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 IMITATION LIFE〜第4章・二人の…… 0話 

「ここがおぬしの生まれ故郷か。なかなか良いところじゃな」
  十数年振りにサリフィスの地に戻り、ラシェルはどこかそわそわと落ち着かなかった。
  街のほうを見ると昔に比べてずいぶんと発展していることがわかる。けれど街が森を破壊しすぎることもなく。
  旅の途中で出会った少女――水龍(すいり)は、その辺りを見て良いところだと言ってくれたのだろう。
『どうしたの? 早く帰ろうよ』
  目的地はミレル村。いつまでも動かないラシェルに羅魏が声をかけてきた。
  ばつの悪そうな顔で、それでも動かないラシェルに水龍がふっと笑いかける。
「まるで家出して帰るに帰れない子供じゃな」
  むかっ! ときたが、本当のことなので何も言い返せなかった。
  ラシェルは、これ以上何か言われる前にと、のろのろ歩き出した。




  当方大陸北方の小さな村・・・・・・そこは昔とほとんど変わっていなかった。すこしばかり家が増えたくらいだろうか。
  村のはずれ、森のそばにラシェルの家はある。とりあえず家の前まで来たものの・・・・・・。
  なかなか入る勇気が出なかった。
  何年も留守にしている間に誰かが住んでしまっていたら? そうでなくても、手入れする人がいない家は老朽化してボロボロになっているだろう。
  後ろで、人の足音が聞こえた。
  慌てて後ろを見ると、長い髪をポニーテールにした二十歳前後の女性が居た。
  女性は目を丸くしてこちらを見つめている。
「あ゙・・・いや、怪しいもんじゃなくって・・・えっと・・・・」
  女性は動かない。
「その物言いは余計に怪しくないかのう?」
「咄嗟に出てきたんだから仕方ないだろ」
  自分でも怪しまれるようなことを言ってしまったと自覚している。
  騒ぎにはしたくなかったのでとにかく逃げることにした。幸いにも女性はまだ固まっている。
  くるりと回れ右して脱兎のごとく逃げ出した。
「あっ!」
  慌てたような女性の声。
「ルゥ、追っかけて!」
(ルゥ?)
  聞き覚えのあるその名前に、ラシェルは後を振り返った。
「きゃぁぁぁ〜〜〜〜〜、いきなり止まんないでよぉっ!!」
  しかし聞こえた声は、予想に反して甲高い少女のものだった。振り向きざまに見えたのは、背中に半透明色の羽を持つ小人・・・フェリシリア。
  少女は慌ててブレーキをかけるが間に合わず衝突する。ラシェルは、落ちかけた少女を手で受けとめた。
  女性も、あとから走って追いかけてきた。
  ラシェルの正面で立ち止まったが、かなり息があがっている。
「あーもう、運動不足だぁ。ラシェルさんもひどいよ。いきなり逃げるんだもん」
「へ?」
  ぽかんと聞き返すラシェルに対して、女性は苦笑した。
「わかんない?」
「オレのこと知ってるのか?」
  女性はくるりと回転しながら自分を見て、それからラシェルの方に視線を戻した。
「あたしマコトだよぉ」
「は!?」
  言われてみれば面影はある。自分がここを出てから十年とちょっとくらい。年齢も合う。
「マコト・・・?」
  呆然と呟いた一言にマコトはにっこりと頷いて。それから、マコトはフェリシリアの少女をラシェルの前に引っ張ってきた。
「ルチカ、この人がラシェルさん」
「この人が・・? マコトってば褒めちぎるんだもん。もっとかっこいい人かと思ってた」
(・・・・・・悪かったな)
  口には出さないでおいたが、多分顔には出ていただろう。
  水龍は大げさなまでに笑い出した。
「正直じゃの。おぬしのような者は嫌いではない。わしは水龍。よろしくな」
「ありがと。あたしはルチカ。よろしく♪」
  なぜか二人で交流を深めている間に、ラシェルはマコトに質問した。
  今のこの世界の状況などである。
  ラシェルがいなくなった三年後、東西の交流が復活しサリス島は昔のように海路の中継点として、高レベルの魔機技術を持つ都市として発展していった。
  マコトはその自治の中心ともなっている中央研究所の職員として働いているそうだ。
「自治の中心が中央研究所って・・・・」
  普通は役所とかでは・・?
「なんか昔の名前そのまま引き継いじゃったみたいだから。ただリーダーがリーダーだからね。街の治世もやってるけど研究やめるのは無理みたい」
「誰がリーダーやってるんだ?」
「キリトさんとフィズさん」
  さらっとした調子でマコトは答えてくれた。
  まぁキリトはわかるとしよう。性格的にもそういうのに向かないとは言わない。
  が!
「フィズが・・・? 大丈夫なのか・・?」
「上手くやってるもん。大丈夫なんじゃない?」
  そうして、マコトはまた続きを話してくれた。
  アリアとセシルは、西大陸で魔術師として名を馳せている。
  ルシオはすでにこの世を去っており、さっきルゥと呼んでいたのはルチカと言うフェリシリアの女の子。
「ルシオはねぇ、あたしのお兄さんなのv」
  いつのまに自己紹介を終えたのか、たった今紹介してもらったばかりにの少女、ルチカが横から口を挟んだ。
「どういう意味だ?」
  もともとフェリシリアと言うのは高い魔力を宿した花から生まれる。血のつながりなどないはずだ。
  ラシェルの疑問に気付いたのか、ルチカが簡単にだが説明してくれた。
  フェリシリアというのは花から生まれて花に還る種族なのだそうだ。
  具体的に言えば、死んだ後のフェリシリアの遺体は種子に変化する。その種子から芽吹く花はフェリシリアが生まれる確率がとても高いのだそうだ。
「それでお兄さんってわけか」
  なんだかお兄さんというよりはそれならお父さんじゃないのか? という気もするがそれは突っ込まないでおく。
「とにかく行こう? フィズさんが待ってるよ♪」
「・・・・・・・・・・」
  一通り話し終えて、まだいくつか聞きたいことはあるものの、マコトはとにかくリディアに行こうと言い出した。
  思わず黙り込んだラシェルに、マコトが不思議そうな顔をした。
「どしたの? ラシェルさん」
  横でそのやり取りを見ていた水龍が呆れたように言った。
「まったく、逢いたいから帰ってきたのではないのか?」
  確かにその通りだ。その通りだが、会いにくいものは会いにくい。
「ほれ、さっさと行くぞ。で、その島とやらはどこじゃ?」
  水龍はラシェルの意見など聞く気はないようだ。一応抵抗してみたものの、外見に似合わぬ強い力に引っ張られ、渋い顔でサリス島に向かうこととなったのであった。




  大きなビルが立ち並び、車が行き来する。リディアはとても賑やかな街だった。
  ただしそれは街の中だけのことで、一歩外に出れば怪物も居るし、そこは昔見た寂れた大地のままだった。
  マコトは先に立って中央研究所へと案内してくれたが、ラシェルはその場所をだいたいわかっていた。
  以前来た時とは地形が全く変わってしまっているが、研究所の大まかな位置はわかっているのだから。
  研究所は以前とまったく変わっていなかった。
  マコトはさっと扉を開けてくれたが・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
  ラシェルはそこで立ち止まる。
「ほれ、何をやっておる。さっさと行くぞ」
  ラシェルの都合などおかまいなしに、水龍はラシェルの腕を引いて中に突入していく。
「おいおいおいっ。ちょっと待ってくれよ」
「待っていたらいつまでたっても進まぬであろう?」
  ぽかんとそれを見つめているマコトは無視してずんずんと先に進んでいく。
  最初の分かれ道で振り向いた。
「で、どちらに向かえば良いのじゃ?」
「・・・あっち」
  傍若無人な水龍に圧倒されながらもマコトは目的地を教えてくれた。


  そうして、研究所の一番奥。
  そこにラシェルはやってきた。ここも十数年振りだ。
  緊張の面持ちで、ラシェルは奥の部屋に続く扉を開けた。



  ・・・・・・扉の向こうには一番逢いたかった人がいた。

  だが、素直にただいまとは言い辛かった。
  あんなに逢いたかったのに、いざ本人を目の前にすると言葉が出ない。
  水龍に子供だと言われるのも仕方ないかもしれないと、顔には出さず心の中で苦笑した。
  でも原因の一つはフィズの方にもあると思う。思いっきり不機嫌なのだ。
  しかしいつまでも沈黙しているわけにもいかないと、恐る恐る声をかけてみた。
「あ・・・あの・・・」
「なに?」
(うっ・・・・・刺々だ。キリトもフォローしてくれたっていいのに・・・・)
  しかし!
  キリトもマコトも、水龍すらもなんの口出しもしてくれない。
  また沈黙が流れる。
「・・・・もうっ! なんで黙ってるのよ。なんか言う事あるんじゃないの!?」
  沈黙に耐えられなくなったのか、フィズが叫ぶ。
  それでなんだかいつもの調子を取り戻せた。ラシェルも負けじと叫び返す。
「フィズがあんまりにも怖い顔してるから何にも言えないんだよっ!」
  そこまで言ったところで口篭もる。そして・・・、
「そりゃ・・・ずっと帰んなかったオレも悪かったけどさ」
  ラシェルは少しばかりフィズから視線を逸らして言った。
  フィズは苦笑して小さく息を吐いてから小さく笑った――・・・・・・とても、嬉しそうに。
「お帰りなさい、ラシェル」
  そうして、拗ねたような口調で付け足した。
「・・・・・・・ずいぶん遅かったけど」
  その可愛い仕草に、ラシェルは照れたような笑いを見せた。

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