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 IMITATION LIFE〜第3章・岐路 2話 

「この世界は教会が支配してるんだ」
  アリスはそう話を切り出した。
「支配? 統治じゃなくてか?」
「そう。この世界では人族って呼ばれる種族の人口が一番多いんだけど、それ以外にも少数種族がたくさん存在する。でも教会は人族以外を認めず、少数種族全てを魔族として一括りにして迫害している。人族であっても教会の支配に従わなければ魔族扱いさ」
「さっきのは?」
「名前のことか。神殿は四って数字を神聖視してるんだ。例えば神殿はトップに巫女が居て、その下に高司祭が四人、その下に司祭が四人ずつで計十六人ってなってる。それを人民にまで押しつけてるってわけ。子供が生まれたら神殿に報告しに行くことになってるんだけどさ、名前の綴りは必ず四文字になるようにって決まってるんだ。名前がその決まりから外れていたらそれだけで魔族扱いされる」
「なんで四なんだ?」
「この世界に伝えられる伝説のせいさ。この世界に存在する精霊の代表格は風火水土の四つ、そしてそれを束ねるのが大地母神って呼ばれてる神様。だから神殿もそれに準えているんだ。大地母神は巫女、その下の四大精霊は高司祭ってわけ」
  アリスは一通り説明し終わると西の方に目を向けた。西の方には大きな岩が点在する岩場があるだけで、他には何もなさそうだ。
「西になにかあるのか?」
「こっから一番近い街だと西になるんだ」
「西? だって街の影すら・・・」
「反教会の街だからさ。結構大規模なんだけど、かなり近づかないとわかりにくいところにあるんだ」
  姿を消したままで水龍が呟く。
「こやつ大丈夫なのか?」
『さぁ、ラシェルに任せるよ』
  二人が無責任な会話を交わす間にラシェルは考えを決めた。
  もしアリスが自分達をだまそうとしているとしても、ある程度は切りぬけられる自信がある。
「案内頼んでいいか?」
  ラシェルが問うとアリスは底抜けに明るい笑顔を見せてくれた。
「もちろん。同行させてくれって頼んだのはこっちだし」
  こうして一人人数を増やした一行は、アリスの案内で近くの街に向かったのであった。




  その街は大規模な岩場――ここまでの規模ならば谷と言っても良いくらいだ。
  岩が隠れ蓑になっており、間近まで来なければ街の存在に気付けない。
  アリスは大規模と言っていたが、まさかここまでとは思っていなかった。街の規模だけで言えばユーリィやレアゼリスと比べても遜色ないだろう。
「・・・すごいな」
  ラシェルは素直に感心の意を示した。
「だろ? ここは教会に従わない人族や、教会に虐げられてる少数種族がたくさんいる」
「へぇ」
「俺はとりあえず宿とるつもりだけど、ラシェルはどうする?」
「そうだな・・・・・とりあえずその辺見物して回るよ。案内してくれてありがとな」
「いや、こっちこそ。同行させてもらって助かったよ」
  手を振ってアリスは人ごみの中へと消えていった。
「さて」
  ラシェルはぐるりと首を巡らせた。
  最初に目に入ったのは市場。道の脇に何十もの出店が並んでいる。
  そちらに向かって一歩、踏み出した時だ。
『僕が自分で見に行くっ!!』
  突然の大声に思わず耳を塞いだが、その声は内側からのもの。当然何の意味もなさず、耳鳴りのような後遺症に顔をしかめながら、渋々と羅魏に譲った。

「うっわーーっ♪」
  羅魏はあっちへうろちょろ、こっちできょろきょろ。
  楽しそうに店を見てまわっている。
  見ているだけのラシェルとしては冷や汗ものである。
  もしも勢いあまって品物に傷をつけたりしたら・・・・。自分達はこの世界の金の持ち合わせなどないのだ。
『水龍もなんとか言ってくれよ』
  多分言っても無駄であろうと思いながらも、水龍に助けを求める。案の定、水龍の答えは冷たかった。
「なぜじゃ。子供は遊びから学習するものじゃろう」
『羅魏は子供じゃないだろっ!!』
  間髪入れないラシェルの叫びに、水龍は羅魏を見つめた。どこか懐かしげな、遠い過去を見る瞳。
「そうか? 例え生きた年月が長かろうと、あやつが自分の心を知ったのはつい最近。あやつの心はまだまだ子供じゃ。むろん、お主もな」
『・・・・・オレもか? そりゃ大人だとは言わないけど、面と向かって子供って言われるのもなぁ』
  覇気を削がれて少し冷静になったラシェルは、水龍がしたように羅魏を見つめた。とはいってもラシェルの視点から羅魏の姿が見れるわけではない。羅魏の視点イコール、ラシェルの視点なのだから。それでもその動き、言葉、雰囲気から羅魏が心から楽しんでいることはわかる。
  小さく溜息をついて、ラシェルはもう何も言わないことに決めた。
『オレ寝るわ。なんかあったら起こしてくれ』
  羅魏の行動にいちいち目くじら立てるのも面倒になったラシェルは、外の状況も見れない意識の奥へと自分を沈み込ませた。
  ・・・・・・それからどのくらい経っただろうか。
  寝る前は真上辺りだった太陽はもう地平線近くに沈みかけていた。
『ん・・・・っと』
  とりあえず外を見る。羅魏はどっかの露店を見物しているようだ。しゃがみ込んで露店のオヤジと話し込んでいる。
(まだ飽きてなかったのか・・・)
  どうやら羅魏はあれからずっとうろちょろと市場を見てまわっていたらしい。
「おお、起きたか」
  はっきりと覚醒したラシェルの意識を知覚して水龍が声をかけてくれる。
『ああ。羅魏は?』
「見ての通りじゃ。どうやらこの露店が気に入ったようでの。かれこれ三十分はここで話しこんでおる」
『三十分!? そりゃ凄いな』
「おお、お兄ちゃん見る目あるね。それは魔法の品だよ」
「へぇ、どんなの?」
  羅魏はウキウキとオヤジの話を聞いていた。
  そこへ後ろから誰かが近づいてくる。そして――
  ドンッ!
  突如後ろから突き飛ばされた。幸い前に転んだりはせず品物は無事だった。・・・・が!
『羅魏、荷物確認しろ!!』
『荷物?』
  ラシェルの意図を理解できないのか、羅魏は首を傾げたがとりあえずその言葉に従ってくれた。
「あれ? 銃が無い・・・・・」
『うわぁぁぁ・・・・やられた』
「今の子供にすられたようじゃな」
  ふわりと中空から水龍が姿を見せる。まわりがどよめくが、水龍はそんなことお構い無しだ。
『とにかく捕まえないと』
「そうだね。おじさん、これ借りるよ」
  羅魏は露店のオヤジの答えを待たずに丁度手に持っていたブレスレットを、先ほどぶつかってきた少年に投げつけた。
「うわぁぁぁぁ!!! 商品になにするね!」
  放り投げられたブレスレットは狙い違わずスリの少年の頭にぶつかり、少年は思わず手に持っていた銃を落とす。
  それに重なるようにしてブレスレットも地面に落ちた。ちょうどブレスレットの輪の中に銃が置かれている形だ。
  また盗られる前にと羅魏は少し早足でそこに向かった。
  ブレスレットを手にしようとした瞬間、
「待てっ! それに触るな!!!」
  少年とも少女ともつかない声が聞こえた。
  しかし時既に遅し、羅魏はもうそのブレスレットに触れていた。
  羅魏の手がブレスレットに触れたその途端、確かにそこにあったはずの銃が姿を消した。
「え?」
『え゙ぇぇぇぇっ!!?』
  どことなく呆けたように呟く羅魏とは対照的に、ラシェルは大声を張り上げてその事態を見つめていた。
  一番冷静だったのは水龍だろう。
  何を言うでもなく、ただただその事態を眺めていた。
  賑やかな市場。そこに一際騒がしい露店のオヤジの叫び声がこだまする。
  ラシェルもそれ以上の声量で叫んでいたのだが、その声が聞こえたのは羅魏と水龍の二人だけだった。

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