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 IMITATION LIFE〜初期設定ver 4話 

 森の中に風の音が響く。
 ただし、それは自然の風ではなく魔法と呼ばれる、遺伝子操作によって生まれた古代の特殊能力者の力によるものだ。

「すっごーい。たった半年でなんでここまで出来るのぉ?」
 シフォーネが目を真ん丸くして言う。
 風を起こしていたのは封印の石を取り戻し、能力を取り戻したラシェル。
 封印の石を手に入れるのはもっと時間がかかるかと思っていたのだが、シフォーネがその場所の全てを知っていたおかげで半年ほどですべての石を手に入れる事が出来たのだ。
 そして、それから半年間は魔法の練習に時間を費やした。
「へへっ。ま、実力ってやつだな♪」
 感心した様に言うシフォーネに、ラシェルは得意げな笑みを浮かべた。
 でも、本当はもっと強くなりたかった。一年前と比べれば格段に強くなったが、それでも今の自分ではまだレオルには敵わないだろう。
 あれから一年・・・・ここ半年はずっと家に居る。いつレオルがやってきてもおかしくないのだ。
 そしてその懸念は今日、現実になった。
 自慢するような口調で言ったラシェルの言葉に、冷たい氷を思わせる声が重なる。
「使えて当たり前でしょう。それは元々貴方の力なのですから」
 シフォーネの表情が一瞬にして硬くなる。
「げっ・・・その声は・・」
 ラシェルは緊張感に欠けた口調で言って声のほうへと視線を向けた。
 今の自分ではまだレオルには敵わない。それがわかっていたから、怖かった。けれどそれをレオルに見せちゃいけない。
 結果、ラシェルはどこか冗談っぽい緊張感に欠けた口調になった。
「ここまで出来るようになるまではけっこう苦労したんだから、そんな風に言うなよ」
 レオルが冷たく笑う。
 本当のことですから、と短く言って嫌な笑みを見せた。
「で、しょうこりもなくオレを捕まえに来たわけか」
 そんなレオルの笑みに対抗するかのように、ラシェルは不敵に笑ってみせた。レオルに気づかれない様に気をつけてはいるが、その笑みはただの強がりであり、はったりだ。
 レオルは目を閉じ、静かに言う。
「ええ、その通りです。私はしつこいですから」
 ゆっくりと閉じた瞳を開けて、酷薄な笑みを浮かべた。目がちっとも笑っていない、口の端だけで作られた笑み。
「この前は不意をつかれましたが・・・・・。今日は前のようにはいきませんよ」
「そぉかな?」
 軽い口調で言って、首にかけたペンダントを確認する。すでに全ての封印の石を吸収したもう一つの”シフォーネ”。
 本来ならこれはエネルギー体の形でラシェルの体内(なか)にあるべきものだが、昔の技術が失われてしまった現在ではこれを元に戻す事は出来なかったのだ。
 この石が手元になければ能力を発揮出来ない。かなりのリスクだが、どうにもならないのだから仕方ない。
「オレは前より強くなったし――」
 ラシェルの右手に光が集まる。
 最初はぼんやりとした淡い光だったそれは次第に光度を増していく。
「今は魔法も使えるんだぜっ!」
 ラシェルの手から光球が放たれ、レオルに向かって飛んでいく。
 レオルは、避けようともしなかった。
 ・・・・どういうつもりだ?
 疑問に思ったが、勝手に自爆してくれるならこれほどありがたいことはない。
 だが、実際にはそうはならなかった。
 レオルは不敵な笑みを浮かべて右手を前に差し出す。そこで、光球が止まった。そのまま弾けて光球は小さな爆発を残して消えてしまう。
「なっ・・・・・」
 ラシェルだけではない。シフォーネにも驚きの表情が浮かぶ。
「あなたも・・・・・?」
 シフォーネの話によれば、魔法が使えるのは遺伝子操作を受けた人間だけ。そのほとんどはすでに殺されているが、殺せなかった数名は封印され、眠りつづけているはず・・・・・・。
「どんなに高い能力を持っていたってそれを使いこなせない今の貴方では私には勝てませんよ? ヴァルナ・・・・・・いえ、今はラシェル君でしたね」
 レオルが魔法を放つ。
 炎がラシェルに襲いかかってくる。
 ラシェルは、小さな結界でその炎を消失させた。ほっと一息ついたその直後、レオルがもう一発、魔法を放っていたことに気付いた。
 気づいた時にはその炎はもう目前まで迫っていた。防御が間に合わずに炎の直撃を受けてしまう。
 炎の勢いに押され、後ろに吹っ飛ばされる。砂が舞いあがり、レオルの姿が見えなくなった。
 いつ、攻撃してくるかわからない。ラシェルは急いでその場に立ちあがろうとした。
 その途端、ズキン! と、右足に強い痛みを感じてしゃがみ込む。血に隠れて傷の具合はよくわからないが、かなりの出血だ。軽い怪我ではないだろう。
 それでも、負けたくないというその一心でなんとか立ちあがった。
 砂埃が落ちつき、レオルの姿が目に映る。
 レオルは傷ついたラシェルを見て、楽しそうに笑っていた。
「けっこう丈夫ですね。ですが・・・その足では立っているのも辛いのではないですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 レオルの言葉に、ラシェルは沈黙で答えた。
 その通りだから何も言えない。せめて回復魔法を使えれば良かったのだが・・・。
 どうも回復魔法は苦手だった。ラシェルの今の能力では止血程度の魔法しか使えない。
「シフォーネっ!」
 はたと思いついたのは彼女のこと。ラシェルは彼女の能力をよく知らない。だから、もしかしたらという都合の良い考えが頭に浮かんだのだ。
 だが、ラシェルの呼びかけに答えてくれるはずの者は何時の間にか姿を消していた。
「おいっ、シフォーネ! まさか、一人で逃げた・・・?」
 もしかしたらさっきの魔法の余波で吹っ飛ばされて気絶してるのかもしれない。
 そう思い直して(逃げられたとは思いたくないし)レオルの方に向き直る。
 勝ちを確信したのか、レオルは一歩ずつ、ゆっくりとこちらに迫ってきていた。
 魔法を使おうとしたが、痛みがその集中を邪魔してしまう。まだ付け焼刃とも言えるラシェルの能力では、痛みを振りきってまで魔法に集中することはできなかった。
 レオルが目の前にまでやってくる。一歩引こうとして足の痛みに顔をしかめた。
「その足では動くに動けないでしょう?」
 酷薄な笑みを貼りつけたままのレオルの手が、ラシェルの額に触れた。


 ――え・・・・?――
 一瞬にして視界が闇に染まる。
 何が起こったのか理解できなかった。


 声が、聞こえた。
 今では傍に居るのが当たり前になってしまった機械の少女。
 それから・・・・・どこかで聞いたような気がする、シフォーネとは違う少女の声。
 どこから聞こえてくるのだろう。そう思って視線をめぐらす。けれど周囲は闇色に染まったままで、何も見えない。
 そして、気付く。
 それが外から聞こえてくる声ではなくて、内側から聞こえる声だということに。
 ――これは・・・記憶だ・・・――
 どんなに考えても思い出せなかった昔の記憶。
 それが今、ラシェルの意思に関係なく頭の中で再生されている・・・・・・。

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