躍のおかげで怪物たちはどんどんと数を減らしていき、その姿を消した。
 そうしてやってきた平和な世界で、今度は兵器たちが邪魔になったのだ。
 機械人形たちは簡単だった。廃棄処分にして捨ててしまえば良い。
 じゃぁ、特殊能力を持たされた人間は・・・?
 ほとんどの者は殺されてしまった。けれど、あまりにも大きな力を持つ者は殺す事が出来なかった。
 そこで、その者に対しては封印という形を取ったのだった。

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