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 IMITATION LIFE〜第1章・真実 0話 

  機械文明が発達した大陸、エステリオン。
  昔は魔法文明というものもあったらしいが今ではただのお伽話となっている。
  しかし、そのお伽話を現実にしようとするものもいた。
  歴史を解明しようとする学者たち。
  そして・・・過去の遺跡を巡り、そこから情報と宝を得ようとするトレジャーハンターたち。


  大陸北方西部の深い森の中。ここにも真実を求めて探索を続けるトレジャーハンターがいた。
  彼の名はフォレス。超一流と呼ばれ、大陸一の腕を持つトレジャーハンターである。
  しかしもうずいぶんな年で髪はすでに白く染まっており、その顔には深いしわが刻まれている。
  そんな彼が最後の冒険にと定めたのが“リディアの宝”の探索。
  リディアとは昔まだ世界が一つの国としてまとまっていた頃、その中枢を担っていたと伝えられる都市の名前。当時、世界最高の機械技術と魔法技術。そしてその二つを融合させた魔機技術を有していた都市である。

  だがリディアの宝は、宝と呼ばれてはいるもののその形も効果も伝わっていない。
  ただそれは、とても強大な力を持つものだと伝えられていた・・・・・・・・・。



  森に入って数週間。もしかして見当違いだったのではと思い始めた頃。
  それは突然目の前に現れた。森が不自然に途切れて、小さな野原ができている。
  その中心には石のようなものでできた四角い台座。そこには紋章が描かれている。リディアの技術によって作られたものに必ずと言っていいほど描かれている紋章だ。
  台座の四隅に円柱が立っている。
  とにかく調べてみなければ始まらない。
  だが、転送装置ではないかと予想できるのにどうしても起動させることができない。
  こんなことは初めてだった。よほど強力なプロテクトがかかっているのだろう。
  今日のところは場所はわかっただけでも収穫だ。
  一度戻ってこの辺りの伝承や言い伝えを調べればこのプロテクトを解くヒントが見つかるかもしれない。
  フォレスは遺跡に背を向け、もと来た方向へ歩き出した。

  ――・・・え?

  後ろから、誰かに引っ張られた。
  フォレスは慌ててその場から跳び下がった。
  しかし、そこにいたのはモンスターなどではなく小さな子供。三、四才といったところだろうか。
「ふぇ〜〜ん!!」
  手を振り払ったせいだろうか。その子供は突然泣き出した。
「すまないっ」
  子供の扱いにあまり慣れていないフォレスは、おろおろと戸惑いつつも慌てて謝った。
  だが子供はまったく泣き止む様子がない。
  そうして、ひとしきり泣いたあと、子供はよりかかるようにしてフォレスの足にしがみついてきた。
  扱いに困って一度はそっぽを向いたものの、こんなところに子供一人残していくわけにもいかない。
「君、何でこんなところに?お父さんとお母さんは?」
  怯えさせないように、ゆっくりとした穏やかな口調で尋ねた。
  だが、子供はしゃくりあげるばかりで何も答えない。
「君の名前は?」
  フォレスは、できるだけ優しい声で聞いてみた。
  子供はフォレスの方を見た。
  そして・・・・・・。
「・・・・ラ・・」
  小さな声で答えた。小さすぎてフォレスには聞き取れなかったが。
「? もう一度言ってくれないか?」
  フォレスは聞き返したが答えは返ってこない。
  ・・・よく見ると子供は眠っていた。泣き疲れたのだろうか。
「つれて帰るか・・・」
  しばらく考えたフォレスは、小さなため息をついて、子供を抱えて家に向かったのであった。



  子供はずっと眠りつづけていた。
  もう数日になる。しかも、成長していた。
  最初に見たときは三、四才。しかし今は七、八才といったところだろうか。
  たった数日間で四年分くらいの成長をしている。

――この子供は一体何者だろう?
  フォレスは宝物を見つけたような気がした。
  リディアの宝は見つからなかったが、それに替わる宝だ。


  それからさらに数日。子供は十才前後に成長していた。
  フォレスはいつものように朝一番に子供・・・――いや、もう少年と呼ぶほうが正しいかもしれない。
  少年の様子を見た。まだ起きる様子はないことを確認して、フォレスは自分の朝飯の用意をしに台所へ向かった。
「ふぇ〜〜〜んっ!」
  突然、部屋から泣き声が聞こえた。フォレスは急いで部屋に戻る。
  少年はフォレスの姿を目に留めるとにっこりと笑って見せた。
  フォレスはどんな表情をすればいいのか、よくわからず、中途半端な笑顔で言った。
「・・・おはよう」
「おはよう?」
  少年は言葉の意味がよくわからなかったらしく、不思議そうな顔で同じ言葉を返してきた。
  フォレスは改めて、この前聞き逃した質問をした。
「君の名前は?」
「名前?」
「そう、名前」
「わかんない」
「・・・わからない?」
「うん。名前って?」
  ・・・・・・・・・少年は自分の名前どころか、名前という単語の意味自体をわかっていないらしい。
  本当に、この少年は一体どこから来たのだろう。
  しかしフォレスはもうそんなことは気にならなくなっていた。

  ただ、突然目の前に現れたこの少年。

  彼がもうほとんど冒険できなくなった、生きがいを失いかけた自分の新たな生きがいになってくれるような気がした。
  フォレスは自分の好奇心とわがままに家族を捨ててきた。
  もう冒険は無理かも知れない。そう思ったときフォレスはとても大きな虚脱感を感じた。
  彼には冒険以外になにもなかったから。
  この少年は自分のために降りてきた天使かもしれない。
  フォレスはがらにもなくそんなことまで考えてしまった。

  ここから二人の幸福の刻が始まる。
  たった三年間の、短く永遠に連なる福音の刻が・・・・・。

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