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 IMITATION LIFE〜第3章・岐路 1話 

  深樹世界を出てから多分十数年。
  世界によって暦が違うものだから本来の自分の世界・・・サリフィスではどのくらい経っているかまったくわからないが、とりあえずラシェルの感覚では十数年ほど。
  あれからもいくつかの世界を巡り、今度で五ヶ所めだ。
  この世界に降りて最初に目に入ったのは、一面に広がる茶色い荒野。遠くの方には、もっこりとした森が見えている。
「とりあえずどっかの街に行って情報収集・・・かな」
  ラシェルは一人で呟いた。
  けれどそれに答えてくれる人物はしっかり二人も存在している。
「ま、それが妥当な線じゃな」
  一人は水龍(すいり)。深樹世界で知り合った龍神と呼ばれる種族の者で、水属性の術を得意としている。
  彼女は普段は姿を消してラシェルと共に行動している。何が気に入ったのか、深樹世界からずっとくっついてきているのだ。
  もう一人は羅魏。同じ身体を共有する相棒だ。昔の羅魏は外面は良いものの、根は淡々とした冷たい性格の持ち主で、ラシェルにだけ人間らしい感情を見せてくれた。しかし今は、自分にも心が存在するんだということを自覚し少しずつその性格に変化が現れていた。
『ちょっと待ってよ。この世界では僕を表に出してくれる約束でしょ!』
  昔の羅魏からはまったく想像もつかない騒々しさというか・・・・。
(昔は外に興味持つなんてなかったのになぁ・・・)
  性格の変化と共に羅魏は外に興味を持ち始め、最近では三日のうち一日は羅魏が表にいる。
  それだけなら別に問題はないのだが・・・・・・。精神的な経験の少なさのせいだろうか。行動が幼いのだ、とても!
  戦闘では今まで通りなのだが、普段の羅魏の行動は「なんで?」「どうして?」を連発する年代の子供と同レベル。いや、聞いてくれるならまだ良い。聞かずに自分で疑問を解決しようとするから余計にやっかいなのだ。
  ラシェルは時々羅魏の基礎人格を造った学者達を恨みたい気分になる。どうして一般常識をもうちょっと覚えさせてやんなかったんだよ・・・と。
「ああ、そーだったな・・・・」
  一応羅魏に返事は返すものの、知らない世界でいきなり羅魏を表に出すのは不安があった。
『そうだったな、じゃないでしょ。約束破るの? ラシェル』
「破るつもりは無いけどさぁ・・・」
  曖昧な返事を返すラシェルに水龍が口を挟んだ。
「約束は守るべきじゃろう。不安なのはわかるが、わしも羅魏の面倒を見てやるから替わってやれ」
  自分への助け舟を期待したのに・・・・水龍の発言はどちらかというと羅魏への助け舟だった。
  しばらく考え込んだ後、ラシェルは答えを出した。
「ま、約束だしな。でも、頼むからあんまりチョロチョロするなよ? それから・・・・・」
  そして、ラシェルの羅魏への注意事項はそれから1時間近くも続いたのであった。

「・・・・はぁ、ラシェルってば話が長いよぉ」
『日ごろの行いが悪いからだ』
  溜息をついてつかれた表情で荒野を歩く羅魏に、ラシェルの容赦無い言葉がかかる。
  二人のやりとりに水龍の笑い声が重なった。
  羅魏はぶすっとした表情で水龍を見つめるが、水龍はまったく動じない。ふわりと宙に飛んで行った。
「おお、南の方角に街が見えるぞ」
『南ね。よし行くぞ、羅魏』
「言われなくてもわかってるってば」
  二人の言い合いは再度開始され、三人(二人?)は南に見える街に向かい歩き出した。



  それから数時間。遠くに街の影は見えているが、実際に到着するまではまだもう少しかかりそうだ。
  普通の人間ならこの炎天下に帽子もかぶらず歩いていればとっくの昔に日射病になっていそうなものだが、二人はいたって元気だ。二人とも人間ではないのだから、その辺の常識が通用しないのも当然だ。
  水龍は自分の周囲に水の幕を作って防御しているし、羅魏は・・・・何もしていないがこの程度で倒れるような構造にはなっていない。
  そんな二人の視線に、倒れている人影が見えた。
「ん? 行き倒れ・・・かのう?」
「そんな感じだね」
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
『ちょっと待てぇっ!!!!』
  倒れている人物を横目に通りすぎようとしたところで、ラシェルの静止の声がかかった。
「なぁに?」
  ラシェルの剣幕にも動じず、羅魏は首をかしげて問い返してきた。
『なぁに? じゃないだろ! なんで無視して通りすぎようとするんだよ!!』
「触らぬ神に祟りなしじゃ」
『なんだよそれは・・・・』
  水龍のわけのわからぬ物言いに半眼でぼやき、次の言葉を言う。
『普通、倒れてる人見たら助けようとか思わないか?』
  しかしそれに対する二人の答えは、ラシェルが予想した通り冷たいものだった。
「だって僕普通じゃないもん」
「気に入った人間にならまだしも、なぜまったく知らない人間に対してそこまでせなばならぬのじゃ」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、そう・・・・。とりあえず替われ、羅魏。この人を助けないと』
(なんか、すっごく疲れた気がする・・・)
  大きく溜息をついて、替わってくれるよう羅魏に頼んでみたが、羅魏は嫌だの一点張り。
  羅魏に言わせると、さっき替わったばっかりなのにまたというのはズルイそうだ。
「しかたないのう」
  二人のやりとりを眺めていた水龍だったが、ふぅと小さく息を吐いて呟いた。
  水龍の手に水が現れる。
(あ・・・・最初から水龍に頼めばよかったのか)
  ラシェルはやっとそのことに気づいた。
  水龍ならば羅魏のように幼くはない。頼めば了解してくれる率は高いし、多分この人は日射病の類で倒れているのだろう。
  介抱するには水が必要であり、どちらにしてもその場合水龍に頼まねばならない。自分達は水を持っていないのだから。
「う・・・・」
  水龍が彼に水をぶちまけると、彼は小さくうめき声をあげてからゆっくりと起き上がった。
  二人はその様子を何をするでもなく眺めている。
(・・・・・・普通こういうときって大丈夫かくらい言うもんだろ・・・・)
  もう言っても無駄と悟ってしまったラシェルは言葉に出さず、心の中でツッコミを入れてみるが、当然ながらそれには誰も返事を返さなかった。
  彼は状況が理解できなかったのか少しの間呆然とした後、こちらのほうを見てペコリと会釈した。
「あんた達が助けてくれたのか?」
「ああ、そうじゃ」
  多分”あんた達”という言い方が気に入らなかったんだろう、水龍はぶすっとした態度で肯定した。
「ありがとう、礼を言うよ」
  彼は再度頭を下げると二人に向き直った。
「おれはアリス。良かったら近くの街まで同行させてくれないか?」
  彼――アリスの突然の申し出に二人は戸惑っていたがラシェルには予想できていたことだった。
  こんな場所だ。道連れはいないよりもいるほうが良い。羅魏がそれを予想できなかったのはともかく水龍も戸惑うのはちょっと意外だった。
『別にいいんじゃないか? 一緒に行ったって。オレ達ここの地理まったくわかんないんだし』
『うん・・・・』
  ラシェルの提案に羅魏はあまり気乗りしないようだ。
  返事をした直後、いきなり羅魏は奥に引っ込んでしまった。そして代わりにラシェルの意識が浮上する。
(さっきまであんなに替わるのを嫌がってたのに・・・・。ゲンキンってか嫌いなことはとことん回避するタイプだな、こいつ)
  多少呆れはしたものの替わってもらえるならありがたい。
「オレはラシェル。こっちはスイリだ」
  ラシェルが名乗るとアリスは不思議そうな顔をした。
「・・? なんか変なこと言ったか?」
「変って言うか・・ラシェル達、もしかして魔族?」
「はぁ?」
  ラシェルと水龍、二人の声が見事に重なった。外には聞こえていないが羅魏の声も。
「どうしてそうなるんだよ」
  いきなり魔族なんぞと呼ばれた不機嫌を隠しもせずに問う。
「どうしてって・・・まさか知らないのか?」
「何を」
「人族の制度だよ」
  そしてアリスは詳しく説明してくれた。この世界の現状を―――

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