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 IMITATION LIFE〜裏話・陽が沈む彼方へ 4話 

  試験当日。
  マコトは時間より少し早く役所に着いた。人込みが苦手なルシオはホテルでお留守番だ。
  待合室は結構広かったのだが、それでも部屋は居る場所を探さなければならないほど人で埋まっていた。それだけの人数がいても、マコトと一番近そうな年の人で三,四つは上だろうと思う。
  ザワザワザワッ・・・・・・・――。
  唐突に場内がざわめき、つられて入り口を見ると、そこには役所のお姉さんが立っていた。
「お待たせいたしました。第一試験会場にご案内いたします」
  人の波に流されながら進んでいくと、第一試験会場という紙が貼ってある部屋の前で、お姉さんが扉の鍵を開けて皆を招き入れてくれた。
  よく見ると紙の下に「第一会議室」という言葉が透けて見えた。
  ・・・・・・普段は会議室として使われてるんだろうなぁ、などと思いつつ試験番号を確認しながら自分の席を探す。ほどなく、その机は見つかった。
  用紙が配られ試験が始まる。マコトにとっては難しくも何とも無いものばかりだった。
  問題は怪物の生態について、やサバイバル知識などなど・・・・・学校では習わないものだが、マコトは以前から旅に出たいと思っていたのでそういう知識もしっかり頭に入っていた。
(ふ〜ん・・・・・・結構簡単じゃない♪)
  しかし問題はその後にあった。
  第二試験は実技。
  街の中ではそうそうないが、街道などでは怪物が現れることは珍しいことではない。旅をするためには自分の身を守れる技術が必要なのだ。
  しかしマコトは戦闘技術など全く持っていない。当然ながら、こちらの試験はボロボロだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
  試験の翌日。マコト自身も予想はしていたが・・・・・・――。
「落ちてるね」
  ルシオがポツリと言う。
「うん、落ちちゃったねぇ」
「どうするの? また一月待つの?」
「え? なんで? 今日中に必要なもの買って、明日にはラキアシティに向かうよ」
  マコトは平然として言った。
「だって、資格は?」
「あったら便利だけどなくてもなんとかなるから諦める」
  旅を出た日と試験実施日が偶然重なったからmとりあえず資格取得できたらラッキーくらいの気持ちで受けていたのだ。わざわざ一月待ってまで取得しなければならないほどのものでもなかった。


「これと、これと・・・・・・♪」
  マコトは次々と品物をカゴに入れていく。
「・・・マコト、お金大丈夫?」
「大丈夫、お金に関しては心配しなくていいよ。あたしお小遣いいっぱい持ってきたし」
「いっぱいってどれくらい?」
  マコトはちょっと考えてから、まずは普通に金額を言った。
  だが、ルシオは今までお金を必要とする生活を送っていない。品物を買うにはお金が必要ということは知っていても、その価値基準はよくわかっていないのだ。よってマコトが言った金額がどの程度のものなのかもルシオにはよくわからなかった。
「・・・・わかってないでしょ・・・・」
  マコトが苦笑して言う。この反応は充分に予測できたことだ。
  だからこそちょっと考えてしまったのだし・・・・でもほかにどういう言い方があるだろうか・・・。
「うん・・・・よくわかんないや」
  ルシオの言葉を聞き流して、マコトはもう一度考える。
  ・・・・・・・何に置き換えて答えるか。
  マコトの現在の持ち金はマコト自身も正確には把握していないがだいたい一億前後といったところ。これは多少遊び暮らしても十年ほどは収入が全くなくても暮らしていける・・・・・とまぁそのくらいの額だ。
  マコトの年齢では普通は仕事などできない。しかしマコトの考古学に関する技術と知識はずば抜けたものであり、よく企業や研究所から頼まれて遺跡から発掘された機械やデータの解析を手伝っていた。もちろん、これは立派な仕事なので報酬をもらえる。
  マコトが言う”お小遣い”とは、こういった仕事から得られる収入のことだ。両親もお小遣いをくれるが、こちらのほうは全く手をつけず貯金にまわしていた。
「・・・・一生遊んで暮らしても全然OK・・・・・ってくらいの金額かなぁ」
  ルシオはやっぱりよくわからないようだが、それでも金額だけ言ったときよりはわかりやすかったようだ。・・・・・・ちょっとオーバーに言ったし。
「なんとなくわかった」
  そう言うと、ルシオはいつもの定位置にもぐりこんだ。
  マコトは旅に必要そうだと思われるものを一通り買い揃えホテルに戻った。

  そして次の日。
  朝一番にレアゼリスを出発した二人は予定通りラキアシティに向かった。レアゼリスとラキアシティの間にもいくつかの街が存在する。
  とりあえずレアゼリスから南の方角で一番近い街に向かうことになった。
  車や電車は街の外にはないので徒歩で行くしかないが、子供の足でも丸一日歩きつづければ日が沈む前には街にたどり着けるだろう。
「空が広いねェ」
  マコトはのんびりと言った。
  街の外に出るのは二人とも初めてだった。ユーリィからレアゼリスの道のりは街の外に出たとは言わないだろう。あの時は電車を使って移動したので、街の外に足を下ろしてはいない。
  いつもマコトの肩に乗っかっているルシオも今日は珍しく自分で飛んでいる。
「ルゥ、あんまり無理しないでよ?」
  まだ幼いルシオは、あまり長時間は飛べないのだ。
  まぁ、たとえルシオがバテたとしてもそんなには困らないが。ルシオはミニサイズだから荷物の一番上にでも放り込んで行けば問題ない。
  バテたら荷物の中に放り込むからねと宣言した・・・・・・がその忠告は聞き入れられなかったらしく、その日の昼過ぎにはマコトのリュックの上のほうに放り込まれているルシオの姿があった。

  日が暮れる直前になってやっと二人――というか、マコトは街に着いた。
「ええっ! なんでよぉ〜」
  街の一角にある宿のフロントで、マコトの声が響き渡った。
  原因はマコトの年齢。マコトの年齢だと冒険者の資格を持っていない者は泊められないのだそうだ。
  続く言葉を言えばなんて答えが返って来るかは予想がつくが、ハズミがついた言葉は止まらない。
「じゃぁ野宿しろっていうこと? 街ん中で!」
「いえ・・・・警護所に行っていただいて・・・・・・」
「それは保護されるってことでしょぉ!!」
  マコトはさらに大きな声で叫んだ。
「あ〜あ。だからちゃんと資格取っておけばよかったのに」
  いつの間に目を覚ましたのか、ルシオがひょっこりと顔を出し口を挟む。
「ゔっ・・・・・・。とにかく! もういいです」
  言って、ドスドスと不機嫌な足音を響かせながら宿を出ていった。

「で? 野宿なの?」
  ルシオがのんきに聞いてくる。
  この状況をわかってないのだろうか。街の中で野宿なんて情けない・・・・・。
  しかしマコトも実はそんなに焦っていなかった。泊めてくれるアテがあるのだ。
「んーん。違う宿に行こ。本当は避けたかったんだけど、しょうがないか」
  小さくため息をついて街の中心地に向かった。
  その辺りは街の繁華街などがあって、一番にぎやかな辺りだ。宿も街外れの安宿とは桁が違う。
  ルシオが不安そうに聞いてくる。
「・・・・・大丈夫なの?」
「もっちろん♪」
  マコトは言いながらもきょろきょろとあたりを見回している。
「あった!」
  マコトが立ち止まった宿――ホテルは、かなりの高級宿。
「・・・・・余計に泊めてくれないんじゃ・・・・」
  ルシオの不安をよそに、マコトは堂々と中に入っていく。
  先ほどと同じようにカウンターで止められた。言われたのはさっきと同じようなことだったが、しかしマコトはにっこりと笑ってカードを見せる。
  途端、ボーイの態度が豹変した。
「し、少々お待ち下さい」
  ボーイは電話の受話器を取った。話口調からして上司に連絡しているのだろう。
  ほどなくしてホテルの支配人が現れた。マコトは上品に、にこりと笑みを浮かべてお辞儀をする。
「これはこれは、マコト様が旅に出られたのは社長からお聞きしておりました。マコト様がいらしたらお泊めするよう言われております」
  支配人はマコト達を一番高い部屋に案内しようとしたが、
「すみません、一番安い部屋にしていただけますか? あまり贅沢ばかりしてるとお金も足りなくなってしまいますし」
  そう言ってマコトは支配人の足を止めさせた。
  ルシオがかなり驚いてマコトを見つめている。ルシオの前で「営業スマイル」をしたのは初めてだし、普段のマコトからするとギャップがあるから驚くのも無理はないが・・・・でもここまで驚かれるのもちょっとムカつく。
  あとで文句言ってやろう。
  そう思いつつも神経はお嬢様な行動をとることに集中していた。
「いえ、お金は必要ありません」
  支配人は慌てて言うが、マコトはやんわりと押し返す。
「そうもいかないでしょう、こちらだって商売ですし。ちゃんとお金は払います」
  しばらく押し問答が続いたが勝ったのはマコトだった。
  二人はこのホテルの中で1番安い部屋に案内してもらった。
  部屋に落ち着いた直後。マコトの鉄拳がルシオに飛ぶ。
「で、さっきのあれはなに?」
「なにって・・・・・・なんかマコトじゃないみたいで」
「あたしだって必要なときはあういうことぐらいできるの。父さんの会社のパーティとかに駆り出された時とかはああいうふうにしおらしくしてたほうがいいし。お嬢様らしくね」
  マコトはツンとすまして言って見せた。ルシオにはまだ理解できないらしく、続けて聞いてくる。
「お嬢様って・・・・・・マコトが?」
「・・・・・・うちの家は大陸一の大財閥なの。実はこのホテルもうちの系列。父さんってばしっかり根回ししてくれてたみたいね」
  ちょっと悔しそうに言う。
  お金はあるし、自分一人で何とかできると思っていたことが大間違いだとわかって、しかも父はそれを見越していた――多分ここだけではなく系列の宿や店すべてに声をかけてあるだろう。
  マコトが泊まるところに困らない様にしていてくれたのだ。
「大財閥って?」
「たくさんの会社や企業を統合してる大会社・・・・・・ってとこかな」
  なるべくわかりやすい言葉を選んだつもりだが・・・・・・ルシオの表情を見るとやはりよくわかっていないようだ。顔に疑問符が浮かんでいる。
  マコトは苦笑した。
「あんまし深く考えないでさ、とりあえず寝よ? 明日も早いからね」
  言って電気を消した。
  明日もまたたくさん歩かなければならないのだ。

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