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 IMITATION LIFE〜裏話・龍の住まう地 最終話 

 水龍がいた湖を出発してから数週間。
 青葉たちは、風龍の街に戻ってきた。
「へぇ、結構大きな街なんだな」
 羅魏は感心したように言った。
 自分の生まれ故郷を誉められるのは嬉しい。
 青葉は、にっこりと笑って答えた。
「大きいだけじゃないんだから。すっごく良い街なんだよ♪」
 そんな青葉の態度に対してだろうか、後ろから歩いてくる秋夜の忍び笑いが耳に届いた。
 もちろん秋夜の方に向き直り、しっかりどついてから羅魏を引っ張って自分の家に案内する。
「ただいまーっ」
 ガラっと扉を開けて最初に目に入ったのは、怒りを通り越して無表情となった琴音の姿。
 思わず弱気な言葉が口をついて出る。
「た・・・ただいま・・・・」
 琴音が笑う。
「おかえりなさい」
 そんな琴音を見て、青葉はもう一度元気良く言った。
「ただいまっ、おねーちゃん」
「後ろの人は?」
 琴音の視線は羅魏に向かっていた。
「水龍さん連れてくるのに協力してくれた人。羅魏って言うんだ」
 青葉は少し横にずれて、琴音から羅魏の姿が見えやすい位置に移動した。
 紹介されて羅魏はぺこっと小さく会釈した。
「あ、初めまして」
「初めまして。大変だったでしょう、この子のお守りは」
 琴音が冗談めかして言う。青葉はぷうっと頬を膨らませて反論した。
「どういう意味よ」
「そのまんまの意味でしょ?」
 いつのまにかすぐ後ろに来ていた秋夜が言う。
 ぶすっとした表情で秋夜を見る。秋夜は、小さな笑いを漏らしていた。
「っもう、秋夜だって人のこと言えないくせに!」
 何度も野宿はしたけれど、青葉と秋夜はその一日の疲れでバテていることが多かった。
 とにかく、翌日までに体調を回復させねば確実に足手まといになってしまうから、それだけは避けなければならなかった。
 結局、青葉と秋夜は、毎晩の野宿の準備を手伝うことができなかったのだ。
 だから琴音の言葉は確かに正しい。だが羅魏や鈴音、水龍に言われるならともかく、青葉とたいして変わらない状態だった秋夜に言われると腹が立つ。
 バコッと秋夜を叩いて、琴音に振り返った。
「おねーちゃん、ちょっと行って来る。すぐ帰るから」
「はいはい、いってらっしゃい」
 琴音は笑いを隠そうともせずに青葉を送り出した。
 何に対しての笑いなのかは見当がつく。見ると鈴音も笑っていた。忍び笑いではあるが。
「もーっ」
 青葉はわざとらしく腰に手を当てて拗ねた表情を見せた。






 四人は水龍に連れられて、街の北にある小さな谷に来ていた。
「この辺りじゃ」
 水龍の言うことには、この辺りに風龍が住んでいるのだという。そして、昔水龍が術をかけたのもこの辺り。
「解くのは簡単じゃからすぐ終わる」
 水龍が人の姿から龍の姿へと変化していく。
 龍神は、空を翔けて雲の上へと消えていった。




 ――−−--‐‐・・・・・・

 龍神が雲の向こうに消えてから数分が経った頃。
 ザーザーと勢いよく降り注いでいた雨が、ポツリポツリと弱くなってきた。
 少しずつ雲の間から陽が射しはじめ、その光は、まるで空を靡く絹のように見えた。
 そうして最後には完全に雨が止み、雲の隙間から太陽が完全な姿を見せた。
 時間と共に雲が減っていき、灰色の空が清んだ青へと変化する――。
「うわぁ・・・・」
 この街で見る、初めての青空。
 青葉、秋夜の二人は旅の間に太陽を見たこともあったが、この街から出たことのない人にとっては生まれて初めて見る太陽だ。
「さて、行くか」
 太陽を確認したかと思うと、羅魏はくるりと青葉たちに背を向けて歩き出した。
「え? 羅魏っ、ちょっと待ってよ。どうしたの、いきなり」
 慌てて青葉が呼びとめる。
 秋夜は落ち着いた口調で羅魏に問い掛けた。
「月峰の人のこと?」
 羅魏の体が一瞬、ビクっと震える。
 どうやら図星のようだ。
 羅魏はこちらに背を向けたまま答えた。
「ああ。月華に言われたんだ、次は青葉たちがいても気にしないって」
「会ったの!?」
「・・・ん」
 青葉たちが羅魏を別行動をとっていた時はいくらでもあった。
 その間に羅魏を襲った月峰の者が接触してきていてもなんの不思議はない。
「・・・・・一人で大丈夫なの?」
 鈴音が心配そうに尋ねる。
「あいつはまだ起きてない。でも、そのうち起きるだろ。そうしたら、あいつは誰にも負けないさ」
「それまでの間は?」
 青葉の問いに答えたのは水龍だった。
「わしがおる」
 その言葉に一番驚いたのは羅魏。
「おいおいっ、何考えてんだよ」
「それはこちらの台詞じゃ。おぬしが居らねばわしはどうやって生きろと? 少なくともわしの棲家までは一緒に居てもらわねば困る」
「あ・・・そっか。そうだな」
 呆気にとられたような羅魏の言葉。
 青葉は少しだけ安心することが出来た。それは鈴音と秋夜も同じだったようで、三人は顔を見合わせて小さく微笑んだ。




 その日、羅魏はすぐに街を出ていった。
 青葉がいくら止めても聞かなかったのだ。
 これ以上は青葉には立ち入れぬ領域。
 
 鈴音は数日間滞在した後、旅を再開した。それが鈴音にとっての日常であり普通だから。
 けれど鈴音は旅立つ際に約束してくれた。いつかまた、必ずこの街に訪れることを。
 
 二人の旅は終わった。
 また鈴音が来る少し前の・・・その頃と同じ日常が帰ってくる。
 ただ一つ、街に明るい太陽があり、人々の笑顔が確実に増えていることを除いて。

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