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第1章〜パーティ結成! 最終話


 くるりっと振り返った人影は、確かに手配書のエリス嬢とそっくりだった。
 彼女は慌ててこちらに走り出しながら、ヴァユたちの向こうを指差した。
 思わず後ろに視線をやるが、彼女は苛立ったような声で続けて叫ぶ。
「はやく逃げてっ!」
「え?」
「いいから早くっ! 罠にまき込まれて死にたいわけ!?」
「・・・・・わな?」
 言われて彼女が居た通路に視線を戻す。
「げっ」
「うそ・・・・・・」
 音もなく広がる白い煙――多分毒ガスかなにかなのだろう――を見つけて二人も急いでもと来た道を引き返す。
 そうして三人は洞窟出口まできてやっと立ち止まった。
 ここまで全力疾走してきたため、全員思いっきり息が上がっている。
「・・・・・・・・・あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜もうっ」
 膝に手を当て下を向いてしばらく息を整えていた彼女は、髪を掻き上げながらピシッと背を伸ばして上に視線を漂わせた。
 その声は不機嫌極まりなく、リセルは思わずびくついてしまったくらいだ。
「キミたちがいきなり大声出すから手元狂っちゃったよ」
 腕を組んで膨れっ面で言うその様子は”可愛い”と表現するのにぴったりで。
 怒られているにも関わらず、ヴァユは少しばかり浮かれた気分で謝罪した。
「ゴメンなー。見つけたのが嬉しくってつい・・さ」
 へらっと笑って言い、荷物の中から手配書を引っ張り出す。
 彼女は一瞬驚いた様子でそれを見つめ、手配書をひったくってマジマジと手に取ったそれを見つめた。
 その頃になってやっと復活したリセルが優しい口調で彼女に問いかけた。
「あの・・・貴方はエリスさんではありませんか?」
 彼女は答えなかった。
 なおも手配書の似顔絵と特徴を記した文章を見つめ、そして――
「世の中同じ顔が三人居るって本当なんだー」
 感心したふうに言った。
 驚いたのはヴァユとリセルである。
 二人はてっきり彼女がエリスだと思っていたのだから。
「へ?」
 間抜けな言葉を漏らすヴァユに視線を向けて彼女は胸を張った。
「残念ながら人違い。ぼくの名前はアリシア。ついでに言うと男だよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 二人の間に沈黙が走る。
 確かに、言われれば男に見えなくもない。
 だが、顔立ちもそっくりで髪の色も髪形も同じ。それにオッドアイなんて滅多にいないのにその瞳の色まで特徴通り。これで人違いと言われて納得するほうが難しい。
 二人の様子に彼女――いや、アリシアの言葉を信用するなら彼は、ふぅと一つ溜息をついてリセルの手を取った。
「あの・・・・・・・・」
 アリシアの行動の意図が掴めず呆然とするリセルを無視して、アリシアはその手を自身の胸へ当てる。
 リセルが、唖然とした表情で黙り込んだ。
「お姉ちゃん?」
「・・・・・・・・・・・・・あの、ほんとーーーーーーーーに、男の方・・・なんですか?」
 ヴァユの問いかけを無視して、リセルは震える指でアリシアを指した。
 アリシアはムッとした口調で言い返す。
「しつっこいなぁ。ならその目で確かめさせてあげようか? ねぇ、そこのお兄さん♪」
「え、オレ?」
 いきなり話を振られて呆然とするヴァユに、アリシアはにっこりと笑いかけてきた。
「うん、キミ」
 ぴしっと人差し指でヴァユをさす。
 アリシアの言わんとすることはわかる。でもそもそも本当に女だったらまずこんなことは言わないだろう。
 そう判断したヴァユは首を横に振った。
「いいや、信用しとくよ」
 ヴァユの答えを聞いて、アリシアは女の子と間違えられても無理はないくらいに可愛らしい笑顔――本人自覚しているのかどうか知らないが――を見せた。
「そう? ありがと」
「・・・・あの、年の近いお姉さんとか妹とかは・・・?」
 会話の合間を縫って、遠慮がちにリセルが声をかけた。
 どうやらまだアリシアの言葉を信用しきれてないらしい。ここまでそっくりならばそれも仕方ないかと思えてしまうが。
 アリシアは横目でリセルを眺め、呆れた声で答えた。
「残念ながら一人っ子。さっきから言ってるでしょ、他人の空似だってば」
「そう・・・ですか」
 がっくり肩を落とすリセルのその落胆ぶりに、アリシアはなにかを感じ取ったらしい。
 少しばかり眉を寄せて、励ますような言葉を口にした。
「別にそんな落ち込まなくたって別の獲物を探すなり、もう一度情報を集めるなりすればいいじゃない」
「そうなんですけどねー・・・・急いでるんです」
「なんで?」
 お金が必要らしいことはリセルの今までの言動で予測がついていた。だが、急いでいるなんて初耳だ。
 思わず問い返すと、リセルは再度深い溜息をついた。
「家の事情でちょっと借金背負ってしまって・・・。その返済期限があと一年なんです」
 沈んだ声音で言い、それからまた溜息をついて俯いた。
 しばらくその様子を眺めていたアリシアは、持っていたザックを開けて中からいくつかの袋を取り出した。
「?」
 わけがわからずアリシアの行動を見つめる二人に、アリシアは爽やかな笑みで返した。
「これ、あげよっか」
 そう言って袋の中身を見せてくれた。
「ほえー・・・すっげー」
 ヴァユは感嘆の声をあげ、リセルは言葉もなく呆然とそれを見つめた。
 袋の中には、高価そうな魔法アイテムやら宝石やらが無造作に放り込まれていたのだ。
「捨て値で裁いても五百万は行くと思うよ。その代わり、条件がある」
(やっぱり・・・・・・)
 言葉にはしないものの、ヴァユは心で呟きリセルと顔を見合わせた。
 普通に考えれば、これだけ高価な品をただでくれるはずがないのだ。
 二人の様子が可笑しかったのか、アリシアはクスクスと楽しげに笑って言葉を続けた。
「キミたち、一緒に旅してるんでしょ?」
 言われてリセルのほうを見つめる。
 もともと今回ここに来たのはリセルのためで、ヴァユはリセルに頼まれて一緒に来ただけだ。
 ヴァユは、せっかくだからもう少し一緒にいたいと思っているが・・・。
「ええ、ヴァユさんさえよければもうしばらくご一緒していただきたいと思っています」
 リセルの答えにヴァユはにっこり笑って頷いた。
「ぼくも同行させてもらっていいかな?」
「・・・・・・もしかして、それが条件?」
 予想外の答えに、二人は唖然としてアリシアを見つめた。
 五百万の条件だなんてもっと難しいことを言われると思っていたのだ。
「あの、本当にそんなことでいいんですか?」
 不安げなリセルの問いも当然だろう。
 アリシアは穏やかに笑って見せて、明るい声で言った。
「いーの、いーの。もともとお金目当てでトレジャーハンターやってるわけじゃないし」
「じゃあなんで?」
 純粋な好奇心で問いかけたヴァユに、アリシアはニッと不敵な笑みを見せた。
「趣味♪」
 あまりにも単純な答えにヴァユは目を丸くする。
 リセルは逆にクスクスと笑って、それから不思議そうな表情でアリシアに問いかけた。
「でもなんで私たちと一緒に・・・なんて思ったんですか?」
「ふっ・・ふふふふふ・・・・・・・・」
 ――よくぞ聞いてくれました!
 言葉にはしていないものの、アリシアの表情はそう語っていた。
 嬉しそうは嬉しそうだが、かなり妖しげな笑い声に思わず引いた二人をまったく無視して、アリシアはハイテンションで答えた。
「それは、ひ・と・め・ぼ・れ♪」
「はっ?」
「好きな人と一緒に居たいって思うのは普通でしょ?」
 浮かれた声で答えるアリシアに、二人は苦笑して顔を見合わせた。
 別に断る理由もないし、五百万は正直ありがたい。
 そんな結論に達した二人は、快くアリシアの申し出を受けたることにした。



「そういやまだ名前も聞いてないよね」
 とりあえず近場の街へ行こうと荒野を歩く一行。
 アリシアはたった今気付いた様子で、ぽんっと手を叩いて言った。
 そういえばさっきからなんだかごたごたしていてすっかり忘れていた。
「確かに。自己紹介もしてなかったなー。オレはヴァユ。で、こっちはリセル」
 明るく笑って言ったヴァユと、ぺこりと頭を下げるリセル。
 アリシアはそれぞれと目を合わせてにっこりと笑った。
「ヴァユくん、リセルさん。これからよろしくお願いします」



 こうして三人となった一行。
 特に目的を持たないアリシアとヴァユは、リセルの目的を果たすべく旅を続けるのだった。


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