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 終わりと始まりの日〜第1章 6話 

 地図を頼りにモンスターの居場所にやってきた加奈絵であったが・・・・。
「居・なーーーーいっ!!」
 捨てられたビルに囲まれた大通りのど真ん中。加奈絵は誰も見当たらないのを良いことに、八つ当たりな叫び声をあげた。
 地図が示す先には、モンスターなど影も形もなかった。
「っもう、なんでよぉ。・・・・まさか優ちゃんがミスったってことはないわよね」
「ミスったのは、かなの方だろぉがっ!!」
 あまりの大音響に、キーーンと耳鳴りがした。
 渋い表情でぐるりとあたりを見まわすと、周囲のビルと言うビルのモニタにでっかく優李の顔が映し出されていた。
 モニタの中の優李は、思いっきり叫んだ後遺症か、かなり息が上がっていた。
 加奈絵は、冷や汗を流しながらも笑顔を見せた。
「あらー。もしかして後払いはなしってこと?」
 優李は大きく深呼吸して息を調えてから、見せつけるかのように大袈裟に溜息をついた。
「そーじゃなくてさ・・・・。モンスターは動きまわってるんだから、そんな紙の地図持ってったって役に立つはずないだろ」
「・・・・・・あ」
 言われて、やっと気づいた加奈絵は、自分のミスを照れ笑いで誤魔化して、再度優李に頼み込むことを決めた。
「ごっめ〜ん。ナビしてくんない?」
 加奈絵の申し出に、優李は呆れたように半眼で睨みつけてきた。
「ナビねぇ・・・。高いよ?」
「あーーん、もうっ。意地悪! いいわよ、なんでもきなさいっ!」
 一瞬で優李の表情が変わる。勝ち誇った商売人の笑みだ。
「毎度ありーっ。んじゃ料金はおれの宿題一週間分ね」
「・・・・・・・・・なんでいつもそれかなぁ・・・・・・。お金のほうが楽なのに」
 優李は何故か、加奈絵の依頼の時だけはお金以外のもので代金を請求してくる。宿題なんて言うのはまだ良い。前は一週間分の授業のノートなんて言われたこともあった。
 その当時は優李と同じクラスだったが、運悪く途中で飛び級のクラス変更が決定して、後半は友人のノートを借りてなんとかしたのだ。
 加奈絵が深々と溜息をついている間にも、優李はさっさと仕事を進めていた。
 声をかけられて、加奈絵は慌てて視線をあげる。
「皇さんはどーすんの?」
「そういえば合流場所も決めてなかったのよねー。まあいっか、怪物倒した後に合流しましょ。とりあえず残り生存数と居場所教えてくれる?」
「りょーかいっ」
 承諾の返答――直後、ビルのモニタから優李の姿が消える。そして、いつもつけている腕時計タイプのミニパソコンの通信機能からの呼び出し音が鳴った。
「はいはーいっ」
 誰からの呼び出しかはもうわかっているので、加奈絵は軽い調子でミニパソコンを立ち上げた。
 目の前に半透明のモニタが出現する。そこには、繁華街の地図が映し出されていた。続いてミニパソコンのスピーカーから優李の声が流れてくる。
「緑の点が現在地。赤い点が怪物の居場所。青い点が皇さんの現在地。んじゃ、がんばれよー」
 まったくやる気のない声援。
「うっわ、冷たい。女の子に対してもうちょっと優しく出来ないのかしら」
 なんて文句を言っても、優李はもう答えてくれない。位置割り出しの作業にかかりっきりになってしまているのだろう。
 いくら優李が優秀な情報屋とはいえ、リアルタイムでこれだけの人数――怪物は五体残っていた――の位置を把握するのは大変な事に違いない。
 加奈絵は小さな笑みを浮かべ、慣れた様子で機械の翼を実体化させた。
 モニタ上の地図を確認しながら、近場の怪物の元へ向かう。
 ・・・・・・怪物一体一体はそう強いモノではなかった。
 加奈絵と綺羅以外にも怪物と戦っている人間はいるようで、加奈絵とも綺羅ともぶつかっていない赤い点が次々と消えていく。
「よしっ、これで最後ね」
 言いながら、加奈絵は持っている銃の引き金を引いた。まばゆいばかりの光線が辺りを照らし、怪物がチリと消える。
「にしても、こいつらどうなってんのかしら」
 怪物が消えたあとの場所で、加奈絵はぽつりと呟いた。
 怪物たちは確かに実体を持っているのに、倒した瞬間に黒い塵となり、霧散して消えてしまうのだ。
 しばらく考え込んでいたが、あれでは死後のサンプルを手に入れるのは不可能だし、生け捕りにしてまで調べたいモノではない。
 考えてもわからないことに頭を悩ませるのもバカらしくなった加奈絵は、綺羅と合流するために再度地図に目を落とした。
 赤い点が綺麗に消えた地図を見ながら、緑の点と青い点の位置関係を確認する。
「んっと・・・。っもう、ここって複雑でキラーイ」
 加奈絵は良く知っている慣れた道しか使わない。下手に知らない道に入れば、即命に関わる事を知っているからだ。
 が、今日はそうはいかなかったため、でも知らない道を通るのは怖かったし時間もなかったので、ずっと飛んで移動していた。
 ここにきてそのツケが回ってきたのだ。
 さっきから銃を出したりしまったり。しかもこっちに来る前――綺羅の家でも能力を行使している。
 もう翼を操るための集中力を持続させるのは無理だった。
「ううっ、頼むから変質者とかに出くわさないでよぉ?」
 聞く者のいない泣き言で自分をなんとか勇気づけて、なるたけ大通りを選んで綺羅の元へ向かった。








 一方、ジャンクショップの二階。祖父宅で仕事に没頭している優李は――半分キレていた。
「一ヶ月分にしとけばよかったーーーーっ!!」
 手はしっかり動かしながら、口は文句の言葉を叫んでいる。
 加奈絵や綺羅、その他大勢が怪物を倒して行っているため、少しずつ楽にはなっているのだが・・・・。
 加奈絵は問題ない。彼女のパソコンと通信できる状態にあるのだから、そこから居場所を割り出せばいい。
 怪物も特に問題はなかった。姿がみな一様であるため、モニタから見える画像のみで個々を判別するのが面倒ではあった。だが、怪物はカメラを気にすることなく動いていたため、面倒でも難しくはなかった。
 問題は――皇綺羅だ。
 まず、どうやら彼は通信機器を持ってきていないらしく、その線から居場所を把握する事が出来ない。そうなると目撃情報とカメラが頼りになるのだが・・・・・・。
 一応、彼はここでの動き方をわかっているらしい。
 すなわち、さわらぬ神に祟りなし。余計なトラブルを避けるためだろうが、徹底的にカメラを避けているのだ。目撃情報ではこちらに情報が届くのが遅すぎる。
 それでもなんとか居場所を把握している辺りは優李の実力と人脈ゆえ。
「あうう〜〜、面倒だよぉ。とっとと合流しろよ、かなぁー」
 怪物が次々と減っているのを確認しながら、地図上の緑の点を恨めしそうに見つめる。
 ようやく怪物が姿を消し、綺羅の追跡だけに集中できると胸をなでおろした直後だった。
「・・・・・え?」
 唐突に、加奈絵を示す緑の点が消えた。
 慌てて加奈絵に向けて通信を送る。だが・・・・・・加奈絵からの返答はなかった。
 もしかしたら、なにかのノイズが混じって場所を特定出来なくなっただけかもしれない。
 もしかしたら、たんに加奈絵がドジってミニパソコンを壊してしまったしまっただけかもしれない。
 そう思ってさっきまで加奈絵がいたその周辺のカメラを総動員させてみたが、加奈絵の姿は見当たらなかった。
「どうなってるんだよっ!」
 バンッと机を叩いて、勢いよく立ちあがる。
「じーちゃんっ。おれ、ちょっと出てくる!」
 言うが早いか、店に飛び出し、そのまま外へと駆け出した。
 目指すは、加奈絵を示す光点が消えた場所――。

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