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 IMITATION LIFE〜初期設定ver 番外編 

 ちょうどフィズが扉の前に立った瞬間だった。
 バタンッ、と勢いよく扉が開き、フィズは慌てて後ろに下がる。あともうちょっと遅かったら開いた扉と激突していたところだ。
「アクロフィーズぅ〜〜〜」
 扉が開いたのとほぼ同時に、金髪のポニーテールを揺らして、シフォーネが家の中から飛び出してきた。
 背中にある四枚の羽を巧みに動かし、フィズに飛びつく。碧色の綺麗な瞳は涙に濡れていた。
「シフォーネ。いったいどうしたの?」
「ラシェルがいじめるのぉ〜〜〜!」
 フィズの肩に顔をうずめて泣き喚くシフォーネを追ってくるように、ラシェルが家から駆けてくる。
「フィズっ、そのままそいつ捕まえてろ!」
 ラシェルの叫ぶような大声に、シフォーネは慌ててフィズの後ろに姿を隠す。
 突然目の前で展開された騒ぎについていくことができず、フィズは一瞬唖然とした表情でその光景を見つめていたがそれでも数秒で立ち直った。
「・・・・一体何の騒ぎ?」
「シフォーネがオレの飯を食ったんだよ。一週間ぶりのまともな食事だったのに」
 食い物の恨みは怖いとはよく言うが、まさにその通り。
 ラシェルは滅多に見せない低い声音と怒りの表情でフィズを――正確にはフィズの後ろにいるシフォーネを――睨みつけた。
 フィズが呆れた表情でラシェルを見る。
「一週間って・・・あんたなにしてんのよ、この前帰ってきたばっかりじゃないの」
「仕方ないだろ! なかなか換金手続きが終わんなかったんだから」
 遺跡から価値のあるものを発掘しても、換金まではある程度時間がかかる。こんなのはザラにあることだった。だからそれ自体は別に気にするほどのものではない。
 問題は、せっかくの食事をシフォーネに食べられてしまったというその一点。
「食べなくても大丈夫なくせになんでよりによってこんな時につまみ食いするんだよ!」
 シフォーネが食べなければ生きていけないというのならば文句も言わない。が、今までシフォーネはほとんど物を食べていない。
 本人の弁によると、基本的には光さえあればエネルギーには事欠かないのだそうだ。
「だっておいしそうだったんだもん!」
 フィズの肩から顔を半分だけ見せて、拗ねたような口調でシフォーネが言う。
「だからってなぁ、オレはシフォーネと違って食べ物無しでは生きていけないの!」
「また作れば良いじゃない」
 怒りに任せて勢いよく怒鳴るラシェルを前に、フィズは呆れたような口調で言った。
「またって・・・・・久しぶりだからちょっと奮発したんだぞ? 残りの金じゃもうあんな豪勢なの作れないのに!」
 ラシェルは大袈裟に泣きまねをして見せたが、フィズもシフォーネもそれで騙されるようなタイプはなかった。
 フィズにしろシフォーネにしろラシェルとの付き合いは長い。ラシェルの性格もよぉーくわかっているのだ。
 ラシェル自身もそれを理解していたから、いつまでも泣きまねなんかしていない。
「ま、終ったもんは仕方ないけどさ。・・・・・・働かざる者食うべからず。次の仕事の時はきっちり動いてもらうからな」
 静かな声で言ったが、下手に怒鳴るよりもずっと迫力のある言い方だ。
 ラシェルとシフォーネの間に、一瞬緊張した空気が流れたが、そんな場の雰囲気を読まないフィズの声にさっと掻き消されてしまった。
「あ、そーだ。私仕事頼みに来たのよ」
 フィズはそう言って、胸の前でポンっと手を合わせた。
「仕事?」
「そう。封印の遺跡見つけたから、手伝ってほしいの」
「今まではどうしてたんだ? 今まで一人だったなら今更手伝いなんていらないだろ」
 少なくとも、レオルと、一番厳重に封印されていただろうラシェル=ヴァルナの遺跡はフィズ一人で封印を解除したはずだ。
「力技」
 フィズがあっさり、短く言う。それはつまり、魔法を使って邪魔な扉や壁を破壊しつつ進んだという事だろう。
「・・・・・・・・・・・・・」
 ラシェルは思わず唖然としてしまった。シフォーネも呆れたような、驚いたような、微妙な表情でフィズを凝視している。
「だってしょうがないじゃない。それ以外方法がなかったんだから。でも今はホラ、機械に関してはエキスパートのシフォーネちゃんがいるし?」
「今まで通りの力技じゃダメなのか? 言っておくけど、例えフィズの依頼でも金はとるぞ」
 その言葉に、フィズは思いっきり顔を顰めた。
「ええぇ〜〜〜〜っ? いいじゃない、友達のよしみでサービスしてよ」
「ダーメ。オレも生活かかってんだよ」
 ラシェルは左手を腰に当て、右手でフィズを指差して、ゆっくりと、子供に言い聞かせるように言った。
「じゃあさ、旅の資金は奢りにしとくから」
 フィズは一歩も引かず、手を組んで可愛らしくおねだりポーズをして見せた。
 だが、フィズが付き合いの長さ故にラシェルの性格をよく知っているように、ラシェルも、フィズとの付き合いの長さ故に彼女の性格をよく知っている。
「それは必要経費っつーんだよ」
 あっさりきっぱり言って、相場の金額を提示した。不満げな声を漏らすフィズを睨みつけて言う。
「これでもサービスしてんだよ。行き先も危険度も聞かずにとりあえずの相場金額でいいっつってんだから」
 普通は、雇い入れの基本金額プラス期間や危険度なんかも加えた金額が依頼料となる。
 ラシェルにしてみれば、基本金額のみでいいというのは破格のサービスなのだ。
 フィズはなおも不満そうな声をあげていたが、とうとう折れた。
 深い溜息をついて、言う。
「〜〜〜っもう、わかったわよ。出発は明日ね」
「へいへい」
「なによ、その返事!」
 やる気のないラシェルの声にフィズが怒鳴り声をあげるが、ラシェルはまったく聞いちゃいない。
「ほらほら、明日すぐ出るんだろ? 早く準備しないと」
 笑いながら言うが早いか、文句を言うヒマも与えずバタンっと扉を閉じたのだった。

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