■■ IMITATION LIFE〜第1章・真実 1話 ■■
どこまでも続く暗闇。その中に一人の子供が立っている。
暗闇に泣く子供。
そうして、どれくらい経っただろうか。
暗闇の中に一筋の光が射す。
子供は駆け出す。光に向かって。
・・・・そこで終わり。この夢はいつもここで終わってしまう。
ラシェルの祖父、フォレスが死んでからというものラシェルが毎日のように見ている夢だった。
今日の朝はいつもと少し違っていた。
ドアが乱暴にノックされている。
「だーーっ、うるせー。誰だよ朝っぱらから・・・」
そう言いつつもラシェルはノックをしている人物に心当たりがあった。
フィズ・クリス。この村で唯一の同年代の子供。
一応“子供”は他にもいるが一番近くて七才。六つも下だ。
ラシェルは着替えもせずにドアを開けた。
そこには予想通り、フィズがずいぶんと不機嫌な顔で立っていた。
「おっそーい。ラシェルってば寝起き悪いんじゃないの10分近くドアたたいてたのよ」
「・・・・。フィズならオレの起きる時間くらい知ってるんだからその頃にくればいいじゃないか」
「フォレスさんに用があるって人がいるの。で、フォレスさんはもう亡くなってますって言ったらじゃあ子供か孫はいないかって」
「それでオレに言いにきたのか? わざわざ」
ラシェルは寝起きの不機嫌さから、つい棘のある言い方をしてしまった。
気づいたときにはもう遅い。フィズは怒りを露にして言った。
「そぉ。わ・ざ・わ・ざ、言いにきてあげたの。だから早く行ってあげてね!」
バンっ!!
フィズは思いっきり乱暴にドアを閉めた。
「あ・・・はは。怒らせちまった・・・・・・かな?」
怒った女の子は何より怖い。フィズとの付き合いでラシェルはそのことを身をもって知っている。
モンスターを倒すよりも、怒ったフィズをなだめるほうが大変なのだ。
「・・・・・・・・早く村に行こーっと」
苦笑するしかないラシェルであった。
ラシェルは手早く着替えを済ませ、家を出た。
「あのー、すみません」
「え?」
扉を出た途端に呼びとめられて、声の主に目を向ける。
家のすぐ前に一人の青年がいた。年は二十前後。線の細い、やさしい顔立ち。まっすぐでさらさらの髪をしている。
「ここがフォレスさんの家だと聞いてきたのですが・・・」
「ああ、あんたがフィズの言ってた奴か」
「私のことをご存知だったんですか」
「さっき友達が教えに来てくれたんだ。で、じーちゃんに用事ってなに?」
「私の名はレオル・エスナと言います。フォレスさんに仕事を依頼したかったのですが・・・・。ラシェル君あなたにお願いしてかまいませんか?」
祖父への仕事の依頼と聞いて、ラシェルの表情が変わった。
さっきフィズと話していたときとは違う、“トレジャーハンター”としての顔。
「ふーん。わざわざじーちゃんを訪ねてくるなんてよほど難しい仕事なんだ」
レオルの目が一瞬、厳しくなった。レオルは言葉を続ける。
「ええ、そのとおりです」
「依頼内容は? 面白そうだったら行ってやるよ」
「面白そうだったら・・・・・ですか?」
レオルは、何故だか楽しそうに言って苦笑する。
なんだか馬鹿にされたみたいで気に入らないが、だからと言って自分の趣旨を変える気は毛頭ない。
楽しく仕事ができればそれが一番良いのだから。無理に依頼を受けなければならないほど金に困っているわけでもないし。
「そうだよ。難しいかどうかなんて関係ない。面白いかつまんないか、それが全てだ」
ニッと不敵に笑ったラシェルを見て、レオルは薄く笑った。
「そうですか? ではお話しましょう。私が探しているのは“リディアの宝”です」
「リディアの宝!?」
ラシェルの目がとたんにきらきらと輝き始める。面白いおもちゃを見つけた子供のように。
「ええ。宝が眠るらしい遺跡を見つけたんです。しかし私は学者ゆえそういった探索には向きません」
「よっし、その依頼受けた!! 伝説の宝の探索なんて面白い話受けないわけないだろ」
「ありがとうございます。さすが世界一のトレジャーハンターと謳われたフォレスさんの孫ですね。・・・・ではこれをあなたに預けます」
レオルは地図を差し出した。
その地図にはミレル村の西。大陸の一番西にある岬に丸印がついている。
この辺は深い森になっていて、しかも結界の境目が少し大陸にかかってしまっているため怪物が大量に生息する大陸中で一番危険な場所でもあった。
「こりゃ確かによほど腕の立つ奴じゃなきゃキツイな」
「ええ。受けてくださいますか?」
言葉では尋ねているが、その口調はまったく尋ねるものではなかった。
もうラシェルが引き受けてくれるものと思っているのだろう。
実際、ラシェルはもう面白そうな遺跡探索に想いを馳せて浮かれ始めている。
「さっき言っただろ? 面白いかつまんないかが全てだって。オレにまかせとけよ。で、あんたはしばらく村にいるのか?」
「ええ、そのつもりです」
「じゃ、帰ってきたら報告するよ」
「ええ。よろしくお願いします」
言って、レオルは村のほうに戻っていった。
「古代人リディアが残した宝か・・・・。どんなもんなんだろ♪」
大陸中で一番危険なところへ向かうと言うのに、ラシェルはウキウキとした様子で家に戻っていった。