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 IMITATION LIFE〜大地の歌・森探索編 1話 

 その日、シンの様子に変わったところはなかった。
 昨日は少し様子がおかしかったような気がしたのだが、気のせいだったのだろうか? それとも、久しぶりに帰ってきて街の様子を懐かしんでもいたのだろうか?
「ほら、さっさとしろよ。相変わらずトロいな」
 いつのまにか、シンが外に出ていた。
「うんっ」
 慌ててシンの方に駆け出す。シンの前まで来てから後ろを振り返った。
 店の扉の前で、ケリアが見送ってくれていた。
「いってきますっ!」
 思いっきり手を振ってからシンの方に目をやるとすでにシンは歩き出していた。
 慌てて追いかけ、シンの隣に向かった。









 ――旅立ちから数ヶ月・・・・・・・・・・・。
「うっわぁ・・・見事なまでにすっきりとした景色」
 疲れたような表情でシンは言った。
 見渡すばかりの荒野。そして思い出した様にぽつんぽつんと佇む枯れ木。
 この数ヶ月で何箇所も森の噂がある場所を見てきたが、全てハズレだった。聞く相手がいなくとも皮肉の一つも言いたくなるのはわかる気がする。
「それじゃあ次のとこ行きましょ」
 一方リムはといえば、とくに疲れた様子もなく元気に宣言をする。そんなリムの様子を見て、シンはさらにがっくりと肩を落とした。
「いいねぇ・・・・お前は元気で」
「何老けたこと言ってんの! 時間ないんだからね」
 言いながら地図を確かめると、ここから一番近い丸印は歩いて一日程度のところにあった。
 リムはシンの手を引いてそちらに向かって歩き出し・・・・・ぴたっとその足を止めた。
「リム?」
 シンが疑問の声を投げかける。
 何かいる・・・・・。
 それが普通の動物ならば問題はないのだが・・・こういった荒地では居るのだ、時々。
 注意深く辺りを警戒していたリムの前に何体かの生物が姿を現した。
 種族で言えば獣族(じゅうぞく)。狼とよく似た姿をしているが、高い知性を持った一族だ。が、その瞳には知性のかけらも感じられなかった。
 シンも獣族の存在自体は知っていたらしい。あまり恐れる様子はなかった。けれど、リムは気付いていた。
 ・・・・・・彼らが、もう獣族とは違ってしまっていることに。
「シン、離れて!」
 リムが叫ぶ。と同時に獣も動き出した。
 獣の動きとリムの声に、シンは慌てた様子でその場から下がった。
「ちょっ・・・どうなってんだよ。こいつらだれかれ構わず襲うようなやつじゃないだろ!?」
 シンの疑問ももっともで、もともと獣族は争いを好まない、大人しい性格だ。
 視線は目の前の獣族だったものから離さず、リムはシンに説明した。
「こういった死した大地に適応できなくて、もしくは適応しすぎてしまって・・・生に対する執着と本能のみで存在するようになる者が時々いるのよ」
「つまり・・・こいつにとっちゃぁおれたちは餌ってことか?」
「そういうこと」
 シンは最初のうちは多少の不安と心配の眼差しでこちらを見ていたが、数分もする頃にはそれはなくなっていた。
 獣が飛びかかってくる。リムは大地を唸らせ獣の足を止め、風を操り獣を薙ぎ払う。
「・・・・・・・・」
 シンが驚きの表情でリムの戦いぶりを見つめていた。どうやらリムがここまで強いと思っていなかったらしい。
 とりあえず獣を追い払い、リムはシンの方に視線をやった。
「まぁ、こんなもんですかね♪」
「もしかしておれよりずっと強いんじゃないか・・?」
「当然っ♪ 第一シンってもともと戦闘は苦手じゃない」
 そう告げると、シンは苦い笑いを見せた。
「そりゃそうだけどさ。あの、ぽけっとしたイメージからは想像もつかないって言うか・・」
 リムはその言葉に苦笑で応えた。
 ”ぽけっとした”というのは最初に会った頃のイメージだろう。確かにシンと最初にあった時は精神の一部をむりやり実体化させていたせいでちょっと行動がボケていた。そして、シンはその後・・・つまり本来のリムとはあまり長い時間を過ごしてはいない。
 リムを教会から連れ出した後、シンはさっさとリムをケリアに預けてしまったのだ。
 ザッ、と。大地を踏みしめる音が聞こえた。
 二人は慌ててそちらに目をやった。
 その時には、獣はすでにシンに飛びかかろうとしていた。
 シンは獣を避けようと動く。が、獣の方が遥かに早いスピードで動き、シンの腕に喰らいついた。
 獣はシンの腕から肉を引き千切って、その後ろの大地に着地した。
 シンは腕を抑えてうずくまる。シンの悲鳴が、荒野に響いた。
 獣が再度シンに突進してきた。けれど、今度は獣はシンのところまで行くことが出来なかった。風に押されて足を止め、その直後には獣の体のあちこちに切り傷が出来ていく。
「・・・・・・なに、あれ・・・・・・」
 リムはそれを呆然とした様子で眺めていた。
 自分の能力は間に合わなかった。ならば、今のは一体誰が?
 一瞬、そう思ったが、そのすぐ後にあることに思い当たり小さな笑みを漏らした。
 それに気付き、シンが苦い顔を見せる。
「あのなぁ・・・笑ってんじゃねーよ。リム、おれの荷物とってくれ」
 さっき襲われた時に荷物を落としたらしい。
 リムは小走りに荷物のところへ行き、シンのところへ戻った。
「うっわ。酷い傷」
 全く深刻な様子を見せずに言うリム。シンは不機嫌な様子で荷物の中を捜し始めた。
 リムはそんなシンの様子を無視して、怪我をしているほうの腕を自分のところに引き寄せた。
「いっ・・・・・・ってぇぇぇぇっ! 何すんだよ!」
 目に涙を浮かべつつ、シンが抗議する。そんなシンの雰囲気を無視するように、リムは呑気に呟いた。
「このくらいならすぐ治せるよ」
「は?」
 唐突な言葉にシンは目を丸くして声を返した。
「だからぁ、このくらいならすぐ治せるって言ってるの」
 言う間にも、シンの傷はみるみる小さくなっていく。
「・・・・・これも、精霊の力か?」
「うん♪」
 笑顔で答えると、シンは視線を逸らして照れたように呟いた。
「ありがとな、助けてくれて」
 リムの表情がぱっと変わる。淡々とした表情で、リムはシンの言葉を否定した。
「最後のはあたしじゃないよ」
 シンが意外そうにこちらを見た。
「へ? んじゃ最後のかまいたちは誰がやったんだ?」
「シンを助けたのは精霊だよ」
 そう答えると、シンは首をかしげて問い返す。
「精霊って・・・そういう意思とか持ってないんじゃないのか? ・・・精霊って要はただのエネルギーだろ?」
「違う違うっ。自我は持ってないけど意識は持ってるの。・・・なんて言ったらわかるかなぁ・・・・。個々の自我ってのが同時に種の意思でもあるの。この世界のバランスを守る者としての意識があるっていうか・・・。まぁとにかく、精霊はシンを好きになったんだよ」
(なんでシンが好かれたのかよくわかんないけど・・・)
 シンはしばらく考えこみ、それから・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん、わかった」
 絶対理解してない。そんな表情で頷いた。
「それよりも・・・いま思ったんだけどね、よく考えたら自然や精霊から一番遠ざかった場所で暮らしてる人族に聞くよりも自然界の近くで暮らしてる種族に聞いたほうが確率高いんじゃない?」
 さっき精霊と言う言葉を発したことでことで気付いたのだ。
 もともと森や草原と言った場所で暮らす種族に聞いたほうが、目的地を見つけられる確率は断然高い。
「・・・・もっと早く言えよ」
 今までの情報収集は意味無しだったと言われたようなその言葉に、シンはがっくりと肩を落とした。
 けれど、リムはそれを無視して明るく言葉を続ける。
「じゃあ、まずはこっから一番近いとこに行こっか♪ 昔と場所が変わってなければだけど近くに水族(すいぞく)の集落があるから」
 そう言ってリムは海に向かって歩き出した。
 多少は立ち直ったものの、やっぱりまだ疲れたような溜息をついているシンを引っ張りながら。

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