Web拍手 TOP幻想の主LIFEシリーズ

 IMITATION LIFE〜幕間1 陽が沈む彼方へ 

  ラキアシティの戦の集結から数ヶ月。
  戦が終わってすぐにエアリアル――通称エリアル――はラキアシティに自分の店を持った。
  ちなみに、その資金は中央軍からの報奨金だったりする。
  ラシェルとフィズは、ラキアシティで宿をとって遺跡の調査をするつもりだったのだが、エリアルの好意で彼女の家に居候させてもらうことになった。
  もちろん二人ともただ飯ぐらいをやれるほど図々しくもないので、出来る限り店を手伝ってはいる。
  とりあえず、毎日遺跡に出かけていてほとんど手伝えないラシェルよりも、フィズの方が役に立っていないというのはちょっと問題な気がしないでもないが・・・・・・。


  その日、ラシェルは数日ぶりにラキアシティに戻ってきた。
  いつものようにエリアルの店に向かう。だが、その日は少しばかりいつもと違っていた。
  歩いていた大通りから少し外れた横道の方から子供の声が聞えたのだ。
「だから、本当に持ってないんだってば!」
  多分、十歳前後と言ったところだろう、女の子の叫び声。続いて聞えたのはもう少し年上だろう少年の声。
「嘘つくなよ、金も持たないで旅が出来るわけないじゃねぇか」
  ひょいっとその細い路地を除き込むと、数人の少年に囲まれている少女がいた。
  黒い髪と黒い瞳の女の子。
(えっと・・・・・・どっかで見たような・・・)
  そんな気がするのだが思い出せない。
「どうするの? マコトぉ」
  突然聞えてきた声――囲んでいる少年ではないし、少女のものでもない――に目を凝らすと、少女の肩のところに、フェリシリアの少年が居た。
  花から生まれてくる、透明の羽を持つ種族で、体の大きさは生まれてきた花の大きさ次第だ。フェリシリアはたいてい森や草原に住んでいる。こんな街中で見かけるなんて珍しい。
「どうしようって言われても・・・・・・。あたし喧嘩なんてしたことないし」
  答えながら周囲を確認する少女。意外と冷静みたいだ。
  少年が飛びかかっていったが、少女は器用にそれを避けている。
  そんな光景を目に留めながらも、ラシェルの意識は昔の記憶を漁ることに向かっていた。
  どこかで、どこかで見たような気がするのだ。
「マコト・・・マコト。誰だっけかなぁ」
  が、ふと飛び込んできた光景にラシェルは慌てて動き出した。
  いつの間にやら少女が行き止まりの壁に追い込まれてしまっていたのだ。
  後ろからの不意打ちだったことも手伝って――不意打ちじゃなくともこんなのに負ける気はないが――あっさりと片がついた。
「ったく・・・・・・子供狙ってカツアゲなんて最低だな」
  少年、と言ってもラシェルとたいして違わない年齢――多分、十四か五だろう――だ。
  少女の方に視線を向ける。怯えているような雰囲気はなかった。
  どちらかというと、珍しいものでも見るような・・・・・・。
  ラシェルは、一応自覚している。自分の瞳の色が珍しいものであることを。多分この少女もそれに気付いたのだろう。
「大丈夫か?」
  声をかけると少女はペコリっと折目正しくお辞儀をした。
「あ、あのっ。助けてくれてありがとうございまいた」
  ラシェルは慌てて手を振った。
「いや、偶然通りかかっただけだから。そんな改まって言われるようなことじゃないよ」
  自分の考えに没頭したあげく、ギリギリまで手を出さなかったのだ。そのことを考えると、礼を言われるのもちょっと悪い気がしてしまう。
  少女は大袈裟なジェスチャーと共に、再度礼を言ってきた。
「そんことないです! 本当に助かりました」
  ググゥ〜〜〜
  と、その声とほぼ同時に聞えてきた、腹の虫らしき音。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
  突如鳴り響いた音に、二人はしばし沈黙した。
「あははは・・・・あははっ・・・腹、減ってんのか」
  思わず笑いながら言うと、その腹の音の主であるフェリシリアの少年は真っ赤になって俯いた。
「この街で一番美味しい店、教えてやるよ」
  少年が、パッとラシェルの顔の正面に飛び出してくる。
「ホントっ?」
「嘘言ったって仕方ないだろ。で、どうする?」
  ラシェルは、悪戯っぽい口調で問いかけた。
「行く!」
  二人の返事は、見事にハモっていた。


  いつものことだが、店はかなり混んでいた。すでに食事時は過ぎているというのに、だ。
  すぐ後ろを歩いている二人に目をやると、二人の表情には期待の笑みが浮かんでいた。
  客がいる、イコールそれなりに評判も良いという方程式が頭に浮かんだのだろう。
「おーいっ。フィズ、お客さんだぞー」
「お帰りー♪」
  料理掃除は苦手でも、さすがに運ぶくらいならフィズでも出来る。フィズは、忙しそうにテーブルの合間を行ったり来たりしていた。
  フィズはラシェルの声に振り向いて、それから少女の方に目をやった。
  少女の前でしゃがみ込んで、目線の高さを合わせた。
「あなたがお客さんね」
  フィズはにっこりと穏やかな笑顔で言う。どうやらもう一人いることには気付いてないらしい。
  ラシェルは、フェリシリアの少年のほうを指差して付け足した。
「もう一人いるぞ」
「もう一人?」
  フィズは、不思議そうに少女とラシェルを交互に見つめた。
「この子のことだよ」
  少女が小さく笑って、自分の影に隠れていた少年を指差した。
  多少の人見知りがあるらしい少年は、ゆっくりと少女の影から顔を出した。
「うわぁ・・・私、フェリシリアって初めて見たわ」
  身長三十センチほどの小さな少年を見て、フィズは感心したような声をあげる。
  グググゥーー。
  また、少年のお腹がなった。
「・・・あははっ。ごめんね、話しこんじゃって」
  フィズは苦笑して、二人を開いてる席に案内した。
  ラシェルはそれを見届けてから荷物を部屋に置き、エリアルの手伝いをするために厨房の方へと向かった。
  厨房に入ると、やはりこちらも忙しそうだった。
「おっかえり〜」
  それでも、ラシェルの姿を目に留めると、エリアルは手は止めないものの明るい声を向けてくれた。
  ラシェルも軽い笑みで答え、手伝い始めたが、頭はマコトのことを考えていた。
(ホンっト、どこで会ったんだっけかなァ・・・・・・)
  あの年頃で黒髪黒瞳で、名前はマコト。
(まさか、マコト・ルクレシア・・・じゃないよな?)
  それならば向こうだって何らかの反応を示してくれても良いと思うが・・・・・・。
  祖父に連れられて行ったルクレシアの屋敷で、そこの娘であるマコトに一度だけ会った事があるのだ。
「ねーぇ、ちょっと来てくれない!?」
  フィズに呼ばれて、ラシェルの思考は一旦中断された。
  だがこの言葉ではどちらを呼んでいるのかわからない。ここにはラシェルだけではなく、エリアルもいるのだから。
「どっち?」
  ひょいっと厨房から顔を出して、フィズに聞き返す。
  と、フィズは楽しげにクスクスと笑いながらラシェルの腕を引っ張って、マコトのところまでつれてきた。
「なんだよ、一体?」
  よくわからないまま、マコトの前の椅子に座らされて、ラシェルはフィズに怪訝そうな表情を向けた。
  フィズは満面の笑みで―― 一体なにがそんなに楽しいのだろうと言いたくなるくらいに――ラシェルの両肩に手を乗せてきた。
「この人は、私が一緒に旅してる人で、ラシェル・ノーティって言うの♪」
  目の前に座る少女の動きが止まる。
  マコトは、無遠慮な瞳でこちらを見つめた。
  そして・・・・・・
「ええぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
  あまりの大声に周囲が静まりかえった。周りの視線が一斉にこちらに注目している。
  しかしマコトはそんなことおかまいなしだ。
「ホント? ホントにラシェル・ノーティ?」
「あ、ああ」
  マコトは今にも飛びつきそうな勢いでラシェルを見つめている。
  ラシェルはなんだか気恥ずかしくなって、マコトから視線を逸らして頭を掻いた。
「そんな感動されるほどのもんでもないんだけどな・・・・・・」
  ラシェルがぼそっと言ったその途端、マコトからの反論が返ってくる。
「そんなことないです!! ラシェルさんってすっごく有名なんですから!」
  マコトの言葉を聞いたラシェルは、真っ赤になってあらぬ方向を見つめた。
  フィズが横から口を挟んできた。
「ラシェルってば照れてるでしょぉ」
「べっ・・・別にそういうわけじゃ・・・・・・」
  その言葉を皮切りに、マコトを無視した言い合いが始まった。
  いつもの痴話げんかというヤツだ。
「あのぉー」
  声をかけられて、二人はハッとして顔を見合わせた。
  横に目をやると、マコトはちょっと申し訳なさそうな顔で二人の反応を待っている。
「ワリ・・・・・・。あっ、そういえば名前なんて言うんだ?」
  実は知っているのだが、彼女本人から直に聞いたわけではない。
  それにとっとと話題を変えたかった。
  マコトは慌てて姿勢を正し、改めてラシェルのほうに視線を向けた。
「あたしマコトって言います。こっちはルシオ。学校卒業してから遺跡巡りとかの旅してるの」
  その言葉にフィズが不思議そうな顔をした。
  ラシェルは自分の予測が外れていなかった事を思って納得したが。
「卒業? マコトちゃんっていくつなの?」
「十歳」
  フィズの質問に答えたのはマコトではなくラシェル。
「なんでラシェルが知ってるのよ」
「フルネームはマコト・ルクレシア・・・・・・だろ?」
  できたら外れていてほしかったような気もするが・・・・・・。
  初めて会ったあの日。当時まだ十一歳になったばかりだった――冒険者資格もまだ持っていなかった――ラシェルは、マコトの勢いに圧倒されっぱなしだったのだ。ちょっとしたトラブルが起こって、その挙句にマコトの――年下の女の子の前で大泣きしてしまったし。
「なんで知ってるんですか?」
(・・・・・もしかして、全然覚えてない?)
  当時マコトは六歳になるかならないかといったところ。覚えてなくても無理はないし、覚えていない方がありがたい。
  そんな思考をしている自分に苦笑して、ラシェルは真の理由とはまったく違う理由をあげて答えた。
「マコトのほうがオレなんかよりよっぽど有名人だろ。わずか10歳で専門学科のうち二学科を卒業した天才少女って有名だぞ」
  フィズはどうもその言葉にピンとこないらしい。驚いたような表情でマコトを見つめている。
「天才少女・・・・・・」
「そんな凄いもんじゃないですよぉ。好きこそものの上手なれってやつです」
  マコトはたぱたぱと手を振って曖昧な笑顔を浮かべた。
「・・・・・・マコト。良かったら一緒に遺跡に来てくれないか?」
  唐突に、ラシェルはそんな言葉を口にした。
  マコトに会ってからずっと考えていたのだ。
「え?」
  突然のラシェルの申し出に、マコトは目を丸くした。
「いいの!?」
  マコトは、ガタン、という椅子の音と共に勢いよくその場に立ち上がる。
  そんな様子がなんだか楽しくて――祖父について回っていたあの頃を思い出させてくれて――ラシェルは小さな笑いを漏らした。
  すぐに真面目な表情を作って、真剣な瞳でマコトを見つめる。
「考古学知識はオレより上だろ? あの遺跡結構複雑でさ。わからない場所があるんだ。マコトに来てもらえると助かるんだけど・・・・・・」
  ふと見ると、マコトの瞳がキラキラと輝いていた。
  その隣で、あまりにも浮かれているマコトを見つめて、少しばかり引いているルシオ。
「はい、もちろん。あたしの方から頼みたいくらいです!!」
「じゃ、決まりだな」
  こうして、次回の遺跡調査にはマコトを同行することが決定した。


  その翌日。
  ラシェルはいつもの如く早起きして、エリアルの手伝いをしていた。
  フィズではウェイトレス以外の役には立たないのを知っているから、手伝いにもちょっと力が入る。
  なにしろ世話になっているというのに、ラシェルは遺跡に入り浸りでほとんど店の手伝いをしていないのだ。
  戻ってきたら戻ってきたで、手伝う時間よりも発掘品の解析をしている時間のほうが長いし。
「おはようございます♪」
  パタパタという、どこか可愛らしい音と共に、マコトが二階の客間から降りて来た。
  最初に目が合ったフィズが、マコトに挨拶を返す。
「おはよう、マコト」
  言いながらラシェルはガタン、と座っていた椅子から立ち上がった。
「んじゃ、行くか」
  その言葉を聞いた瞬間、マコトの瞳がキラキラと輝き出した。
「遺跡に?」
  嬉しそうに聞いてくる。
「んにゃ。買い物」
「買い物?」
  あからさまにがっかりした表情を見せたマコトに苦笑して、ラシェルは諭すような口調で言った。
「準備もしないで行けるわけないだろう? あそこは広いからな。本格的に調査しようと思ったらしばらくは遺跡で寝泊りすることになる」
「そぉなの?」
  マコトは、じぃっとまっすぐにこちらを見つめて問い返してくる。
「遺跡の面積はこの街よりも広いくらいだ。調べるなら泊りがけじゃないと無理なんだよ」
  実際ここ最近のラシェルは、数日間は遺跡に泊まって内部を探索し、ある程度情報が集まったところで一度戻ってくると言う生活を続けていた。


  人ごみが苦手だと言うルシオにはエリアルのところで留守番してもらうことにして、ラシェルはマコトと二人で街に出かけた。
  他愛もない会話の中で、ラシェルは、ずっと気になっていたことを口にした。
「なぁ、マコトはずっとそんな軽装で旅してきたのか?」
「うん・・・・・・なんかまずいの?」
「まずいっつーか・・・・・・まぁ、オレもそんなに大荷物は持ってないけどさ」
  マコトの荷物は小さなリュックが一つきり。
  ラシェルもそうたいした荷物を持っているわけでもないが、それでもマコトの荷物は少なすぎよう様に感じられた。
  あれでは必要最低限の物すら入らないのではないだろうか?
  旅慣れたラシェルと、今回の旅を長い旅行のように思っているマコトとでは、その”必要最低限”の感覚が違っているだけだろうとも思うが。
  そんな話をしながら歩いているうちに、目的地であるラキアシティで一番大きなデパートに着いた。この街ではあまり見かけない、五階立ての建物だ。
  まずは数日分の食料品を買い、その後向かったのは武器防具を売っている階。もちろん、装備皆無のマコトのためにだ。
「あのー・・・・・・いいんですか?」
  マコトにも扱いやすそうなものを探していたところ、マコトは遠慮がちにそう聞いてきた。
「いいんだよ。オレが勝手に決めてるんだし」
  言ってラシェルは笑ったが、マコトはそれでは納得しなかったらしい。
  マコトは、自分の物ならば自分でお金を出すと言い張って聞かなかったのだ。
「そっか? んじゃ、そうしてもらおうかな」
  まあ結局は、マコトがそれなりの装備を整えてくれさえすればいいだけの話だ。
  それに、マコトのほうがラシェルよりもお金持ちであろうことはよくわかっている。
  そう考えると、年下の子供にお金を出させるのも、相手がマコトならばいいかと思えた。
「でも装備品って、何買うの?」
「まずは武器。どっちにしろオレと別れた後も旅は続けるつもりなんだろ?」
「うん」
「それじゃ自分の身は自分で守れるようにしとかないとな」
  言いながらラシェルはぐるりと店内を一周し、最終的に目をつけたのは小型の麻痺銃だった。
  例え怪物相手といえどこんな子供に殺し合いはさせたくなかったし、これならば小さなマコトでも充分に扱える。
「でも、あたし銃なんて使った事ない――」
「それはオレが教えるから」
「ラシェルさんが!?」
  パッと、一瞬にしてマコトの表情が明るく輝いた。
  思わず後ろに引くラシェルであったが、マコトはおかまいなしに言葉を続ける。
「すっごーい、世界一のトレジャーハンターさんに教えてもらえるなんて素敵っ♪ 帰ったら友達に自慢できる〜〜v」
「・・・・・・」
(マコトに同行してもらえるってのも、かなり自慢になるんだけどな・・・)
  今まで”マコト・ルクレシア”に抱いていたイメージが一気に崩れ去っていくような気がする。
  マコトは、トレジャーハンターや考古学者の仲間内ではかなりの有名人なのだ。
  だが、マコトは自分のやりたいことをやったうえで、こなせるだけの依頼しか受けない。十の依頼があっても、そのうち一しか受けない――そんな状況だ。
  だからこそ、仲間内ではマコト・ルクレシアに対するイメージは膨らんでいくばかりで・・・・・・まさかこんなミーハーな子とは思ってもみなかった。
  だが、そんなマコトを見るのも楽しくて。
  ラシェルは楽しげな笑みを浮かべて、はしゃぐマコトを眺めていた。


  さて、その日の夕方。
「早く遺跡に行きたいんだろ?」
  そう言って、ラシェルはすぐにもマコトを店の裏庭に連れ出した。
  マコトはまるでこれから遊園地にでも行くかのような様子でついてきたのだが・・・・・・。
  ――夕飯の時間になっても、マコトは降りてこなかった。
  そりゃ確かに練習直後は少しばかり疲れていたようだったけど・・・・・・。
  ジロリと、フィズの冷たい視線が突き刺さる。
「ラシェル・・・・・・。一体どういう教え方したのよ」
  充分過ぎるほどの迫力に、ラシェルの声は弱気なものになっていく。
「どういう・・・・・・って。じーちゃんに教えてもらった時とそう変わらないけど」
  一瞬、時間が止まった。
  本当に時間が止まるわけはないが、ラシェルにはそう感じられた。
  フィズの表情が、怒りのような呆れたようなその中間のような・・・・・・そんなふうに変化する。
  次の瞬間、
「ばかーーーーっ! あんたの体力とマコトちゃんの体力同等に見ないでよ!」
  相当に怒っているらしい。あんた呼ばわりなんて、年に一度聞けるか聞けないかレベルだ。
  ラシェルは一瞬ビクっと肩を竦めて、それでもなんとか気を持ちなおして言い返す。
  ・・・・・・思いっきり腰が引けているが。
「オレがじーちゃんに教えてもらったのなんて今のマコトより小さい時だぞ? そのくらいの頃なら男女の体力差なんてそんなには――」
「そういう問題じゃないのっ! とにかく、早く様子見に行きなさい! お腹空かしてるだろうからご飯も持ってね」
  ラシェルがフォレスから銃の扱いやなんかを教えてもらったのはまだ十にも満たない頃。
  そりゃマコトは女の子だし、体力差は当然あるだろうと思ってもいた。とはいえ、子供同士ならば体力差というものは男女差と言うよりは個人差だ。
  第一、ラシェルだってそんなにキツくしたつもりはない。
  だが――。
「・・・・・・大丈夫か?」
  ノックして、そっと扉を空ける。
  フィズの言ったとおり、マコトは思いっきりへばっていた。
  ルシオが冷たい態度で返してくる。
「ラシェルさんがマコトをこんなにした張本人でしょう?」
  ルシオは、ベッドに突っ伏しているマコトを指差して言った。
  ラシェルはごまかすような笑みを浮かべて頭を掻いた。
「悪かったって。まさかこんなにバテちまうなんて思わなかったんだよ」
  ラシェルは手に持っていたお盆をテーブルに置いてから、ベッドの隣にしゃがみ込んだ。
「大丈夫か?」
  マコトは一瞬不思議そうな表情をして、まじまじとラシェルの顔を見つめた。
「・・・・・・マコト?」
  その態度の意味が掴めなくて、訝しげに呟く。
  マコトは慌てた様子で、
「あっ・・・・・・何でもないです。心配してくれてありがとうございます」
  言ってにこっと笑顔を見せた、
「そっか? ならいいんだけど・・・・・・」
  ふいと、さっき置いたお盆のほうに視線を向ける。
「辛かったらすぐじゃなくていいから、食べれる時に食べとくんだぞ」
「はーい」
  実際はともかく、声だけは元気に返事をしてきたマコトの様子に、ラシェルはほっと息をついて、部屋をあとにした。


  それから二日後。マコトの回復を待ってから、ラシェル、マコト、ルシオの三人は、遺跡へと出発した。


  マコトは、声もなくその建物を眺めていた。
  その肩の上では、ルシオも呆然とした様子で周囲を見つめている。
  遺跡といえばたいていは現代に残っている過去の研究施設のことを指すのだが、ここはまるで地下に造られた都市のようだった。
  ここはどう見ても研究施設とは違っている。
  見た目通り地下都市と考えた方がいいだろう。多分、当時今よりもずっと数が多かった怪物たちから身を守るために地下に都市を作ったのだろう。
  マコトを引きつれてラシェルがやってきたのは遺跡の中心近く。
  地下都市の制御システムがある建物だ。
「ここなんだよなぁ・・・一番わけわかんねぇの。どうしてもここのデータのプロテクトが破れなくってさ」
  ラシェルはぐるりと部屋を見渡し、それからマコトを見た。
  いくら天才少女と言っても、ここのシステムはさすがに難しいかもしれない。
  そう思っていたが、マコトはにっこりと、楽しげに笑った。
「大丈夫、まっかしといて♪ こういうのは得意だから」
  言うが早いかマコトは機械群をいじり始める。すでに集中し始めているマコトを見て、ラシェルはルシオに声をかけた。
「この辺は怪物も入り込んでないみたいだし、オレ他のところ見てくるわ」
「うん、わかった。気をつけてね、ラシェルさん」
「はーいっ♪」
  ルシオへの言葉はマコトにも聞こえていたらしく、マコトは目を機械に向けたまま声だけで答えた。
  他のところ・・・・・・と言っても、実は見るべきところはもうあまり残っていない。
  あと調べていない箇所は、セキュリティを外さねば入れない場所ばかりなのだ。
  とりあえず遺跡内部の造りだけでもきちんと把握しておこうと――なんて、実はそれもほぼ把握済みだったりするが、何かの拍子に新しい発見があるかもしれないし――適当に内部を散策していた。

  突然だった。
  ふっと、現実感が薄れる。
  自分がここにいるのかわからなくなる。
  羅魏が、ラシェルの意識を押しのけて表に上がろうとしていた。
  二人で共有しているこの身体の本来の持ち主は羅魏。普段ラシェルが表に出ているのは羅魏が外に興味を示さないため。
  だから、羅魏がその気になれば強制的に入れ替わるなど造作もないことなのだ。
「ルゥっ! そいつから離れて!!」
  マコトの叫び声が聞えた。
  そのあとに聞えてきたのは、聞き覚えのある声。忘れようにも忘れられない、嫌なヤツ。
「・・・・・・私はなにか警戒されるようなことをしましたか?」
  レオルは落ちついた口調で言う。
「あなた・・・・・・何?」
  怯えたような声で言われて、レオルが薄く笑った。
「私のことをご存知の様ですね。お嬢さんは」
  マコトの表情が変わる。
  子供らしい雰囲気が消え、替わりに表れたのはとても十歳とは思えない大人びた雰囲気。
「リディアの民によって造られた怪物退治用兵器の大量生産型ドール、零。けれど大量生産型ゆえに、単純な命令でないと理解できない。言葉すら持たないドール・・・・・・」
  ・・・・・・いつもの羅魏ならばすぐにレオルに魔法を撃っていそうな気もするが、何故かそれをしない。
  想像以上のマコトの知識を知り、マコトの反応を見ているのかもしれない。
  ラシェルも、まだ出て行って欲しくないと思っていた。マコトの言葉を、もう少し詳しく知りたかったのだ。
「私はラシェルという人を探しているのですが、お嬢さんはご存知ありませんか?」
「ラシェルさんに会ってどうするの?」
「そんな言い方をするということは、知っているということですね」
  レオルはゆっくりと、マコトに近寄る。
  マコトのいる場所まであと数メートル――
  バシュッ!!
  赤い光が、レオルの胸を貫いた。
「侵入者迎撃用の攻撃システムよ。核を貫かれちゃもう動けないでしょう」
  しかしレオルは何事もなかったかのように歩いていた。
「・・・・・・うそ・・・」
  マコトは、驚きに満ちた瞳でレオルを見つめた。
「ああ、私は核が無くても動けます。ちょっとした都合上ドールの身体を借りているだけで、私自身はドールではありませんから」
  ふっと、冷たい笑みを見せる。
「どういうこと?」
  レオルはその疑問には答えずに、別の質問を投げかけた。
「あなたは彼が何者か知ったうえで共にいるのですか?」
「ラシェルさんは一流のトレジャーハンター。それで十分じゃない。ラシェルさんの出生なんて関係無いでしょ?」

  知ってる・・・・・・。
  どこで、どうやって知ったのだろう。
  けれどマコトは、知っている。
  自分の出生を・・・・・・。

「マコト・・・・っ」
  小さな、けれど必死の声に、ラシェルは現実に引き戻された。
  ハッと部屋の様子に目をやると、マコトはレオルに壁際に追い詰められていた。レオルの手には、魔法によって作り出された火球があった。
  もう、見物している場合じゃない。
『羅魏っ!』
  ラシェルが叫ぶのとほぼ同時だった。
  こちらに振り返ったレオルと、目が合った。
  羅魏は、マコトにも見える位置に移動してから、にっこりと人好きのする笑みを浮かべた。
「あ、結構遅かったね。もっと早く気づくと思ったんだけど」
  にこにこと笑う表情。けれど、瞳だけは冷たく冴えきっていた。
「このお嬢さんに興味を持ちましてね。”リディアの宝”についてあなた自身も知らないことを知っているそうです」
  言葉だけを聞いていれば、余裕たっぷりにも感じる。だが、その表情には明らかに焦りの色があった。
  短い沈黙。
  そして――羅魏の表情が変わった。なんの感情も映し出さない顔・・・・・・。
「くっ!」
  レオルが焦りを見せた。
  レオルが後ろに跳ぶ。それとほぼ同時に先ほどまでレオルがいた場所に火柱が上がった。間を空けず、今度はレオの真後ろに炎が現れ青年に向かって直進する。レオルは炎の方に手を向けた。その手に触れた瞬間、炎が消える。
  炎が消えたのと同時くらいだろうか。青年が炎に包まれる。多分、さっきと同じようにレオルがいる場所を狙って火柱を発生させたのだろう。レオルは炎の中から羅魏を睨みつけ、そして炭となり、最後には黒い砂のようになってしまった。その攻防の間、羅魏はその場からまったく動いていなかった。
  サァッ―−−--・・・・・。
  砂が足に散らされる。羅魏は、砂を踏みつけてマコトの方へ向かって歩き出した。
「・・・ラシェル・・・さん・・」
  ルシオが怯えてマコトの影に隠れた。
「初めまして・・・のほうがいいかな? 羅魏さん」
  ルシオが不思議そうにマコトを見つめる。
  羅魏は、微笑して――だが、感情の宿らぬ瞳で、答えた。
「当たり。よくわかったね、僕がラシェルじゃないって」
  マコトは得意げに答える。
「そりゃね。ラシェルさんとは違いすぎるもん」
  それは、ラシェルもよくわかっている。
  だが問題はそこではなく、何故、羅魏の名を――その存在を知っていたのか。
  羅魏は、静かにマコトを見つめていた。
  悪戯っぽく笑うマコトとはまるで対照的な印象を持たせる表情で。
  深く、それでいてい静かな――まるで凪いだ夜の海を思わせるような――表情。
「よかったら聞かせてくれないかな。どこで、僕のことを知ったの?」
  しばらく考え込んだ後、マコトは羅魏から視線を逸らした。
  目線は確かに羅魏に向いている。だが、彼女の意識――視線は、その奥にいるラシェルに、向けられていた。
「かまわないけど・・・・ラシェルさんは自分のことを知ってるの?」
  どこか不安げに、ラシェルを気遣うような声で問いかけてくる。
「知ってるよ。今この会話も聞いてるし」
  羅魏は笑みを崩さず、なんだかのほほんとした口調で答えた。
  だが、付き合いの長いラシェルにはよくわかる。羅魏の言葉の中に、ほんの少しだけれど、ラシェルに対する気遣いのようなものがあった。
「・・・そっか・・・ってことは表に出てない人もこっちの声は聞こえるんだよね?」
「うん、そうだよ」
  羅魏の答えを聞いて、マコトはホッと小さく息を吐いてから、こちらを窺うようにして言った。
「それじゃラシェルさんと替わらない?」
「わかった。ちょっと待ってて」
  羅魏は気を悪くするような態度も無く、にっこりと笑って言うと静かに目を閉じる。
  羅魏の意識が奥に沈み込み、替わりに、ラシェルの意識が浮上する。
  閉じられた瞳を開くと、少し怯えているような様子のルシオが目に留まった。
「あー・・・・っと、ルシオ。怖がらせてごめんな」
  ラシェルは頭を掻きながらマコトの影から窺っているルシオに声をかけた。
  マコトの口からクスクスと忍び笑いが洩れる。だが、その笑みはほんの数秒で消えてしまった。
「んっと・・・最初から話した方が良いよね? なんでわたしがラシェルさんの正体に気づいたのかから・・・・・・」
「ああ、頼むよ」
  ラシェルは真剣な表情でマコトを見つめた。
  マコトは小さく頷き、そして、語り始めた。
「本当のこと言うと、わたし最初っからラシェルさんがドールかもしれないって疑ってたんだ。特徴が似てるし、フォレスさんが”リディアの宝”の探索に行って子供を連れ帰ってきたっていうのは有名な話だし。
  でも本当に気になったのは一昨日。ラシェルさんの瞳を間近で見た時。それでわたしが持ってる”リディアの宝”――羅魏についてのデータを漁ってみて、思い出したの。
  ・・・・・・赤と銀の瞳。まぁそれ自体は羅魏と結びついたりはしなかったんだけど・・・・・・でも、もしかしたらって考えは強くなった。
  だから今日ここに来たとき、一番に羅魏のデータを調べようと思ったの。それで羅魏の詳しいデータを手に入れて、羅魏の姿を知ったの。監視者のことや、当時の記録も・・・・・」
「それじゃあフィズのことも?」
「え? フィズさんも・・・って?」
  マコトが不思議そうな顔をしたのを見て、ラシェルは軽い口調で言葉を返した。
「あいつの本名はアクロフィーズ・フィアズ。魔法で外見年齢を変えてるんだ」
  マコトはしばらく目線を宙に漂わせ、それから、コクンと頷いた。
  そんなマコトの様子に、ラシェルは小さな笑みを浮かべる。だがそれは、自分を誤魔化すための笑みだった。
  マコト自身が気付いているのかどうかはしらない。
  だが、マコトの瞳は、”ラシェル”を見ていなかった。
  けれどそんなことは認めたくなくて・・・・・・ラシェルは、変わらず軽い口調で続けた。
「ついでにもう一つ聞いていいか?」
「え?」
  一瞬マコトの返事が遅れた。だがラシェルは、努めて無視して、疑問を口にする。
「羅魏本人も知らないことって、なんなんだ?」
「あはははー。あれね、はったりなの。時間稼ぎの」
  間髪入れずに返ってきた答えだったが、その笑いは明らかに不自然だった。
(オレには言いたくないってことか)
  彼女は――マコトは。幼いながらも一人前の学者だ。その考え方も、行動も。
  言わないほうが良いと判断したならば、生半可な説得では教えてもらえないだろう。
  これ以上の追求を諦めかけた時、
「ただ・・・・・・ただ、ね」
  視線を外し俯いたマコトが、ともすれば聞き逃してしまいそうなほどの細い声で告げた。
「本物は、ラシェルさんのほうなんだよ」
  マコトは、一体なにを言いたいのだろう?
  どう見ても、”リディアの宝”というドール兵器であるのは羅魏という人格。
  本人の強さや言動、フィズの言葉からもそれは間違いない。
「は?」
  思わず口をついて出た声に、マコトが顔をあげた。
  二人の目が合う。
  マコトは恐怖すら感じさせるようなまっすぐな瞳で、ラシェルを見つめていた。
  学者として、純粋な好奇心が見え隠れする瞳で。
「お話はもう終わり?」
  ルシオはよほど暇だったのか、二人の会話が途切れると嬉しそうに話しかけてきた。
  その言葉にマコトはラシェルの様子を窺うように覗き込んできた。
  もう、見ているのが怖かった。
  マコト本人は意識してなかったのだろう。だが――
「終わりにしよう。これ以上話してても余計落ち込むだけになりそうだ」
  言って、ラシェルはマコトから目を逸らす。
  マコトはしゅんと肩を落として俯いた。・・・・・・叱られたあとの子供のように。
  ラシェルは、何も言わなかった。
「んじゃ、行くか。さっき向こうの方で武器庫みたいなとこ見つけたんだ。なんか良い物があるかもしれないぞ」
  マコトは何も悪くない。
  そのことを示すために、無理やりに笑顔を作った。
「ラシェルさん・・・・」
  沈んだままの口調と表情。
  ラシェルはわざと、必要以上に明るい調子で答えた。
「ん? なんだ?」
「その・・・・・・ごめんなさい」
  笑えなかった。
  もう、笑えなかった。
  謝って欲しくはなかった。
  マコト自身も自覚していたのだろう。マコトの目が、学者として、ラシェルを――”リディアの宝”という伝説のドールを見ていたことを。
  認めたくなかったのに・・・・・・マコト自身がそれを認めてしまった。
  突きつけられた現実――。

  二人は言葉少ないままに、その建物を出て武器庫の方に向かって歩き出した。
  ルシオは状況をあまり理解していないらしく、明るい声で二人に話しかける。ルシオのこの能天気さに今は少し感謝したい気分だった。



  三人は武器庫らしき建物の前にやってきた。
「・・・おっきい建物」
  ルシオが建物を見上げて素直な感想を漏らす。
  ぽけっとしているルシオの横で、ラシェルは扉を開けるための作業をはじめる。
  一番やっかいなプロテクトはすでに外されているとはいえ、それで施錠が全て消えたわけではないのだ。
「マコト」
「なぁに?」
  作業の手を止めぬままに言うラシェルの後ろでマコトが答える。
「マコトはレオルのことを何か知ってるのか?」
「レオル??」
  どうやらレオルは、マコトには名乗らなかったらしい。
  マコトの疑問に、ラシェルはさらに言葉を付け足した。
「さっきの銀髪の奴。前に会った時あいつ、レオル・エスナって名乗ったんだ」
  言われてマコトは、ぶんぶんと首を横に振る。
「そっか」
  会話が途切れ、それから数分後。
  小さな音を立てて、扉が開いた。
  実際の遺跡を目にしたのは今回が初めてらしいマコトは、好奇心一杯にキョロキョロと辺りを見渡し、早速あちこち物色をはじめる。
「一応気をつけろよー」
  聞いてないような気もするがとりあえず言うだけ言って、ラシェルはラシェルで探索を始める。
  怪物対策のための武器が多数置いてあるらしい倉庫には、珍しい品がかなり見つけられた。
  そうして、小型の銃が置いてある区画にやって来た時だ。
  羅魏の意識が、ある一つの方向に向いた、次の瞬間。
『あーっ!』
「うわっ」
  突然耳元――というか頭の中で――大声を出されて、思わず声があがる。
「ラシェルさん! どうしたの?」
  マコトが慌てた様子でやってくる。
  照れというか恥ずかしさも手伝って、ラシェルは曖昧な笑みで答えた。
「あ・・・・羅魏のやつがいきなり大声出すもんだからびっくりしてさ」
「羅魏が?」
「ああ」
  答えながらも、ラシェルの目はすでにマコトに向いていなかった。
  ぐるっと辺りを見渡し、羅魏が見つけた銃を手に取る。
「それって確か魔力を吸収してエネルギーにするタイプの銃だよね」
「良く知ってるな」
  さすがと言うべきか・・・・・・。マコトの知識量に目を見張って呟くと、その当人は胸を張って自慢げに答えた。
「とーぜん♪ ・・・羅魏、これ見て声あげたの?」
「そうみたいだな。そんなに凄いものなのか? これ」
  ラシェルの専門は、機械考古学。つまり、魔法の物品は専門外。だから、魔法によるプロテクトが取り入れられているこの遺跡には苦労させられた。
  また全体的に、この大陸では魔法の物品はあまり見つからない。さすがにラシェルは多少なりと実物を見た事もあるが、見慣れているとうほどではない。
  ちなみに、ラシェルが手にしている銃は一見普通の銃に見えるが、実はどちらかといえば魔法の品である。まあだからこそ、ラシェルの知識ではすぐにはわからなかったのだが。
  ラシェルの問いに、マコトは早口に捲し立てる。
「凄いよ。魔力さえあればすっごい威力が出せるし、ちゃんと使いこなせれば氷の弾とか火の弾とかを撃ち出すこともできるんだから」
  どうやら根っからの説明好きらしい。マコトは、実に楽しそうに解説してくれた。
  しばらくはマジマジと手にした銃を見つめていたラシェルだったが、
「よし! 試し撃ちしてみるか」
  唐突にそう言うと、ニヤリと笑って外に飛び出す。
「ちょ、・・・ちょっと待って!」
  後ろからマコトの声が聞えてきたが、いまだに子供っぽさが抜けきらないラシェルだから、楽しみを前にしてそんな制止を聞くわけがない。
「待ってってば。こんなところで撃ったら・・・」
「大丈夫だって、いくら凄い力が出せるって言ってもまさか一撃でここが崩壊するようなことにはならないって」
  ラシェルは、引き金を引いた。

  そして・・・・・・――。

  ラシェルも、ある程度その威力を予測していたマコトでさえも呆然とするほどの、強く太い光が一直線に走った。
  その光はいくつもの建物に穴をあけ、支柱を失った建物が次々と崩れ落ちる。光が通った後、そこだけがすっきりと遠くまで見渡せるようになっていた。建物の向こうには壁があったのだがその壁にも穴が開いている。
「「・・・・・・・・・・・・・・・」」
  二人は目をまんまるくして、光が通った後と手元にある銃を交互に見つめる。
「・・・・・・凄いっちゃ凄いんだけど・・・・・・・・・・使いもんになんねぇな・・・・」
  ラシェルが呆然とした面持ちで言う。
  ――・・・・・・ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
  なにか嫌な音が聞こえた。足元が微妙に揺れる。
「地震・・・・・・・・・じゃないよね」
「まぁ、そうだろうな」
  二人は顔を見合わせる。ルシオはいつもの定位置、マコトの肩の上から二人を見た。
「ラシェルさんの嘘つきぃぃぃぃっっ!!」
「んなこと言ったってここまで凄いと思ってなかったんだからしかたねーだろ! とにかく逃げるぞ!」
  言いながら二人は走り出だした。猛ダッシュで出口を目指す。その間にも遺跡は嫌な音を立てて崩れ始めていた。


  三人が地上に出た直後。大きな音を立てて遺跡が潰れた。
  それに影響されて周辺のあちこちの地面が陥没する。
「なんかすごいことになったな・・・・・・・・」
  陥没する地面を見つめてラシェルが言う。
「地下が潰れたら地面が陥没するのは当たり前よね・・・・・・・」
  言わずともわかっていることだが、なにをどう言えば良いものやら見当もつかない。
「どうするの?」
  ルシオが核心を突いた言葉を言う。二人が意図的に避けていた言葉でもある。
「どうしようもないだろ・・・・これは・・・・・」
  三人は顔を見合わせる。
「とりあえず戻るか」
  最初に口を開いたのはラシェル。
「そぉだね・・・・」
「うん・・・・」
  そして三人は、半ば逃げる様にその遺跡から立ち去ったのだった。



「ただいまー・・・・・・」
「あれっ? お帰りー♪ 早かったのね」
  三人の帰還をフィズが笑顔で迎える。
「まぁ・・・・いろいろあってな。ここじゃなんだから部屋に行こう」
  ラシェルは引っ張るようにしてフィズとともに部屋に向かった。

  部屋の真中に置かれている椅子とテーブル。
  二人はテーブルを挟んで向かい合うような形で椅子に座っていた。
「なに、どうしたの?」
  なかなか話し出さないラシェルに、フィズが怪訝そうな顔を向けた。
「あのー・・・・だなぁ」
「なに?」
(きっと怒られるんだろうなあ・・・・・・)
  そう思うとなかなか声にならない。
「こういうものを、見つけたんだけど、さ」
  言って、遺跡で見つけた銃をテーブルの上に置いた。
  それだけで、わかったらしい。
  付き合いの長いフィズならではの理解速度だ。
「ええぇぇぇーーーーーーーーーーーーっっ!?」
  バンっ、と思いきりテーブルを叩いてその勢いで立ち上がる。
「どうすんのよ! 他の大陸に繋がる転送装置があるのはあそこだけなのよ!?
  もうっ! サリスに行く方法が無くなっちゃったじゃない!」
「サリス!?」
  突然聞えてきた第三者の声に二人は顔を見合わせた。
  フィズは無言のままで扉に向かう。
「えへへ・・・・立ち聞きしちゃった・・・ごめん」
  開かれた扉の向こうで、予想通りの人物――マコトが、ばつ悪そうに笑った。
「マコトー、謝ること無いぞ。立ち聞きしようとしなくても聞こえるだろ、あの大音量じゃ」
  キッ、とフィズがラシェルを睨んだ。
「もとはと言えばラシェルが悪いんでしょ! もぉっ、なんで誰も止めなかったのよ」
  その言葉に、マコトのじと目がラシェルを見つめた。
「あたしは忠告したよ。ラシェルさん聞いてくんなかったけど」
「やっぱりラシェルが悪いんじゃないっ〜〜〜!!」
  フィズはラシェルに殴りかかりそうな勢いで怒鳴ってきた。
  こうなるともう、ラシェルは笑って誤魔化すかない。
「あははは・・・だから悪かったって」
「んもぅ。本当に、どうすんのよ」
  ぷくっと頬を膨らませる様子がまた可愛らしい。
  怒られているのも忘れて一瞬魅入ってしまう。
「ねぇ、フィズさんは長距離転移ってできないの?」
「え?」
  マコトの言葉を聞いたフォズは、ぽかん、とした表情でラシェルに目を向けた。
「遺跡で羅魏のデータを見つけたの」
  フィズは静かにラシェルを見つめた。ラシェルは落ちついた瞳でフィズを見つめ返す。その表情を見てフィズは小さくため息をついた。
「ラシェルがいいならかまわないけどね。・・・で、話を戻すけど私は長距離転移なんてできないわ。いえ、構成魔法に長距離転移なんて存在しないと言っても過言ではないくらいよ。例外は良く知ってる場所・・・そうね、例えば自分の家に転移するとか、そのくらいかしら」
「そうか」
  多少は・・・・・・いや、ほぼ全面的に、遺跡壊滅の責任はラシェルにある。
  それを自覚しているだけに、どうやっても多少は落ち込んでしまう。
「ねぇ、元素魔法ならなんとかなんない?」
  マコトがやけに明るい調子で言ったが、そもそもラシェルにはそれがなんなのかわからない。
  だがフィズはハッとした様子でマコトに振り返った。
「そっか・・・・元素魔法なら何とかなるかも!!」
  しかしその表情はすぐに暗いものへと変化する。
「転移は風属性。それを使えるのはフェゼリア種族とアルフェリア種族。フェゼリアはこの大陸ではすでに滅んでしまってるし、アルフェリアのいる場所なんて・・・」 
「あたし知ってるよ」
  マコトが自信たっぷりに言った。
「「本当!?」」
  ラシェルとフィズ。二人の声が重なる。
「そっか、シーグリーンだ」
「あったりー♪」
  ルシオとマコトは、楽しげにじゃれあいながら言葉を交わす。
  息もぴったりにパンっと手を合わせ、そして――
「あたしも一緒に行くからね!」
  ビッと人差し指をラシェルに向けた。――ルシオは、マコトの肩でその様子を眺めているだけだったが。
  ラシェルとフィズは、その勢いに気圧されて思わずコクコクと頷いた。
「やったぁ♪ 本当は一人であそこに行くの不安だったんだ」
「一人?」
  ルシオがじろぉ〜っとマコトを見る。
「あっ・・・・・ゴメンゴメン。ルゥのこと忘れてたわけじゃないからね」
  慌ててごまかすマコト。
  そんな二人の様子にラシェルは小さな笑いを漏らした。
  ふと見ると、フィズも同じようなことを思ったらしい。クスクスと楽しげな笑い声をあげていた。
  とりあえずの目的地も決まり落ちついた頃、ラシェルは、一度は懐にしまった銃を取り出した。
  フィズが横からひょいっと手を伸ばしてきてその銃を取りあげる。
「まったく・・・・・・・・魔力の制御もせずにこんなもん撃ったら遺跡が壊れるのも当然じゃない!」
「えっ!? ラシェルさんってば魔力の制御できなかったの!? ・・・・・知ってたら意地でも止めたのに」
  瞬間、女性陣の冷たい視線が注がれる。
  呆れたような瞳で見つめられて、ラシェルは事態がよく掴めぬままに女性二人に交互に目を向けた。
「これはいい機会ね。せっかくだから魔力の制御法を覚えてもらいましょ」
  どこか無感情を思わせるような口調。・・・・・・・呆れのあまりというやつだろう。
  魔力の制御法なんて知らなくてもなんら困っていない。余計なお世話だ。
「いらない。必要無いって」
  そっぽを向いて答えるも、フィズは動じなかった。
「でも制御できたらこの銃使えるわよ。エネルギー補充の必要も無いし、今使ってる銃と違って使う前に設定変えなくても威力変えられるし」
  そんなふうに言われて、ラシェルは迷った。
  確かにこの銃の機能は魅力的だ。ただ慣れるまでが大変そうだが・・・・。
  しばらく考え込んだ後、最終的には銃の魅力が勝った。
「よしっ! やってみる」
  そう決めたラシェルであった。
  が・・・・・・。
  しかし、それは全く別の問題を引き起こしてしまった。
  とにかくラシェルは魔法に関する物に対して異様なまでに呑み込みが悪かった。付き合いで一緒に習っていたマコトとルシオは初歩的なものながら魔法を扱えるようになったと言うのに、ラシェルはその頃になってもまだ基礎の基礎すらできなかったのだ。

  結局、ラシェルがその銃を使うのに不自由無い程度に魔力の扱いを覚えたのはそれから半年も経ってから。一行は、一年近くもの時間をラキアシティで過ごしたのだった。




  広い樹海の入り口にラシェル達四人は立っていた。
「・・・ここがシーグリーン」
  マコトは放心気味に森を見つめた。
  ラシェルがポンとマコトの頭に手を乗せた。
「んじゃ、行くか」
「うん♪」

  四人は周囲を警戒しながら奥へ奥へと歩を進めていく。
  しかしその森は警戒するのがばからしくなってくるほど穏やかな雰囲気が漂っていた。
「マコト、アルフェリアがどのあたりにいるかってわかるか?」
「わかんないけど・・・・アルフェリアってその森で一番年寄りの木のところに良く居るって聞いたことある」
「一番年寄りの木・・・・ねぇ。どうやって探すんだ?」
「歩き回って」
  独り言に近いラシェルの問いにルシオが即答した。確かにその通りなのだがこの広い森のなかでたった一つの木を見つけるのは相当な労力を必要とする。
  三人は同時にふかいため息をついた。ルシオだけがきょとんとした目でその様子を見ていた。
(・・・・・・あれ?)
  誰かの、視線を感じた。
  ぐるりと辺りに視線をやると、その行動に疑問を持ったのか、マコトが首を傾げた。
「ラシェルさん?」
「・・・・いや、なんでもない」
  答えながらも視線はまだ周囲をさ迷ったままである。
  隠しているわけではない、だが、曖昧で掴みにくい気配・・・・・・。
  まるで森に同化してしまっているような――けれど、野生動物のものともまた違う気がする。
  ザァッ―−‐・・・・。
  唐突に、強い風が吹いた。木々が揺れる。まるでその風に運ばれてきたかのように一体の怪物が姿を現した。全員、一斉に戦闘態勢に入る。
  しかし、
「げっ・・・なんで効かないんだ!?」
  ラシェルが手にした銃から放たれた光球。それは確かに怪物の急所を貫いた。怪物は一瞬は霧のように霧散したのだが、その時また強い風が吹き、その風に運ばれて再度集まってきたのだ。
  フィズの手元から炎が発生した。それは怪物に向かって一直線に飛ぶ。しかし結果は先ほどと変わらなかった。
「どぉなってるのよ」
  言いつつ怪物に再度魔法を放つ。何度やっても同じ結果になった。
  何度倒してもまた風に吹かれて戻ってくるのだ。
「ラシェルさんっ、フィズさんっ!」
  突然名前を呼ばれて、ラシェルとフィズはその動きを止めた。もちろん、怪物への警戒は怠らない。
「誰か居るんだって、ルシオがそう言ってる」
「よし、そっちに行ってみよう」
「こいつはどうすんの?」
「無視する。走れっ!!!」
  言うが早いか駆け出した。
  このノリに慣れているのかフィズはほぼ同時に駆け出した。
  マコトと、その肩に乗っているルシオは数秒遅れて二人の後を追う。
「あっち。あっちの方角に誰か居るよ」
  ルシオが指差した方向。そちらにはやはり誰も居ない。しかしルシオは確信を持っているようで、三人が戸惑っているのを見るや一人飛び出していった。三人は仕方なくルシオの後を追いかける。
  そうして数分ほど走った頃、フィズが立ち止まった。
「んもぅ、このままじゃキリが無いじゃない。ルシオ! その誰かってどのくらい離れたとこにいるの?」
「そんなに離れてないよ。追いかけるとその分離れるけど」
「わかった」
  言ってフィズは何か唱え始めた。なにかの呪文だろうか。
  直後、植物達が動き出した。
「えぇっ!?」
  マコトが慌てて後ろに下がる。
  しかし周囲の植物と言う植物が全て動いているこの状態では避けられなくなるのは時間の問題だ。
「おいっ!? なにやったんだよ!!」
「結界張って逃げられないようにしたんだけど・・・・破られちゃった」
「で、向こうが反撃に出てきたわけか」
  うねうねと動き回る植物達を銃で撃破しながら少しずつ後ろに下がる。
「マコト! 道作るからとにかくここから離れるぞ!!」
「うんっ!」
  ラシェルの銃から次々と光が放たれる。植物が次々となぎ倒される。
  マコトが駆け出していったのを確認して――次の瞬間、唐突に、視界からマコトの姿が消えた。
  繁みに隠れたような様子ではなかった。
  本当に突然に、パッと消えてしまったのだ。
  探しに行きたいところだがそう簡単にはいかなかった。
  ラシェルの前には今もうねうねと動きつづける植物たちがいるのだ。
「ああぁぁぁ、もうっ。鬱陶しい!」
  また一つ、動く枝が吹き飛んだ。
  だが何度やってもキリがない。

「・・・・・え?」

  突然、だった。
  いきなり目の前の風景が変わった。
  ふと横を見るとフィズも呆然としているから、フィズの仕業ではないらしい。
  落ちついて周囲を見渡すと、少し離れたところにマコトの姿を見つけた。
  マコトの隣には見覚えのない――エメラルドグリーンの瞳と、茶色い髪が足元近くまで伸ばしている一七、八の女性が立っていた。
「良かった、無事だったんだな」
「うん♪」
「一体どうなってるの?」
  フィズの問いには、マコトではなく彼女が答えた。
「君達に協力したげる。私はなにをすればいいの?」
  と、言われても・・・・・・・。まったく状況がわかってないのだ。
  彼女が何者なのかも――なんとなく予想はつくが。
  二人の様子に気付いたのかマコトは簡潔にだが説明してくれた。
「あのシアさんはアルフェリア種族なの。あたし達に力を貸してくれるって」
  やっぱり・・・・・・。
  だが意外な展開に、ラシェルは少しばかり驚いた。思わず彼女――シアに目を向けた。
「なぁに?」
  見つめられて、シアはきょとんとラシェルを見つめ返した。
「あ・・・いや。アルフェリアは人間を嫌うって聞いたから。こんな簡単に協力してくれるなんて思わなかったんだ」
「協力するつもりは無かったよ。あの怪物もどきも、植物も私がやったことだし」
「それじゃなんで?」
  シアはにっこりと笑った。
「マコトが気に入ったから」


  この森の長老であるらしい大木の前に五人が座っている。
  フィズが一通り話し終えたところだ。シアはフィズの問いかけに即答した。
「無理。私の力じゃサリスには行けないよ」
「「えぇ〜〜〜っ!?」」
  ラシェル、そしてフィズもそれなりに期待していたものだから、思わず不満げな声をあげてしまった。
  その様子に、シアはひとつため息をつくとサリスに行けない理由を話し始めた。
「いくらなんでも一度も行ったこと無い場所には飛べないよ。風と相性の良いフェゼリアだったらそういうこと出来る人もいるかもしれないけど・・・」
  ラシェルが大きなため息をついて肩を落とすと、シアは苦笑して言葉を続けた。
「西大陸になら行けるよ。あそこならフェゼリアがいるんじゃないかな」
  その言葉を聞いてラシェルはぱっと顔を上げた。
「ほんとか!?」
  あまりにも現金な変化に、ラシェル以外の者たちが小さな笑いを漏らす。
  だがラシェルはそんな彼女らをまったく無視して、その場に立ち上がった。
「よし! 今すぐ行こう!!」
  一度は諦めかけていたことだから、喜びも大きい。
  しかも、目的地には遠回りだが今や伝承の中だけの地と化した西大陸に行けるというのだ。
「はいはい、今すぐね。・・・・突然で悪いんだけど・・いいかな?」
  フィズはそんなラシェルの行動に戸惑うこともなく、ゆっくりと立ちあがると顔だけシアの方に向けて言った。
「かまわないよ」
  シアはいまだクスクスと笑いつづけている。
  三人のあいだで話がまとまるとラシェルたちの視線はマコトとルシオに注がれた。
  マコトは、少しだけ考えるような仕草を見せたが、心はすぐに決まったらしい。
「あたしは、行かない」
  きっぱりと言う。
  ルシオが、マコトの目の前まで飛んできて静止する。
「どうして? 行きたかったんじゃないの?」
  不思議そうに問う声に、マコトはどこかさっぱりした態度で笑った。
「うん。行きたい。でも今はまだ行けない」
  それだけ言うとマコトは、今度はラシェルとフィズのほうに視線を移して言葉を続けた。
「あたしね、一人でなんでも出来ると思ってたんだ。大人よりもずっとたくさんお金稼いでるし、学校だってちゃんと卒業した。でも旅に出てわかった。
  あたしはまだ父さんと母さんに守られてないとダメだって。父さんたちはあたしがどこに行っても困らない様にちゃんと準備しておいてくれてたの。もしそれがなかったらあたしは旅なんて出来なかったと思う。
  だから、まだ父さんたちの目の届くところにいなきゃいけないと思うの。父さんたちの手を借りなくても大丈夫になるまで。あたしがもうちょっと大きくなるまではこの大陸を旅して、それから西大陸に行く」
  少し、視線を横にずらしてシアを見つめた。
「ねぇ、その時は力を貸してくれる? シアさん」
  シアは優しく笑った。
「マコトならいつでも大歓迎♪ 待ってる。マコトがまたここに来る時を」
「ありがとう、シアさん」
  にっこりと笑ってお礼を言ってから、もう一度ラシェルたちのほうに視線を戻す。
「いってらっしゃい。がんばってね♪」
  元気良く言って手を振った。ラシェルはニッと口の端を上げて笑った。
「あったりまえだ。マコトもがんばれよ」
  フィズはにこにこと楽しそうな笑みを浮かべていた。
「またね、マコトちゃん。お互い、がんばりましょ♪」
「うん!!」
  極上の笑顔で頷いてから、マコトは数歩後ろに下がった。
  シアが、ラシェルとフィズの前に立つ。
  ラシェルはマコトに視線を向けて小さく手を振った後、真剣な表情でシアの方を見た。
  転移は、すぐだった。
  なんの前触れもなしに視界が切り替わる。

  そこはすでに、東大陸ではなかった。

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