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 IMITATION LIFE〜大地の歌・巫女救出編 5話 

 シンは自分の部屋に戻る前にリムの部屋に向かった。
 扉をノックするとすぐにパタパタという軽い足音が聞こえ、扉が開いた。
(居てくれたか)
 ほっと一息ついてリムを見た時だ。その向こうに少女が一人。
 肩までの黒髪と青緑の瞳を持つ少女。市場で会った、思いきりムカツク女だ。
「なんじゃ、その顔は」
 嫌悪を露にしたシンに対して向こうも不機嫌そうに答える。
「なんであんたがここにいるんだ?」
「リム殿と仲良くなっての」
「あっそ」
 リムがこの女と仲良くしたいならそれはそれでいいだろう。
 だがシンは、このムカツク女とこれ以上会話するのは面倒だった。
 短く味気ない返事を返して、さっさと自分の部屋に戻ろうとしたが、リムが服のすそを持って引きとめる。
「何?」
 聞くとリムはシンの服の裾を持ったまま部屋の中まで引っ張って行った。
 険悪な二人の様子に、リムは困ったように女の顔とこちらを順々に見る。
 そんなリムの様子を見て、シンは小さく息を吐いてからもう一度聞いた。
「リムは何がしたいんだ?」
「おぬしに頼みがあるそうじゃ」
 シンの言葉に答えてくれたのはリムではなく女の方。
「は?」
「おぬしの耳は腐っておるのか? ならばもう一度言おう――」
 彼女の声を遮ってシンはきちんと言いなおした。
「そうじゃねーよ。なんでリムが頼んでるなんてわかるんだ?」
 シンの問いを聞いて彼女はふっと笑う。見下した・・・・とまではいかないが、偉そうな態度であることは間違いない。
「リム殿の声は、おぬしのように肉体に頼りきった愚か者には聞こえぬ声じゃ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 あんまりと言えばあんまりな物言いに、さすがのシンも返す言葉が見つからず黙り込む。
「納得したようじゃな。では、わしは去る。おぬしはどうも気に入らぬでな」
「ちょっと待てよっ!!」
 まだ全然納得していない。頼みがあると言われたって、その内容がわからないではないか。
 リムもまだ行って欲しくはなかったのだろう。しっかりと彼女の服のすそを掴んで離さない。
「なんじゃ? まだ何かあるのか。わしはこやつは好かん。こやつが居ない時ならばまた来るぞ?」
 リムはぶんぶんと思いきり首を振ってから彼女を見つめた。
「ふむ・・・そう言われてみれば重要なことは話しておらぬの。こやつが好かんものでつい、な」
 リムの声が聞こえないシンには彼女の独り言のように聞こえてしまうが、彼女にはリムの声が聞こえているらしい。シンそっちのけで二人は会話を続け、数分後。
「頼みというのはな・・・・――」
 突如本題を話始めた。
(おいおいっ、いきなり話始めるなよ。こっちにも心の準備ってもんが・・・)
 二人が話していた間、シンはラシェルというかラギというか・・・・――このムカツク女は彼のことをラギと呼んでいたが、当人はラシェルと名乗ってるみたいだ――まぁとにかく、そいつのことを考えていた。
 最初に会った時と二度目に逢った時の雰囲気の違いも多少は気になったが、それ以上に気になったのは二度目に逢った時の彼の様子。
 シンは何度かそういう人間を視たことがある。帰りたいのに帰る場所が見つからない――そんなシンにとっては一番嫌いなタイプだ。
 ・・・・・・帰れる場所があるのに帰れないと思い込んでいる人間。

 こちらの都合などまるで無視して、彼女は頼み事の内容を話した。
「――姫巫女を盗んでほしいそうじゃ」
 彼女の説明は、一言で終った。
 シンの目が丸くなる。とりあえず今の言葉を頭の中で反芻する・・・・・・聞き間違いではないようだ。
「・・・・・・姫巫女を盗むっ!? 本気か?」
 大声を張り上げて聞き返すシンに、リムは静かに頷いた。
 その瞳は真剣そのもので、今まで見ていた子供っぽい、世間ズレしているふわふわとした雰囲気とは違う。どこか気品さえ漂っている。
 姫巫女といえば教会の最高位置にいる人間だ。
 シンが水晶を盗んできたあの神殿。教会の中心部となっている水晶殿のどこかにいるはずだが、多分厳重な警備の中に居るだろう。
 ・・・・それを盗む?
 それが物品ならばまだ良い。が、相手は人間。おとなしくついてきてくれるとは限らないのだ。
「無茶言うな! 人間を盗むなんてそりゃ誘拐だぜ?」
 リムの口が開く。しかしやはり、そこから言葉は聞こえてこなかった。替わりに、ムカツク女の方が口を開く。
「それでもじゃ。答えは急がぬそうじゃから、よく考えて答えを出せば良いじゃろう」
 シンに向かって言い放つと、リムのほうに向き直った。
「それではわしは戻る。暇ならまた明日話しに来る」
 リムはにっこりと笑顔で答えた。女のほうも笑い返す。
「まさかこのような地でわしの同類に逢えるとは思わなかったわ。あやつが金を貯めるまでの一ヶ月、暇をせずに済みそうじゃな」
 そうして、女の姿は中空へ浮かび、消えてしまった。
(・・・同類? ってことはリムは人じゃないのか?)
 突然現れたり、消えたり、浮かんだり。あの女は人族ではないだろうと思っていたが、リムのほうはどちらかわからない部分があった。
 ・・・・・・あれと同類という事は、リムも人族ではないということだろうか。そう考えると、水晶の”同一”という言葉の意味が少しだけわかった気もしないでもない。
 女が消えた後を見つめていたリムがこちらの視線に気づいた。
 にこにこと笑ってシンを見つめ返す。
 シンはおおきく溜息をついた。あいつの言っていたことが本当かどうかは知らないが厄介な頼み事である。
(姫巫女を盗め・・・・・・か)
 シンはぱっとその場に立ちあがり、横目でリムを見てからもう一度溜息をついた。
 言葉もかけずにその部屋から出る。今度はリムも止めなかった。




 自分の部屋に出て最初にしたこと。それは占いだった。
 全面的に信用しているわけではないが、その行動に対する決心がつかない時、どう行動していいのか自分でも迷っている時、参考として・・・あくまでも参考としてだ。占うことがある。
 昔、友人に頼まれて占った時は娼婦なんかよりもこっちを商売にすれば良いのにと言われたが、シンの占い方は商売としての占いには向かなかったのだ。
 例えば、初対面の人間の金運やら恋愛運やらを占えと言われたって占えない。その相手が自分にどう関わるかならば占えるが、その相手自身のことを占いたいなら相手のことを知らなければ占えないのだ。その辺によくいる占い師のように、名前や誕生日だけで占うなんて器用なことはできなかった。
 気づいたのは街頭の占い師のおねーさんと仲良くなっておしゃべりしていた時だった。
 いつそれを覚えたのか自分でもわからないが、気がついた時には占いに対する知識があったのだ。


 荷物の中からカードを取りだし机に並べる。
「ふーん・・・・」
 シンは頬づえをついて、出た結果を見つめた。


 死・・・というキーワード。けれどそれが何に対するものなのかはわからなかった。
 一番に思い当たったのが、リムの頼みを聞いた場合。シンは水晶を盗み出した前科もある。もし教会の連中に見つかったら確実に死刑だ。
(じゃぁリムの頼みを聞かなかった場合は・・・?)
 死に繋がるキーワードは思い当たらなかったが、”死”の対象がシンとは限らないのだ。
 占いをするにも判断材料が少なすぎたということだろう。せめて自分の行動を決めていれば、その”死”というキーワードが何に対するものなのか、わかったかもしれないが。



 リムの頼みを聞くか否か・・・・・・・・。

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