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 IMITATION LIFE〜第1章・真実 最終話 

  真夜中。
  窓の外に気配を感じフィズは目を覚ました。それが誰か、フィズにはわかっている。
  こんな時間に来る者など一人しかいない。
「羅魏、どうしたの?こんな時間に・・・・」
  突然声をかけられても羅魏は驚かず、ゆっくりと部屋に入ってきた。
「聞きたいことがあるんだ。・・・・・僕は、そんなに変わった?」
  フィズは起きあがってベッドに座り、羅魏の方を見た。クスクスと笑って答える。
「変わった変わった。自分で気づいてないの?」
  しっかりと羅魏を見つめて言葉を続けた。
「私の知っていた羅魏は常に他者を観察し、その相手が欲しがっている言葉、表情を自分の今までの学習の中から探し出して相手に示す。けれど自身の感情はとても希薄でどんなときでも冷静すぎるぐらい冷静な冷たい瞳をしてた・・・・。さっきラシェルのことを心配してた貴方は暖かい瞳の色をしてたわ」
  羅魏は黙ってそれを聞く。しかし羅魏は全くそれを実感できなかった。
  自分が今どう感じているか、それがまったくわからない。自分が今何を感じているかなんて考えてみたこともなかった。
  ラシェルのときは考える前に行動と言葉が出てきていた。
「・・・・・僕はラシェルのことを”心配”してたの・・・?」
  羅魏は不思議そうな表情をして誰にともなく問いかけた。
「そう。きっと貴方は”同じ”立場であるラシェルに関心を持ったのね。貴方は誰にも興味を示さない。だから心が動くこともなく、感情を学ぶことも出来なかった・・・・。けれどラシェルに興味を持ち、好きになった。だからラシェルが関わることならば心が動くようになったのよ」
  羅魏は珍しく強い調子で言い返した。
  どこか・・・・辛そうな表情に見えるのはフィズの気のせいだろうか・・・・。
「そんなことない!! ラシェルは僕と全然違う・・・・。ラシェルには”性格”を決定するプログラムが存在しない。だから・・・・僕とは違う・・・・ラシェルは、人間・・・・だけど僕はそうなることは出来ない・・・・僕は兵器として適した人格を持たされてるから・・・・」
「そうね・・・でも、貴方たちは双子のようなものでしょう? 二人とも全く同じDNAを持った双子・・・・・。だからラシェルにできることなら貴方にもできるわ」
  羅魏は焦点の合わない瞳でどこか遠くを見つめている。
「僕にも・・・・できる・・・? ・・・・なにを・・・・・」
  フィズは優しく笑った。けれどラシェルに対するそれとは違う。
  幼い頃に両親を怪物に殺され、彼女はたった一人で暮らしてきた。両親から受け継いだ魔法に対する深い知識ゆえに彼女は孤児院に入ることはなく、怪物に対する戦力を育てようとする政府からの援助金を得て一人で暮らしていた。
  家事はすべて機械任せ。感情を持たないドール・・・・それがたった一人の家族だった。
  ずっと・・・・・家族というものに憧れながらそれを持つことは出来なかった。
  羅魏はそんな彼女にとって初めての家族であり、弟。彼女はその時代にあった全てのものを捨てて羅魏とともに遥かなる未来へとやってきたのだ。
  フィズは大切な弟がやっと”感情”を学習し始めたことを心から喜んでいる。そのために羅魏が自分から離れていくかもしれないことは少し寂しかったが。
「楽しむこと、喜ぶこと、悲しむこと・・・・・・・・ラシェルが普通にやっていることと同じ、人間が持っている心を感じること・・・」
「・・・・・・・・」
  羅魏はゆっくりと俯く。羅魏の目はラシェルに向いていた。いつでも自分と共にある、片割れを視た。
「もう戻りなさい、羅魏。もうすぐ夜が明けるわ・・・・ラシェルが起きたときこんなところにいたら、貴方すっごく怒られるわよ?」
  フィズは冗談めかして言った。羅魏はきょとんとした表情でフィズを見つめて・・・・・そして笑った。
「あははっ、そうだね。アクロフィーズ・・・・フィズの部屋で一晩過ごしたなんて知れたら、僕ラシェルに殺されちゃうよ」
  その羅魏の表情にフィズは目を見張った。
  この前のラシェルの一件でわかっていたつもりだった。けれど、こうして笑っている羅魏を見ているとやはり違和感を感じる。
  フィズはこんな風に笑う羅魏を見たことがなかったから・・・・フィズが知っている羅魏は例え笑っていてもその瞳は冷たく周囲を観察している、”兵器”としての羅魏。今、目の前にいる羅魏はそれとは明らかに違う。
  その瞳には、暖かな色が宿っていた。
「おやすみ、アクロフィーズ」
  羅魏は来た時と同じように音も立てずに窓から出て行った。
  フィズは窓の外を見つめた。すでに空は朝焼けに赤く染まってる。
「・・・・・目、覚めちゃった・・・」
  フィズはフッと息を吐き出して言うといそいそと昨日まとめた荷物をとりだす。
  それを背負って外・・・教会のドアの前に出た。
  この時間の空気は澄んでいて気持ちが良い。

  なんだか昔のことが思い出された。
  一人で暮らした広い家。
  学校に行くようになった頃、友達がとても羨ましかったのを覚えている。
  そしてキリトと出会い彼に頼まれて羅魏を預かったこと・・・。羅魏を封印すると聞いて一緒に行くと言い出した自分。
  ・・・・・・・もう、一人になりたくなかった私。

  蒼く変化し始めた空。その蒼に溶けてしまいそうな青い髪とその青によく映える赤い瞳がフィズの目に入った。
「ラシェルっ、おはよーっ♪」
  フィズは明るい声で言ってラシェルのもとへ走りよった。

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