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 IMITATION LIFE〜第4章・二人の…… 1話 

  平穏な日々が続いた。
  このサリフィスの地で、昔と同じように考古学者として遺跡を巡る毎日。
  リディアの技術が復活したのなら、考古学者の仕事なんてないのでは・・・・・・という心配もあったが、それは杞憂だった。リディア最盛期の前にも文明は存在していたのだから。


  ほぼ毎日の様にどちらが表に出ているかで羅魏ともめたが、それすらも楽しく感じられた。
  そんなある日、ラシェルと羅魏はキリトに呼び出された。どうやら二人のやり取りを見かねてのことだったらしい。
  ラシェルと羅魏を別々の身体にしてくれるという申し出に、二人は喜んで頷いた。
  しかし、ラシェルには一つの不安があった。先のことは考えないと決めて帰って来たものの、やはりそれはことあるごとに思い出される。
  ・・・・・・寿命のことだ。
  羅魏の核はこの身体から離せないため、ラシェルに身体を造る事になると聞いた時――ラシェルは、思い切ってその不安と疑問をぶつけてみた。



「なぁ・・・オレに寿命を造れないのか?」
  ラシェルはまっすぐにキリトを見つめて尋ねた。
  キリトが俯いて黙りこむ。・・・・・・数秒の沈黙、そして、
「すまない・・・・・・今の技術では無理だ」
  キリトの答えにがっくり肩を落としたその直後、「今の」という単語にひっかかった。
「・・・・・・昔なら、できたのか?」
  尋ねたラシェルに、キリトはゆっくりと口を開いた。
「ああ。そうだな・・・ラシェル君の身体の構造から話した方が良いかもしれない」
  キリトの話を要約するとこういうことだ。
  ラシェルに限らず、ドールとは身体と核――人の脳に当たる部分だ――の二つの構成からなっている。
  長い時を生きるために、正体のわからぬ怪物と戦うために、羅魏の身体にはいくつもの自己修復装置がある。
  ラシェルはその能力を使いこなせていないために羅魏に比べると回復速度が遅くなるが、それでもその自己修復装置は身体のあちこちに十いくつもの数が設置されている。もちろん、老朽化した部分も直してくれる。
  全く違う身体を造ろうとしても、ラシェルの核は性能が良すぎる。今の羅魏の身体をそのまま複製するしかラシェルに身体を造る方法が無いのだ。羅魏の身体をそのまま複製すれば、当然その身体は羅魏とほぼ同じ性能・・・つまり、半永久的に生きることになるのだ。
  そして、例え寿命を持った身体をラシェルに造ることができたとしても、核は半永久的に存在する。ドールの本質は核であり、身体が無くても核が存在すればその意識も存在するのだ。
  核に至ってはさらに難しい。核には高度のプロテクトがかけられている。今の技術では核に細工はできないし、破壊することすら難しいだろう。
  唯一の可能性が魔力切れによる記録の消失だが、光が全く当たらぬところでも一年以上は保つようになっている。しかも、魔力が戻った際に記録が修復される可能性もあるのだ。



「そっか・・・」
  ラシェルは俯いて、小さく呟いた。
  多少は期待していただけに、ショックは隠しきれなかった。
  けれどそれでも初めて羅魏と面と向かって逢える喜びもあり、またキリトに対する気遣いもあり。
  ラシェルは顔をあげて、明るい笑顔を見せた。








「おっはよう、ラシェルさん♪」
  目を覚ますと、そこは中央研究所の一室にあるベッドだった。
  元気に声をかけてきたのはマコト。とてもじゃないが二十歳過ぎとは思えない口調だ。
「・・・ここは?」
「中央研究所」
「それはわかってる。オレが聞きたいのは、中央研究所のどこかってこと」
  さらっとわかりきった答を返したマコトにラシェルは疲れた調子で言い返す。
  これが昔の・・・・・・良く知った十歳のマコトならば別にどうということもない。が、二十歳過ぎの女性にこういうった物言いをされるとどうも精神的に疲れる。
「最上階のあたり。ここって部屋数多くって。あたしも普段使うとこ以外はあんまし覚えてないんだ」
  こういう施設ならば、部屋の前にその部屋の名前を記したプレートなんかがあると思うのだが・・・。
  辺りをぐるりと見まわしてみると、そこはベッドがあり窓があり棚がある普通の部屋で、多分研究員が泊まりこむ時などに使うんだろう。
  そうしてその時に気付いたことが一つ。
「なぁ、ルチカって言ったっけ。あの子は一緒じゃないのか?」
  ルシオとマコトはいつも一緒だった。だからこそそんな風に思ったのだが、マコトはその質問に穏やかな笑みで答えてくれた。ラシェルが覚えていたマコトからは想像もつかない、大人びた表情。きっとラシェルがいない間にも色々あったのだろう。
「あの子は、普段はフェリエ村ってとこに住んでるの。時々遊びに来てくれるんだ」
  それだけ言うとマコトは、自分の持ち運び式コンピューターを起動させてなにやら作業に入ってしまってった。
  フェリエ村と言う名前は聞いたことがある。二年ほど前に出来たばかりの小人の村だ。
  そこまで考えたところでとりあえず当初の目的を思い出す。
(・・・この部屋って、どこだったっけ?)
  部屋の外に行けば貼ってあると思われるプレートを見るためにベッドから降りた。
「・・・あれ?」
  別に何か動きにくいとかそう言うわけではない。が、何か違和感を感じた。
「まだその身体が馴染んでないせいだよ。二、三日もすれば慣れるんじゃない?」
「え゙っ?」
  聞き返したラシェルに、マコトはぷぅっと頬を膨らませた。やはり二十歳代の女性の行動には見えない。
「仕方ないじゃない。いくら羅魏の身体を複製したって言ったって、昔と同じようにはできないんだもん。とにかく、今までとは違うから気をつけてね」
  言われなくてもラシェルだってわかっている。
  身体の持つ性能のこともそうだが、羅魏がいないと言う事だ。
  羅魏がいたからこそ簡単に出来た事というのが結構あったはずだ。ラシェルが自覚してるのは以前異世界で見た、文字や言葉の解析能力。あれは自分にはできない芸当だ。
  きっと自覚していないだけで、そういうことは他にもあるだろう。
「そういえば・・・羅魏は?」
「羅魏はキリトさんのとこで暮らしてる。ラシェルが起きるまでここで待ってるって言ってきかないんだもん」
  そう言われてはたと思い出した。自分はどのくらい眠っていたのだろう?
  自分の感覚では、キリトに呼び出されてからほんの数日程度。
「あのさぁ、オレ――」
  言いかけた時だ。自分を呼ぶ賑やかな声と共に扉が開いた。
  扉の向こうには十歳前後の少年が立っていた。
  ラシェルはぽかんとした様子でその少年を見つめた。青い髪、赤と銀の瞳・・・・幼い頃の自分そのものだ。
「もしかして、羅魏・・・か?」
  少年――羅魏はにっこりと笑って頷いた。
  それから・・・・多分照れているんだろう、顔を赤くしながら言う。
「えっと・・・こういう場合ってやっぱり「はじめまして」なのかなぁ・・」
  ラシェルは一瞬どう反応してよいものやら固まってしまったが、それもすぐに笑いへと変わる。
「今更「はじめまして」もないだろ?」
  ほとんど大爆笑と言っても良いその笑いに、羅魏は口を尖らせて言い返す。
「そうだけど・・・この一ヶ月、僕いろいろ考えてたんだよ? でも実際に目の前にしたら言いたいこと言えなくなっちゃったんだよ」
「一ヶ月!?」
  羅魏の発した一ヶ月という言葉に思わず大声で聞き返す。
  その声に先に反応したのはマコトの方だった。
「あれ? 言ってなかったっけ」
  きょんっとした表情で問うマコトにラシェルは大きく首を横に振った。
「聞いてない、聞いてない」
  マコトは苦笑して軽く謝った。ラシェルはそのことについてとやかく言うつもりはなかったので、それ以上突っ込まなかった。が、それよりさらに気になることが一つ。
「・・っつーかさ、なんで羅魏その姿なんだ?」
  そう聞くと、羅魏はばっと顔を逸らしてあさっての方を見た。
  なにかまずいことでも聞いたのかと思ってしまったが、そのあとの羅魏の口調を聞くとそうではないことがわかった。
  それはどちらかと言えば・・・・・・拗ねている感じだ。
「だって・・・変化できなくなっちゃったんだもん」
「・・・・・・・・は?」
  目を点にして聞き返すラシェルに羅魏は勢い良く顔をあげ、怒ったような、ばつの悪そうな表情で言い返してきた。
「だからぁ・・・、前にも言ったよね。年齢による身体の変化はラシェルのための機能だって」
「あ、ああ」
  羅魏の勢いに押されるような形で相槌を打つ。
「その変化のためのデータはラシェルの核の方にあったみたいで・・・だからラシェルと別々になっちゃったから変化できなくなっちゃったのっ!!」
  ラシェルだけではなく、マコトのほうからも冷たい空気が流れる・・・・・・。
  マコトは呆然とした面持ちで言った。
「だったら先に変化しておけば良かったのに・・・・」
「・・・・だってこんなことになると思ってなかったんだもん。もういいよ、別に」
  拗ねたような口調で言う羅魏に、ラシェルはまた爆笑した。

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