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 アリスの鏡〜裏話・ピクニックに行こう! 7話 

 羅魏を加え、六人となった一行は人の目の少ない、階段付近のベンチへとやってきていた。
 羅魏ならきっと異世界に行く方法も知っているだろう。なんといっても実際に異世界を旅したことがあるのだから。
 安堵するフィズ、セイラ、シアとは対照的に、綺羅は疑惑の瞳を、灯は当惑した表情を羅魏に向けていた。
「二人ともどうしたの?」
 シアが聞くと、綺羅は怒涛の勢いでビッと羅魏を指差した。
「どっからどう見てもただの子供だろ? 本当にこんな子供に任せて大丈夫なのかよ」
「でもこの中で一番年上は羅魏だぜ?」
 セイラの答えに、綺羅と灯は絶句して羅魏を見つめた。
 羅魏の外見は、どう頑張っても十歳前後にしか見えない。だが、彼はドールであるため、外見と年齢は一致しないのだ。
「・・・・マジ?」
 灯よりワンテンポ早く復活した綺羅が、それでもまだ唖然とした表情で問い返す。
「大マジ」
 セイラが綺羅の言葉尻をとって答え、ドールの事を説明した。そんな二人の会話を横目で見ながらも、フィズはどこか間の抜けたその会話よりも羅魏の様子が気になって仕方なかった。
 どうやらシアも気付いているらしい。フィズと目が合うと、苦笑して肩を竦めた。
 綺羅はまだ気付いていないようだ。半ば平行線と化した会話を続けている。
 いい加減止めなければ今後に差し支える。そう思って会話に割り込もうとした時だった。
「ってーーーーーーーーっ!」
 唐突に、綺羅が叫び声を上げた。
「なにすんだよ!」
 綺羅の文句の矛先は、その叫び声の原因を作った人物――羅魏、だった。
 羅魏はなにも答える気がないらしく、ぷいっとそっぽを向き、座っていたベンチから立ちあがろうとした。
「ちょっと待ってよ!」
 フィズは慌てて羅魏を引き止め、綺羅の方へと向き直った。
 羅魏をシアに任せ、綺羅と灯のすぐ前まで歩み寄って小声で話す。
「・・・・・・・遅かったみたいだけどね・・・羅魏、あの外見気にしてるのよ。あまり子供子供言うと怒られるわよ」
 溜息と共に言ったフィズに、灯はなぜか納得したように頷き、綺羅は据わった目でフィズを睨みつけた。
「おせえよ。さっきの、めちゃ痛かったんだぜ」
 羅魏の魔法による攻撃―― 一応手加減はしてあったようだが――を受けた綺羅はやはり納得し難いようだ。綺羅が悪くないとは言わないが、手を出す前に口で言わない羅魏も悪い。
「で、一体なんの用なの?」
 羅魏は、さっきまでの険悪さが嘘のようなとぼけた口調で、そっぽを向けていた顔をくるりとフィズのほうへ向けた。
 だが、羅魏の瞳からは完全に綺羅が除外されている。
 とりあえず綺羅の様子を窺うと、どうやら灯に説得されたらしく、ぶすっとした表情ながらも大人しくしている。
 フィズはほっと一息ついて、改めて羅魏の方に向き直った。
「あのね、この二人、事故でこっちに来ちゃった異世界の人なの。帰る方法がわからなくて困ってるのよ。
 羅魏は異世界を旅してたことがあるんでしょ? 異世界に行く方法知らないかと思って」
「なんだ、そんなこと?」
 羅魏は、あっけらかんと即答して言葉を続けた。
 あまりにも簡単に答える羅魏に、全員の期待の視線が集中した。
 だが、
「僕には無理だよ」
 羅魏はやはりあっさりとした口調でそう答えた。期待していただけに、気落ちも大きい。
 セイラが憮然とした口調で言った。
「じゃあどうやって異世界に行ってたんだよ」
 それはここにいる全員の共通の疑問だった。みんながセイラの言葉に頷き、羅魏の答えを待つ。
 羅魏は、やっぱり、皆の期待の瞳を無視して軽い口調で答えてくれた。
「僕はラシェルにくっついてただけだもの」
「んじゃ――」
 切羽詰った様子で言いかけた綺羅だったが、あっさり羅魏にそっぽを向かれ、替わりに灯が問いかける。
「そのラシェルって人はどこにいるんだい?」
 だが、その答えは羅魏でなくとも知っていた。
 彼が魔法を使えるというのはフィズには初耳だったが、それでも、彼の名前だけは聞いた事がある。
「百年も昔に死んでるよ」
 そう答えたのはセイラだった。
 ラシェル・ノーティ――学校の授業でも名前が出てくる、有名な考古学者だ。
 綺羅は渋面な顔になり、灯はガクッと肩を落とした。
 だがそれも仕方のないことだろう。せっかくここまで来たのに帰る道が途切れてしまったのだから。
 とはいえ、本当に手がないわけではない。ただ、なるべくなら使いたくないだけで・・・・・。
 フィズはおおきく溜息をついて、ダメもとでもいい、と羅魏に視線を向けた。
「ねえ・・・羅魏、異世界に行く魔法、作れない?」
 羅魏に視線が注目する。羅魏は、呆れた表情でフィズを見つめて答えた。
「フィズだってドールなんだからわかってるでしょ。僕は応用はできても創造はできない」
 わかっていた答えだった。だが、規格外な羅魏ならもしかして・・・と思ったのだ。
 ドールは応用する事は出来ても、まったく新しい物を作り出す事は出来ない。それは、作られし物の限界でもあった。
 さっきフィズとセイラで組みたてた魔法だって、フィズは新しい発想など何もしていない。セイラの案をフィズがまとめただけだ。
「だからさ、アクロフィーズのところに行けば良いんだよ。キリトだっているし、あの二人だったらなんとかしてくれるよ」
 羅魏の意見は至極もっともなものだったが、フィズは半ば反射的に叫ぶような声で言い返した。
「それがイヤだから羅魏のところに来たんじゃない〜〜〜!! 絶対怒られるものっ!」
「仕方ないよ、それだけのことをしたんだから」
 フィズの悲痛な叫びにも眉一つ動かさず、羅魏は淡々とした口調で返した。
「う〜〜〜〜〜〜〜〜」
 それでもまだ悩むフィズを尻目に綺羅が羅魏の横に移動した。
「で、そのアクロフィーズとやらはどこにいるんだ?」
 まだ怒りは解けていないらしく、羅魏はそっぽを向いて立ちあがる。
 引き止めようとした綺羅の行動を遮って、セイラが立ちあがった。
「それなら俺が知ってるよ。シアも知ってるから大丈夫」
「じゃあ問題ないな、さっさと行こう」
 綺羅の宣言に、いまだ決心がつきかねているフィズ以外のメンバーが立ちあがった。
 その頃には羅魏はとっくに本屋の方に戻っており、灯一人が伝言を伝え忘れたと呟いて、羅魏が去った方向を見つめていたが、誰も伝言のことなど気にしていなかった。
 みんなの気持ちはすでに中央研究所に向かっていたのだ。
 そうして、アクロフィーズのところに行きたがらないフィズを引きずりつつ、一行は中央研究所へと移動を開始したのであった。

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