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 終わりと始まりの日〜第1章 最終話⇒プロローグ 

 気づくと、周囲は暗闇に染まっていた・・・・・・。

 確かさっきまで繁華街の大通りを歩いていたはずだ。
 さっき、一瞬気が遠くなるような感覚に襲われた。
 そうして気づいたときには、この暗闇の中にいたのだ。
 そんなに長い時間眠っていたのだろうか? にしても、月も、星も、街灯りすらも見えないのはおかしい。
「まさかどっかの変態に捕まって地下室に閉じ込められてるとかいう状況にはなってないわよね・・・」
 考えたくないことだが、あり得ない事態ではない。
 とにかく状況を把握しないと何も出来ない。ぐるりと周囲を見渡して、それから、ふと自分の足元に視線をやった。
「なに、これ・・・・・・」
 足が――自分の足が半透明に透けて、その向こうに暗闇が顔を覗かせていた。
 慌てて自分の手を見ると、手も、足と同じように半透明になっていた。
 加奈絵は、顔を蒼白にして、言葉もなく立ち尽くした。
「・・・貴方と話をしに来たの。女王を殺すために」
「誰っ!」
 突如聞こえてきた声に、加奈絵は最大級の警戒をもって答えた。
 だが、声の主は姿を現さない。
 仕方なく、加奈絵はとりあえずの疑問を口にした。
「女王って、何よ?」
「この世の創造神。彼を――彼女を――殺す事が、ぼくの望み・・・・・・」
 無回答を覚悟していたその問いに、声はご丁寧にも答えてくれた。
 要領を得ない答えに、加奈絵は見えぬ相手に殴りつけるつもりで、高々と拳を上げて怒鳴り返した。
「はあ? なにそれ。宗教の勧誘ならよそでやってよねっ!」
 いまだ拭えぬ恐怖と不安・・・・・・。加奈絵は、強気な口調で自分を励まして、なんとなく声が聞こえた方向に顔を向けた。
 クスクスと、笑い声だけが響いている。
「宗教じゃない。これは、事実。
 異世界からやってきてこの宇宙の大本を創った女王は、自らの世界に帰り、後継者に世界を託した。
 そのおかげで初代女王に施された封印は完全に解け、自由になれた」
 突如、加奈絵の目の前に、一人の少女が現れた。背中まで伸びたストレートの髪と茶色の瞳。その姿は・・・・・・・。
「同じ顔・・・・なんで・・・」
 驚く加奈絵を尻目に、彼女は穏やかに微笑んでみせた。
「二代目女王は女王になる事を拒んで、代理をたてた。女王は今、普通の人間として、輪廻転生の輪の中にいる」
「・・・何が言いたいの?」
「ぼくは貴方を、殺しに来たんだ・・・」
 冷たい言葉とは裏腹に、彼女の瞳には哀しみと労わりの色が見え隠れしていた。
「私がそのが”女王”サマの生まれ変わりとでも言うわけ?」
 加奈絵の問いに、彼女は先ほどまでの穏やかさが嘘のような表情を見せた。
 冷たい氷を思わせる、酷薄な笑み・・・・。だが、それも一瞬だった。
 彼女は、無表情に言う。
「覚えてないのも無理はない。・・・いいえ、――」
 そこで、彼は一度言葉を止めた。哀しそうに、苦しそうに表情を歪め、聞いているこちらまでが切なくなるような声音で言う。
「ずっと・・・ずっと、忘れていられたら良かったのに・・・・・・」
 痛みさえ感じさせるような声。
 加奈絵は、自分が何かいけないことでもしたような気分になって、彼女を見つめ返した。
 彼女は、小さく微笑んで見せた。
 その微笑を最後に、彼女は姿を消した。
 そして、それと同時――まるでそれを合図にしたかのように――加奈絵の意識も薄れていった。

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