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 IMITATION LIFE〜大地の歌・森探索編 最終話 

 下へ降りていくと、上を見上げてリムを待っているシンの姿が目に映った。
 こちらに気付いたのだろう、シンは手を振ってきた。
 多少重い心持ながら、リムも手を振って返す。
「どうだった?」
 大地に降り立ったリムに、シンは簡潔にそう問いかけてきた。
 リムの様子に気付いたのか、シンの口調は少しばかり暗い。
「うん・・・・・・」
 リムは暗い表情で、先ほど空族に聞いた話をそのまま話した。
 シンが呆れたような表情でその場に座りこんだ。
「それ、もう諦めた方がいいんじゃねぇのか?」
 めんどくさそうに言うシンに、リムは大声で反論する。
 だって、諦めるという事は、このまま大地が力を失っていくのを黙ってみているだけという事で、それは世界の滅びを止めようとしないってことで・・・・。
「絶対ダメっ! だって、今何もしなかったら・・・・・・・何もしなかったら・・・・」
 涙混じりの声に、シンが慌ててさっきの言葉を撤回する。
「あ〜〜、もうっ。おれが悪かった。もう言わないから泣くなっ!」
 今までの付き合いでちょっとわかったのだが、どうやらシンは泣かれるのが苦手らしいのだ。
 とは言っても苦手になるのは特定の人物だけ。ある程度親しい人だけのようだが。
「ホント?」
 リムは座りこんでいるシンと目線を合わせるために、下を向いて聞き返した。
「ああ、本当」
 シンは、やっぱりめんどくさそうに、けれど少しばかり照れたような口調で答えた。


 さて、本気で神様の血を引いた人族を探し出そうとするならばまずはその伝承が真実かどうか確認しなければならない。
 水晶が生まれてからのことならばリムはすべて知ることが出来る。が、それ以前となると、どうやって調べていいのかすらわからないのだ。
 そんな大昔のことを調べる術などあるのだろうか・・・?
「遺跡とか巡ってみるしかないんじゃねぇの? でなかったらリムの言う精霊とやらに聞いてみるとか」
 シンは半ば冗談で言ったのだろう。だってシンは精霊にも意思があるなんて信じてない。
 でもそれはリムにとってはまさに名案だった。
 そう。意識だけの存在であり、元から命というものを持たない精霊たちは永遠の存在なのだ。
 確かに彼らは明確な意思を持たない。けれど、彼らに接触すれば彼らが見た過去の記憶を知ることが出来る。
「シンってば頭良いっ♪ それ行こう!」
 リムはにこにこと笑顔を向けてそう言った。
 冗談で言ったつもりのシンは、逆に面食らってぽかんとリムの様子を眺めている。
「リム・・・・・?」
「精霊に聞きに行くの。たった今シンが言ってくれたでしょ?」
 リムの言葉にシンはますます疑問の色を濃くする。
「聞くって言うか、精霊が過去に見たものを見せてもらうって言うか・・・。確かに精霊は明確な意思を持たないけど、でも、それまで存在してきた記憶は持ってるもの」
 シンはいつものように腕組をして、その言葉を理解しようと努めてくれている。
 でも、上手く理解できなくても仕方がないとは思う。
 シンとリムでは、基本的な知識の基盤からして違いすぎるのだ。
 そうして、シンは絶対、わかっていないだろう顔で、いつもと同じ答えを返してくる。
「・・・・・・なんとなくわかった・・・・・・と思う」
 そのお決まりの台詞を聞き流して、リムはすでに集中に入っていた。
 ただ精霊と会話するだけなら難しいことは何もないのだが、精霊の過去の記憶を引き出そうというのだ。難しいとは言わないが、簡単なことでもない。
 リムの様子に気付いたのか、シンは何も言わなかった。ただ、待っている。リムの次の言葉を。
 こういう問いに一番向いているのは風の精霊だろう。彼らは空族以上に世界のあちこちを見て回っている。
 空族が、他の種族に比べて物知りなのは、空族が他の種族と比べて風の精霊と近しい位置にいるからだ。だから、あんな大昔の話が残っていたりもする。
 ふわりと、風が髪を掠めて流れていく・・・・・・。
 そこに、リムは見つけることが出来た。望みの記憶を。
 その記憶は、確かに空族が教えてくれた伝承が真実であることを教えてくれた。
 だが、その血筋の者がどうなったかまでは見ることが出来なかった。

 確実なのはただ一つ。
 神の子供は存在すること。

「やっぱりここまで・・・・・か」
 もしかしたらその子供がどうなったかわかるかもしれないと多少の期待を抱いていた。
 リムは、少しだけ肩を落として呟く。
「わからなかったのか?」
 シンの言葉にリムは首を振ることで答えた。
「確かに神の子供が存在してたことはわかったけど・・・。その子供がどうなってるかはわからなかったの」
「・・・・せめて特徴くらいわからないのか?」
 言われてリムは沈黙する。
 その子供が、神の子供ならば・・・・・・意識さえしていれば、ある程度近づけばその子供に気付けると思う。
 神とは比べ物にならないほど弱い力とは言え、確かに神と同種の能力を持っているのだから。
 リムがそう告げると、シンはニッと不敵な笑みを見せた。
「それで充分だ。どうせ手がかりの少なさって意味じゃぁ、今までの森探しと大差ない。いや、人族ってことがわかってる分探しやすい。アテもなく歩く必要はなくなったんだから」
 言われてみればそうかもしれない。
 今までは噂を頼りに広い荒野をアテもなく歩くしかなかった。
 けれど、いまこの時代、人族が街を離れて暮らすなどそうあることではない。シンのような旅人さえ滅多にいないご時世だ。とにかく街を巡れば良いのだ。
 そう言う意味では確証もない噂話を頼りに森探しをしているよりもずっと楽ではないか。
「うんっ」
 そんな考えに至って、リムは元気良く頷いた。
 リムの返事を確認してから、シンはばさっと地図を広げた。すでに見慣れた人族の地図だ。人族の町を巡るならばこの地図が一番良い。
「とりあえず一番近い街は・・・・・ここだな」
 シンが地図を指差して言う。それはここから数刻ほどのところにある小さな街だった。



 そうして、二人の旅は続く。
 この大地には、一体どれくらいの時間が残されているのだろう?
 不安になることもあるが、それでも、滅びを待つのが嫌ならば進むしかないのだ。

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