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 IMITATION LIFE〜裏話・龍の住まう地 8話 

 鈴音の世界地図のおかげで一応目的地が五つにまで絞られた。が、その場所が問題だ。
「どこから行く・・・?」
 多少落ち込んだ口調で秋夜がつぶやいた。
 その五つの湖、泉は各地に散らばっていて、全部を回ろうとしたらゆうに二、三年はかかるだろう。
 最初に行った場所が正解ならばここから一番遠いところでも三ヶ月で着く。そこから風龍まで二ヶ月ほど。
「でもこれ以上は絞れないぞ」
 羅魏が言う。青葉と秋夜は顔をつき合わせて相談を始めた。どこから回るかについてだ。
 これはもうギャンブルみたいなもの。どこから行ったって確率としては同じ。あとは全部回ることになった場合、どこから行くのが要領がいいかということだろう。
「ねぇ、ちょっといい?」
 鈴音が会話に入ってきた。
 鈴音は羅魏がつけてくれた丸印を見て、その中からひとつの湖を指し示す。
「この中だったらここだと思う」
 そう言って三人の顔を見た。
 青葉はどうしてそこまで断言できるのかわからずに不思議そうな顔をした。それはほかの二人も同じだったらしく、同じように疑問の表情を浮かべている。
「龍ってね、霊力・・・あたしたちが術に使う力ね。それを食料にしてるの。この湖は聖域って呼ばれてて、湖自体が霊力を放ってるの」
「つまり食料のあるところに住んでる確率が高いって事ね」
 青葉がそう結論付けると、鈴音は静かに頷いた。
「じゃ、とりあえずそこから行ってみるか」
 こうして行き先を決定した四人は、その翌日に町を出発した。


 鈴音が示した湖は、その町から歩いて一ヶ月ほど。しかもその間には町などまったく無いそうだ。
 旅慣れない青葉と秋夜には少しばかり辛い行程だった。
 一度は二週間近くにわたる旅をした二人だ。最初のうちは特に問題も無かったのだが、後半になるにつれ疲れがたまってきたのか緊張感も薄れ、青葉の戦闘力も減少した。
 羅魏と鈴音は平然としていた。青葉は本気で二人に感心してしまった。やはり旅慣れている者は違うな、と。
 目的地への行程の半分も進んだ頃、青葉たちがへばって座り込んでいるその間にてきぱきと二人で役割分担を決めて準備をしてくれるのだ。
 序盤は二人もいろいろと手伝っていたのだが、数日前からは青葉たちは休憩のたびにへたり込んでしまって、手伝いなどほとんど出来ない状態だった。
「なんかさぁ・・・情けないわねぇ、私たち・・・」
 小さくため息をついて青葉がつぶやいた。
 同じく隣で座り込んでいる秋夜もそれに答えて頷いた。
 そして、二人同時に肩を落としてため息をつく。
「なに落ち込んでんだ?」
 青葉たちの様子に気づいてか、羅魏が声をかけてくれた。
 青葉は、もう一度ため息をついてそれに答えた。
「あんまりにも自分が情けないから落ち込んでんの」
 そう言って、青葉はもう一度大きくため息をついた。
 羅魏は笑って、落ち込んでいる二人の背を勢い良く叩いた。
「仕方ないだろ。慣れてないんだから。オレも昔はそうだったよ。その頃はじーちゃんと二人で旅してたんだけどさ、もう全然駄目。最初は誰だって同じなんだから気にすることないって」
 その言葉で少し気が軽くなった青葉は、横にいる秋夜のほうを見た。
 元来が生真面目で考え込みやすい秋夜は、羅魏の言葉ではあまり納得しなかったようだ。落ち込んだ口調で言う。
「・・・・でもさ、羅魏はぼくと同い年だし、鈴音さんはぼくよりも年下なんだよ?」
「年は関係無いだろ?」
 暗いほうへ思考を進ませる秋夜に、羅魏は拗ねたような表情を見せた。
 それでも落ち込んだままの秋夜を見て、とうとうそこを離れて行ってしまった。数メートル離れた火のそばで鈴音と会話している。どうやら今後のことについて話しているらしい。
「秋夜、行こっ」
 秋夜の手を引いて、無理やり火のそばへと連れていった。
 青葉はにっこりと笑って羅魏の隣に腰を下ろし、秋夜を自分の隣に座らせた。
「ごめんね、私たちのせいで時間かけさせちゃって。でも頑張るから、私♪」
「そんなことないよ! 青葉おねーさんも秋夜おにーさんも頑張ってるもんっ!」
 鈴音は勢いよく立ち上がって力説した。
 その勢いは青葉までが思わず圧されてしまうほど。
 はっと自分の勢いに気付いた鈴音は、顔を赤くして照れ笑いをした。つられて青葉も笑う。
 いますぐは無理でも、少しずつ出来るようになろう、その日青葉はそんな考えを頭にめぐらせながら眠りについた。



 鈴音と再開した町を出てから一月ちょっと。四人は目的地の湖に到着した。
「うわぁ・・・・・・」
 青葉は感心したように溜息をつく。
 ほかの三人もこの景色に目を奪われているようだ。
 湖はぐるっと周囲を歩こうとすれば一時間ぐらいかかるだろう。湖の周りには木々が広がっている。湖自体が放っている柔らかい不思議な雰囲気が、とても心地よかった。
「結構広いな」
「とりあえずぐるって歩いてみよっか♪」
 言うが早いか、秋夜を引きずりつつ歩き出す。その後ろから羅魏、鈴音も歩いてくる。
 最初に予想したとおり、湖を一周するのに一時間ほどかかった。しかし湖に生き物の気配は無い。
 青葉は大きく息を吸い込んだ。
「・・・・龍さーんっ、いたら出てきて下さーい! 龍さんにお願いがあるんですーーーっ!!」
「・・・・・なんか青葉らしいって言うか・・」
「それで出てきてくれたらなんの苦労も無いんだけどな」
 単純明快な青葉の行動に、秋夜と羅魏が苦笑した。
「でも何も行動しないよりはずっといいよ♪」
 鈴音だけは青葉の行動に賛同してくれた。
「そぉだよねーっ、なんにも行動してない人に言われたくないよね」
 鈴音の手を取り嬉しそうに言いつつ、言葉の後半にはギロリと男連中を睨み付けていた。
 秋夜はその勢いに気圧されて一瞬青葉から目をそらしたが、羅魏はその睨み付けに対しても楽しげに笑うだけだった。
 怒っているのに笑って返されて多少むかついた青葉は、再度羅魏に睨み付けてからもう一度湖を見つめた。
 先ほどと変わった様子は見られない。湖面が太陽に照らされて光っているだけだ。
「やっぱり普通に呼んだだけじゃあ出てきてくれないのかな」
「それとも本当に居ないとか」
 鈴音と青葉の会話に秋夜が控えめに口を挟む。
「・・・・・それ、どうやって確認するの・・・?」
 龍に限らず、ほとんどの妖怪は人間と接点を持たずに暮らしている。中には人間との接触を嫌う傾向にある者もいる。呼んだからって姿をあらわしてくれるとは限らないのだ。
「方法はあるよ」
 全員の視線が鈴音に集中する。
「青葉おねーさんが探してるのは水龍なんでしょ? 水龍って限定するなら召喚できるかも」
「なんでそれ最初にやらないんだよ」
 鈴音の話に羅魏がふくれっつらをした。青葉も表情にこそ出さないものの同じ心境だ。しかし鈴音は召喚という行為に抵抗があるらしく、弱気な口調で言い返した。
「だって、召喚って強制みたいなもんなんだもん。龍に機嫌損ねられたら意味無いでしょ?」
「でもまずは会わないと話にすらならないわけだし」
 秋夜がもっともな意見を述べた。それで鈴音も考え込む。
「そうなんだよねー・・・・・・・やってみる?」
 その言葉に三人はしっかりと頷いた。
 それを確認すると、鈴音は湖のほうに向き直った。懐から剣を取り出す。以前結界を張りなおしたときにも見たやつだ。多分、あれが鈴音が術を使う時の媒体なんだろう。
 剣を正面に構えて静かに湖面を見つめていた。
「・・・・・・水の龍よ、そなたがこの地に在るならば、我が召喚の声に応え、我らの前にその姿をを現わせ」
 鈴音の声に応えるかのように水面が揺れる。
 湖の中央に漣が立ち、波紋が広がった。
「おぬしら、何の用があってわしを呼びつけた」
 湖の中央に青っぽい緑色の身体と、蒼い鬣を持つ龍が居た。
 鈴音はすでにその龍に気圧されてしまっている。答えられない鈴音に代わって、青葉がその問いに答えた。
「突然呼びつけちゃったことは謝ります。でも、どうしてもあなたの力を貸して欲しいの」
 龍の視線がこちらに向く。目が合った。龍の瞳は、身体の色と同じ青緑だった。

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