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 IMITATION LIFE〜第2章・ヒトリ 最終話 

  空が、砕けた。
  やっと本体に当たったのだ。
「え・・・?」
  ラシェルは信じられないとでも言うように目を丸くする。
  たった一撃でこんなふうになると思っていなかったのだ。
  砕けた黒い空はカケラとなって外へ・・・・・・星の外へと飛んでいく。
(あれ? 普通は下に落ちてこないか?)
  ラシェルはそんなふうにも思ったが、とにかく終わったのだと納得しておくことにした。
  二人が降りてくる。
「ラシェル君、やりましたの♪」
「あ、ああ・・・・・でもおかしくないか?」
「そのことなんだけど・・・・・」
  なぜか二人の表情が暗い。
「なんだよ?」
「どうも分裂しちゃったみたいなんですの」
「分裂!?」
「あれはもとは世界や神に強い恨みを持って死んだ魂ですの。その魂は他の魂を引きずりこんで強大になっていきますの。意識はあの体の隅々にまで行き渡ってるから、分裂してもその一つ一つにレオルさんの意識が存在しますの」
「ほっとくとあのカケラ一つ一つが他の魂を取り込みながら大きくなって・・・」
「あんなのが何十体もできちまうってことか」
「何十体ではなく、何百体ですの・・・・・」
  三人は顔を見合わせる。
「まぁ、今なら能力もほとんど失われていますから私がなんとかしますの♪ それでは、またいつかお会いしましょうですの☆」
  一方的に言うことだけ言ってさっさと消えてしまった。
  呆気に取られて二人は直前までアルテナがいた場所を見つめる。
「どうする?」
「オレも行く」
「どこに」
「わかんないよ、そんなの。知らない場所に行くんだ。外には世界がたくさんあるんだろ? オレはそれを見に行くんだ」
「・・・・フィズになにも言わなくていいの?」
「止められるに決まってるだろ? それをいちいち説得してたらいつ出発できるかわかったもんじゃない。だからあいつが来る前にさっさと出発しないと」
  そして、笑った。いつもと同じ笑顔で・・・・・・笑ったつもりだった。
「だったら・・・・だったらなんでそんな辛そうな顔するの!?」
  びくっと、体が震える。
(ちゃんと笑ったつもりだったのに・・・・・笑えてなかったのか・・・・・・)
  静かに、そんな思いが過ぎった。
  ライラの言葉には答えない。
  別の世界に行きたいと思う――それだけで、そのための魔法がわかる。

  ラシェルの体が淡い光に包まれる。優しい銀の光・・・まるで月のような。
  少しずつ、少しずつ、周囲の景色が薄くなっていく。そしてかわりに別の景色が重なり始める。
  ・・・・・・見た事のない場所。
  どこでも、良かった。
  ただ、ここじゃないどこかへ行きたかった。

『止めないんだな』
『別に。僕はラシェルさえいてくれればそれでいいもの』
『・・・・そうか』


  ヒトリになるのが嫌だった。だから、もう会わない。
  そうすれば、大好きな人達の死を見なくてすむ。
  そうすれば、ラシェルの中の皆はずっと今のままで残り続ける・・・・・。

  どんなに居心地のいい場所を作ったってすぐに消え失せてしまう。
  大好きな人たちの死という形で。

  なら、その場所が消えてしまう前に自分自身が消えてしまえばいいと思った。



『ラシェル?』
  羅魏が心配そうに問いかけてくる。
  ラシェルは明るく笑ってみせた。なんでもない・・・・と。





  研究所の屋根。ルシオはずっとそこでうずくまっていた。
  ラシェルはなんでもないって笑っていた。でもなんでもないわけない。
  笑っているけど・・・確かにラシェルはいつもと同じように笑っていたけど・・・・。
  誰だって独りになるのは嫌に決まっている。
  だからって逃げ出したってなんにもならないのに・・・・。

  足元に小さな影がいくつも流れていく。――・・・・・・最初は雲かと思った。
  見上げると、外へと散っていく黒い流れ星。
  サリス島の中心近くに目を向けると、そこにあったはずの黒い空は消えていた。
  ルシオはそこから飛び立った。黒い空があった場所の真下へ向かって。




  フィズ達は研究所の中で空が見える唯一の場所、天文台にいた。
  じっと、黒い空を見守っていた。
  黒い空から生える触手たち。消えては現れ・・・・まるでキリがないように見えた。
  突如黒い空がはじけた。白い光柱によって。黒い空はカケラとなって外へ向かって散っていく。
  皆一目でわかった。ラシェルと、突如消えてしまったライラがあれを倒したのだと。
  駆け出す・・・・黒い空があった場所へと。





  ライラが一人で立ち尽くしていた。
  大きく肩で息をしながらフィズが問う。
「ラシェルは?」
「行っちゃったよ・・・・・別の世界も冒険したいんだってさ」
「なんで!? フィズさんにもあたし達にもなんにも言わないで?」
  マコトが怒鳴る。
「絶対止められるから、説得してたらいつ出発できるかわからないって。・・・・・・今すぐ行きたいって言ってた」
  フィズの目から大粒の涙が零れ落ちた。ここにいる全員が予想していた反応。
「ラシェルさんの大嘘つき!! 帰ってくるって言ってたのに!」
「マコトちゃん・・・」
  フィズがマコトに笑顔を向けた。どこか呆れたような・・・・・・そんな泣き笑い。
「ラシェルっていつもそうなの。興味を惹くものがあると周りのことなんか忘れてどんどんそっちに走って行っちゃうのよ」
  しばらくの沈黙の後。ライラが口を開いた。
「ぼく達も、もう帰ろう。もともとあいつを倒すためにここに残ってたんだから」
「そうね・・・」
  どこか暗い表情でミレリアも同意する。
  ライラの周囲に光が降りる。昼間の月から光が降りてきていた。
  ミレリアもその光に入ろうとして・・・振りかえる。
「瑠璃! あなたも一緒に行きません?」
「え?」
  瑠璃は研究所の方に振りかえった。マコトが持ってきていた通信機からキリトの声が響いた。
「好きにしていいよ。瑠璃のやりたいようにすればいい。もう、瑠璃の役目は終わったのだから」
  瑠璃は戸惑いの表情を見せる。今まで定められたプログラムに従って動いていたのに、いきなり好きにしろと言われたら戸惑うのも当然だろう。
「瑠璃は、どうしたいの?」
  フィズが問う。
「わからない・・・・・でも・・・ライラとミレリアは好き・・・だと思う」
「決まりですね」
  ミレリアが瑠璃の手を引いて光へと入っていく。
「それでは、本当に短い時間でしたけど、お世話になりました」
「それじゃ、またね」
  そして、三人の姿は光とともに消えた。
  残ったのはシア、マコト、ルシオ、フィズの四人。
「私はここに残るわ。やらなきゃいけないことがたくさんあるし」
「あたしにもお手伝いさせて。あたし、ずっと夢だったの。東西の大陸の交流を復活させることが」
「ぼくはマコトと一緒♪」
「そのためにはまずこの辺の怪物達をもっと減らさなきゃいけないね。一人じゃ大変でしょ? 私も手伝うよ」
  そうして四人は研究所に戻る。これからのことを話し合うために。


  フィズは、何度も何度も振り返りながら歩いていた。
  ラシェルがもうこの世界に居ないこと、それを自分に納得させるかのように・・・・。

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