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 IMITATION LIFE〜裏話・狂気を宿せし銀の鏡 最終話 

 次に月華が羅魏と会ったのは水龍の湖。
「こんにちは。お久しぶりです・・・羅魏様、水の龍神様・・」
 本当は水龍が羅魏と離れてから会うつもりだった。しかし、龍神は羅魏から離れるつもりが無いらしい。
 しばらく二人が押し問答しているのを見ていたのだが、結局羅魏の方が言い負かされてしまった。
 もう待っていても仕方ないと判断し、羅魏の前に姿を現わしたのだ。
 無謀なことだと言うのはわかっていた。羅魏ならまだしも、龍神と月華では実力が違いすぎる。このあいだのように陸里が援護に入ってくれることを期待するしかない。
 龍神は小さく息を吐いて呆れたような眼でこちらを見た。
「やはり止められぬのか?」
 月華は頷く。
 羅魏は悔しそうにな視線をこちらに向けた。
 きっと月華を止められない事に・・・・・・戦わねばならないことに対する感情。
 月華は小さく呪を唱えた。
 二人が警戒態勢に入る。
 月華の周囲に炎が現れる。炎は月華が一番得意とする術系統だ。
 炎は月華の意思に従い羅魏に襲いかかったが水龍に止められてしまった。
「もしかして僕に期待してたわけ?」
 ニヤリと嫌な笑みとともに陸里が姿を現わす。
「またおぬしか!」
 水龍が陸里から間合いを取る。なぜか龍神は月華に対しては戦いを止めようとするのに、陸里に対してはあまりそういう態度を見せない。
 龍神は気づいているのだろうか・・・・陸里の中に居る人ならざる者の存在に。
 龍神は陸里に任せて月華は羅魏の方へ向かった。
「炎よ、彼の者を焼き尽くせ!!」
 声と共に、炎がまっすぐに羅魏に向かって飛んでいく。
 羅魏は横に飛んでそれを避けようとした。が、この炎はその程度で避けられるものではない。月華の指示に従い炎は羅魏を追って軌道を変化させた。
 避けきれないと踏んだのか羅魏は手を顔の前で交差して少しでもダメージを減らそうとした。
「羅魏!!」
 こちらの戦いも目に入れていたのか龍神の声が聞こえる。
「ふーん。余所見できるなんて余裕だね」
 続いて淡々とした陸里の声。
 更に追い討ちをかけるために月華は羅魏の方へと駆けた。
 眼前で刀を創り出し、羅魏に斬りかかる。しかしその刀はあっさりと止められてしまった。
 慌てて間合いを取って、羅魏の方へ視線を戻す。
 ・・・・・彼は、笑っていた。
 まるで無邪気な子供の表情。それなのに瞳だけは・・・・・・なんの感情も映し出さない、凍りついたかのような色をしていた。
「久しぶり、月華さん。それと・・・・はじめましてかな、水龍さんは」
 一歩、二歩。月華は後ろに下がった。
 その様子を、羅魏は平然と身つめていた。
 羅魏は、月華を無視して陸里の方に走った。
「くっ!」
 陸里は慌てて龍神から離れ、羅魏から離れようとした。が、羅魏の術がそれを赦さなかった。
 いつのまにかこの領域に結界が張られていたのだ。
 一体いつそんなものを創り出したのだろう。少なくとも、先ほど月華が攻撃したときにはなかったはずだ。
 突如陸里の周囲に風が巻き起こる。ただの風ではなく、かまいたちの風だ。
 陸里の衣服がそれに破られるが、陸里自身には傷一つついていなかった。
「ふむ・・・もうわしらの出番は無いようじゃな」
 龍神が呟き、こちらに向かって歩いてきた。
 しかし月華はその言葉には答えなかった。陸里たちの戦闘を見ていたから。
 陸里がどんどん不利になっていく。
「だめぇっ!!」
 月華は思わず声をあげていた。
 跳ぶ・・・・・・羅魏と陸里の真中に。
 突然のことに羅魏の攻撃は止まらず、月華に直撃した。
 羅魏はそんな月華に目もくれず、再度術を放った。
 しかしその術は途中で止まり、羅魏の瞳がこちらを見る。
「月華っ!」
 倒れた月華に羅魏が駆け寄り、横にしゃがみ込む。
 その頃には月華は怪我のほとんどを術で回復させていた。
「羅魏様・・・お願い、陸里を殺さないで・・・・」
「わかってる」
 羅魏は一言だけ言うとすっと立ちあがり陸里の方に向き直った。
「羅魏、出てくるなよ」
 彼は小さく呟いて、武器を手にした。初めて見る武器だ。刀とも違う、筒のような形をした武器。
 最初は武器だと思わなかったが、この状況で出すのだ。多分武器なんだろうと思う。
 羅魏が持った武器から白い光が放たれる。
 月華は一瞬青くなったが、陸里はあっさりとそれを避けてみせた。
 羅魏は続けて攻撃をしようとしたが月華の言葉がそれを止める。
「どこがわかってんのよ!! あんなのに当たったら陸里が死んじゃうでしょ!」
 羅魏は一瞬眼を丸くしてこちらを見たがふっと笑って大丈夫だと言った。
「心配するなよ、あいつはあの程度じゃやられないから。これはただの時間稼ぎだ」
「え?」
 その言葉の意味がわからず聞き返す月華に答えを返さず、羅魏は武器をかまえなおした。
 時間稼ぎ・・・・何のために?
 それから時間にして数分程度だろうか、月華にはその時間がとても長く感じられた。
 羅魏と陸里はいたちごっこを繰り返していた。
 羅魏は避けられるのを承知の上で攻撃している。陸里は本気で羅魏を殺そうとしているが、龍神の援護もあって陸里の攻撃も羅魏に届いていなかった。
 そしてさらに銃数分・・・・・・その応酬は唐突に打ち切られた。
 陸里の真後ろに突如現れた人影によって。
 月華にはそれがなんなのか確認できなかったが、わかったことが一つ。

 ――終わったのだ。

 陸里は倒れ、羅魏は安堵の表情で陸里を見つめた。
「・・・・・羅魏様?」
「思ったより早かったな、あいつ」
「あの、羅魏様・・・」
「え?」
 二度の問いかけで、羅魏はこちらに気づいてくれた。
 羅魏はよかったな、と言って笑った。けれどその笑みは少し寂しそうに見えた。
「私、謝りません。私のしたことは正しいことではありませんけど、でも一番大切な者を守ることを最優先するのが悪いことだとは思いませんから」
「あははっ、いいよ。気にしてないから」
「おぬし、これからどうするのじゃ?」
「行くよ・・・・・新しい場所に」
 羅魏の瞳はどこか遠くを見つめていた。
「わしも行く」
「はっ?」
 唐突な龍神の言葉に羅魏はぽかんと口を開けて聞き返した。
「わしも行くと言うとるのじゃ。おぬしはどこか危なっかしく感じるのでな」
 羅魏は言葉も返せず呆然と龍神を見つめ返した。
「なんじゃ、その顔は。わしが一緒では不服と言うのか!」
「え・・・・・? あ、そういうわけじゃ・・ない、けど・」
 今だショックから立ち直っていないのか途切れ途切れに言葉を返す。
 月華は吹き出しそうになるのを堪えながら二人のやり取りを見つめていた。
「月華・・・笑いたかったら笑えよ。そう言う風に忍び笑いされるほうがなんかムカつくんだけど」
 羅魏は不機嫌そう・・・というよりは拗ねた子供のような表情で文句を言った。
「クス・・・あははははっ。それじゃそうさせていただきますわ♪」
 月華はわざとらしく、必要以上に丁寧に言うと大爆笑したのであった。
 そんな月華に羅魏だけではなく龍神までもが不機嫌そうな、でもどこか楽しそうな顔を見せた。





 ――それから数ヶ月後
 あの後すぐに羅魏たちと別れ、月華は陸里と二人で月峰の里に帰ってきていた。
 多分、羅魏と龍神はこれからも旅暮らしなのだろう。
 
 里の荒れようは里を出た時と変わっていなかった・・・いや、さらに荒れていた。
 けれどあの時に比べると格段に気持ちが楽だった。
 きっと陸里が隣にいてくれるから。
 今回のことを陸里に言おうかどうか迷ったが、全部言うことにした。
 だって月峰に戻ったら惨事の理由を話さねばならない。陸里に何が起こったのかも・・・・・。

 
 二人は、力を合わせて月峰を復興させることを誓った。
 たくさんのものを失ってしまったが、それでも月華は幸せだった。
 たったひとつ、大事な者を手にすることができたから。

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