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 IMITATION LIFE〜幕間1 独立への道 

「なんでラキアシティなのよ」
  街道を歩く二人。なぜかフィズはとても不機嫌な顔をしていた。


  ――機械文明が発達した大陸、東方大陸エステリオン。
  昔は魔法文明というものもあったらしいが今ではただのお伽話となっている。
  しかし、そのお伽話を現実にしようとするものもいた。
  歴史を解明しようとする学者たち・・・・・・。
  そして、過去の遺跡を巡り、そこから情報と宝を得ようとするトレジャーハンターたち。
  ラシェルも、そんなトレジャーハンターの一人だった。
  正確に言えばラシェルは考古学者なのだが、実際に遺跡まで出向いていくことが多い事から、一般にはトレジャーハンターと認識されてしまっている。
  ラシェルにしてみればどちらも間違いではないので、実際の職業と微妙にずれた世間の評も素直に受け入れているが。
  そんなラシェルが今目指している地――ラキアシティ。
  そこは現在戦争真っ只中の危険地帯だった。
  もちろん、そんなところへ飛び込んで行くからにはきちんとした理由がある。

  半年ほど前、ラシェルのもとに一人の男がやってきた。
  彼の名はレオル。
  その当時はラシェル自身も知らなかったのだが、実はラシェルは人間ではなく、ドールだった。しかも、サリフィスで暴れまわっている怪物を倒すための兵器として造られていた。
  レオルは、古代文明リディアが造り出した最高傑作”リディアの宝”とも言われるラシェルを――正確には、兵器としての本来の人格、羅魏を――手に入れようとしていたのだ。
  羅魏と、実はリディアの時代から来た魔法使いだったフィズ――本名はアクロフィーズ・フィアズと言う――のおかげでレオルを撃退することが出来た。
  だが、怪物は未だに増えつづけている。怪物を生み出している元凶は、今もサリフィス中央に位置するサリス島の上空に居座りつづけているのだ。
  フィズの頼みで元凶を倒せる勇者を探しに出ることになったラシェルだったが、ラシェルは羅魏以上に強い者がいるなんて思えなかった。
  だから、必要なのは羅魏の本当の力と、倒すべき敵の力を知ること。
  そのためにはサリス島に行かなければならない――。



  ラシェルは呑気な口調で、怒ったような様子で言ったフィズの言葉に答えてやった。
「ラキアシティって言ったら大陸最大の遺跡があるところだろ?」
  だがそれだけではフィズは納得しなかったらしい。
「何言ってんのよ。ラキアシティって言ったら一般立ち入り禁止の激戦区よ!」
  ラキアシティの近くに遺跡が見つかったのは約二十年前。その遺跡の利権を巡って、今も争いが続いているのだ。
  一般立ち入り禁止令の例外は、不幸にもその地区で生まれてしまった地元の人たち。――冒険者資格を持っている者はこの場合の”一般”には含まれないので、ラシェルは普通にそこに出入り出来るが。
  フィズの叫びを受けて、ラシェルはニッと不敵に笑った。
「中央が動き始めたって知ってるか?」
  一言で中央と言ってもその意味は二つある。
  一つは、四千年の昔に滅びたリディア文明の中心地、リディア都市とその所在地であるサリス島。
  もう一つは、この大陸の政治の中心地、主都レアゼリス。
  この場合はレアゼリスのことだ。
  今更遅いと言うような気もするが、中央の軍がラキアシティ近辺の戦を止める為に動きだしたのだ。
  どうやらフィズは知らなかったらしい。意外そうに、ラシェルの赤と銀の瞳を見つめ返した。
「さて、ここで問題だ。誰が勝てば自由にあの遺跡を調べられるようになると思う?」
「え・・・?」
  唐突な言葉に、フィズは一瞬ぽかんっと口を開けて呟いた。けれど根が素直なフィズはすぐに考え出す。
「んーーー・・・・・・。中央、かな?」
「はずれっ」
  たいして考えてもいないんだろうフィズの答えに、ラシェルはサッと即答した。
「まず、今利権争いしてる奴らは論外。調査させてくれるにしたって、金になりそうなものは全部取り上げられるにきまってるし、そもそもの調査自体が有料にされるかもしれない。
  中央だと利権は中央に行く。多分、中央は独自に調査団を作るだろうな」
「じゃあ何しに行くのよ」
  言外に、勇者探しはどうしたんだと責めているのだろうが、そんなことはわかっている。
  そういえばまだサリスに向かうことも言っていなかったか。
  まあ今はそんなことどうでもいい。
「だから、今のうちに行っておくんだよ。中央に恩を売っておくんだ」
  つまりはこういうことだ。
  中央は資金不足といつ襲ってくるかわからない怪物のことがあるために、こちらにあまり大きな部隊を送ることは出来ない。
  だが相手の部隊は雇われ冒険者――戦い慣れている者ばかりだ。
  逆に中央の人間は戦いなんて訓練で学んだ程度で実践など経験したことのない者ばかり。
  このままでは苦戦どころか中央の負けは決定的だろう。
「でもたった二人でどう変わるって言うの」
  さすがにここまで言えばフィズもわかってくれたらしい。
  恩を売っておくという言葉を聞いて、そう切り返してきた。
「フィズの魔法があるだろ?」
  ラシェルは、ニヤリと口の端をあげて笑って見せた。
  フィズはぶすっと頬を膨らませたが、ラシェルの提案に反対するようなことは言わなかった。
「っもう・・・・・・。ま、あそこに入れないと困るのも確かなんだけどね。あそこはサリスへの転移装置があるはずだから」
「えっ!?」
  中央に渡る方法が残されている確率は高いだろうと推測していたが、まさか本当にそこにあるとは・・・・・・。
「・・・・・・知ってたなら教えてくれたっていいのに」
  少しばかり拗ねた口調で言うラシェルに、フィズは楽しげな笑いを返した。
  ラシェルはますます拗ねた顔を見せる。が、それはフィズの笑いを増大させただけだった。


  噂の遺跡を外からだけだが見物したラシェルは、早速中央軍に乗り込んだ。
  約束もナシ、突然の訪問だ。
「ちょっとぉ、大丈夫なの?」
「まあ、まかしとけって♪」
  軍のキャンプの前で、ラシェルは自身満々に宣言する。
  こちらの騒ぎに気付いたのか、数人がラシェルの方へと目を向けた。
  顔を見合わせて一言二言話した後、彼らはこちら側に近づいて来た。
  中の一人がラシェルに声をかけてくる。
「ここから先は一般立ち入り禁止区域だよ。何の用かは知らないが戻った方が――」
「これ」
  ラシェルは、男の言葉を遮って、資格証明証を見せてやった。
  後ろからそれを覗き込んでいたうちの数人があからさまに動揺した。
「なんだよ」
  動揺した理由がわからない者たちは、動揺した男達の方に怪訝そうな目を向けた。
「ちょぉっと良い話持って来たんだけどさぁ」
  フィズには滅多に見せることのない、トレジャーハンターとしての――大人と対等に渡り合うための表情と声音。
  ラシェルは、にっこりと笑って見せた。
「隊長さんと会わせてくれないか?」

  それからはあっという間だった。
  その方面に興味のないフィズは知らなかったようだが、これでもラシェルはその筋ではかなりの有名人なのだ。
  弱冠十一歳、最年少で資格を取得し、フォレスと共に数多の遺跡を巡り、フォレス亡き後もそれまでと変わらない活躍はあちこちで語られている――ラシェルのある悪趣味の方もかなりの尾ひれつきで語られてしまっているが――。
  金にあかせて冒険者を大量に雇い入れていた敵軍に半ば負けかけていた中央軍は、「中央に協力する替わりに、この戦が終わったあとは遺跡の調査を自由にやらせて欲しい」というラシェルの申し出を歓迎してくれた。
  とは言っても、ラシェルに軍――というか、大人数でチームを組んでの戦闘経験などない。
  結果、ラシェルとフィズは軍とは別に単独で動くことになった。
  要は戦闘がこちらに有利になるように、適当に戦場を引っ掻き回せと言うことだ。
  フィズの魔法のこともあり、ラシェルにとっては大歓迎の方法だ。


  ――そしてそれから数ヶ月。
  数週間に一度の割合で補充要員が来ていたのだが、たいていは中央の警備から回されて来た者ばかり。
  こちらにはたいして関係がなかったのでラシェルはまったく気に留めていなかったし、いちいち彼らを紹介されるようなこともなかった。
  だがその時は珍しく、ラシェルとフィズの二人にもその新しい隊員が紹介された。
「へ?」
  ここの隊長に呼び出され、その言葉を言われた時。ラシェルはマヌケにも思わずそんな言葉で返してしまった。
  隊長は驚くのも無理はないと付け足し、それからもう一度説明してくれた。
  今度入ってくる人の中にラキアシティの住人が志願して入ってきた。
  だがその人物の戦闘力が他の隊員とは桁違いに強く、また普通の戦闘よりも今現在ラシェルがしているようなやり方――つまり、ゲリラ戦の方が得意なのだそうだ。
  で、ラシェルの方で面倒見てやって欲しいと、彼はそう言ったのだ。
  それだけならばたいして驚くほどのことではなかっただろう。
  最大の問題は、その人物がラシェルとそう変わらない年齢の女性であると言うこと。
  フィズも同年代の女性ではあるが、昔から一緒にいるし、何よりフィズには魔法と言う力を持っている。
  純粋に戦闘力だけで言えば、ラシェルよりもフィズの方がずっと強いのだ。
  だが新しく来る彼女はラキアシティの住人――つまり、普通の一般人。
  ラシェルの危惧はしっかり顔に出ていたらしい。
  隊長は真剣な表情で、大丈夫だと念を押した。
「彼女の実力はすでに確認済みだ。でなければこんなことは言わないよ」
  それでもまだラシェルは納得しきれなかった。とはいえ、会ってみなければ本当のところはわからない。
  二人は早速その彼女――エアリアル・シェリア・カーソンのもとへ向かった。


「めっずらしい名前だよねぇ」
  歩きながらフィズが言う。
「そうか? 地方に行くと結構いるぞ。セカンドネーム持ってる人も」
  ラシェルは今までにもなんどかセカンドネームを持つ人に会った事がある。
  中央都市部ではもうそんな名前の付け方をする風習はすっかり消えているが、昔の風習が抜けきらない地方都市や田舎では珍しくなかった。
  最初の名前が当人の名前、最後の名前がファミリーネーム。セカンドネームは祖父母や両親の名前を貰うのが普通だ。
  そんなふうに説明してやると、フィズは感心した様子で頷いた。
  ラシェルは呆れた顔でフィズを見つめる。
「おまえさぁ、オレより長生きしてるくせになんでそんな物知らずなんだよ」
「だぁって、私魔法以外の知識なんてほとんどないもの」
「・・・・・・あっそ」
  そこまで言いきられてしまうと、もはや何も言えなくなってしまう。
  ラシェルはとりあえず生返事だけ返して前に視線を向けた。
  キョロキョロと周囲を見ながら、困り顔で武器庫の近くを歩いている女の子が一人。
  年はラシェルと同じくらい。長い金髪を頭の上で二つに分けて結んでいる。
「あの子じゃない?」
  フィズは言うと同時に駆けだして行ってしまった。
  一瞬引き止めようかとも思ったが、そう思ったときにはフィズはもうラシェルの手の届かないところまで走ってしまっていた。それに、大声を出してまで止めなければならない理由はない。
  そう判断したラシェルは、エリアルのことはフィズにまかせて出かける準備をすることにした。もちろん、戦場へ出かける準備だ。


  その知らせが届いたのはエアリアルのところへ行こうと歩いている途中だった。
  利権争いをしている元トレジャーハンターの一人、ヴァレルと言う男が組織した部隊がこちらに向かっているらしい。
  だから急いで――のわりにのんびり歩いてきたが――出かける準備をしなければならないのに・・・・・・。
  ちゃっちゃと準備を済ませ、なかなか戻って来ないフィズの方を見やると、二人は気が合ったのかなんだか話し込んでいる様子だった。
  ラシェルは小さく溜息をつく。
「フィズ! 早くこっち来いよ!」
  遠くて声までは聞こえないが、フィズはパッと口に手を当ててエアリアルのほうに振り返った。
  そして二人一緒に、小走りにこちらに駆けて来る。
「フィズ・・・・・・そんなにのんびりできる状況じゃないだろ?」
  ラシェルは半眼でフィズを見つめてぼやくように言う。
「あはははっ。ごめん、女の子同士だと話が盛りあがっちゃって♪」
  フィズは明るく笑って誤魔化した。
(女の子同士の話ねぇ・・・・・・)
  どんな話をしていたのか多少気になるが、どうせ聞いても教えてくれないだろう。
  ふぅ、とわざとらしく溜息をついてからエアリアルの方に向き直った。
「オレはラシェル。しばらくは一緒に行動することになる。よろしくな」
  すっと右手を差し出すと、エアリアルはにこっと屈託のない笑みを見せて、差し出した右手を握り返してくれた。
「こちらこそよろしくっ。・・・・・・で、好きにやれってどうすればいいの?」
(おいおいおいっ。説明してないのかよ、あの隊長さんはっ!)
  思わず心の中で叫んだが、でもラシェル本人に説明させる方が手っ取り早いのも確かだ。
  ちょっと疲れたような気もしたが、それはあえて無視した。
「こっちが有利になるように戦場を引っ掻き回してやればいいのさ。まあ説明聞くより実際にやった方が早いか。
  戦闘経験はあるんだろ? でなきゃこっちに回すわけないもんな」
「ええ」
  エアリアルは、年に似合わない――その辺は、ラシェルもあまり人のことを言えないが――自信に満ち満ちた瞳で微笑んだ。
「武器はこの辺にあるもん適当に持ってきゃいいから」
「おっけぃ♪」
  しばらくその辺をうろうろした後、エアリアルが選んだのは・・・・・・威力は高いが重さもあり、扱い難さナンバー一の大型弾丸銃だった。
「ホントに大丈夫なの?」
  さすがにフィズも不安になったのか、わざわざ確認した。
  ラシェルとて不安が無かったわけではないが、隊長も彼女の実力はお墨付きだと言っていたし、まさか使えないものを選んだりはしないだろう。
  彼女自身も、使えないものを選んだりはしないとそう言って、パチンとウィンクをして見せた。
「じゃ・・・行くか!」
  ラシェルの声と共に、三人は外へと駆け出した。

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