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 IMITATION LIFE〜裏話・龍の住まう地 9話 

 力を貸して欲しい――青葉がそう言うと龍は目を細めて、けだるそうに青葉たちに目をやった。
「力・・・? なぜわしがそんなことをせねばならぬ」
 そう言うと、龍はぷいっと横を向いてしまった。このまま姿を消してしまいそうな感じだ。
 青葉は慌てて龍を引きとめようとした。
「ちょっと待ってよ! 話ぐらい聞いてくれたっていいでしょ?」
 龍は振り返りすらせずに答える。
「先ほど聞いたであろう? おぬしらはわしに力を貸して欲しいと言ったが、わしはそれを断った。それで話は終わりじゃ」
「ひっどーーーーーいっ!! 何それっ!」
 今にも龍に掴みかかりそうな青葉。鈴音がそれを止める。
「青葉おねーさん、ちょっと待って」
「何?」
 後ろにいる鈴音のほうを見た。青葉の表情というか気迫というか・・・怒りと不機嫌なその雰囲気にだろうか、鈴音がちょっと怯え気味に青葉に説明してくれた。
「あのね・・・あたし、大変なものを呼んじゃったみたい・・・なの」
 その言葉に龍が小さく感嘆の声を漏らす。
「ほう、わしが何者なのか理解しておるようじゃな」
「どういうこと?」
 問い掛けたのは青葉ではなかった。青葉はしっかりと龍を睨み付けていた。
「龍は風火水土の属性があって、龍と龍神がいるの。普通の龍はその辺の妖怪とそんなに変わらないんだけど、それとは別に龍神って呼ばれる特に強い力を持つ龍がいるの」
「つまり鈴音が呼び出したのはその龍神ってやつなわけか」
 羅魏の言葉に鈴音は小さく頷く。しかし青葉は納得しなかった。
「だから何よ。せめてちゃんと話聞いてから断るかどうか決めてくれたっていいでしょ!? こっちは死活問題なんだから」
 青葉は、龍が話を聞いてくれるまでは絶対に諦めないつもりでいた。そんな青葉の雰囲気が向こうに伝わったのだろうか。龍は小さく息を吐いて、根負けしたように呟いた。
「わかった。聞いてやるからとっとと話せ」
 四人の間の緊張感が少しばかり緩む。
 鈴音に説明したときのように青葉と秋夜、二人で今の風龍の状況について話した。
 風龍の名を聞いて龍の表情が少しだけ変わった。・・・・なんだか、焦っているような気がする・・・。
「あ・・・ああ、まさか・・・風の龍神の住まう地のすぐそばにあるのか? おぬしらの街は」
「え? はい、そうですけど・・何か?」
 龍が視線をそらした。バツが悪そうに、一語一語言葉を切りながら話した。
「昔・・・な、風のと喧嘩したことがあっての・・・・。ちょっとした嫌がらせにあれが住む地の雨が止まぬようにしてやったのじゃよ・・・」
「ええええええぇぇぇぇーーーーーーーっ!!!!?」
 四人の声が見事に重なった。
 龍の話はまだ続く。
「周囲の土地に被害が出ぬ程度の雨量になるようにしてあったはずなのじゃが・・・・ほれ先日の流れ星、わしの術もそれに影響されたんじゃろうな」
「ちょ・・・と待って・・・じゃ、あの伝説は・・・?」
 後ろで誰かのコケる音が聞こえた。確かに少しばかり論点のずれた問いだが、青葉はずっとその伝説に憧れにも似たものを抱いていたのだ。聞きたくなるのも当たり前。
「伝説? その事象に合わせて、人間があとからこじつけにも近い伝説を作り上げる。よくある話じゃろう」
「青葉ぁ〜〜。論点ずれてるよ、それ」
 秋夜は狙い違わずしっかりと突っ込みを入れてくれた。
 青葉もしっかりと秋夜を睨み返し、秋夜を黙らせてから龍との交渉を再開した。
「ってことはもともとあんたのせいなのよね。これは協力してくれないとね♪」
「・・・まぁ、よかろう。もとはわしの撒いた種のようじゃしな」
 龍は苦々しげな口調――表情はよくわからなかったが――で承諾してくれた。
 青葉立ちがホッと息をついたのも束の間、龍はさらに言葉を続ける。
「しかしまだ問題がある。わしはこの地を長く離れること叶わぬ」
「ここから離れられないのにどうやって風龍の土地に術をかけたの?」
 龍の言葉に、青葉は眉根を寄せて疑問の言葉を口にした。
「昔、妖魔が今ほど強くなかったころは近くの街・・・水龍(すいり)という街でわしを信仰しておった。
 月に一度、祭りを開いておったのじゃ。その祭りはわしに霊力を送るものでな。そのおかげで昔は自由に飛びまわることが出来た。だが、街のものがわしの存在を忘れ、祭りが行われなくなってからは常に霊力が放出されているこの地から離れにくくなったのじゃ。まさか辻斬りのように辺りの人間から勝手に霊力を貰うわけにもいかぬしの」
 龍は遠くを見るように空を見上げた。青葉には、龍が昔を懐かしんでいるように見えた。
「それじゃ、あたしの力使って良いから一緒に来てくれませんか?」
 今まで聞くだけだった鈴音が、まだ龍に多少の怯えを見せつつも口を開いた。
 龍は鈴音を一瞥しただけで、呆れたような雰囲気を漂わせた。
「おぬしの力ではわしを支えるのは無理じゃ」
「オレは?」
 そう言って羅魏が龍に近づいた。龍はしばらく羅魏を見つめたあと、小さく感嘆の息を漏らした。
「ほう・・・・おぬし、珍しい属性を持っておるな」
「属性?」
「力の属性じゃよ。たいていは自分の属性系統の術は他に比べて威力が上がるだけなんじゃがの、強い力の持ち主ならば術を使わずとも自分の系統の事象を動かせるのじゃ」
「へぇー・・・・で、羅魏の属性ってなんなの?」
「時空じゃ」
「時空!?」
 鈴音が声を張り上げた。ばっと羅魏のほうを見つめる。青葉にはその時空というものがよくわからなかった。風火水土ならばわかる、が時空というのははじめて聞く単語だった。
「ねね、鈴音ちゃん。それってすごいの?」
 その問いに答えてくれたのは鈴音ではなく龍だった。
「この者ほどの能力ならば、時を操ったり、空間を創り出すことも可能じゃろう」
 その言葉に青葉、秋夜、当の羅魏本人までもが驚きの声を漏らした。
 龍のほうはそんなものかまわず、楽しげな声音で羅魏に語りかけた。
「おぬしなら大丈夫そうじゃの。おぬしの力、少々貰い受けるぞ」
 その直後、龍は湖の上空から離れ、羅魏の元へと現れた。
「あ、それとオレからも頼みがあるんだけどさ」
 羅魏は、自分の隣に現れた龍のほうを見て声をかけた。
「頼み?」
「オレの相棒が封印されちゃって――」
 羅魏が最後まで言い終える前に、龍が口を挟んだ。
「ああ、つまりこの者を起こせば良いのじゃな。少々待っておれ」
 そう言って龍は羅魏の中に消えていった。
 四人が顔を見合わせていると、龍はすぐに戻ってきた。ほんの数分の時間。
「封印は?」
「封印は解いた。じゃがいつ目覚めるのかはわからぬ。まぁ、おぬしほどではないにしても”相棒”もかなりの能力の持ち主のようじゃから、すぐ目覚めるじゃろう」
「はぁ? 逆だろ? あいつのほうがオレより強いんだぞ」
「魂と身体は別物じゃ。おぬしが弱いのはその身体の能力を使いこなせていないせいじゃ。おぬしがその身体を使いこなせれば、おぬしのほうがずっと強いはずじゃ」
「ふ〜ん・・・・」
 羅魏はまだ納得していないようだが、それ以上聞き返すことはなかった。
「それじゃ、とりあえず近くの街に行こう」
 珍しく秋夜が最初に歩き出した。が、ここで青葉はある問題に気付いた。
「目立つね・・・・・」
「・・そう言われてみればそうだな・・・・」
「あの・・・龍神様・・・その・・・もうちょっとなんとかなりませんか?」
 龍は全長十メートルほど。このまま街に入れば目立つこと間違いなしだ。
「まったく、わがままの多いやつらじゃ」
 溜息をついて、龍は小さく呪(しゅ)らしき言葉を唱えた。
 みるみる龍の姿が変わっていく。
 龍の姿が完全に変化した・・・・・・直後、周囲に笑い声が響いた。
「こらっ、おぬしらなぜ笑う!!」
 鈴音を除いた三人が大爆笑しているのだ。鈴音は意外そうに龍を見つめていたが、笑うことはしなかった。笑っている三人を止めようとしていたが、誰も鈴音の声を聞いていない。
「人の姿を見て笑うのは失礼じゃろう!」
「だ・・・だ・・って・・・あははは」
「ぼく、・・・あはは・・絶対、いかついおじいさんとか・・思ってたのに・・・」
「まさかこんなガキなんてな」
「ガキじゃとっ!? これでもおぬしらの数倍は生きておるのじゃぞ!!」
 龍は、目立たないようにと人間の姿に変化した。
 肩の上で揃えられた青みがかった黒い髪と、青緑の瞳の十歳前後の少女。それが、龍が変化した人間の姿だった。
「なぁ、あんたってもしかして龍神の中では若いほうなのか?」
「ああ、一番年下じゃ」
 ぶすーっとした表情で龍は問いに答えた。
 青葉は苦笑しつつも、龍を宥めにかかった。
「ごめん、拗ねないでよ。笑ったのは謝るから」
「もうよい。気にしておらぬ」
 しかしその視線は冷たい。
 これは怒りがおさまるまでしばらくかかりそうだ。
 青葉は話題を変えることにした。
「なんて呼べば良い?」
「はぁ?」
「だから龍神さんの名前。まさか龍神様って呼ぶわけにもいかないでしょ」
「わしはそれでもかまわぬが・・・・。おぬしらが呼びにくいと言うならば、わしのことは水龍(すいり)と呼んでくれればよい」
「水龍ね、わかった。これからよろしくっ♪」
 青葉は龍――水龍に右手を差し出した。
 水龍は楽しげに小さな笑みを浮かべてその手を握り返してくれた。

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