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 IMITATION LIFE〜裏話・陽が沈む彼方へ 1話 

  パタパタパタッ、バタン!
「たっだいまーっ!」
  にぎやかな音とともに一人の少女が部屋に飛び込んできた。
  少女は部屋に入るなり早口に捲し立てた。
「見てみて見てーっ♪」
  しかしぱっと見た限り、部屋の中には誰もいない。
  当然返事も返ってこない――はずだが。
「もうっ。いないの? ルゥってばぁ・・・・ルゥ!」
  少女はぷくっと頬を膨らませて声を張り上げた。
  その言葉に少し遅れて、机の上に積み上げられた本の陰から男の子が姿をあらわす。
  少年は三十センチ弱の身長で、背中に四枚の透き通るような羽があった。花から生まれ花に還ると云われる、フェリシリア種族だ。
「お帰り、マコト。で、今日は何?」
  ルゥは――これは愛称で、本名はルシオと言う――無邪気で、けれど大人しい印象を与える瞳で笑った。
「聞いて聞いてっ♪あたしねぇ、今日卒業したんだよ」
  そう言ってマコトはいつも首に下げているカードを見せた。
  経歴のところに<魔法考古学学科卒業><機械考古学学科卒業>という二つの文字が増えている。
「卒業したんだ。おめでとう」
  感慨も何もない。卒業を喜んでくれているのは一応雰囲気でわかるが・・・・・・。
「・・・・それだけ?」
  マコトはみるみる不機嫌になっていく。
「なんで?」
  あっという間に変わってしまったマコトの態度に多少ビクつきながら行ってきたルシオに、マコトは呆れたような、拗ねたような表情を浮かべた。
「あのねぇ。あたしぐらいの年齢って普通はまだ一般常識を学んでる年齢なんだよ?
  この年で専門知識の学科を卒業するのってすごいことなんだから!」
「そんなこと言われたって・・・・・ぼくそういうのよくわかんないもん」
  本来人里離れたところで育った花から生まれてくるはずのフェリシリア種族だが、ルシオは何故かマコトが育てていた花から生まれた。
  ほとんどここから出ることのないルシオは、一般常識には疎いのだ。・・・・・・知らずとも生活できたし。
「でね、前から言ってたでしょ?卒業したら旅に出るって。明日出発するからね!」
  マコトは一瞬つまらなそうな表情を見せたが、またすぐに次の話をはじめる。明るい声と笑顔で宣言したマコトに、ルシオが目をまんまるくした。
「あ・・・・明日ぁ!?」
「そお、明日♪」
  ルシオはまじまじとマコトを見つめ、そして・・・・・・やっとのことで、言葉を搾り出した。
「・・・・本気・・・?」
  まだ信じきれない様子の言葉に、マコトはあっさりと言ってのける。
「もちろん。なにかまずいことでもあるの?」
「だって・・・旅支度とか・・・マコトのお父さんとお母さんのこととか・・・・大丈夫なの?」
「大丈夫!今日中に準備して説得するから」
「・・・・・・・・・・・・」
  ルシオは驚き半分あきれ半分で唖然とし、そして深い沈黙。


  マコトは本当にその日のうちに準備を終わらせてしまった。
  即断即決即実行。なかなかできることではない。
  しかしルシオは知らなかったが、種明かしをすれば実は簡単なことだったりする。
  もともと卒業したら旅に出ることを決めていたマコトは、以前から両親と約束していたのだ。
  卒業したら、少しの間、旅に出ることを。
  それに卒業する日は事前にわかる。マコトは前から着々と準備を進めていた。
  だから説得なんて言っても両親に報告して終わり。旅支度も前日までにほとんど終わっていた。

  次の日。二人は大陸で唯一街の外を走る電車に乗っていた。
  とりあえず主都レアゼリスに行くつもりだ。
「最初の目的地はシーグリーンかなぁ」
  ルシオは生まれてからまだ一年経っていないうえにほとんど家から出たことがないため知識が少ない。
  わからないことはマコトに聞くという癖がついていた。
「そこに何があるの?」
「アルフェリアが住んでるって言われてるの。他種族の前にはめったに姿をあらわさないらしいんだけど、とっても寿命が長い種族でね、不思議な力を持ってるんだって」
「へーぇ。じゃぁ昔のこと知ってるかもね」
「うん♪ あ、でもラキアシティにも行きたいなぁ・・・」
「両方行けばいいじゃん」
「そうなんだけどね、優先順位というか、順番が・・・・」
「どっちが近いの?」
「シーグリーン」
「じゃぁそっちから行けばいいんじゃない?」
「う〜〜・・・・。でもでもっ、せっかくラキアシティの戦が終わったんだから調べ尽くされる前に遺跡が見たーーいっ!」
「遺跡?」
「あそこには大っきな遺跡があるの。その遺跡の所有権をめぐって何年も戦争してたんだよ、あそこは」
「へぇ。・・・・どっちにしてもまだ先なんでしょ? ゆっくり決めようよ」
「そだね。とりあえずは主都に行ってからだしね」

  こうして、お子様二人の小さな旅が始まった。
  それは互いに違う目標と夢を持った二人が、新しい道を歩き始めた時だった。

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