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 IMITATION LIFE〜第2章・ヒトリ 3話 

  自分では敵わないことなんてわかりきっている。けれど、出口は一つ。――そして、そこにキリトの姿をしたレオルがいる。
  せめて武器を・・・・・・。
  そう思っていつも銃をしまいこんでいる上着の内側に手を入れたが、そこに銃はなかった。
「げっ・・・・おいっ、銃をどこにやったんだよ!?」
  慌ててモニタの方を見る。しかしマコトがその質問に答えるより早くモニタが爆発した。
「くっ・・・」
  レオルがやったのはわかりきっている。
  逃げるなら羅魏が眠っている今のうちだ。
  そう判断してレオルのほうに突っ込んだ。
  レオルの手に炎が生まれ、空中に飛び出す。
  ――それも、予想済みだった。
  ラシェルはスピードを落とさずその炎に向かって突進した。
「なっ・・・」
  流石にこれはレオルにも予想外だったのか驚いたような声が聞こえた。
  炎が向かってくる。直前で上着を脱いで、少しでもダメージを減らすための盾代わりにした。
  身体が丈夫なことも幸いしてか、ほんの少し火傷しただけでその炎を通過することができた。そのまま勢いに任せてレオルを突き飛ばす。
  レオルは一瞬よろめいただけだったが、それで充分。その隙に横をするりと抜けて部屋の外へ飛び出した。

  後ろで・・・・・・レオルが笑ったような気がした。見えるはずはない、声が聞こえたわけでもない。
  ――けれど、一瞬感じただけの気配。・・・・・それが、ラシェルを酷く不安にさせた。


  めちゃくちゃに走ったが、とりあえず出てきた部屋の場所は覚えていた。
  だが、通路を歩いてさっきの部屋に来たわけではなかったため、フィズ達がいる部屋がどこかわからない。
  マコトがいる部屋もだ。
「どうしよっか・・・・・・」
  考えこんでる時間も惜しい。いつレオルの奴が追いついてくるかわからないのだから。
  キョロキョロと辺りを見まわしてとりあえず次に進む方向を決めることにした。
  大きな研究所だけあって通路が多い。レオルもどこかで違う道を探しに行ってくれていることを願った。
『ん・・・・・・・』
「羅魏。気がついたんだな」
  声に出しても聞きとがめる人はいないので特に気にしない。
  普段は周囲を気にして羅魏と話す時は声にしないよう気をつけているが、声に出して会話する方が楽だった。
『・・・何があったの?』
  どこまで話せばいいだろうか・・・・とりあえず、すぐ近くにキリトの体を乗っ取ったレオルがいることと、レオルから逃げながら武器と皆がいる部屋を探していることを話した。
『ふーん・・・・・』
  羅魏は関心を示すような素振りを見せず、頷いただけだった。


  とりあえず適当に歩くしかなく、廊下をうろうろしていた時だった。
  ――突如、後ろに気配が生まれた。

  慌てて後ろを見るとそこにはレオルが居た。悠然と笑みを浮かべて。
「羅魏も目を覚ましたようですし、そろそろ鬼ごっこは終わりにしませんか?」
  じりじりと後ろに下がる。武器もなしに敵うわけがない・・・・・・武器を見つけるまではとにかく逃げ回るしかない。
  しかし、
『・・・・・マスター・・・?』
  羅魏が、そう呟いた。
「違うっ! あいつはレオルだ。キリトじゃない。さっきも説明しただろ? あいつはキリトの体を乗っ取ったんだ!!」
  ラシェルの叫びも虚しく、羅魏は次の行動に出た。

  普段ラシェルの方が表に出ていることが多いのは、単に羅魏が外に関心を持ってないからだ。
  羅魏が自分の意思で外に出ようとしたら・・・・・・当然、もともとこの身体の持ち主である羅魏のほうが強いに決まっている。
  ラシェルの意識は無理やり奥に追いやられ、替わりに羅魏の意識が浮上した。
  レオルが、薄く笑った。
「羅魏・・・・・・。マスターとして命じる。この建物内にいる敵を全て殺せ。まずはアクロフィーズ、ライラ、ミレリアの三人だ」
「了解しました。マスターの命令を受諾します」
『お・・・おいっ!! 羅魏、止めろ! 殺しちゃダメだ! あいつはキリトなんかじゃない! マスターじゃないんだ!!』
  ラシェルは必死に叫ぶが、それらは全て徒労に終わった。
「・・・・うるさい・・・」
  羅魏のその言葉とほぼ同時に突然体が重くなった。

  周囲が、闇に包まれていく・・・・・・。

  ラシェルは、自分の意識が眠りに落ちていくのを感じた。けれど今は眠っている場合じゃない。
  自分を叱咤して、なんとか意識を保っていた。けれどそれだけで手一杯、とてもじゃないが言葉を発せられるような状態ではなかった。
(なんとかしないと・・・・・)
  手放しそうになる意識を必死に掴んで考える。まずはフィズ達にこのことを知らせなくてはいけない。
  そこでひとつのことに思い当たった。
  知らせるだけなら意識だけでも充分だ。
  ラシェルはこの建物の構造をよく知らない。羅魏がフィズ達のいる部屋につくまでどれくらい時間がかかるのかも。
  けれど行くだけなら・・・・・・さっきと同じように通信回線を通ればいいのだ。
  眠らないように意識を保ちながら集中する・・・・・・――それは想像以上に難しいことだった。
  けれど、それでもなんとか道を作り出して、通信回線に入りこんだ。


「フィズっ!!」
  ラシェルの姿が空中に浮かび上がった。
  空中に、自分の姿の映像を作り出したのだ。
「ラシェル!?」
  いつのまにかマコトとルシオもこの部屋に移動してきていたらしい。
  全員の視線が一斉に、突然姿を現したラシェルへと集中した。
  身体を離れれば少しはマシになるかもしれないと思ったあの眠気は全く衰えなかった。ちょっと気を緩めただけで倒れてしまいそうになる。
「・・・羅魏が、こっちに・・・向かってる・・・・」
  ラシェルの様子に気づいたのかフィズの顔が青くなった。
「ラシェル、大丈夫?」
「大丈夫。眠いだけだから」
「眠い?」
  ミレリアが疑問の声をあげる。ミレリアには悪いがとりあえずそれは無視。
  今までの経緯をざっと話しと、キリトは少し考えこんでから口を開いた。
「羅魏が特に魔法とかを使わずに歩いてきているとすれば、ここに着くまで三十分ってところかな」
「とりあえずここから出ましょう。ここじゃ狭すぎるわ」
「出てどこに行くの?」
「外は広すぎて逆に危険だし・・・どこか良いところはない?」
「そうだな・・・・」
  キリトがモニタに目をやると同時にモニタのに映る画像が切り替わった。
  表示されたのはこの建物の地図らしい。二つの部屋が赤く塗られている。
「こっちが私達の現在地だ」
「それじゃ行きましょうか」
  フィズの言葉に続いて皆部屋から出ようとした。
「全員で、行くのか?」
  マコトがくるっと振りかえった。
「そうだよ。だって羅魏が狙ってるのってちょうど戦闘要員でしょ? 戦えない人だけここに残っちゃってレオルがこっちに来たらどうするの」
「あ、そうか」
「ラシェルさん眠すぎて頭回ってないでしょ」
  ルシオの指摘に苦笑した。そうかもしれない。
「わかった。オレ先に行ってるわ」


  地図に示された部屋は広い中庭だった。足下には短い草が生えていて、頭上には多分映像だろう青い空が広がっている。
  草の動きを見ていると風もあるのだろうが、それは今のラシェルには感じられないものだ。
  相変わらず眠気が襲ってきているがなんとか耐えて、フィズ達の到着を待った。
「ラシェルっ!」
  部屋の入り口付近からフィズの声が聞こえた。
「よーお・・・遅かったな・・」
「大丈夫?」
  フィズが、心配そうにラシェルを見つめてくる。
「・・・とりあえずは・・・・・・でも眠い・・・眠すぎ・・・・」
  もう眠らないことに必死で、それ以外のことにあまり頭が回らなくなっていた。
「ねぇ、フィズさん」
「何?」
「どうなってるの、これ?」
  マコトは理解して何も言ってこないのかと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。
  さっきは疑問を解決するよりもラシェルの話を聞く方が先だと思ったんだろう。
「それは私から説明しよう」
  いきなりキリトの声が響いた。
「キリトさん? どこにいるの?」
「私はラシェルほど高性能ではないのでね。専用の道具がないと映像を出せないんだよ」
  キリトは明るくそう言って、言葉を続けた。
「多分羅魏がラシェルの意識を眠らせようとしてるんだ。意識が身体を離れたって本体は身体にあるんだ。影響は変わらないよ」
「んじゃ、とりあえずラシェルは戦力にならないっと」
  言いながらライラは、彼女らが入ってきたのとは違う出入り口の方へ視線を移した。
「やぁ。皆待っててくれたんだね」
  そう言ったのはレオル。レオルはわざとキリトの口調を真似て言った。
  その横には羅魏がいる。
  ラシェルも何度か見た、何の感情も表に現れない人形のような表情。

  ミレリアが一歩前に進み出た。それに続いてフィズ、ライラ、瑠璃も。シアはマコトとルシオの守りに徹するつもりらしい。
「久しぶりですね、ライラ・・・・。それとそちらのお嬢さんは初めまして、ですね。ミレリアといいましたか」
「羅魏を返して!!」
  レオルの言葉を無視してフィズが叫んだ。
「返す? 何を言ってるんですか。羅魏は自分の意思で私に従ってるんですよ」
  レオルは平然とそう言ってのけ、羅魏に目をやった。小声でこちらには聞こえなかったが、羅魏に何か言ったようだ。
  羅魏が前に出てくる。
「マスターの命により、ここにいる全ての者を敵と認識します」
  これは羅魏の戦闘開始の合図だ。それを知っているフィズは慌てて戦闘態勢に入る。
  フィズがいる場所を中心として、全員が入る範囲に炎が吹きあがった。
  シアは先ほどからずっと結界を張りつづけることに集中していたおかげかダメージはなかったようだ。
  ミレリアはライラが結界を張ってくれていた。ミレリア自身もそれをわかっていたのか、呪文のほうに集中している。
  残ったフィズは、もちろん自分の身は自分で守る。――炎が消える頃を見計らって羅魏に魔法を放った。

  直後、呪文詠唱が終わったミレリアの魔法も羅魏の方へと飛んでいく。
  ライラと瑠璃も、炎が消えると同時に羅魏に魔法を放っていた。
  しかしその全てを、羅魏はいとも簡単に防いでしまう。


  たった一、二回の攻防・・・・・・それだけでほとんど勝敗が決まってしまった。
  なんとか羅魏の攻撃を凌いでいたが、無傷というわけにはいかない。全くダメージを受けていないのは守りに徹しているシアだけだ。
  そして・・・・・・――こちらの攻撃は全て完璧に防がれていた。
  なにより、羅魏が本気を出していないことは全員がよくわかっていた。羅魏は全く不動のままこちらの攻撃を防ぎ、魔法を放ってきているのだ。


  ――羅魏が戦闘に入った頃から頭がスッキリしていた。あの異様な眠気が消えたのだ。
  しかし今の自分には何も出来ない。せめて魔法でも使えれば・・・・・・そうすればまだ戦力になれたかもしれないのに。

  何か出来ないか・・・・・・そう思って周囲を見渡していたラシェルの耳にフィズの悲鳴が聞こえた。
  慌ててそちらを見ると、フィズだけではない。ライラも、ミレリアも、瑠璃も倒れている。
  羅魏の視線が四人に向かった。

(まずい・・・・・・。とどめを刺す気だ!)

  考える暇なんてなかった。

  飛ぶ・・・・・・――羅魏の、目の前に。

  手を広げて羅魏の前を遮った。
  わかっている――こんなことをしても何も変わらないのは。
  でも、今の自分に出来ることはこのくらいしかない。
「止めろ・・・・これ以上フィズを傷つけたら、絶対に許さない」
「フ・・・無駄なことを」
  羅魏の後ろでレオルが冷笑した。
  ラシェルも無駄なことだと思っていた・・・・・・が、羅魏の表情に変化が現れた。

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