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 IMITATION LIFE〜裏話・陽が沈む彼方へ 8話 

「本当のこと言うと、わたし最初っからラシェルさんがドールかもしれないって疑ってたんだ。特徴が似てるし、フォレスさんが”リディアの宝”の探索に行って子供を連れ帰ってきたっていうのは有名な話だし。
  でも本当に気になったのは一昨日。ラシェルさんの瞳を間近で見た時。
  それでわたしが持ってる”リディアの宝”――羅魏についてのデータを漁ってみて、思い出したの。
  その、赤と銀の瞳。まぁそれ自体は羅魏と結びついたりはしなかったんだけど・・・・・・でも、もしかしたらって考えは強くなった。
  だから今日ここに来たとき、一番に羅魏のデータを調べようと思ったの」
  そしてマコトは見つけた。
  偶然にもここの通信が生きていたおかげで、中央研究所の人工頭脳――キリトと、話が出来たのだ。
  だが、マコトはキリトのことは話さなかった。
「それで羅魏の詳しいデータを手に入れて、羅魏の姿を知ったの。監視者のことや、当時の記録も・・・・・」
  そんなふうに、短く締めくくる。
「それじゃあフィズのことも?」
「え? フィズさんも・・・って?」
  どうしてそこでフィズの名前が出てくるのだろうか。マコトが不思議そうな顔をしていると、ラシェルは軽い口調でその疑問に答えてくれた。
「あいつの本名はアクロフィーズ・フィアズ。魔法で外見年齢を変えてるんだ」
  アクロフィーズと言う名前には覚えがあった。確か監視者の名前がそれ。
  マコトが納得した様子を見せるとラシェルが小さく笑った。どちらかと言えば、自嘲を含んだような笑み。
「ついでにもう一つ聞いていいか?」
「え?」
  どこか哀しげな瞳の色を湛えたまま、言われた言葉に、マコトは一瞬対処できなかった。
  キリトにもらったデータの中には、出来ればラシェルには教えたくないことがいくつもあった。
「羅魏本人も知らないことって、なんなんだ?」
(・・・・・・やっぱり)
  予想通りの問いに、準備していた答えを返す。
「あはははー。あれね、はったりなの。時間稼ぎの」
  言った自分に驚いてしまうほどの、乾いた笑い。
  ラシェルもきっと気付いただろう・・・・・・この言葉が、大嘘であることに。
「ただ・・・・・・ただ、ね」
  黙っていられなくて、だけどラシェルを見つめることができなくて、俯いた。
「本物は、ラシェルさんのほうなんだよ」
「は?」
  間の抜けたような声を聞いて、マコトはやっと顔をあげることが出来た。
  二人の目が合う。
  マコトは、真正面から、ラシェルのことを――”リディアの宝”と呼ばれていたドールを、見つめた。
  ラシェルの瞳に微妙な怖れの色が生まれた。二人の間に沈黙が流れる。
「お話はもう終わり?」
  ルシオはよほど暇だったのか、二人の会話が途切れると嬉しそうに話しかけてきた。
  その言葉にマコトはラシェルの表情を窺う。マコトの視線に気づいたのか、ラシェルは苦笑して口を開いた。
「終わりにしよう。これ以上話してても余計落ち込むだけになりそうだ」
  言ってラシェルはマコトから目を逸らす。
  なんだか、自分がとても悪いことをしてしまったような気がした。話をしていた時、ラシェルのことを人間扱いしていなかった自分に気づいてしまったから。
  マコトは、学者としての目でラシェルを観察してしまっていた。ラシェルもそれに気づいただろう。
  きっと、ラシェルが言った落ち込むというのは話の内容ではなくマコトの視線。
  けれどラシェルはそのことについて何も言わなかった。
「んじゃ、行くか。さっき向こうの方で武器庫みたいなとこ見つけたんだ。なんか良い物があるかもしれないぞ」
  ラシェルは笑っていた。けれど無理をしているように見えた。
「ラシェルさん・・・・」
「ん? なんだ?」
「その・・・・・・ごめんなさい」
  ラシェルの表情が一瞬歪んだ。悲しんでいるのか、驚いているのか――他にもいろんな感情が入り混じったような複雑な、辛そうな表情。
  けれど確実にわかることが一つ。
  ・・・・・・謝ってはいけなかった。
  今の言葉は、確実にラシェルを傷つけた。
  二人は言葉少ないままに、その建物を出てラシェルが見つけたという武器庫の方に向かって歩き出した。
  ルシオは状況をあまり理解していないらしく、明るい声で二人に話しかける。ルシオのこの能天気さに今は少し感謝したい気分だった。

 

 三人は武器庫らしき建物の前にやってきた。
「・・・おっきい建物」
  ルシオが建物を見上げて素直な感想を漏らす。
  その時ラシェルはすでに扉を開けはじめていた。
「マコト」
「なぁに?」
  作業の手を止めぬままに言うラシェルの後ろでマコトが答える。
「マコトはレオルのことを何か知ってるのか?」
「レオル?」
  レオルというのは初めて聞く名前だ。マコトの疑問の声にラシェルは再度言い直す。
「さっきの銀髪の奴。前に会った時あいつ、レオル・エスナって名乗ったんだ」
  そこまで言われてやっと誰のことを言っているのかわかった。けれどマコトも先ほど言った以上のことは知らない。そのことを告げるとラシェルはそうか、とだけ言って作業に集中した。

 シュッ――。
  小さな音を立てて扉が開いた。
  早速室内の探索をはじめる。
「いろいろあるけど・・・・使い物になりそうなものって少ないねぇ」
  マコトがあちこち物色しながら言った。それに答えるのはルシオ。ラシェルは一人離れて探索をしている。
「そうなの? でも珍しいものがたくさんあって面白いよ♪」
  そんな風に二人は談笑しながらうろうろと調べまわっていた。
「うわっ」
  向こうの方からラシェルの声が聞こえた。二人はちらっと顔を見合わせてすぐにラシェルのほうに走る。
「ラシェルさん! どうしたの?」
  ラシェルはこちらを向いて、曖昧に笑った。
「あ・・・・羅魏のやつがいきなり大声出すもんだからびっくりしてさ」
「羅魏が?」
「ああ」
  ラシェルは辺りをぐるっと見渡して一丁の銃を手に取った。
「それって確か魔力を吸収してエネルギーにするタイプの銃だよね」
  マコトの言葉にラシェルが目を見張る。
「良く知ってるな」
  マコトは胸を張って答えた。
「とーぜん♪ ・・・羅魏、これ見て声あげたの?」
「そうみたいだな。そんなに凄いものなのか? これ」
  どうやらラシェルはこのタイプの銃を知らなかったみたいだ。マコトは早口にまくしたてる。
「凄いよ。魔力さえあればすっごい威力が出せるし、ちゃんと使いこなせれば氷の弾とか火の弾とかを撃ち出すこともできるんだから」
  言われてラシェルは手の中の銃をまじまじと見つめる。
「よし! 試し撃ちしてみるか」
  ニヤリと笑って外に飛び出す。
「ちょ、・・・ちょっと待って!」
  ラシェルはその制止の言葉など聞いていない。マコトは慌てて後を追いかけた。
  マコトが外に出るとラシェルはすでに狙いを定めており、あとは引き金を引くだけという状態だった。
「待ってってば。こんなところで撃ったら・・・」
  その声を遮りラシェルは自信たっぷりに言う。
「大丈夫だって、いくら凄い力が出せるって言ってもまさか一撃でここが崩壊するようなことにはならないって」
  ラシェルは、引き金を引いた。

 そして・・・・・・――。

 ラシェルも、ある程度その威力を予測していたマコトでさえも予想していなかったほどの強く太い光が一直線に走った。
  その光はいくつもの建物に穴をあけ、支柱を失った建物が次々と崩れ落ちる。光が通った後、そこだけがすっきりと遠くまで見渡せるようになっていた。建物の向こうには壁があったのだがその壁にも穴が開いている。
「「・・・・・・・・・・・・・・・」」
  二人は目をまんまるくして光が通った後と手元にある銃を交互に見つめる。
「・・・凄いっちゃ凄いんだけど・・・・・・・・・・使いもんになんねぇな・・・・」
  ラシェルが呆然とした面持ちで言う。
  ――・・・・・・ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
  なにか嫌な音が聞こえた。足元が微妙に揺れる。
「地震・・・・・・・・・じゃないよね」
「まぁ、そうだろうな」
  二人は顔を見合わせる。ルシオはいつもの定位置、マコトの肩の上から二人を見た。
「ラシェルさんの嘘つきぃぃぃぃっっ!!」
「んなこと言ったってここまで凄いと思ってなかったんだからしかたねーだろ! とにかく逃げるぞ!」
  言いながら二人は走り出だした。猛ダッシュで出口を目指す。その間にも遺跡は嫌な音を立てて崩れ始めていた。

 三人が地上に出た直後。大きな音を立てて遺跡が潰れた。それに影響されて周辺のあちこちの地面が陥没する。
「なんかすごいことになったな・・・・・・・・」
  陥没する地面を見つめてラシェルが言う。
「地下が潰れたら地面が陥没するのは当たり前よね・・・・・・・」
  言わずともわかっていることだが、なにをどう言えば良いものやら見当もつかない。
「どうするの?」
  ルシオが核心を突いた言葉を言う。二人が意図的に避けていた言葉でもある。
「どうしようもないだろ・・・・これは・・・・・」
  三人は顔を見合わせる。
「とりあえず戻るか」
  最初に口を開いたのはラシェル。
「そぉだね・・・・」
「うん・・・・」
  そして三人は、半ば逃げる様にその遺跡から立ち去ったのだった。

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