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 IMITATION LIFE〜裏話・陽が沈む彼方へ 6話 

「おはようございます♪」
 パタパタと階段を降りると食堂にはすでにラシェルとフィズ、そしてここの店主エリアルがいた。
 今日からラシェルと一緒に行動するということもあって昨日はここに泊めてもらっていたのだ。
「おはよう、マコトちゃん」
「おはよう、マコト。んじゃ、行くか」
 そう言ってラシェルは椅子から立ちあがった。マコトはキラキラと瞳を輝かせてラシェルに問う。
「遺跡に?」
「んにゃ。買い物」
「買い物?」
 マコトはあからさまにがっかりした表情を見せた。ラシェルは苦笑して、諭すように言う。
「準備もしないで行けるわけないだろう? あそこは広いからな。本格的に調査しようと思ったらしばらくは遺跡で寝泊りすることになる」
「そぉなの?」
 遺跡はこの街から徒歩三十分程。だから毎日遺跡まで通うのかと思っていた。
 ラシェルが話してくれたところによると遺跡内部が広すぎるのだそうだ。遺跡の広さはこの街の面積に勝るとも劣らないほど。
 そう聞かされると納得できる。この街は結構広い。単にその辺を見て廻るだけならともかく、隅々まで歩き回ろうと思ったら確かに一日では無理だ。遺跡の調査ならなおさらだろう。調べるべき機械が見つかればその場で数時間、時には数日間それの解析などをすることになるのだから。
 マコトはラシェルと一緒に買い物に出かけることとなった。ルシオは人ごみが苦手なのでお留守番だ。
「なぁ、マコトはずっとそんな軽装で旅してきたのか?」
 おもむろにラシェルが口を開く。
 確かにマコトの荷物は少なかった。小さなリュックが一つだけである。
「うん・・・・・・なんかまずいの?」
「まずいっつーか・・・・・・まぁ、オレもそんなに大荷物は持ってないけどさ」
 助けてもらった時の様子を見る限りは、ラシェルの荷物もそんなに多くはなかった。エリアルのところに大きな荷物を置いてきているのかと思ったが、そうではないらしい。
 ラシェルはいつもあのくらいの荷物しか持っていかないそうだ。それでも、マコトのリュックの倍以上の大きさではあったが。

 話ながら歩いているうちに大きなデパートに着いた。この街ではあまり見かけない五階建ての建物だ。
 ラシェルに連れられてまず行ったのは食料品売り場、そのあとマコトの装備品も見に行ってくれた。
「あのー・・・・・・いいんですか?」
 マコトはちょっと申し訳なさそうにラシェルに聞いた。ラシェルがマコトの装備品を買ってくれようとしたからだ。
「いいんだよ。オレが勝手に決めてるんだし」
 そう言ってラシェルはにっこりと笑ったがマコトはやっぱり自分の装備品なら自分でお金を出すと言った。
 マコトはちゃんとお金を持っているのだ。それなのに奢ってもらうなんてなんだか悪い気がした。
「そっか? んじゃ、そうしてもらおうかな」
 ラシェルはマコトの申し出にあっさり同意した。
「でも装備品って、何買うの?」
「まずは武器。どっちにしろオレと別れた後も旅は続けるつもりなんだろ?」
「うん」
「それじゃ自分の身は自分で守れるようにしとかないとな」
 マコトは今までの旅の中でまだ怪物に出会ったことはない。しかしそれはとても運がいいことなのだ。街と街を往復する商人は護衛を雇うのが常だし、旅をする者はたいてい簡単な護身術ぐらいは身につけている。
 冒険者の資格試験でも実技・・・・・・護身術のテストがあった。マコトは護身術など習ったことすらない。それで試験に落ちたのだった。
 とはいえ、武器を買ってもマコトはその扱いはまったくわからない・・・・・・。それはラシェルが教えてくれると言うことで落ちついたが。
  ”世界一のトレジャーハンター”――正確には将来そうなるだろう、だが――に教えてもらえるとあって、マコトはおおはしゃぎに浮かれたまま、帰り道を行くのであった。
 ラシェルがどこか呆れたような表情をしていたが・・・・・・まあ、見なかったことにしておこう。



 その日、宿――というか宿を貸してくれているエリアルの家に戻るとすぐにラシェルの特訓が始まった。
「早く遺跡に行きたいんだろ?」
 ラシェルはニヤリと笑ってそう言うと、さっさとマコトを店の裏庭に連れ出したのだった。
 もちろんマコトに異存はない。マコトだって早く遺跡を見に行きたいのだから。
 ラシェルが選んでくれたのは小型の銃。殺傷能力皆無の麻痺銃だ。大きさにもよるが、怪物でも当たれば丸一日は動けなくなるだろう。

 それから――マコトは、かなりのバテバテ状態でベッドに入った。しかしその甲斐あって、半日でそれなりに銃を使いこなせるようにもなっていた。
「・・・・・・大丈夫か?」
 夜。マコトは疲れてしまって夕飯にも行けなかった。そんなマコトを心配してラシェルが様子を見に来てくれたが、マコトをバテバテ状態にさせた張本人とあってルシオは冷たい態度で返した。
「ラシェルさんがマコトをこんなにした張本人でしょう?」
 ルシオはベッドに突っ伏しているマコトを指差して言った。
 ラシェルはごまかすような笑みを見せて頭を掻いた。
「悪かったって。まさかこんなにバテちまうなんて思わなかったんだよ」
 ラシェルは手に持っていたお盆をテーブルに置いて、ベッドの隣にしゃがみこんだ。
「大丈夫か?」
 マコトは体は動かさないまま、ラシェルのほうに顔を向ける。すぐ目の前にラシェルの顔があった。
(・・・・・・あれ?)
 なにか違和感を感じた。・・・・・・何にたいしてだろう。マコトはまじまじとラシェルの顔を見つめた。
「・・・・・・マコト?」
 訝しげに呟かれた言葉を聞いて、マコトは慌てて答えた。
「あっ・・・・・・何でもないです。心配してくれてありがとう」
「そっか? ならいいんだけど・・・・・・」
 ラシェルは少し安心したように息を吐くと先ほど置いたお盆を指して食べたくなったら食べるように言ってくれた。

 ラシェルが部屋から出るとマコトはベッドから飛び起きた。ルシオが驚いてマコトに言う。
「マコトっ。大丈夫なの?」
 マコトはごそごそとリュックを探りながら答える。
「あんまし大丈夫でもないけど・・・・・・気になることはすぐに調べないと気がすまない性質なの」
 言いながらも手は休めない。マコトはリュックの中から五センチ四方の箱を取り出した。
「何それ?」
 ルシオの問いにマコトは手招きで答えた。ルシオはそれに従いマコトの方へ近づく。
 マコトはその箱の上にあるボタンを押した。箱の真上にいくつかの画面とそれを操作するためのパネルが現れる。
「これはね、小型のコンピュータ。こう見えてもかなり高性能なんだよ。見てて♪」
 そう言ってマコトはパネルをいじり始めた。画面にいくつもの画像や文字が次々と現れては消え、それを繰り返す。
 そして・・・・・・――。
「う〜〜・・・・・・」
 マコトが唸る。
「どうしたの? 何かわかったの?」
「多分。でもまだ推測でしかないから」
 マコトはくるっと体ごとルシオに向いた。
 言うべきかどうか多少迷ったが、言うのなら自分の考えに確証が得られてから言うべきだろう。
「推測じゃなくなったら教えるね」
 そう言うとマコトは先ほどラシェルが持ってきてくれた食事を食べて、さっさと寝てしまった。
 ルシオには何がなんだかわからなかったが、マコトがそう言うのならと深くは気にせずいつものようにマコトの枕元にもぐり込んだ。
 翌日はマコトの完全回復を待つということもあって特に何もせず、さらにその翌日。マコト、ルシオ、ラシェルの三人は遺跡へと向かった。

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