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 IMITATION LIFE〜第2章・ヒトリ 7話 

「神様!?」
  二人の声が綺麗にハモった。アルテナはにっこりと上品に笑って頷く。
「どうして神様なんて凄いヒトがここに?」
「レオルさんを倒すためですの。そしてそのためにライラちゃんにも来ていただきましたの☆」
  ぽんっと手を合わせてにこにこと笑ったまま答える。
「なんでぼくなの?」
「確かに、先ほどライラちゃんご本人が言っていたように、現在この世界の住人の中では本当の意味でレオルさんを倒すことができるのはラシェル君だけですの。でもライラちゃんが持つ月の属性はレオルさんに対してとても有効な力ですの。もうちょっと時間があれば羅魏君も戦力になれたんですけどねぇ」
「この世界って・・・サリフィスのことか?」
「いいえ、私たちが”世界”と呼ぶのはライラちゃんが宇宙と呼んでいる範囲ですの。サリフィスやセリシアなんかは大地とか星とか呼びますの♪」
「じゃあ次の質問。なんでオレだけなんだ?」
「ラシェル君がマリ・エル様の影響を受けずに生まれてきた、新たなる魂の持ち主だからですわ☆ ライラちゃんもご存知の通り、同じ魂は傷つけあうことができません。だから、違う魂を持つものでないとレオルさんには対抗できないんですの」
「マリエル?」
「魂を生み出す力を持った、私達の長のお名前ですわ☆」
「あのさ・・・いまさらなんだけどそういうことをベラベラしゃべっていいのか?」
「新たなる魂の持ち主以外にはむやみに言ってはならないことになってますの」
  ラシェルとライラは顔を見合わせる。二人の疑問は同じ所にあった。 
  どうして、”新たなる魂”とやらが特別扱いされるのだろう?
  素直にその疑問を聞いてみた。アルテナはにこにことした笑みを崩さずに答えた。
「新たなる魂はマリ・エル様の加護をうけられないために転生が行えませんの。そのかわり他の魂にはない特殊な能力を持っているのですわ☆」
「特殊な能力・・・・。それが特別扱いされる理由なのか? どんな能力なんだ?」
「ええ、その能力とは―――」
  ミシ・・・・・・。
  周囲の空間が嫌な音を立て始めた。
「あら、そろそろ限界みたいですの」
  まるで世間話でもしているような雰囲気で言って立ちあがった。
「レオルさんと戦うために必要なのは器の能力ではなく魂の能力ですの。自分の力を信じてください。それと、途中で羅魏君に替わらないでくださいましね♪ 器の能力は羅魏君のほうが上でも魂の能力はラシェル君のほうが強いですの。羅魏君の魂はまだ生まれたばかりですから」

  パァーーーンっ!!
  音を立てて結界が崩れた。先ほどと同じ闇が、広がっている。
  アルテナがキッと目を向けた方向からパラパラと闇が剥がれ落ち、崩れていく・・・・・・。
  崩れた闇の向こうに外の光。そしてレオルの姿。
  レオルはこちらを見て焦ったようにうめいた。
「アルテナ・・・・・」
「よーお、レオル。どうしたんだ? 顔色悪いみたいだけど?」
  ライラが呆れた様に小さく息を吐いて、小声で言う。
「わざわざ挑発するようなこと言わなくたって・・・・・・」
  ラシェルはくるっとレオルに背を向けて二人を見た。
「レオルはオレ一人でやる。あっち頼むな」
  勝手なことを言って一人でさっさと駆け出してしまった。
  残された二人は顔を見合わせて苦笑する。
「んじゃ、ぼくたちはあっちか」
  そう言って上を見上げると広がる黒い空。二人は宙に舞いあがった。



  レオルの前で足を止めた。
  あの触手が降りてくる気配はない。
  問答無用、ラシェルはいきなり引き金を引いた。銃口から見慣れた白い光が放たれる。
  レオルは手を前に出した。結界を張ったのだろう。
  が、レオルの思惑とは違い、銃から放たれた白い光は結界を突き抜けた。光に貫かれレオルがたたらを踏む。
「なんか忘れてないか? レオル」
「そうでした・・・・その銃は魔力を撃ち出すのでしたね・・・・・さすがは無限の魔力を持つ最強のドール。油断もあったとはいえ私の結界が一撃で破られるとは思いませんでしたよ」
  胸に穴が空いているにも関わらず、動くのに支障をきたしているようには見えない。
  いつものと同じように手を前に差し出すと、レオルの手から闇色をした光弾がいくつも放たれた。
  ラシェルはそれをいくつかは撃ち落とし、残りは微妙に場所を移動して避けた。
  合間を見てはレオルに向けて引き金を引いているが、ラシェルはまだこの銃に慣れきっていない。ちゃんと攻撃だけに集中しないとあまり大きな威力は出せなかった。
  闇色の光弾が途切れるほんの少しの間を狙って走り出す。レオルの方に向かって。
  カウンタータイプの戦法と、遠距離からの攻撃が主体のラシェルにしては珍しいことだ。
  レオルは相変わらずラシェルが勝てるはずはないと思っているのか、余裕たっぷりでラシェルが駆けて来るのを待ちうけていた。
  ギリギリまで待ってから手のひらに光を生み出す。
  レオルもそれは予想していたのだろうか、自らの手に闇を生み出した。
  二人の視線がぶつかり合う。二人はほぼ同じにその手にある光球を投げつけた。
  二つの光は押し合い、周囲に風を渦巻かせながら相殺する。
  ラシェルは、止まらなかった。風が土埃を舞わせ、ラシェルの位置からレオルを確認させにくくする。
  しかしそれは相手にとっても同じはず。正面からいくつか魔法が飛んでくるが、ラシェルは結界を作り上げ、すべて防御していた。
  視界がはっきりとしたとき、ラシェルはすでにレオルの目の前にいた。

  ――・・・・・・至近距離で銃を放つ。
  今の自分にできる、最大威力だ。

  さすがにこれには耐えきれなかったのか、レオルの体が吹き飛ばされた。
  ラシェルは続けて引き金を引いた。銃から何発もの光が放たれる。
  それは一発も外れることなく、すべてレオルに当たっていた。
  光が当たった場所が音も無く静かに消え失せていく・・・・・・そして、レオルの姿はそこから消えた。


  レオルの姿が無くなったのを確認してレオルが倒れていた場所に立った。
「レオルってこんなに弱かったっけか・・・?」
  ポツリと呟いた。本当はわかっている。口に出した疑問の答えを。
  上を見上げる。上では、二人が戦っていた。本体があの二人と戦っているせいでカケラに充分な力を送れなかったのだろう。
  彼女らに加勢しようと思った。・・・・が、
「どうやって上に行こう」
  ラシェルは頭を掻いて考えこんだ。だがいくら考えてもその方法が浮かばなかった。
『僕に替われば簡単に上に行けるのに』
「でも結局あれと戦う時はオレに替わらなきゃなんないだろ。そしたら落っこちるぞ」
『うーん・・・・・・ねぇ、ライラさんに貰った魔法でなんとかできないの?』
「さっき、攻撃魔法とか防御魔法使った時は使おうとしたらすぐに使い方がわかったんだ。いくら考えてもわからないってことはライラに貰った魔法の中に飛行魔法は無いってことだと思う」
『じゃぁどうするの?』
「そーだなぁ・・・・とりあえずこっちは終わったってことを向こうに伝えないとな」
  空に向けて引き金を引く。二人に当たらないように、でも気付いてもらえるようになるたけ近く。
  下からの光に気付いてか、二人が下を見たのがわかった。
  二人はまた触手の相手に戻る。けれど先ほどまでとは戦い方が違っていた。
  さっきまでは触手はなるたけ無視して本体に攻撃を叩きこもうとしていた。しかし今は触手を減らすことを優先しているように見える。
「そういう作戦ね」
  上に銃口を向ける。いつでも引き金を引けるように。
  こちらには攻撃は来ない。防御もなにも気にする必要は無い。なるたけ高い威力の一撃を放てるように、それだけに集中する。
  地上から上を見上げていると戦いの様子が見える。二人は触手相手に攻撃を繰り返していた。改めて見るとすごいことだ。触手はさっきラシェルを襲ってきた特大サイズのものばっかりである。それが何十本も二人に向かっているのだ。
  少しずつ、空の様子が変わっていった。
  先ほどまでただ蠢くだけだった空は鈍く明滅を始めていた。
  触手が狂った様に二人に襲いかかる。流石に聖霊と神様というコンビだけあって、ほとんどの触手は一瞬で消されており、苦戦はしていないように見える。しかし次から次へと無限に生えてくる触手が邪魔でこれ以上本体に近づけないようだ。
  二人がほぼ同時に、本体に向かって魔法を放った。
  かなり強力な魔法らしく、触手が次々と消えうせていく。しかし消えても消えても次々に生えてくる触手のせいで本体に届く前に魔力が弱まってしまう。
  だがその魔法のおかげで触手が減り、本体への道ができていた。

  引き金を引く。

  二人の魔法によってできた道をなぞって、銃口から放たれた白光が飛ぶ。
  本体にダメージが行くのを防ごうとしてか、わらわらと触手が光にまとわりついてくる。
  触手のことは気にしない――攻撃だけに集中する。そうしなければ光が途切れてしまうから。
  ライラとアルテナが光の直進を妨げようとする触手を必死に破壊していてくれるのがわかった。
  白光の通り道を遮る触手が次々と減っていく。

  そして・・・・・・・・・・・・。

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