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 IMITATION LIFE〜大地の歌・森探索編 3話 

 二人は、久方ぶりに街に立ち寄っていた。
 ここ最近ずっと、荒野で野宿の日々が続いていたのだ。
 久しぶりの街に、シンは大きく伸びをしてリラックスした様子で通りを歩いていた。
 リムはどちらかと言えばシンとは反対で、街が嫌いなわけではないのだが、その賑やかさは落ち着けるものではなかった。
「とりあえずは宿だな。くぅっ、ベッドが恋しいぜ」
 なにやら力説するシンに、リムは呆れたような顔を見せた。
「そんなにいいもんかなぁ・・・。あたしは芝生の上に寝っ転がる方が好きだけど」
「しばふ?」
 シンが首をかしげて問い返す。
「えっ・・・? シン、もしかして芝生って知らないの!?」
 驚いて、意外そうに叫ぶリム。どうしてこんな剣幕で言ってくるのかはよくわかっていないようだが、シンはとりあえず頷き返してきた。
 リムは少しの間考えたあと、自分で自分を納得させるようにぶつぶつと独り言を繰り返しておおきく頷いた。
「だから、なんなんだよ。”しばふ”って」
 一人で納得してしまっているリムの態度が気に入らなかったのか、シンは少しばかりイライラとした様子で尋ねてきた。
 リムはどう説明したものかしばらく考えてから、こう答えた。
「えっと・・・丈の短い草が地面にいーっぱい生えてるの。けっこうふさふさしてて気持ち良いんだよ♪」
 シンはその答えを得て、腕を組んで考えこむ。
「草が地面にたくさん・・・? ホントにそんなことあるのかよ」
 懐疑的に聞き返してきたシンの言葉にリムは少し哀しくなったが、それは仕方のないことだ。
 シンが生まれた頃にはこの世界はすでに荒野だらけで、植物といえば人の手によって栽培されている野菜や花だけ。シンだけでなく、今の人族たちはそんな植物しか見たことのない者が多いのだ。
「昔はあったの!」
 シンのせいではないのに、八つ当たり気味な言い方をしてしまった。
 そんな自分に気付き、リムは慌ててシンの様子をうかがった。
 案の定、シンの表情はぶすっと不機嫌なものに変わっていた。
「あの・・・ごめん。シンのせいじゃないのに・・・・・・」
 しゅんと俯いて呟いたリムの態度に、さすがに大人気ないと思ったのかシンはその表情を和らげて気にしてない、と言ってくれた。
 そうして二人の間に少しばかり沈黙が流れて十数分。
 二人は宿の前までやってきた。早速中に入って部屋を取る。
 あいにく、満室のため一部屋しか取れなかったが、お互い相手を異性だと意識していないので全く気に留めなかった。
 リムはまず人間をそういった対象に見ないし、それ以前に恋愛感情も含めて、人間とは感情や感覚の持ち方がずいぶん違う。
 あまり違っていないように見えるのは、リム自身の人生経験からだ。リムは、時には周りに合わせておいたほうが良いと言う事を知っている。
 他人が自分に向ける感情や意識に敏感なシンは、それを感じ取っているのだろう。それ以上にリムが女の子っぽくないといった理由もあるのだろうが。
 口調や外見だけでみればリムは立派に女だが、その雰囲気や表情からは女の子らしい雰囲気など微塵も感じさせない。
 シンはその辺りの理由を多分理解していないが、わざわざ聞いてくるようなこともしなかった。

 まぁそんなこんなで二人は宿の一室に落ちついた。
「とりあえずさぁ、空族はどんな特徴を持ってるんだ?」
 シンの問いにリムは丁寧に答えた。
 ただでさえ人族は他種族との関わりが薄いのだ。他種族とあまり関わりを持とうとしない、閉鎖的な種族のことを知っている確率はとても低い。そして、リムの予想通り、シンは空族がどんな者か全く知らなかった。
「空族ってのは・・・尖った耳と銀色の髪を持ってて、瞳の色は翠色。人族と違って人によって髪の色や目の色が違ったりってことは無くって・・・・。
 渡りの習慣を持ってる。一所に留まらないで、いろんな場所を巡りながら生活してるの」
 そこまで言ってからシンの様子をうかがった。
 とりあえずここまでは理解できているようだ。リムは、ほっと一息ついて言葉を続けた。
「その耳以外は人族と良く似た外見をしてる。あと、空族は風を操れるの。その力で空を飛ぶこともできる」
「もしかしていつも飛んで移動してんのか・・? そいつら」
 シンの問いにリムはコクリと頷いた。
 だから探し難いのだ、彼らは。
 もしも大地を歩いて移動しているのならば、他の種族がそれを見る可能性もあるし、そうすれば探しやすい。
 ところが、空を飛ぶ種族と言うのはこの世界では空族しか居ない。
 飛ぶことが出来る種族は他にもいるが、日常的に空を飛んでいるような種族は空族だけだ。
「でも、あれ・・・? ちょっと待てよ・・・・」
 シンに何か思い当たることでもあったらしい。
 首をかしげてぶつぶつと呟いている。
「どしたの?」
 聞くと、シンは銀髪で翠色の瞳を持った人間に会ったことがあるらしい。
 ただ、耳はフードで隠れていたために確認できなかったそうだが。
「でも人族でもそういう色の人はいるんでしょ?」
 リムの問いに、シンはああ、と頷いた。
 それでも、何一つ手がかりがないよりはましだ。
 シンがその人間に会ったのが数週間前。もしもその人が空族であったならその当時、その場所に空族が居たことになる。
 リムはばっと地図を広げた。ただし、シンが良く使っている人族の地図ではなく、ずいぶん前――隕石落下以前に手に入れた地図だ。
「そんなものどうするんだ?」
 シンは、見たことのない書き方をされているその地図を覗きこんで言った。
 リムはにこっと笑った。
「これはね、風や海流なんかの道が書かれてる地図なの。ただ、隕石落下以前の地図だからどこまで役に立つかはわからないけど・・・・」
 隕石落下以降、この世界の自然環境はおおきく変わってしまった。
 特に隕石が落ちたのが海であったため海流は全く変わってしまっていて、海流に関してはこの地図はまったく役に立たない。
 風の道のほうはどうなっているかわからないが、あまり変わっていないことを祈るのみである。
「前にその銀髪の人を見たのってどこ?」
 その問いに、シンは自分の地図と見比べながら――この地図の見方に慣れないせいだろう――ある個所を指差した。
「森を探してた時に会ったんだ。街とは外れた場所でさ」
 それを聞いてリムは少しばかり希望を持った。
 街を離れた場所で単独行動をする人族というのはあまりいない。そう考えると、シンがあった人物が人族以外の者である可能性が少しだけ上がるのだ。
 空族は風を操れるが、実際に飛ぶ時は自然環境にも影響される。長時間飛ぶならば当然風の流れに沿って進んだ方が楽に飛べるからだ。
 リムは空族の平均的な飛行スピードなどを考えに入れながら、そこから空族が向かったであろう場所をいくつかピックアップした。
「三箇所・・・か」
「う〜〜・・・これ以上はちょっと絞れないけど・・・どうしよう」
 どれか一箇所に行き、間違いだったらまたゼロから探しなおしだ。
 シンはニッと笑って冗談混じりに言った。
「こう言う時こそ神頼み・・・・・・だろ?」
 占う張本人であるシン自身それを鵜呑みにするようなことはない。だから、神頼み。
 そういうわけで、他に手がかりもないのでその占いの結果を頼りに、二人は空族が居るかもしれない場所へ向かうことにした。

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