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 IMITATION LIFE〜第4章・二人の…… 5話 

  走っているうちにいつのまにか街を出て、人気のない荒野に来ていた。
  まだ復興の成されていない場所・・・・。
  風に煽られ砂が舞う。その砂埃の向こうに人影があった。
  こんなところに居るなんて誰だろう?
  ラシェルは走るスピードを落とし、歩いてそこに近づいた。砂埃が消え、そこに見えた人物・・・・それは、レオルだった。まるでラシェルを待っていたかのように・・・・。
「レオル? なんで・・・死んだはずじゃ・・・」
「最後の一人ですよ、私は。君に散らされ、アルテナに消されたカケラの最後の一つ」
  ラシェルの瞳に憎しみと憎悪の色が現れる。証拠はないが確信はあった。
  フィズが、誰に操られていたのか・・・・・。
  キリトとアクロフィーズの話からすれば、フィズを造ったのは当時のキリト、つまり、レオルだ。
「フィズをあんなふうにしたのはてめぇか?」
  銃を取りだして、レオルにその銃口を向けた。レオルは余裕の笑みを返してくる。
「ええ。最後の悪あがきですよ。今の私の力ではもうラシェル君にすら勝てないでしょうけどね。アクロフィーズのことは誤算でした。まさか生身の人間が四千年もの時を過ごせるとは・・・さすがは最高の魔術師といったところでしょうか」
  レオルは楽しそうに笑ってこちらを見つめた。
  その笑い方にどこか違和感を感じた。レオルはこんなふうに笑うやつだったっけか・・? けれど、どこかで見たことのあるような表情。

  どこで・・・・・・?

「まだ、思い出してないようですね・・・。あなたは知ってるはずですよ? 私の正体も、この世界の歴史の全ても。
  本当は、羅魏のことなどどうでも良かったんです。最初から私の目的はあなたにしかなかったのですから」
「何を言ってるんだ・・・・?」
  レオルが何を言おうとしているのかよくわからなかった。
  もうラシェルにすら勝てないと言いつつ、その表情は余裕たっぷりで・・・。
  ラシェルの疑問を意に介せず、レオルは言葉を続けた。
「この世界にはずっと”新たなる魂”が生まれませんでした。すでに数億年を待っているというのに、です。そこで私はアルテナに提案しました。自分たちで”新たなる魂”を作り上げないか、と。私の目的は新たなる魂を吸収し、”管理者”を殺せる力を手にすること。アルテナの目的は新たなる魂を”女王”の元へと連れて行くこと。
  二人とも、”新たなる魂”は必要だったんです。
  ”新たなる魂”は人の手によって造られた器・・・・人工生命にしか宿らないという特性を持っています。普通の器は生まれた瞬簡から”女神”によって創り出された魂を持っていますから、新たなる魂が入りこむ余地など無いのでしょう。
  私は当時一番文明が発展していたサリフィス世界に訪れ、何人もの学者の身体を乗っ取り、感情を持つドールの研究を始めました。キリトもその一人です。
  感情を持つ人工生命――それが、新たなる魂が生まれる条件ですから。
  実はあなたの前にも、なんの人格も与えないドールに成長環境で人格を創り出させるという事をやっていたのです。けれど当時の人間は皆ドールを道具として見ていた。故に、どのドールも感情が乏しくなってしまったんです。羅魏もそうでした。
  そうして、私たちはその時代で感情を持つドールを造ることを諦めたんです。
  闇を打ち倒すという目的で作り上げられた羅魏は、最強とも言える能力を持っていました。その事実を利用して、私たちは羅魏を封印するように仕向けました。あの予言はアルテナが視せたものです。
  そしてリディアの文明を一度破壊し、ドールというものへの認識を下げました。
  私は、アルテナに隠れてあなたを造ったんです。どうせ普通に戦ってはアルテナに勝てない事はわかっていましたから。
  勝てなければ、新たなる魂はアルテナに取られる。ならば二つめを造ってしまおうと考えました。確実に感情を与えるために、自分をドールと認識しないドールを造ったんです。
  けれどキリトは、羅魏を強く造りすぎた。あなたの魂はアルテナ以上の能力を持って生まれた。私では勝てなくなることもわかっていました。だから、あなたを殺せる道具も造っておいたんですよ」
「一体何が言いたいんだ!」
  ここまでが限界だった。
  レオルの目的、行動。そんなものを聞いたとて別にどうということはない。
  でも、フィズのことは聞きたくなかった。

  ・・・・・・レオルは、言葉を止めなかった。


「彼女の深層意識に細工をしましてね、私の命令で彼女はあなたを殺します。そして、あなたはフィズに攻撃できない」
「どうしてそんなことが――」
  聞こうとしたその瞬間にハッと思い立った。
  どうしてラシェルにはアクロフィーズを殺せないとわかっていたのか。
  自分は、いいように振りまわされていたのだ。そう思うと悔しくて涙さえ出てきそうだった。
  ラシェルが言いたいことを、レオルは理解しただろうか・・・・・・。
  レオルは何も言わなかった。ただ、笑っただけだ。それは肯定の笑みだった。そして呟く。
「あなたは自分に好意を寄せている人間を無下にできるタイプではないでしょう?」



  荒野に、音が響いた。

  静かで・・・哀しげな銃撃の音が、尾を引いて風と共に流れて行く・・・・。


  ラシェルはいつもはめったに使わない弾丸銃の引き金を引いていた。もちろん、その程度の武器ではレオルを傷つけることはできない。ラシェルもそれはわかっていた。ただ、怒りのぶつけどころがほしかっただけだ。
  レオルは、そのラシェルの行動を面白そうに見ていた。
  ラシェルは、にやにやと笑うレオルを前に動けなくなっていた。
「もっと強くなってください・・・今のあなたでは、まだダメだ」
  レオルは冷たい口調でそう告げた。
  同時に、赤い、色が見えた。
  レオルの姿に重なってチラチラと見える、赤。
「お前・・・・・・」
  何故いきなり自分の目的を話し始めたのだろう。
  何故、昔の話を聞かせるのだろう・・・?
  答えは、もう、わかっていた。

「万里絵瑠・・・・・?」

  呟いた瞬間、レオルの表情が変わった。
  このうえなく嬉しそうな――それでいて、その笑みからは嫌な感覚しか得られなかった。
  クスクスと、レオルの外見にはまったく似合わない、無邪気な笑みを浮かべる。
  レオル――いや、万里絵瑠は、何も言わない。
  ラシェルは、なにも言えなかった。
  だって自分でもわからないのだ。
  何故、万里絵瑠という存在と名前とを識っているのか。


「そこまでですのっ!」
  突如、沈黙が突然破られた。
  目の前に、見覚えのある少女の姿が現れたのだ。そして、それと同時にレオルの姿が霧散した。
  ほんの一瞬前までそこにレオルがいた。その事実さえ嘘だったかのように、さっぱりと何もなくなっていた。
  死体さえ残らない・・・・・・。
「・・・・・・」
  ラシェルに背を向けて、目の前に立っている人物。
  アルテナの背を見つめて、ラシェルは呆然と呟いた。
「・・・・・・誰、だっけ」
  誰だっただろう。
  レオルの姿をしていた――だけど、レオルじゃない。
(あいつ・・・なんて名前だったっけ・・・・?)
  アルテナが、ゆっくりとこちらに振り返った。
  目があった瞬間、ふっと意識が切り替わる。
  会ったのはたった一回、それも短時間だけだが、忘れるはずもない。
  神だと名乗った人物・・・・・・・・先ほどまでレオルがいたその場所に、アルテナが立っていた。
「ラシェル君・・・・お久しぶりですの☆ 迎えに来ましたわ」
  彼女は、にっこりと笑顔を向けてそう言った。
「アルテナ。迎えってどういうことだ? それに――」
  ラシェルは、アルテナをキッと睨みつける。
  アルテナはそんなラシェルの態度などまったく無視するかのように、にっこりと笑って手を差し出した。
「もうこの世界に未練は無いでしょう? 私の住む世界にはラシェル君と同じ時を生きれる人がたくさんいますの」
  にこにこと笑っているアルテナ・・・・・けれどその瞳は妙に冷えているように感じられた。

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