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 IMITATION LIFE〜第3章・岐路 最終話 

  彼らが歩くよりはラシェルが回線内を移動する方が早い。
  部屋の扉が開いた時、すでにラシェルは彼女の部屋のモニタに居た。映像は出していないが。
  シンの表情が驚きに染まる。シンの隣に居る少女と部屋の中に居る少女。二人は全く同じ顔、同じ背丈の人間だった。
  先ほどまで何度声をかけても答えてくれなかった姫巫女は、閉じられていた瞳を開きその場に立ちあがった。
「おっそーいっ! あーあ、ちゃんと文字も勉強しておくんだったなぁ。そしたらすぐにシンと意思疎通が出来たのに。もう、なんでここって神官文字の本しかないのかしら」
  姫巫女はシンに思いっきり文句を言ってからぐるりと部屋を見渡した。多分、部屋をと言うよりは本棚を見たんだろうけれど。
  リムはシンと目が合うと、にっこりと穏やかな笑顔を見せた。
  扉の前にいるシンたちの方に歩きながら、姫巫女が自己紹介をする。
「あたしは晶族のリム。ちょっと特殊な能力持っててね。教会の連中に姫巫女として幽閉されてたの。シンが水晶を結界の外に出してくれたでしょ。最初は外に転移しようと思ったんだけど、この部屋にも結界張られてて上手くいかなくって。仕方ないから意識の一部だけ切り離して転移させたの。そしたら中途半端な意識の実体化しかできなくって、声が使えなくってさ。スイリのおかげで助かったよ♪」
  そう言って姫巫女はシンに向かってにっこりと笑った。それから、シンのすぐ隣に居るリムに近づいていく。
  姫巫女がリムに触れると、リムの姿が少しずつ透明になっていく。・・・そして最後には、リムの姿は完全に消えてしまった。
「なぁ、ちょっと質問良いか?」
  一連の作業が終ったところでシンが口を開いた。
「なぁに?」
「リムっておれが勝手につけた名前だろ? 本名はなんて言うんだ」
「リムが本名♪ その前は名無しだったから」
  リムは嬉しそうに笑った。
「あんたとこの水晶はどういう関係にあるんだ?」
  シンは、水晶を取り出してリムに差し出した。
  リムは差し出された水晶を手にとって、明るい口調で答えた。
「これはあたしの本体・・・っていうのかな? 晶族ってのは二種類あってね。水晶を守る役目を持つ人達と、水晶の化身そのもの。実体を持つ精霊とも言えるわ。あたしは後者の方で、常に一人しか居ないの。大地母神とこの世界の橋渡し役なの。
  教会の人達はある意味で精霊の長とも言えるあたしと水晶を人質に取ることで精霊を強制的に従わせて魔法を行使してるの。ついでに言うと機械のほうも水晶から情報を得てその技術を手に入れてる」
  扉の方で大きな音がした。羅魏が部屋から出ようとしていた。
  シンは慌てて止めようとしているが、ラシェルを探したいと言って聞きそうに無い。
  リムはクスリと笑ってモニタを見つめた。ラシェルはドキッとして視線をそらす。
  姫巫女・・・・・・――リムは、自分がここにいることに気付いているのだろう。
「行こう、ラシェルのところに。シン、聞きたいことまだあるかもしれないけど後でいい?」
  シンは仕方なさそうに頷き、四人は部屋から出ていった。



  中枢部には、セキリュティが切れたことにも気付かない二人の神官がいた。
  戦闘などロクにしたことが無いらしく、速攻で倒される。
「で、なんでこっちまで来なきゃならねーんだ?」
  とりあえず落ち着いたところで、シンが疑問の言葉を投げかけた。
  リムはにっこりと笑ってモニタのほうを指さした。
「あそこだと、彼が出て来れないの。あそこは外に通信できないから」
「彼? ・・・・まさか、ラシェル!?」
  彼という単語に羅魏が反応した。
(なんですぐにオレだって気付いたんだ?)
  ラシェルは疑問に思ったが、羅魏と水龍が自分がここに居ることを予測してシンと一緒に来たというならば納得も行く。
  二人とも、親しい人間以外にはとことん冷たい。水龍はリムと仲良くなっていたからまだしも、羅魏がシンの手伝いという理由でここに来るわけがない。
  さきほど姫巫女の・・・・・・リムの部屋で姿を見せなかったのは、あそこからは戻れないからではない。羅魏の前に出て行きにくかっただけだ。
  が、いつまでもここに留まるわけにも行かない。
「羅魏っ・・・さっきはごめん!」
  姿を現して速攻で謝った。時間を置いたら言えなくなりそうだったから。
  羅魏はきょとんとした様子で見つめ返した。そして言う。
「どうして?」
「さっきの羅魏のせいって奴。完全に八つ当たりだったから、さ・・・・・」
  ラシェルはどうも恥ずかしくて、羅魏から視線をそらした。
  羅魏は、にっこりと笑った。
「もう気にしてないよ」
  そう言って、羅魏はいくつかのキーを押した。
  受信先がなければ送信できない、通信回線さえ作れない不便な機械だが、その受信先を自分自信に設定することは羅魏には簡単なことだったろう。
  羅魏は機械自体には疎いが、自分の身体のことはよくわかっている。

  そうしてラシェルはやっと、なんだかとても久しぶりに感じられる自分の身体へと戻ることが出来たのだった。
  一連の作業を終えてふと隣を見ると、シンとリムも話終えて、こちらを待っていた。
「さ、脱出しましようか♪ ラシェル、出口わかるよね?」
  リムが問う。ラシェルは頷き、先頭を立って走り出した。




  教会から出てしばらく歩いた後、シンはスラムのほうに用があると言った。
  リムはラシェルにどうするか聞いてくれたが、どうやら自分は思っていた以上に現金なタイプだったらしい。
  あんなに帰るのが怖かったのに、いざ帰ると決めたら一刻も早く帰りたくて仕方がなかった。
  そうしてラシェルたちはシンと別れ、街を出て荒野へと来ていた。
「オレ、帰るよ。サリフィスに」
『・・・え?』
  唐突なラシェルの言葉に羅魏の驚きの声が聞こえた。
「今までさぁ、フィズが死んだ時にどうしようとか、そんなことしか考えてなかったんだ。でも、さ・・・バカみたいじゃないか。そんな先のことばっかり考えて、今の時間を無駄に過ごすなんて」
  ずっと胸にもやもやしたような物を感じながら旅をしてきたが、久しぶりにとてもすっきりとした気分だった。
『うん、帰ろう♪』
  羅魏も嬉しそうに答えた。
  と、そんな時だ。水を差すかのように水龍が割って入った。
「まったく、やっと気付いたか。だからおぬしは愚か者なんじゃ」
「はぁ?」
  毎度ながら、相手を挑発しているとしか思えない水龍の物言いにラシェルは思いっきり顔をしかめた。
「わしが何度も言ってやったというのに気付きもしないで」
「何を」
「おぬしの悩みの答に対するヒントじゃ」
  言われてみれば思い当たるふしはいくつかある。
  が・・・・・・・。
「そういうのはもっとわかりやすく言ってくれよ!!」
「何を言っておる。わかりやすく言ってしまってはおぬしの成長の妨げになるじゃろう」
  売り言葉に買い言葉。この口喧嘩はしばらく収まりそうもない。
  そう思っていたところで羅魏の静止の声がかかった。
『あのさぁ・・帰るなら早く帰ろうよ・・・』
  その声に喧嘩は一時止まり、一瞬の沈黙は笑い声へと変化する。
  ひとしきり笑ってから、水龍に質問をした。水龍はどうするのか、だ。
「なぁ、水龍はどうするんだ? 深樹に帰るならそっちに寄るけど」
  ラシェルの問いに水龍はふっと笑った。
「何を言っておる。わしはおぬしと行くと決めたのじゃ。おぬしのように面白い奴はそうはおらぬからな」



  夜がふける。
  月が夜空に輝き、星が瞬いている。
  ラシェルはそっと目を閉じた。
  思い浮かべるのは懐かしい生まれ故郷。
  そして、荒野にあった二つの人影が静かに消え去った。

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