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 IMITATION LIFE〜第2章・ヒトリ 5話 

  いつのまにか、記憶が元に戻っていた。
  ”お兄ちゃん”――懐かしい言葉だ。
  羅魏のことをそう呼んでいた時期もあった。
  ・・・・・・いつ頃からだったろう。お兄ちゃんと呼ばなくなったのは。

  ラシェルは照れくさそうに頭を掻いて、目の前に立つ羅魏を見つめた。
『あのさぁ、・・・言ってたよな・・・感情っていうものはよくわからないって』
  羅魏は小さく頷いた。
『でもさ、今羅魏が感じたのって間違いなく感情ってやつだよ』
『そうなの・・・かな・・?』
  羅魏はマスターに従わなかった自分というものにまだ実感が沸かないらしく、呆然とした面持ちで涙を拭った自分の手を見つめていた。
『オレを殺せないって泣いてくれただろ? 泣くってのは立派な感情表現の一つだ』
『ふー・・・ん。そんなもんなのかなぁ。よくわからないや』
『そんなもんなの。とりあえずそう思っとけ』
  ラシェルは光が漏れている方を見た。
  皆が心配しているのがわかる。瑠璃だけは無表情でよくわからないが。
『とりあえず・・・・・・戻るか。どっちが行く?』
『ラシェルが行けばいいよ、いつもみたいに』
『そんなふうに言うなよ。どっちも平等に行こう。二人が同じくらい外に出て、それぞれにいろんな物を見よう。そうすればきっと変われる。いつか、感情ってのを実感できるようになるさ』
『・・・うん』
  そう言って頷いた羅魏の顔は、なんだか嬉しそうに見えた。


  目を開けて最初に飛び込んできたのはフィズの泣き顔。
(ああ、また泣かせちゃったな・・・・・・)
  とりあえず寝ていても仕方ないので起きあがる。
「ねぇ・・・ラシェルだよね?」
  フィズが泣きながらそう聞いてきた。
「当たり前だろ、どこ見てそんなこと言ってんだ」
  その言葉を聞いて他の皆も表情を緩めた。
  羅魏を出さなくて良かったと本気で思った。
「あ、キリトは?」
「ここじゃ出てこれないみたいだから戻んないと」
  マコトは言うが早いかさっさと歩き出した。
「マコトに聞きたいことがあるんだけど」
「なぁに?」
「オレの銃・・・・」
「あっ・・・・ゴメン、忘れてた。それならキリトさんの部屋にあるよ」
「それじゃ、戻るか」
  全員、頷く。誰からともなく歩き出した。

  まだ、何も終わっていない・・・・・・。



  全員が最初の部屋に戻ってきた。そこにはすでにキリトが待っていた。
「羅魏を止める事ができて本当に良かった。すまない、何もできなくて・・・」
  そう言ってキリトは深く頭を垂れた。
「そんなことない!!」
  キリトの言葉に反論したのはマコト。
「キリトさんの協力がなかったらラシェルさん見つけられなかったもん」
「いや、私は何もしていない・・・・・ただ、苦しめるばかりで・・」
「キリト、それは誰のことを言ってるんだ?」
  ラシェルが不機嫌そうに口を開いた。
  キリトの表情が途端に暗くなる。ラシェルは大きくため息をついた。
「とりあえずこれからのことを考えましょう」
  多少暗くなった雰囲気を振り払ってフィズが言った。
「次がこの世界での最後の戦いって言ってたよね」
「来いって言っているんだ。レオルの本体が居る場所に」
  ラシェルの言葉に部屋の中がシンと静まり返る。
  誰もが思っていた――実体の無い化け物に勝つことなんてできるのだろうか、と・・・・・・。
  そんな中で、ラシェルだけは勝てないなんて微塵も思っていなかった。
  勝てる勝てないではなくて、勝つことを考えていた。
「ったくムカツクなぁ、なんでわざわざこっちから出向かなきゃいけないんだ。用があるなら向こうからくればいいのにさ」
  その発言に、皆が唖然としてラシェルを見つめた。
「ラシェルさん・・・・・・あなたは怖くないんですか? あの闇の者が」
  ミレリアがそう聞いてきた。ラシェルは心外だとでも言うように意外そうな顔をした。
「はぁ? なんで? オレが戦う相手はレオル。闇のなんとかなんて知らない」
「あの・・・・・ラシェル、わかってる? レオルはイコールこの世界に怪物を生み続けている化け物なのよ、しかも実体を持っていない、意識のみの存在」
「だから?」
  ラシェルはあっけらかんと聞き返す。
「オレが戦って勝ちたいのは、あの、くっそムカツク、レオル・エスナ。邪魔するならその闇とやらも相手してやるけどな」
「ラシェル。キミは勝てると思っているのかい?」
「さぁ、そんなの知らねぇ。でも勝ちたい。勝ってあいつに言ってやりたいことが山ほどあるんだ。今まで好き勝手やられた分やり返してやんねぇとオレの気が済まない」
「ぷっ・・・・・・あっははっ・・あははははっ」
  いきなり大声で笑い出したのはシア。
「なんか・・・すっごいラシェルらしいって言うの? ラシェルは世界全体なんかよりも自分の気持ちの方が大事なのね」
  ラシェルはあっさりとその言葉を肯定した。それが当然だとでも言わんばかりに。
「じゃ、行って来る。」
  さらっと言って歩き出した。しかしその歩みはフィズの言葉によって止められた。
「ちょ・・・ちょっと待ってよ! なんで!?」
「あいつとはサシで決着つけたい。数でおして勝ったって嬉しくないじゃん」
「そういう問題じゃないだろう!」
  キリトが大声を張り上げた。しかしラシェルは鬱陶しげにキリトを見つめただけだ。
「あのー・・・ラシェルさん?」
  マコトにしては珍しく弱気な口調だ。
「なんだ?」
  あまり切換えが早くないラシェルはさっきの不機嫌さをそのままマコトにぶつけてしまった。
  マコトがビクっと身を竦めた、その瞬間――
  バコっ!! と、
  すかさずフィズの拳が飛んできた。
「いってぇ〜・・・・何すんだよ!!」
「マコトちゃんを怯えさせないのっ! ほら、ちゃんと謝りなさい!」
「ん・・・・」
  フィズに叱られてラシェルがシュンと下を向く。ちいさな子供のように。
「ごめん、八つ当たりしちゃって」
「気にしなくていいよ、ラシェルさん♪」
  マコトはにっこりと笑ったが、次の瞬間には心配そうにラシェルを見つめていた。
「本気で一人で行くつもりなの?」
「そうだよ。そんなに心配ならあとから来たらいいだろ? でも、レオルとの戦いは邪魔しちゃだめだぞ」
  瑠璃を除く全員が呆気にとられてポカンと口を開ける。一番に笑い出したのはやっぱりシア。
「ラ・・・・・・ラシェルってばわがまますぎ〜っ!」
  そう言ってお腹を抱えて大爆笑している。
  シアだけではない。爆笑とまではいかないものの、皆クスクスと忍び笑いをしていた。
  フィズがぷぅっと頬を膨らませて、声を張り上げた。
「もうっ、わかったわよ。行ってくればいいでしょ! 一人で!! でもちゃんと帰ってこないと許さないからね」
「わかってるって」
  ニッと、唇の端を上げて笑う。
  怖くないと言ったら嘘になる。レオルとは何度か戦ったが、一度も勝てなかった。いつも羅魏が撃退してくれていた。でも、心のどこかでワクワクしていた。
(あいつに勝って、今までの分全部返してやる!)

  歩き出したラシェルの腕が引っ張られた。振り向くと、ライラの姿。
「今度はなんだよぉ」
  ライラはにこっと笑った。
「あのね、このくらいなら協力してもいいよね。言っとくけど断っても無駄だから」
  一方的にそう言い放つとラシェルの手に自分の手を重ねた。
  そうしてから、ライラはゆっくりと瞳を閉じた。ライラの回りに光が集まる・・・・・・夜を照らす月の光を連想させるような。
「ラシェル・ノーティ・・・月の聖霊ライラの名の元に――あなたに月の加護を与えます」
  光がラシェルのところに移動する。光はラシェルの中に吸い込まれるように消えてしまった。
  ライラが瞳を開ける。
「どこの世界に居ても、月の光はラシェルに味方してくれるよ♪ もちろん、この世界でも」
「何ができるんだ?」
「月属性の魔法が使える」
  ライラは一言で答えてくれた・・・・が、
「それじゃわからないって」
「えと、攻撃・防御・移動系の魔法がいくつか使える。ラシェルが使いたいって意識すれば月が教えてくれるよ。でも気をつけてね。月の光が届かない新月の日は全然使えないから」
「昼間とか曇りの日は?」
「昼でも月はあるでしょ? 太陽の光のほうが強いからあまり気付かないだけで。曇りってのはその状態によるの。月の光が地上に届かないくらいに雲が多かったら使えない」
「ふーん・・・わかった」
  頷いて一度行きかける・・・が、立ち止まって顔だけ皆がいる方に向けた。
「またな」

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