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 IMITATION LIFE〜第3章・岐路 3話 

  何の騒ぎかとざわめく周囲を気にとめず、その少女はブレスレットを手に取った。
  年は十二、三。金色の髪と翠の瞳。美人とは違うが、可愛いタイプである。
「あ、さっきの」
  どうやら羅魏は彼女を知っているらしい。
『誰だ?』
「広場で店を開いていた者じゃ」
  ラシェルの問いには水龍が答えてくれた。ラシェルが寝ている間にも羅魏はあちこちの店をうろうろしていた。見物していた店の一つに彼女がいたらしい。
  彼女は呆れ顔で羅魏を見つめた。
「だから言ったのにな」
  そう言って彼女はブレスレットを店主の方へと投げた。
「どうする?」
  店主は困ったようにこちらに視線を向けた。
「どうするって言われても・・・・ブレスレットを買い取ってもらうか、ブレスレットに入っちまった品は諦めてもらうか・・・」
『ええぇぇぇぇっ!! 困る、それ絶対困るって!』
  思わず叫ぶが、当然その声は誰にも聞こえていない。
  羅魏がつまらなそうに呟いた。
「・・・・僕、面倒ごと嫌い」
  それだけ言うとさっさと表から去ってしまう。そして替わりに表に浮上してくるのはラシェルの意識。
  正直、面倒ごとだけ押し付けやがって!! という思いはあるものの、羅魏に任せていたら多分銃は手元に戻ってこない。もともと羅魏に武器など必要ないのだから。
「で、お兄ちゃんどうするね?」
  問われてラシェルは視線を中空に漂わせる。
「っつーかまずなんでこんなことになったのか教えてくれるとありがたいんだけど・・・」
「これは魔法の品なんだよ」
  少女が半眼でぼやく。面倒くさそうに、けれど簡単にだがこのブレスレットについて説明してくれた。
「どんなに容量が大きい物でも、一つだけならこのブレスレットにしまえるんだ。おれも持ってる」
  そう言って彼女は、自分の腕につけているブレスレットを見せてくれた。
(あれ? ・・・こいつ自分のこと”おれ”・・・って)
  彼女の言動に多少の疑問を持って彼女をよく見る。確かに男と言われれば男にも見えるが・・・微妙なところだ。
  彼女はそんなラシェルの視線にも頓着せずに説明を続けてくれた。
「ただこれは過去の遺物でね。使い方が全部判明してるわけでもないんだ」
  ラシェルの頭にピンと閃くものがあった。
「まさか・・・」
  自分でも顔が蒼白になっているのがわかる。
「そのまさか。一度設定したらもう変えられないんだよ。だから普通は袋とかを設定しといて、袋の中身ごとしまえるようにするんだけどね」
  ラシェルの銃が消えたのはブレスレットに収納されてしまったせい。しかも、それはもう変えられない。となると・・・・・・。
  ラシェルは引きつった笑みを店主に向けた。
「どうするね。ブレスレット引き取るか、中身諦めるか」
「あの・・・・さぁ。オレ今金の持ち合わせがないんだ・・・・。これじゃダメかな」
  サリフィスでトレジャーハンターをしていた頃から、急に大金が必要になった時のための非常手段としていくつかの宝石を持っていた。が、多少の不安もある。今まで巡ってきた世界でもあったことだが、どこの世界でも宝石が貴重な物とされているわけではないのだ。中には宝石がその辺の道端にごろごろ転がっているような地もあった。
  それを見て店主は首を振った。
「現金以外不可ね。わたし鑑定できない。こういうものは受け付けない」
「・・・・・・・・・・・・じゃ、じゃぁちょっと待っててくれよ。どっかで金に変えてくるから!」
「無理だよ」
「え?」
  慌てて言ったラシェルの背後から、先ほどの少女が宝石を覗きこんだ。
「それを売りたいなら教会の街に行かないと。教会は宝石を大地母神の創り出した芸術品だと言って重宝がってるけど、この街じゃ宝石なんて何の価値もない」
「そうなのか・・・・?」
「そう。あ、教会の街に行って売っても意味ないよ。教会とここじゃ通貨が違うし、ここの連中は教会を嫌ってるのが多い。通貨の交換なんて出来ないから」
  ・・・・さぁどうしよう。
「じゃぁ一月。一月待ってくれよ。なんとかして金稼いでくるからさ」
  一番無難な選択である。これだけ大きな街だ。仕事の一つや二つなんとかなるだろう。
  多少渋い顔をしていた店主だが、そこに彼女が割って入った。しばらく話した後に店主が頷き、彼女は歩きかけたところでくるりとこちらを振り返る。
「じゃ、頑張って稼ぎな。オニイサン♪」
  去っていく彼女。そしてこの場に残ったのは少数の野次馬と店主とラシェル。
  一呼吸置いてから、店主に向かって頭を下げる。
「一月以内に絶対買い取りに来ますから、誰にも売らないで持ってて下さい」
「おぬしでも敬語なんぞ使うことがあるんじゃの」
  こちらの方が圧倒的に不利なのだ。ブレスレットを売るも売らないも店主の気分次第。下手に気分を害して、待たない何ぞと言われたらたまったものではない。故に、多少丁寧に頼むのは当たり前。いくらラシェルだってそのくらいは心得ている。
  水龍のツッコミは無視して店主の答えを待つ。
「一月ね。それ以上は待たないよ」
「ありがとう!」
  ラシェルの表情がぱっと明るくなる。
  もう一度、店主に礼を言い、仕事を探すためにその場を離れた。


  広い街の大通り。
  市場ではなく、商店街の方をゆっくりと歩いていた。人通りの多い道なので、水龍はいつもと同じく姿を隠している。
  いくつかの募集記事らしい張り紙は見つけたのだが・・・・。
「・・・・文字読めねぇ・・・・」
  なんでか言葉にはまったく困らないのだが、文字は読めなかった。
『だって文字読む必要なんて無いもん。解読して無いし』
  羅魏の淡々とした声が聞こえた。
「は?」
『言葉なんてだいたい法則決まってるんだから、それさえわかっちゃえばすぐだよ。僕がわかればラシェルもわかるし』
  どうも羅魏の言っていることがよくわからない。もう一度問い返した。
『だからぁ、僕とラシェルはまったく違う人格プログラムを持ってるけど、都合上共有してるプログラムもあるの。例えば言語プログラムなんかがそう。だから僕が新しい言語覚えたらラシェルもその言語を覚えてるの』
  今度は羅魏の言いたい事がわかった。
  つまり多分、この世界の人もサリフィスとはまったく違う言語を使っているのだろう。けれど言葉が通じないと不便だから羅魏が言葉を解読する。そうすると同じ言語プログラムを共有しているラシェルにもその言語が理解出来るのだ。
「あれ? そうすると水龍は?」
「わしは精神感応能力を使って話しておる。違う言語を使っておっても相手の言いたいことを読めば簡単じゃ。こちらが話す時はこちらの意図を直接相手に送ってやれば良い」
  そんなこともわからないのかと言いたげな雰囲気で話す水龍にラシェルは少しばかり仏頂面になったが、水龍はラシェルのそんな様子を意に介さず、言いたいことだけ言うと黙り込んでしまった。
「羅魏、今すぐこの文字解読しろ」
  さっきの説明からすれば、羅魏が文字を解読してくれればラシェルも読めるようになるはずである。
『ええぇ〜、面倒だよぉ』
「す・・・・」
  大声で言いそうになって慌てて言葉を止める。 
『すぐなんだろ。いいからやれよ!』
  声に出さずに羅魏に向かって怒鳴った。
『・・・なんかラシェル不機嫌だよ』
『誰のせいだと思ってんだ・・・・』
  店の商品に夢中になって銃をスられたのは羅魏。
  しかも商品を投げつけて、偶然とはいえ魔法の品を発動させてしまったのも羅魏。
  多少言いがかりな部分もあるかもしれないが、大半は羅魏のせいだと思う。
『しょうがないなぁ』
  羅魏が呟いてから一分と経っていない。
  先ほどまでまったく意味不明だった記号が突然、意味を持った文字になった。
  そうしてラシェルは、バイト探しに街を歩き出したのだった。

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