Web拍手 TOP幻想の主LIFEシリーズ

 IMITATION LIFE〜裏話・陽が沈む彼方へ 2話 

「・・・・・・・・・・・」
「何ほうけてるの・・」
  二人は主都レアゼリスに到着した。
  が、電車から降りた途端、ルシオは周囲を見渡して呆然としていた。
  大きな建物がたくさんあり、なんだか空が狭く見える。そんな街並みがいろいろと珍しく感じるらしい。
  そんなルシオを肩に乗せて――こういうときは体が小さいのも便利だ。少なくとも、迷子にはならない――マコトは一直線に役所を目指している。もの珍しさなどはまったく感じていない。
「ユーリィもこんなもんだと思うけどなぁ・・・・」
  マコトの生まれ故郷とこの主都は大陸の二大都市。大陸中で一番機械技術が進んでいる場所だ。
「だってマコトの家のまわりは花畑とかいっぱいあるけどここは全然ないし、建物だって・・・」
  ルシオが二つの都市の違いを説明し始める。
  その言葉一つ一つに頷きながら話を聞いていたマコトは、目を丸くしてルシオを見つめた。
「どうしたの? マコト」
「・・・・・・それ、全部うちの敷地内」
「へ? でも・・・・家もいっぱいあるし、広いし・・・・・」
「離れとか、お手伝いさんの寮とか、小さいけど森とか、野原とか」
  さすがのマコトもどう反応していいものかわからず、淡々と敷地内にあるものをあげてみた。
  二人とも気づいていなかったが、実はルシオは家の敷地内から出たことがなかったのだった。
  マコトはあまり外に遊びに行かない。ルシオをつれて外に遊びに行ったこともなかった。
  ルシオはよく一人で散歩に出かけていたが、まだ長時間飛び続けることはできない。
  せいぜい一キロ程度。そして本宅から一キロでは外門までの道のりの半分も行っていないのだ。
  今回出かけてきたときは駅までは車だった。そのとき二人は話すのに夢中で外は見ていなかった。
  ルシオは今の今まで自分が敷地の外をまったく知らないことに気づかなかったのだ。
「・・・・・・・・」
  二人はそろって黙り込んだ。意外な新事実にどう反応していいものやら、言葉が出ない。
  会話がないままマコトは役所へ向かい歩いていく。
  大通りをしばらく歩いていくと、その正面にひときわ大きな建物があった。
「ここに用事があるの?」
「そ。冒険者の資格試験受けるの♪」
  冒険者・・・ルシオにはあまりなじみのない言葉だろう。ルシオは小さく首を傾げて視線でマコトに説明を求めた。
  マコトはすぐにその問いに気付き、簡単に説明してあげた。
「冒険者っていうのはひとつの街にとどまらずに旅をして暮らしてる人たちのこと」
「旅をするのに資格がいるの?」
「なくてもいいけどあると便利。
  たとえばねぇ、十五歳以下の子供は仕事させてもらえないし、宿は親の許可がなきゃだめとかいろいろあるの。資格を持ってるとね、十五歳以下でも大人とほとんど変わらない扱いしてもらえるんだよ♪」
「じゃ、それって大人には意味ないんだ」
「そんなことないんだけど・・・・・それここで全部説明する? 長くなるよ?」
  マコトはちょっと楽しそうというか、嬉しそうに問いかけた。
  マコトは説明好きで、しかも何かを解説したりするときはいきなり口調が変わるというちょっと変わったクセがある。
「・・・・・いい」
  その口調がなんとなく苦手だったルシオは、その申し出を断った。
  少しだけ不満そうな顔を見せたマコトだったが、とりあえずはマコトが一人旅をするにはあるととっても便利なものだということがわかれば充分だ。
  無理に効かせる必要もないと判断したマコトはそこで話を打ち切り、建物の中へと入っていった。

  役所の中は、建物の外観からも予想できるとおり結構広かった。
  目的別のいくつもの受付がある。たとえば<苦情受付>とか<市民登録>とか・・・・・。
  マコトはその表示をひとつずつ確認しながら受付の前を歩いていく。そして目的の表示を見つけると、そこにいる受付のお姉さんに向かってニッコリと子供らしい笑みを向けた。
「すいませーん」
  多分書類整理でもしてたんだろう。下を向いていたお姉さんは声をかけられた顔をあげた。
  お姉さんはにっこりと営業スマイルで言う。
「資格試験を受けられるんですか?」
  マコトが元気よく返事をすると、お姉さんはマニュアルどおりだと思われる台詞を告げてきた。
「それではカードの提示をお願いします」
  マコトは首にかけていたカードを見せる。このカードは、これ一枚で身分証明にもなるし銀行のキャッシュカードにもなる便利なものだ。
  ユーリィやレアゼリスでは広く一般に普及しており――というか、持っていないのは地方から来た者のみだ――財布替わりにもなるため、この二つの都市では現金を持ち歩くという習慣がほぼ完全に消えていた。
  今はカードにはマコトの住所・誕生日などが書かれている。お姉さんの言葉によると必要なのは経歴なんだそうだ。
  カードの裏にあるパネルを操作すると、上半分の名前・年齢・出身都市の表示だけが残り、下半分の住所・誕生日・家族構成などの表示が経歴に変わった。
  経歴が表示されたカードをお姉さんに渡すと、お姉さんは一旦受けつけカウンターから離れたが、何かに気づいて小さく声を出した。
「じゃちょっと待ってて、すぐ終わるから。・・・・・あら」
「なんかまずいものでもあったの?」
  質問したのは当人のマコトではなく、ルシオ。
  まずい経歴なんて何もない事をちゃんとわかっているマコトは、ギロリとルシオを睨みつける。
「あ、違うの。マコトちゃん、あなた合格したら最年少の合格者よ」
  途端、ルシオに向けられた鋭い瞳が、一転して興味と好奇心に輝いた。
「へぇ・・・じゃ、今までの最年少って誰だったんですか?」
  興味津々に尋ねるマコトに、お姉さんはクスクスと小さな笑いを漏らした。
  きっとマコトの態度を可愛らしいとか、微笑ましいとか思っているのだろう。
「十一歳の男の子よ。過去最高の成績で合格したって、当時はすごく話題になったわ」
「過去最高!? すっごーいっ!」
  話しながらもお姉さんの手は機械を操作していた。
  ピーーーーッ!
  機械が小さな音をたてる。
「はい、登録完了。次の資格試験は三日後よ。がんばってね」
「はーいっ♪ どうもありがとうございました」
  マコトはお姉さんにお礼を言って役所を後にした。


「これからどうするの? あと三日あるんでしょ?」
「とりあえず宿探し! いこっ」
  マコトはルシオを肩に乗せたまま、ホテル街に向かって歩きだした。

前へ<<  目次  >>次へ

Web拍手 TOP幻想の主LIFEシリーズ