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 IMITATION LIFE〜裏話・陽が沈む彼方へ 3話 

  カランカラン・・・・――。
  ドアに掛けられた鐘が鳴る。
  この辺りではほとんどの店は自動ドアだ。例外は、ここのような冒険者相手の店。自動ドアじゃない店、イコール冒険者相手の店と言っても過言ではないくらいである。
  店の中には、当然ながら冒険者と思われる人が圧倒的に多い。鐘の音を聞いて、店主がドアのほうに目を向けた。
  そこにいたのはどこをどう見てもここにはそぐわない小さな子供。
「お嬢ちゃん、ここは冒険者相手の店だよ。むこうの大通りのほうに行けば普通の店があるから・・・・」
  店の主は大通りの方向を指し示して言った。
「違うもん!」
  マコトはぷぅーっと頬を膨らませて言い返す。
  ルシオはマコトの髪の影に隠れ中て店内を見渡していた。どうやらここの雰囲気に気後れしているらしい。
  マコトの言葉で周囲に笑いの渦が生まれた。マコトはますます頬を膨らませる。
「じゃあお嬢ちゃん、ここに何か用でもあるのかい?」
  誰かがマコトに声を掛ける。マコトは待ってましたというように元気に答えた。
「そうだよ、あたし冒険者になるんだから!」
  一瞬辺りに沈黙が流れた。
「本気かい?」
「あなた、いくつなの?」
  あちらこちらから同じような質問が飛んでくる。マコトは順番に質問に答えていった。
「本気だよ、さっき試験受けるための登録してきたんだ♪で、年は十歳、名前はマコト!」
  マコトの近くにいた男の人がからかうようにマコトに問い掛ける。
「じゃぁお嬢ちゃんは冒険者の卵ってわけだ。でもなんの用でここに来たんだ?」
「さっき受付のお姉さんに合格したらあたしが最年少の合格者だって言われたの」
「ああ、今まではあいつの十一歳が最年少だったからな」
  また別の人が言う。マコトはくるっとそちらのほうに顔を向けた。
「その人の話が聞きたくってここにきたの!」
  さっき、からかうような口調でマコトに質問してきたあの男の人が大爆笑した。
「あっははっは。気に入った! お嬢ちゃんこっちきな。おごってやるよ。あいつのこと知ってるだけ教えてやる」
  そう言って手招きをする。マコトは小走りに彼の座っているテーブルにつく。その周りにはマコトに興味を持った客たちが人だかりを作っていた。
「お嬢ちゃんは何飲むんだ?」
  マコトはメニューを手に取った。
「えっとねぇ・・・・・・オレンジジュースがいい♪」
「よし、でそっちのちまいのは?」
  今まで誰も話題にしなかったので、もしかして気づかれていないのかと思ったが、彼はちゃんとルシオに気づいていたらしい。ルシオにも聞いてくれた。
  ルシオは人見知りしているのか、マコトの髪の影から彼を見上げるだけでメニューのほうには目が行っていない。
「もーっ。せっかく奢ってもらえるのにぃ。・・・・じゃあルゥにはミルクをお願いします」
  マコトは勝手にルシオの分を決めてしまった。
「オヤジ!」
「ああ、聞いてたよ。ちょっと待ってな」
  店主もマコトに興味を持っていたらしい。彼が注文を言う前に冷蔵庫からオレンジジュースとミルクを取り出していた。
  彼はそれを確認するとマコトに話し掛けた。
「で、あいつのことだったな」
「うん! 聞かせて♪」
「そいつはな、フォレスの孫なんだ・・・・フォレスって言うのは――」
「その人なら知ってます♪」
  彼の言葉を遮ってマコトはフォレスについて話し始めた。ルシオにはすぐにわかったが、マコトはすでに説明モードに入っている。
「フルネームはフォレス・ノーティ。世界一のトレジャーハンターと謳われた人で専門は機械考古学。
  もともとは考古学者として研究中心の生活を送っていたけれど、いつしか自分自身で研究対象を発掘に行くようになりトレジャーハンターとなった人です。」
  マコトはすらすらとテキストでも読んでいるように言った。
  周囲にどよめきが上がる。
  説明しているときのマコトの口調、表情からは年齢相応の子供らしさが消えていた。まるで学者か教授のような雰囲気を持っている。
「・・・・すげぇな・・・・」
  彼も開いた口がふさがらない。驚きを隠せない表情で言った。
  最初に我に返ったのは誰だったろう。人だかりの中から誰かが問い掛けた。
「なら孫のほうは?」
  マコトは自信満々で答える。
「名前はラシェル・ノーティ。弱冠十五歳にして、すでに一流のトレジャーハンターと言っても過言ではない実力と実績を持っています。
  彼も祖父と同じようにトレジャーハンターであると同時に考古学者でもあります。ただし、彼はフォレスと違い学校には行っていません。普通学科はおそらく通信スクールで済ませているでしょうけど、専門知識については祖父に教わっていたと思います。将来フォレス以上のトレジャーハンターになるだろうと言われている人です」
  おおおぉぉぉ・・・・・。
  周囲から感嘆の声と拍手の音が聞こえた。
「そのラシェルだよ。最年少合格者は」
「すごいんだぁ、ラシェル・ノーティって。過去最高の成績で合格したってお姉さん言ってたよ」
「あんたもすごいよ。どこでそんな知識を学んだんだい?」
  マコトは声が聞こえたほうを向いてにっこりと笑って答えた。
「だってフォレスさんは歴史の授業でも出てくるくらいの有名人だもん。
  それに同じ学科の卒業生だし、フォレスさんとは何度か会ったこともあるし」
  周囲の人間たちに疑問の表情が浮かぶ。
  彼女・・・・・・マコトは十歳。普通学科の卒業年齢は通常十三歳。専門学科の入学年齢は通常十八歳。マコトはまだ普通学科さえ卒業していないはずの年齢なのだ。
「あ、あたし専門学科卒業してるの」
  皆は眼を見張りマコトを見つめる。
  マコトは、身分証明カードに経歴を表示させて周りに見せた。そこには、<魔法考古学学科卒業><機械考古学学科卒業>という二つの表示。
  ・・・・・・数秒の沈黙。直後周りから驚きの声があがる。
  普通、ひとつの専門学科を卒業するのに二年。二つなら四年。マコトはたった十才でそこらの大人以上の学力を身につけているということだ。
「でも、あたしは公式記録に載ってることしか知らないから・・・・。ね、ラシェルってどんな人なの?」
「性格悪くて悪趣味」
  誰かが、やけにきっぱりと言い放った。
  この場にいたラシェルを直接知っている者は、一瞬顔に疑問の表情を浮かべたがすぐに何のことを言っているのか思い当たったらしく、小さな苦笑をもらす。
  一方マコトとルシオ。そしてラシェルをよく知らない人間はその態度に疑問が深まるばかりだ。
「ラシェルって・・・・・性格悪いの?」
  マコトは真面目な表情で問い返した。
「ある意味な」
「それじゃぁ、わかんないよぉ」
  口を尖らせて言ったマコトに数人が次々と答えた。
「あいつはな・・・・・・調べ尽くした遺跡のトラップをわざわざ仕掛けなおすんだよ」
「あのコも加減はわかってるみたいで大怪我するようなトラップはないんだけど」
「遺跡のガーディアンと必死に戦って、やっと勝ったと思ったらそれが爆発して、中からあいつのサインつきの紙が落っこちてきたことあったな」
  なかなかに哀愁の漂ったセリフを言うものもチラホラと・・・・・。マコトは思わず吹き出した。
「おっもしろーいっ。ますます会ってみたくなっちゃった♪」
「そうか?」
  ジュースを奢ってくれた男の人が面白そうにマコトを眺める。そしてこう付け足した。
「あいつなら今ラキアシティにいるよ」
「ラキアシティ?」
「そう。最近あそこの戦が終わったのは知ってるかい?」
「うん!」
「あいつ主都レアゼリスの軍に協力した見返りに、遺跡を自由に探索する許可をもらってるんだ」
「じゃ、ラシェルは今そこで遺跡探索してるってこと?」
「そうだ。あの遺跡は大陸最大規模で街一つ分の広さはあるって話だからな。一月やそこらじゃ調べきれんだろ。まだあそこに居ると思うぜ」
「ほんと!? ありがと、おじさんっ。皆さんもいろいろ教えてくれてありがとうございました。行こっ、ルゥ」
  マコトは一礼し、店を出る前にさらにもう一度店の中にむかってお辞儀をすると、来た時と同じように鐘の音を鳴らして出ていった。

「目的地はラキアシティに決まりっ。いいよね?」
「うん。そこでいいよ。でも・・・・・大丈夫かなぁ。その人性格悪いんでしょ?」
  心底不安げにルシオは言うが、マコトはまったくそんな風には思っていなかった。
「あははは、そんなことないって。ラシェルが本当に性格悪かったら、ああいう態度にはならないよ」
  彼らの態度は、まるで年の離れた弟――それも悪戯盛りの――を思うような感じだった。
  実際、それなりに名の知れた冒険者となるとそのほとんどは二十代後半くらいになる。まだ十五歳にになったばかりでしかないラシェルにそんな感情を抱いても不思議ではないだろう。
「そうかなぁ」
「そうなの。さっ、宿に行こっ♪」
  まだ納得しきっていない様子のルシオの言葉を打ち切り、マコトはいつものごとく元気に言うとホテル街へと歩き出した。

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