Web拍手 TOP幻想の主LIFEシリーズ

 IMITATION LIFE〜大地の歌・巫女救出編 8話 

 目の前に巨大な蛇のような者が在る。
 見たことも無い生物を目にして、シンは硬直したまま、それを見つめていた。
「何をしておる、さっさと行くぞ」
 それはスイリと同じ口調で、けれど全く違う声でそう言った。
「本当に・・・スイリ、なのか?」
「わしの姿が変化するのを目の前で見ておいて何を言う」
 その蛇もどきは呆れたような目をシンに向けた。
「・・・・・・・だって、姿も声も全然違う・・・」
 確かに目の前でその変化を見た。が、それにすぐに順応するのは少しばかり難しいことだった。
「愚か者め」
 蛇もどきはわざとらしく、大げさな溜息をついた。
「わしら龍族はもともと声を持たぬ。声を持った言葉でしか意思の伝達が出来ない者に対しても精神感応で話すが、そやつらはどうもその言葉を声に置き換えて聞いているらしくてな。おぬしが聞いておるわしの声はおぬしの勝手なイメージじゃ」
 ということは、スイリの声というのは聞く人間によってまったく変わってしまうのだろうか?
「早く行こうよ」
 考えこみ始めたシンにラギの声がかかる。
 シンは急いでスイリの背に乗った。


 スイリのスピードは速かった。徒歩なら一月近くかかるところを、ほんの半日で到着してしまったのだ。
 出発したのは日暮れ。その翌日の昼過ぎには教会の街につけたのだ。
 街から少し離れたところでスイリは少女の姿に戻った。
 シンはこの前と同じところから入るつもりだ。が、問題が一つ。以前作成した教会本部・・・・・・水晶殿の見取り図は、一階と地下は完璧だがそれ以外の場所は適当だった。水晶が地下にあることがわかっていたので、上の見取り図は作らなかったのだ。
 頭に入っている見取り図には姫巫女の部屋は無かった。多分上にあるんだろう。
 多少の心配はあったものの、リムに急かされそのまま教会に向かうことになった。
 向かった先は教会の裏口。以前もここから入った。昼間という事で見咎められず入れるか不安だったが、ラギとスイリはそんな心配をまったくしていないらしく、シンがいくら注意しても聞いてくれなかった。
 


 運良く、裏口までは見つからずに来れた。
「なんだこれ・・・・?」
 中の通路には電灯がついていた。まぁそれはいいとしよう。
 問題は、ついてるところとついていないところがあるということだ。いかにもこっちに来てくださいと言った感じだ。
「いいんじゃない? わかりやすくて♪」
 ラギはにっこりと笑ってたったか先に進んでいく。スイリ、リムもまったく不安は無いようだ。
「おいおい・・・罠だったらどうするんだよ」
 そんなシンの問いにスイリがこともなげに答えた。
「罠だったら? 罠を破壊すれば良いじゃろう」
 ・・・・・とんでもない力技だ。まぁスイリが何とかしてくれるならばそれでいいだろう。
 もう警戒することに諦めを感じ、シンは三人の後について歩き出した。


 歩くこと数分。教会の最上階までやってきた。
 最上階には扉が一つ。リムは迷うことなくその扉を開けた。
 その向こうにはそこそこ豪華な造りの部屋があった。
 窓は無く、変わりといってはなんだが、壁に窓のような形のものがあった。ただその窓もどきは真っ暗で、いったい何のための物なのかシンにはよくわからなかった。
 そして本棚と椅子、机、ベッドが一つずつ。
 奥のベッドに一人の少女が座っていた。少女はゆっくりと閉じられていた目を開く。
「おっそーいっ! あーあ、ちゃんと文字も勉強しておくんだったなぁ。そしたらすぐにシンと意思疎通が出来たのに。もう、なんでここって神官文字の本しかないのかしら」
 少女の姿はリムとまったく同じ姿だった。
 シンは慌ててリムを見る。リムはにっこりと穏やかな笑顔を見せた。
「あたしは晶族のリム。ちょっと特殊な能力持っててね。教会の連中に姫巫女として幽閉されてたの。シンが水晶を結界の外に出してくれたでしょ。最初は外に転移しようと思ったんだけど、この部屋にも結界張られててうまくいかなくって。仕方ないから意識の一部だけ切り離して転移させたの。そしたら中途半端な意識の実体化しかできなくって、声が使えなくってさ。スイリのおかげで助かったよ♪」
 言いながら姫巫女は、シンの目の前まで来てにっこりと笑った。それから、シンのすぐ隣に居るリムに近づいた。姫巫女がリムに触れると同時、リムの姿が少しずつ透明になっていき・・・・・・消えてしまった。
「なぁ、ちょっと質問良いか?」
 一連の作業が終ったところでシンが口を開いた。
「なぁに?」
「リムっておれが勝手につけた名前だろ? 本名はなんて言うんだ」
「リムが本名♪ その前は名無しだったから」
 リムは嬉しそうに笑った。
「あんたとこの水晶はどういう関係にあるんだ?」
 シンは水晶を取り出してリムに差し出した。
 リムは差し出された水晶を手にとって、明るい口調で答えた。
「これはあたしの本体・・っていうのかな? 晶族ってのは二種類あってね。水晶を守る役目を持つ人達と、水晶の化身そのもの。実体を持つ精霊とも言えるわ。あたしは後者の方で、常に一人しか居ない。大地母神とこの世界の橋渡し役なの。
 教会の人達はある意味で精霊の長とも言えるあたしと水晶を人質に取ることで精霊を強制的に従わせて魔法を行使してるの。ついでに言うと機械のほうも水晶から情報を得てその技術を手に入れてる」
 ここでやっと、あの水晶の言葉が解決した。
 水晶は大地の力を伝える存在であり、この世界においては大地母神の代理だ。

<我は礎たる者。すべての足元に在るもの>
 それは神話や伝説で大地母神を示す言葉でもある。

<汝は我であり、我は汝である>
 この言葉に関してはもっと簡単だ。リムの実態は姫巫女。そして姫巫女イコール水晶。そのまんまの意味だ。

 扉の方で大きな音がした。後を振り向くとラギが部屋を出ようとしているところだった。
 慌てて止めようとしたが、ラシェルを探したいと言って聞きそうに無い。
 リムはクスリと笑ってあの黒い窓もどきを見つめた。
「行こう、ラシェルのところに。シン、聞きたいことまだあるかもしれないけど後でいい?」
 仕方ないだろう。シンは頷き、そうしてリムも部屋を出た。


 また電灯が誘導するかのようについていた。
 それに従って行くと建物の中心近くにやってきた。電灯が示す部屋には二人の神官。
 が、それはスイリがあっという間に倒してしまった。
 その部屋は他に比べると異質な雰囲気を持っていた。さっきの窓もどきのミニサイズみたいなのが沢山あり、そこには別の場所の様子が写し出されていた。
「あれは他の場所にあるカメラが捕らえた映像を映し出してるの」
 リムが説明してくれた。なんとなくわかったような気もしたのでそれで終っておく。
 多分これが機械ってやつなんだろう。多分姫巫女の部屋にあった窓もどきも。
「で、なんでこっちまで来なきゃならねーんだ?」
 とりあえず落ち着いたところでシンが疑問を投げかけた。
 リムはにっこりと笑って窓もどきのほうを指さした。
「あそこだと、彼が出て来れないの。あそこは外に通信できないから」
「彼? ・・・・まさか、ラシェル!?」
 彼という単語に羅魏が反応した。
 シンが眉をひそめる。どこから出てくるというのだ。
 そう思った直後だ。窓もどきの一つの映像がいきなり切り替わった。そこに写し出されたのはラシェルの姿。
「羅魏っ・・・さっきはごめん!」
 ラシェルは姿を現して速攻で謝った。
(そういえば喧嘩したとか言ってたなぁ・・・・)
 とりあえず冷めた様子でそのやり取りを見つめていた。
 羅魏はきょとんとした様子で見つめ返した。そして言う。
「どうして?」
「さっきの羅魏のせいってやつ。完全に八つ辺りだったから、さ・・・・・」
 二人の会話はしばらく続きそうだ。聞いていても仕方ないのでその間にリムに聞きたいことを聞いておこうと思った。
「なぁ、良かったら詳しく教えてくれないか? 教会のこととか歴史のこととか」
 リムはちらりと向こうを見て、向こうの作業がしばらく終らなそうなことを確認してから話し始めた。

前へ<<  目次  >>次へ

Web拍手 TOP幻想の主LIFEシリーズ