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 IMITATION LIFE〜第3章・岐路 7話 

  帰りたい・・・・だけど、身近な人の死に直面するのが怖い。
  帰りたいけど帰れない。

  それが、サリフィスを出てからずっと頭にある想いだった。
  彼女は考える時間はたっぷりあると言ったが、もう考える気はあまりなくなっていた。
  だって今更ではないか。ずっとずっと考えてきて、答はまだ出ていない。
  ラシェルは、彼女の言葉がその答えの一つなんだろうと思い始めていた。

  ――あんたバカ・・・?―――

  彼女はそう言った。
  言われた時は少しムカツキもしたが、一番シンプルで的確な表現だ。
  大切な人が死んだ時のことなんていくら考えたってわかるわけがない。想像することは出来ても、実際にその人が居なくなった時どうなるのかなんてことはその時にならなければわからない。考えてもわからないことを考えつづけたって何も変わらないのだ。
  このまま時がたてば、本当に帰れなくなってしまう。
  ・・・・・・・ラシェルが帰りたいのは、場所ではなく人なのだから。




  パチンと小さな音がして、モニタにラシェルの姿が映る。
「あら、案外早かったのね」
  彼女はにこりと笑った。
「ああ、なんかさぁ・・・考え込んでるのがバカらしくなってきた」
「そうそう、それでいいの♪ ずっと先のことを考え込むよりも今どうしたいか、どうするべきかを考えないとやってけないわ」
  その言い方が少しばかり引っかかった。彼女も、同じようなことで悩んだことあるのだろうか?
「で、さ・・・出口知らないか?」
  聞くラシェルに彼女は肩をすくめて答えた。
「さっき言ったでしょ。幽閉されてるって。ここから出たこともないのにわかるわけないでしょ」
「え゙・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
  固まってしまったラシェル。彼女はちらりと一瞬だけこちらから視線をはずしてまた戻した。
「あ、そうそう」
  彼女はいかにも今思いつきました、といった感じでぽんっと軽く手を叩いてつけ足した。
「ここの通信機ねぇ、年に一度の教会長たちの会合の連絡手段として使われてるの。でねぇ、今年の会合はこの前終ったばっかりだったりするんだ」
  それを聞いたラシェルは硬直状態を脱して悲鳴をあげる。
「ってことはだ。もしかして丸々一年出れないのか!?」
  彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべたが、その問いに答えてはくれなかった。
  妙な沈黙が流れる。
  まぁ、実際には一年も待つくらいならここの機械の扱い方を調べて勝手に外に繋いでしまった方が早い。
  ラシェルがどうやって出るか考え込んでいると、突然彼女が口を開いた。
「大丈夫。今助けがこっちに向かってるから」
「助け?」
  彼女は頷いて、真剣な瞳でこちらを見つめた。
「でもその人達だけじゃあ多分ここにつくのは無理。ラシェルはここの中なら自由に動けるでしょ?」
「ああ」
  ラシェルが頷いたのを確認してから彼女は言葉を続けた。
「この部屋へ、その人達を誘導して欲しいの。できればセキリュティの解除と、監視カメラへのカモフラージュも。問題はその人達はこっちに協力者がいることを知らないってことなのよねぇ」
  頭の中で言われたことを反芻する。誘導する方法はいくつかあるが、向こうがこちらを知らないならばその誘導を罠と勘違いし、警戒されてしまう可能性がある。
  残りの二つについてはここの機械を見てみないとなんとも言えない。
「そいつらはいつ頃こっちにつくんだ?」
「明日の昼くらいだと思う」
「わかった。それまでにどこまで出来るか確認しておく」
  言うが早いか彼女の部屋から離れ、この建物の機械類をコントロールしている中枢を探しにいく。
  閉じられた空間であることも手伝って、その中枢部はすぐにわかった。
  普通は外から機械を操作してでしか動かすことのできないプログラムやデータを、内部から操作することによって外に影響させられる。
  外から操作するならば勘でやってもなんとかできる自信があったが、内部からは少しばかり自信がなかった。
  言葉や言語が違えばデータの書き方だって全く違うものになるだろう。
  しかし実際に見てみると、それが杞憂であったことがわかった。
  多分羅魏がこの世界の文字を解析してくれたおかげだろう、全く知らない形式のデータではあったが、なんとか動かせそうだ。
  ・・・・・だが、どうやら通信は出来そうにない。受信側が機械のスイッチを入れ、受信準備をしていなければ送信できないようになっているらしい。
(やっぱり外には出れないかぁ・・・・)
  仕方ないので一度姫巫女の部屋に戻ることにした。
  助けに来るという人達のことをもっと聞いておこうと思ったのだ。
「おーいっ」
  彼女に声をかけたが、彼女はベッドに座って目を閉じたまま。何の反応も示さない。
(・・・なんか瞑想でもしてるみたいだな)
  そんなふうに感じたが、実際のところはわからない。
  先ほどまでの彼女を見ていると、とてもそんな物静かなことをしそうなタイプに見えないのだ。
  再度声をかけてはみたが、やはり彼女は何の反応も示してはくれなかった。
「仕方ないか」
  ラシェルは小さく息を吐いてその場から離れた。
  建物内部のあちこちに監視カメラがあり、カメラを利用して簡単に外を見ることが出来た。
  先ほど中枢部のデータで建物の造りは記憶したし、あとはその当人が来るのを待つだけなのだが・・・。
「特徴すら聞いてないのにわかれってのも無茶な話だよなぁ・・・」
  一応建物の外に向かっているカメラから外を見てはいるが、教会に向かってくる誰がそうなのかは皆目見当がつかない。
  出入りする人間が多すぎるのだ。
  床――実際には何もない空間なのだが、とりあえずラシェルの感覚での床――に座りこんで、頬杖をついて外を眺める。ちゃんと彼らの特徴を教えてくれなかった彼女にぶつぶつと文句を言いながら。
  知らないものは見つけようがない。小さく溜息をついたラシェルは、教会に向かってくる人の中に見覚えのある者を見つけて思わず立ち上がった。
  水龍だ!! ということは・・・・市場で姿を変化させたそのままの羅魏。そして、シンとその連れの少女。
(・・・・あれ?)
  さっきは気付かなかったが、少女は姫巫女と良く似ている。もしかして血縁者なのだろうか?
  そうならばシン達が助けにきた人物ということになる。なんで羅魏や水龍までいるのかはわからなかったが、これは好都合だ。羅魏ならば自分に気付いてくれるかもしれない。
  ラシェルは急いでシン達が向かっている入り口の方へと先回りした。
  そこは入り口と言うよりは裏口だった。表の豪華な入り口とは大違いである。
  ラシェルがそこに到着した時、シン達はまだその入り口から数十メートル離れていた。これなら余裕だろう。
  まず監視カメラの映像を細工して、シン達の侵入が教会の人間にわからないようにする。
  セキリュティをはずして、正しい道筋にだけ電灯がつくようにした。
  案の定シンは警戒したが、そんな注意をものともせずにリム、水龍、羅魏が進んでくものだから、シンの警戒なんぞ何の意味も持たなかった。
  ラシェルは思わず苦笑した。シンには悪いが助かった、と。
  そうしてシン達は、一直線に姫巫女の部屋へと向かってくれたのだった。

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