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 IMITATION LIFE〜裏話・風の声が聞こえる 最終話 

「きゃーっ♪ クルニアだ、クルニアだーいっv」
 アリアは久しぶりに帰って来たクルニアと、この道中でセシルがなんだか元気になっていることで浮かれまくっていた。
 セシルが変わったのは途中で立ち寄った小さな村を過ぎてからだ。その日の朝、セシルの目は赤くなっていた。セシルと初めてあったのは一年とちょっと前。一年という時間は長くはないがそんなに短い時間でもない。その間アリアは一度もセシルが泣いたのを見たことがなかった。
 セシルの泣きそうな瞳を見るたびに何度も、何度も思った。セシルが本当に笑った顔を見てみたいと。あの朝以降、セシルの笑顔はそれまでのものとは違って見えた。
「アリア、はしゃぐのはそれくらいにしとけよ」
 スタスタと歩きながらラシェルが呆れたような目でこちらを見ている。
 セシルが案内役を買って出て、家へ向かって・・・・・てっ、
「ちょっと待った!!」
 前にいた三人が一斉にこちらに振り返る。
「なぁに?」
「なんでそっちに行くの! 家はこっち!!」
 セシルが向かっていた方向はアリアの自宅。アリアが指差したのは学園の寮の方角。
「え? なんで? 家に行かないの?? 一月もいなかったんだもん、きっと心配してるよ?」
「気にしなくていいの、どうせ居なくなってたことにすら気づいてないんだから。それに心配してるのは学校の人達も同じでしょ?」
「とりあえずさぁ、ここで言い合うのはやめないか?」
 ラシェルが横から口を挟む。
「で、結局どっちが家の方角なんだ?」
「こっちがアリアの家、向こうは学園の寮。私達、学園の寮に住んでるんです」
 セシルの説明にラシェルが不思議そうにアリアのほうを見た。
「寮に入らなきゃ通えないほど遠いのか?」
 セシルは首を横に振る。
「学園からアリアの家まで歩いて十五分くらいかなぁ」
「ウチ、家が嫌いなの。だから寮に入ったの。わざわざ近寄りたくない」
「そうか」
 ラシェルはそれ以上は何も言わず、アリアの後ろを歩いて行った。
 目の前に大きな建物が見えた。見慣れた学園の建物群。
「アリア、セシルっ!!」
 突如上から声がかかった。見上げると窓から顔を出している同じクラスの寮生数人。
 アリアはにっこりと笑って手を振った。
「ただいまーっ♪」
 窓から顔が引っ込む。次いでバタバタバタッと慌てたような足音が駆けて来る。
「ちょっとっ、一体何があったの? どうして・・・」
「遺跡にあった転送装置がなんでか知らないけど作動しちゃってね、飛ばされちゃった」
 アリアは軽い感じでそう言った。それを聞いていた周囲の人たちが一瞬凍る・・・・・。
「どっ・・どこまで飛ばされてたの・・・・?」
「ノインの近く」
 またもあっさりと言うアリアに周囲は蒼白になっていた。ノインと言えば大陸最大の犯罪都市。青くなるのも当然だろう。
「この人達のおかげで助かっちゃった♪ 二人ともすっごく強いの」
 皆の視線がラシェルとフィズに集中する。二人はぺこっと小さくお辞儀をした。
 アリアはあっという間に友人達に囲まれ楽しそうにお喋りを始め、どことなく居場所の無いセシルは二人を伴って自室へと向かった。

「唐突だけどさ・・・聞いて良いかな?」
 部屋に入った直後、ラシェルがそう切り出した。何を聞こうとしているのかは明白だ。
「いいよ。サリス島に行くんだよね?」
「ああ」
 二人の会話にいきなりフィズが割って入った。
「そういえば・・・今思ったんだけど、転移魔法使えば簡単に戻って来れたんじゃない・・・?」
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・部屋の中を冷たい空気が流れる・・・・・・。
「そういえば・・・そうだね・・・忘れてた・・・・」
 セシルの表情が半ば呆然となっている。
「ま・・・・まぁ、過ぎたことはどうでもいいとして――」
 ラシェルが苦笑して、それから真剣な表情へと変わる。
「サリス島に連れてってくれるか・・・?」
 セシルはこくりと頷いた。そしてにっこりと笑った。とても、優しい瞳で。
「はい」
「どっちにしても行くのはアリアが戻ってからかな」
「は? なんで? 今すぐだとなんかまずいのか?」
 フィズの言葉にラシェルが聞き返した。
「・・・・・たった一月の間とはいえ一緒に旅した友達になにも言わずに出掛ける気?」
「あ、そっか。そうだな」
 ラシェルの様子を見るに本気でアリアのことを忘れていた様だ。二人の会話のやり取りに思わず笑みが零れる。
 セシルの小さな笑い声にラシェルの不機嫌そうな顔がこちらを見た。けれどその表情すらなんだか微笑ましくて笑いが止まらなくなってしまう。
 そういえば、私って昔は笑い上戸だったっけ・・・・いつから笑わなくなってたんだろう・・・
 頭の隅にそんな想いが横切る。まったく笑わなかったわけではない。けれどいつも、どこか冷めていた。
 バタンっ
「うわっ、とっ・・」
 いきなりドアが勢い良く開く。ちょうど扉の前にいたラシェルが慌てて場所を移動した。
「やっ、待たせてごめんっ」
 フィズがクスクスと笑いながら答えた。
「そんなことないわ、アリアの友達も皆心配してたんでしょ?」
「あははは、もう質問攻めにあっちゃった。先生にもちゃんと事情話してきたよ」
 フィズの言葉に答えてからセシルの方に声をかける。
「なんて言ってた?」
「無事に帰ってきてくれて良かったってさ。あと遺跡とかではもっと慎重に行動しろって怒られちゃった」
「でもあれって半分くらいは私達のせいじゃないと思うけど・・・・」
「そうだよねー」
 二人の会話に疑問を持ったのかラシェルが尋ねてきた。
「二人のせいじゃないって・・・どうしてだ?」
「えっとね、横道を見つけたの。順路には無いやつ。そこ見てたんだけどいきなり後ろから押されて―」
 アリアの言葉をセシルが続ける。
「横道の奥にあった部屋に転送装置があったの。最初は転送装置ってわからなくってとりあえず近づいてみたらいきなり」
「・・・・・・そのとりあえず近づいたってのはお前らの責任だろう。でも押されたって誰に?」
「わかんない」
 アリアはそう答えたが確信は無いもののセシルには思い当たる人物がいた。移動する直前に見たあの青年・・・・・
「押したのは・・・多分あの人だと思う」
「「あの人?」」
 セシルを除いた三人の声が重なった。
「アリアは見なかったの?」
「うん、全然気づかなかった」
「あのね、あの時、飛ばされる直前、入り口のところに男の人がいたの。銀髪で・・一七か八か・・そのくらいだと思う。・・・・笑ってたの・・・なんだか怖かった」
「まさか・・・・あいつ・・・」
 ラシェルの表情が一変した。言葉こそ発しないもののフィズも驚きを隠せないようだ。
「知ってるの? その人」
「多分な。でもそんなことをする理由がわかんねぇ」
 そうしてラシェルは考えこんでしまった。
「んもぅ、いいじゃないそんなの。ラシェル達はサリスに行きたいんでしょ?」
「あ、ああ」
「どうせここで考えこんでもわかんないんだから。先に進めばなんかわかるかもしれないでしょ?」
 アリアの単純明快な答えにラシェルが笑い出した。
「あはははっ・・・そうだな。そうするよ」
「もうっ。なんで笑うの!」
「ごめん、ごめん。そうだよな。考えてもわかんないなら前進あるのみ・・・だな」
 その日、ラシェルとフィズは寮の空いている部屋に泊まることになった。

 そして――翌日。
 四人は街の外れにある丘に来た。セシルとアリアが出会った場所でもある。
「それじゃ、行きますよ」
「ああ」
「あ、ちょっと待って」
「・・なんだよ、フィズ」
「アリアに言いたいことがあったの」
「なに?」
 フィズはアリアを見た。真剣な表情だ。
「あのね、時々は家に帰ってあげて。私はアリアの両親を知らないから心配してるかどうかはわからないけど・・・でも・・・子供を心配しない親っていないと思うの」
 アリアの表情がみるみる変わっていく。
「どうしてそう思うの。そんなのただの理想論でしょ?」
 ぶっきらぼうにそう聞き返した。
「理想論・・・・ね。そうかもしれない。でもそうあって欲しいと私は思ってる。だから、せめて確かめてみて。いなくなって初めてその存在の大切さに気づくことってあるから」
 いなくなってみて・・・そういえば学園に行くまでは泊りがけでどこかに遊びに行った事も無ければ、門限を破ったことすら一度も無い。振り向いて欲しくて、良い子にしてた。あの母親は自分がいなくなったことをどう思ってるのか、確かめてみても良いかもしれない。
「・・・・わかった。行ってみる」
「ありがとう」
 フィズはにっこりと笑った。その向こうでセシルも笑っている。セシルはセシルなりにアリアのことを心配していたようだ。
 アリアの会話が一段落したのを見てセシルは行動を開始する。ラシェル達をサリス島に送り届けるために・・・・・。


「行っちゃったね・・・」
 アリアがぽつりと言った。
「それじゃ、私達も行こっか」
「え?」
「行くんでしょ。家に」
「ちょ・・ちょっと待ってよ。今行くの!?」
「今。思い立ったらすぐ行動しなくちゃ♪ 行こう」
 言って返事も待たずに手を引いて駆け出す。
「セシルっ! なんか性格変わってない!?」
「そんなことないよぉ。今までがおかしかっただけ!」
 走る足は止めずに顔だけこちらに向いて答えた。その笑顔は今まで見たことがないくらいの明るい笑顔・・・・つられてアリアも笑った。
 
 二人の旅路は終わりを告げた。けど、まだまだこれから。
 やりたいこと、やらなきゃいけないことがたくさんある。その一つ一つを、二人は手を取り合い、助け合いながら進んでいく。
 そうして、いつか二人はクルニアどころか世界中で知らないものはいない、優秀な魔術師となる。
 人は彼女達を”月陽の魔術師”と呼んだ。同じ大地(ところ)を照らしながらまったく違う光を見せる月と太陽のようだと。

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