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第1章〜パーティ結成! 第4話


 いろいろと紆余曲折を経て、二人は街の外へとやってきた。
 ヴァユたちから見て右手側は崖になっておりその向こうには海が広がっているが、左側は見渡す限りの荒野だ。
「うっわぁーーーーっ♪ 外だ外っ! ねねねっ、すっげー、地平線だよ。はじめて見たーーーっv」
「・・・・・・あの、ヴァユさん・・・? あんまりはしゃいでると危ないですよ」
 ヴァユのあまりの騒ぎように、リセルはどこか引き気味に注意した。
 だが、浮かれて興奮しているヴァユにその言葉は届いていない。
「すっげぇ。これ全部地面?」
 しゃがみ込んでペタペタと地面を触ってはまた地平線に視線を向ける。
 リセルは苦笑しながらヴァユの声に頷いた。
「ええ、全部地面です。でもそれを言うなら街だってそうでしょう?」
 今更何を言っているんだとでも言うように、少し困ったように笑うリセル。
 ヴァユはくるりっと勢いよく振り返って、好奇心にきらきらと瞳を輝かせて答えた。
「だって、街は港と似てる感じがしたけどここは全然違う!」
 港も街の一部なのだから似ていて当然なのだが、興奮しているヴァユはそこまで考えが到らない。
 クスクスと楽しげに笑うリセルに気付いたヴァユはまた拗ねた様子を見せたが、
「ほら、早く行かないと賞金首に逃げられてしまいますよ」
 穏やかな声に後押しされて、やっとまっすぐ洞窟へ向かって歩き出した。
 地図で見る限り、特にトラブルにでも巻き込まれない限りは今日中に着けるだろう距離に洞窟はあった。
 ただしそれは直線距離であり、実際には崖下に降りていくために遠回りをせねばならず、四、五日かかる距離となる。
「意外と遠いんですね」
 崖のことをすっかり失念していたらしいリセルはそういって洞窟がある方向を見つめた。
「そんなことないよ。遠回りしなくたって降りれるしさ」
 軽い調子で言ったヴァユに、リセルは目を見張った。
 ヴァユはニコっと笑顔を見せて自分の周囲に小さな風を起こした。
「飛べばすぐだろ?」
 リセルはしばらく考え込んで、それからしっかりとヴァユを見つめて口を開いた。
「他人を飛ばすこともできるんですか?」
「やったことないけど出来ると思う」
 まるで当然のことのようにあっさり言い、自慢げに胸を張って言葉を続けた。
「ま、オレにまかせといてよ♪」
 あまりにも楽観的なその言葉にリセルは不安げな目をしたが、すでにこの話題から興味を失っているヴァユはまったく気付かず、地図と実際の風景とを見比べていた。




 それから数時間も歩いたころだった。
 リセルの数歩先を歩くヴァユの好奇心はまったく衰えることなく、あっちをキョロキョロこっちをキョロキョロと動きまわっていた。
 見かねてリセルが何度か注意するも、やはりヴァユは返事だけでまったく行動を改めない。
「もしかして人選間違えたのかも・・・・・・」
 リセルは小声で呟き、深い溜息をついた。
「お姉ちゃん、なんか言ったー?」
「いいえ、なんでもありません」
 唐突に振り返ってきたヴァユに慌てて笑顔を作って答える。
「・・・・・・?」
 リセルの瞳に、獣のような影が映った。
 逆光であるうえ、位置が遠いためよく判別はできないが。
「お姉ちゃん?」
 リセルがヴァユではなく、その向こうを見ていることに気付いて疑問の声をあげる。
 ヴァユもリセルの視線を追いかけて、リセルに背を向けた。
 遮るもののない大地に小さく見えたのは明らかに人とは違う影。
 あっと思ったときには、それはこちらに向かって突進してきた。
 急速に影が近づき、それが魔物であることに気付いた二人は慌てて体勢を整える。
 魔物はそのままスピードを落とすことなくリセルに体当たりをしかけてきた。
 ヴァユはてっきり魔物に近い位置にいた自分のほうに来るものと思っていたため、対応が遅れた。
「お姉ちゃんっ!」
 魔物の動きを追って体の向きを変えるが、リセルをかばうには間に合いそうにない。
 だが次の瞬間、ヴァユはぽかんと口を開けてその光景に魅入ってしまった。
 リセルは軽々と魔物の突進を避け、腰のベルトからなにやら短い棒のようなものを取り出した。
(まさかあれで戦うわけじゃないよな・・・・・)
 一瞬呆然と立ち尽くしたが、すぐに駆け出す。
 だがどうやらその必要はなかったらしい。
 リセルの持った棒から、いきなり刀身が出現した。淡い光を放つ、現実感に乏しい刃。
 リセルは真剣な表情で、剣となった棒を構え、それを魔物に向けて振り下ろした。
(あれじゃ届かないっ・・・!)
 そう思ったのも束の間、唐突に刀身が伸びた。
 倍近い間合いを得て、剣は見事魔物にヒットし、リセルはよろけた魔物に向かって駆け出した。
 だが魔物も素早く体勢を直して低い唸り声をあげながらリセルに向かって再度突進していく。
 リセルは直前で横っ飛びに避け、自分の横を駆け抜ける魔物に剣で切りつけた。魔物の勢いも加わり、剣は見事に魔物に致命傷を負わせた。
 魔物は力を失い地面に倒れる。
 もう起き上がってこない事を確認して、リセルは安堵の息を吐いた。
 一方ヴァユは、あまりにも意外すぎるリセルの戦闘力に呆然としている。
「・・・・・・・ほえー・・・お姉ちゃん、すっげー強いんだ」
 言われて、リセルは顔を真っ赤にして俯いた。小声でぼそぼそと反論する。
「そ・・・そんなこと、ないです・・・。ちょっとかじったくらいで・・・」
 ヴァユはリセルに駆けより、好奇心いっぱいの笑顔でリセルの持つ剣を眺めた。
「ねね、これなに? さっきこれでやっつけたんだろ?」
 どうみてもただの棒っ切れにしか見えない。だが、さっきリセルはこれで魔物を倒したのだ。
 リセルは自分の手にある棒を見つめ、小さく笑って答えた。
「ああ、これですか? 魔法剣です。普通の剣だと重くて振り回せないんですよね、私」
 苦笑しながら、棒をベルトに戻した。
「へぇー・・・。どういう魔法剣?」
「は?」
 ヴァユの問いに、リセルは間の抜けた返事で返してきた。
 どうやらヴァユの問いの意味がよくわからなかったらしい。ヴァユは少しばかりイラついたような口調で同じ言葉を繰り返す。
「だからぁ、魔法剣ってもいろいろあるだろ? 実体ないやつでも切れるとか、魔法発生させるとか」
「・・・・・ああ、そういうことですか」
 リセルはちょっと考え込んでから、にっこりといつもの穏やかな微笑みを見せた。
「これは持ち主の魔力を刃に変換してくれるんです。だから普段はただの棒ですし、刃の分の重さがありませんから普通の剣よりずっと軽いんです。慣れればさっきみたいに長さを自在に変えたり、属性を付与することもできます」
「属性・・・って風とか火とかの・・・魔法属性のこと?」
「ええ。私は属性付与まではできませんけどね」
「へえぇー・・・・・・・。ねっ、見して見して〜♪」
 一通りの説明を聞き終わった途端、ヴァユはまた無邪気な笑顔で両手を差し出した。
「見るだけでしたらかまいませんよ」
 リセルは一度しまった剣をまた出してくれたが、見るだけの言葉通り、結局ヴァユに触らせてはくれなかった。
 何度頼んでも、これは大事な物だからと断られ、数分後――。
 めちゃくちゃに不機嫌な顔で荒野を歩くヴァユの姿があった。



 そんな騒ぎからさらに数時間。二人は丁度真下に洞窟があるあたりまでやってきた。
「この下ですかー・・・」
 下を覗き込んだが突き出した岩に邪魔されて洞窟の入り口を見る事は出来なかった。
「見えないなぁ」
「仕方ないですよ。さ、先に進みましょう」
 ヴァユは、立ちあがりかけたリセルの袖をつまんで引きとめた。
「・・ヴァユさん? 早く先に進まないと・・・」
「さっき言っただろ?」
 拗ねたように言うヴァユを見つめ、たっぷり数秒考えてから、リセルはぽんっと手を叩いた。
「ああ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 やっと思い出したのか小さく声をあげ、それから不安げにヴァユの瞳を見据えた。
「・・・・・・・本当に大丈夫なんですか?」
 その問いに、ヴァユは至極冷静に・・・どこか冷淡に答えた。
「オレは平気。問題は人を運んで飛んだ事がないってコト」
「それは大丈夫って言いません〜〜〜」
 リセルは困ったような表情で苦笑し抗議をしてきたが、ヴァユはまったく聞き入れなかった。
「でもさ、今まで散々遠回りしてきたんだ。ここで近道しとかなきゃ逃げられちゃうってば」
 最初の買い物でまず一日。外に出てからはヴァユのおかげで移動スピードが極端に落ちた。しかも手に入れた情報がいつのものかも聞いていないのだ。急ぐにこしたことはないだろう。
 ここで近道すれば三、四日分の時間を省略できるのだ。
「・・・・・・・・・わかりましたっ。行きましょう」
 がっくり肩を落として観念したリセル。
「やったぁっ♪ んじゃさっさと行こうぜ〜」
 ヴァユは大喜びで立ちあがった。
 そんなヴァユの浮かれように釘を指す様にピッと人差し指が付きつけられる。
「でも、間違っても落とさないでくださいね。私は飛べないんですけら」
 きょとんっとした瞳でそんなりセルを見つめていたヴァユであったが、リセルの言葉が終わった瞬間、ニッと質のよくない笑みを浮かべた。これから悪戯をしようとする子供のように。
「まかしとけって。絶対大丈夫だからさっ♪」
「さっきと言ってることが違ってませんか?」
 自信満々に言うヴァユを見つめて、リセルは呆れた口調で呟いたのであった。


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