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 IMITATION LIFE〜初期設定ver 最終話 

「・・・・復讐する相手はもうとっくに死んでるだろ」
 逆に聞き返した。けれど、否定はしていない。・・・・・・行かないとは言わなかった。
 脈ありと感じたのか、レオルは口の端に小さな笑みを浮かべた。
「そうですか? ・・・・・・いるじゃないですか。彼らの子孫が」
 さらりと、恐ろしいことを言う。
「何言ってるの! リディアはもうとっくの昔に滅びたわ!」
 そう叫んだのはシフォーネではなく、フィズだった。
 リディアと言う名前はいまでは一般的ではない。考古学者や遺跡に詳しい人間がかろうじて覚えている程度の名前だ。
 ラシェルはフィズに遺跡の話をした事はないし、祖父はフィズに仕事の話を聞かせるほどは親しくなかった。
 つまり、フィズが知っているはずないのだ。もしかしたら独学で勉強していたのかもしれない。けれど、フィズが住んでいる家にはそんな形跡を残すような物はなにも無い。
 ラシェルは、呆然とした表情でフィズを見つめる。
「フィズ・・・・?」
 疑問の言葉が、口をついて出た。たった一言、彼女に対する疑問の声。
 はっとした表情で、フィズはこちらを見つめ返した。
「・・・・・・・・・・・・」
 いまにも泣きそうな顔で、迷っている。多分、言うべきかどうかを。
 ラシェルの疑問に答えたのはフィズではなくシフォーネだった。
 スウッとラシェルの目の前に飛んできて、真剣な表情で言ってくれた。
「さっきはごめんね。私は戦えないから、助けを呼びに行ってたの」
 シフォーネは、言いながらチラリとフィズの方に視線をやった。
 その視線の意味・・・シフォーネは、助けとしてフィズを呼びに行ったということ。
 まさかの思いが頭に過ぎる。あまりにもそっくりだったために浮かんだ想像・・・・・・さっきはすぐにそれを否定した。
 けれど・・・・・・シフォーネの態度が、フィズの言葉が・・・まさかの思い、それが事実だと警告する。
「アクロフィーズ・・・なのか?」
 否定して欲しいと、そう願いながら聞く。
 しかしその願いに反して、フィズは戸惑いながらもコクリと小さく頷いた。
「私が貴方とレオルの封印を解いたの・・・・・」
「どういうことなんだ・・・・・・?」
 しかしラシェルの問いの答えは聞くことが出来なかった。フィズが答える前にレオルが動き出したからだ。
 レオルの手は、まっすぐフィズの方に伸びていた。レオルの狙いはラシェルではなくフィズ。
 けれどレオルが放った魔法は、フィズに届く前にかき消されてしまった。
 レオルがラシェルのほうを見る。どうやら気付いたらしい。今、レオルの魔法をかき消したのがラシェルだと言う事に・・・・・・。
「・・・・・あんたさぁ、邪魔だよ。オレは、フィズと話してるんだ」
 負ける気はしなかった。
 さっきまで心の片隅に確かに存在した”復讐”という言葉は、消えないまでも小さくなっていた。
 もうとうの昔に死んでいる人間に憎しみを抱くよりも、今の疑問を解決するほうが重要だったから。

 レオルは、焦って選択を間違えたのだ。待てばよかったのに・・・・そうすれば、レオルは話の仕方次第でラシェルを――ヴァルナを、協力者として引き込む事が出来たのに。

 らしくない・・・・・・そう思いながら、自分自身の思考に驚くぐらい冷静に、考えていた。
 自分を冷たく感じるほどに鋭く冴えた感覚があった。
 次の瞬間には、すでにレオルは存在しなかった。
 レオルもアクロフィーズと同じタイプの特殊能力者。レオルが戦士としてどんなに優秀であったとしても。生まれる前から特殊能力者となるよう造られたヴァルナとは力の差がありすぎたのだ。
 フィズが目を丸くしてその光景を眺めていた。
 そういえば、彼女は見た事がなかったっけ・・・・。
 どこか無感情に、ラシェルは思った。
「教えてよ。貴方は、誰・・・・・・・・・?」
 その答えはわかっていた。だから、本当に問いたい事は別にある。言外に含まれた、本当の問いにフィズは気付けただろうか?
「私は、偶然フォレスさんに見つけてもらえたの。私は、私のほかにも同じように封印されている人がいるかもしれないと思ってあちこちの遺跡を巡った。
 だって、そうでしょう? ひどいじゃない。利用されて、用が済んだら棄てるなんて。私たちは道具じゃない、れっきとした人間なのに」
 そこまで言って、フィズは小さく息を吐いた。
「黙ってたのは・・・ごめんなさい。でも、覚えてないならそのままでも良いと思ったの」
 まるでオレが虐めてるみたいじゃないか・・・。
 あまりにも落ちこんでいるフィズを前に、ラシェルは呆れた様な表情を見せた。
「別に謝る事じゃない。レオルが何を考えてたかなんてフィズにはわからなったんだし、オレだって知らずに済んだならそのほうが良かった。
 ま、思い出したもんは仕方ないさ」
 ラシェルは苦笑して言った。
 シフォーネが心配そうにラシェルを見つめていた。・・・・・・これだけは、レオルに感謝しても良いと思う。
 レオルのおかげで今のシフォーネには行動制限が全く消えているのだから。
「フィズはこれからどうするんだ?」
 ラシェルの口調が唐突に変わった。すっかり開き直った、明るい響き。
 まだ下を向いていたフィズは、呼ばれてはっと顔をあげた。ラシェルの顔を見て、小さく笑う。
「今まで通りやってみる。またレオルみたいな人がいないとも限らないけど、でも、やっぱり嫌だもの・・・・・・」
 フィズはどこか寂しげに笑う。昔のことでも思い出しているのだろうか・・?
 しばし沈黙の時が流れ、それから、フィズはにっこりと笑った。
「ラシェルは?」
「同じだよ。今まで通りだ。思い出したからって何が変わるわけでもなし、金稼がないと生活出来ないだろ」
 そう言って、ラシェルは笑った。フォレスがいなくなって以来久しく見せていない、とびっきりの笑顔で。

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