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 IMITATION LIFE〜大地の歌・巫女救出編 1話 

 今、シンの目の前には荘厳なる巨大な建造物がある。
 街の一区画分は占領しているであろうその建物はいくつもの棟に分かれ、そのすべての棟に、空に向かって聳える高い塔が存在していた。

 時刻は真夜中。
 そんな時間でもここは人が絶えることはない。
 数時間ごとに人が入れ替わり、一晩中警戒がなされている。が、しかし。シンにとってはその警戒はなんの意味も持たないものだった。
 何故なら、彼はすでに完璧に近い見取り図と配置図をその頭に叩き込んでいたから。一月以上を掛けて調べ上げた神殿の内部事情だ。
 シンは不敵な笑みを浮かべ、彼らの交代の時間を見計らって中に進入した。
 神殿は、中もまた豪華だった。
 これが信者からのお布施・・・・いや、民から徴収した金で成り立っているのかと思うと吐き気がしそうだった。
(・・・建物キンピカにする金があるなら孤児やスラムをなんとかしろっての)
 物心ついたころにはすでに親は無く、孤児としてスラム街で育ってきたシンはことさらにそう思った。誰だって迫害なんてされたくない。それが自分に理由のないことならなおさらだ。
 シンは眉をしかめてざっと周囲を見渡し、目的の場所へと向かった。
 目的地は地下。
 ご神体を納めているのなら聖堂とかいう名前がつきそうな気もするが、その名は玄室――棺を収める部屋。
 どこまでが本当だか知らないが、神話が真実なら確かにご神体の水晶は棺とも呼べるかもしれない。
 大昔、この大陸に星が落ちてきたそうだ。誰もが世界の終わりだと思ったその時、一人の少女が不思議な力を持って星を止め、少女は力を使い果たし眠りについた。要約するとそんな感じの話だ。
 その眠りが”永遠の眠り”と言う意味ならば、その水晶は確かに棺と呼べる。
「おっ・・・」
 地下へ地下へと降りるシンの目に、一際大きな扉が映った。
 上のような豪華さはないが、そのぶん荘厳で神秘的な雰囲気が漂っている。
 手に入れた情報が正しければ、そこには二つのご神体が眠っているはずだ。
 一つは、守護神として祭られている少女の化身とされる水晶。
 もう一つは、この世界のすべての種族を記した書物、”礎の書”。
 この世界には数百以上の種族がいると言われている。しかし教会は人族以外の種を認めず、それらはすべて魔族として一括りにされてしまっている。人族であっても教会に従わなければ・・・・・・教会の管理下から外れていればそれは魔族とされ、迫害の対象となった。
 シンも人族でありながら魔族とされている一人だ。
 シンはスラム街の出身。シンのように生まれが定かでない者は神殿の定めた身分階級のどこにも属すことができず、そういった者同士の集まった街か、普通の街の一画にそういった者達の縄張りを形成してそこで暮らしている。
 シンは親の顔も知らない。親が残してくれたものと言えば唯一この名前くらいだ。
 神殿は四と言う数字を神聖視する傾向にある。それは名前にも現れていて、子供の名前の綴りは必ず四文字になるようにと定められていた。
 そんな決まり事になんの意味があるのかわからないが、要は確認したいだけなのだろう。
 ・・・・・・自分達が支配者なのだと。





 辿り着いた玄室の扉には、鍵もなにもかかっていなかった。
 こんなところにまで侵入者が入り込むとは思っていなかったのだろうか?
 とにかく、シンは扉を開けようとそれに手を掛けた。
 が、
「う〜〜〜〜っ」
 ・・・・・・開かない。
 今度は引いてみる。
「こんのぉぉーーーーーっ!」
 やっぱり、開かない。
「まさか引き戸だってんじゃないだろうなぁ・・・」
 しかしやはりその扉は開かなかった。
 最初は鍵がかかっていないのかと思ったが、もしかしたら魔法で鍵をかけているのかもしれない。
「ま、それならそれで手はあるけどな」
 軽い調子で言うと、シンは荷物の中から小さな石を取り出した。以前盗み出したもので、魔力中和の効果を発する石だ。ただし一回使えばこの石は力を使い果たし砕けてしまうが。
 ここで使わずいつ使う!
 ガッツポーズを作って気合を入れてから、石の発動を念じる。
 石から淡い光が漏れ始めた。それは少しずつ強くなっていき、さすがにこれはまずいんじゃと焦り始めた頃、光は一直線に扉に向かって吸い込まれていった。
 あとにはボロリと崩れ砂と化した石と、先ほどと変わらぬ様子で佇む扉。
 シンは、ゆっくりと扉を押した。扉は静かに開き、その奥に祭壇が見えた。
 祭壇は一つ。扉から階段に向かって道があり、その道の先に祭壇があった。
 一段一段階段を昇る。祭壇の上には丁寧な作りの石棺に小さなひし形の水晶が乗せられていた。
「これが、ご神体・・・?」
 手にとってしげしげとそれを眺める。

 ――我は礎たる者。すべての足元に在るもの――

 慌てて視線をめぐらすがそこには誰も居ない。居るはずがないことはわかっていた。
 それは声ではなかったから。耳から入る言葉ではない。精神感応のように頭に直接響く声とも違う。
 例えるなら・・・・いきなり頭に文字が浮かんだ・・・そんな感じだろうか。
 言葉の意味を聞き返したかったが、今ここに長居するのは得策ではない。
 水晶の疑問はとりあえず置いておいて、とにかくまずは外に出ることにした。
 すでに空が白み始めていた。
 夜が空けたらどっと人が増えるし、そうなったら出るに出られなくなってしまう。
「あとでたっぷり質問してやるさ」
 シンは水晶を懐に仕舞い込み、来た時と同じように神殿を出て、そのまま街からも立ち去った。

 すこしだけ、後ろを振り返りながら・・・・・・。





「さぁって、聞かせてもらおうか。あんたが何者なのか」
 とりあえず街から数日ほど離れた荒野のど真ん中。シンはどっかと地面に座りこみ、懐から水晶を取り出した。
 ――我は礎たる者。すべての足元に在るもの――
 シンの問いに対して水晶はこの前とまったく同じ答えを返してきた。
「そうじゃなくて・・・・・・〜〜っ、なんて説明したらいいんだよ」
 水晶の答えはシンの聞きたいものとは違う。第一そんな言い方をされても、シンにはさっぱり意味がわからない。
 その後も何度も問いを繰り返したが、水晶の答えはどれも謎掛けのようで、シンにはまったく意味不明だった。
「・・・・・・くそっ。まぁいいや。どうせ売り払うんだから」
 とうとうその水晶への問いかけを諦め、ばたっと地面に寝転がると手を空に向けた。
 ・・・・・・月の光を反射した水晶が、とても綺麗だった。
 寝転がったシンの耳に、馬のひづめのような音が聞こえた。
「・・・・神殿の連中か?」
 取り越し苦労ならばそれでよいのだが、盗み出してからまだ数日。用心するにこしたことはない。
 シンは急いで荷物をまとめてその場を立ち去ろうとした。と、その時だ。
 水晶がするりと手を離れて地面へと落ちていく。
「げっ!?」
 慌てて受け止めようとするが間に合わず、水晶はカランと乾いた音を立てて大地に転がった。
 水晶には傷一つついていない。
「あっぶねー。結構丈夫で助かったな」
 シンは屈んで水晶を拾おうとした。しかしその直前、水晶から放たれた光でシンの視界が塞がれる。
「なっ!」
 突如発光を始めた水晶。
 シンにはそれを止める手立てなどなく、あの馬のひづめの音が神殿の連中ではないことを祈りながら、その光が消えるのを待つしかなかった。

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