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 IMITATION LIFE〜裏話・龍の住まう地 3話 

 鈴音が去ってから一週間。
 初めのうちは鈴音のことを心配していたが、最近はあまり鈴音のことを思い出さない。
 鈴音のことを考える余裕も無くなるような事態がこの町で起こっていたのだ。
 
 ・・・・・・雨が、強くなっていた。


 あの流れ星事件以降だ。あの黒い霧はたった一日で消え失せてしまった。まるでその一日の騒ぎが嘘だったように。
 だが雨は日に日に強くなっている・・・・・・。このまま降り続けば、町に深刻な被害をもたらすだろう。
 大人達は毎日のように不安を吐露しあい、長老や殿様はどうして雨が強くなったのか、どうすれば前の状態に戻せるのか話し合っていた。
 そんな大人達を尻目に青葉はひとつの行動を考えていた。
「とーきーやっ♪」
 ノックもせずにがらっと扉を開けた。秋夜は奥の部屋で本を読んでいた。
 土間から身を乗り出してもう一度声をかける。
「秋夜ってばぁ、ちょっと来てよ!」
 が、無視された。しかしそのくらいで諦める青葉ではない。何度も繰り返し名前を呼んで、十回も呼んだ頃。やっと、渋々とだが秋夜が出てきた。
「さ、行こっかv」
 一言声をかけてむんずと秋夜の手を掴む。
「え? 今度は何〜?」
 文句を言いながらも秋夜はしっかりついてくる。逆らっても勝てないだろうと思っているのだ。
「龍を探しに行くの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
 秋夜の目が真ん丸くなる。秋夜の反応を待つ・・・・・・・・秋夜は固まったままだ。
「だ・か・らぁ。龍を探しに行くんだってば!」
 はっと秋夜が現実に戻ってくる。
「何言ってるの!? 外がどんなに危険かわかってる? それに龍がどこに居るかもわかんないのにどうやって探すつもりなんだよ!!」
 矢継ぎ早に現実的な意見を述べる秋夜。
「わかってるわよ、そんなの。でもこのまま町が水没するのを待つわけにもいかないでしょ」
「それは大人に任せるべきことだろ!?」
 秋夜にしては珍しく口調が荒い。よほど興奮しているんだろう。
「大人に任せる?」
 横目で秋夜を睨む。そして言葉を続ける。
「大人がアテにならないから自分でなんとかしようとしてるんじゃない」
 真剣な表情で秋夜は質問を返す。
「でも何のアテも無しに龍を探すっていうのは無謀だ」
「龍の伝説ってたくさんあるのよね」
「え? うん」
「そのひとつひとつを当たっていくしかないでしょ。頼りにしてるよ、と・き・やv」
「無茶苦茶だよ!! 伝説なんてどのくらいアテになるかもわからないし、僕たちは町の外の地理だってわかんないんだよ!?」
「うん、だからとりあえずは地図を手に入れないとね」
 いつのまにか目の前に迫っている殿様の屋敷を指差した。
 秋夜が蒼白になっている。震える手で殿様の屋敷を指差した。
「ま・・・・・まさか、盗む気・・・・?」
 青葉は秋夜の言葉を豪快に笑い飛ばした。
「まっさかぁ、忍びこんで写させてもらうだけよ」
「青葉・・・・・忍びこむっていうのは立派な犯罪だよ?」
「だいじょーぶっ、見つかんなきゃいいのよ。何か無くなる訳じゃなし、見つかんなきゃわかんないって」
「見つかったらどぉするんだよぉっ!!」
 秋夜はもう半泣き状態だ。青葉はにこにことのー天気に笑っている。
「さぁ? そんときゃそんとき♪ 見つかったって雨を止めたら英雄扱いしてもらえるかもよ」
 秋夜はがっくりと肩を落とした。この反応は説得を諦めた時だ。
 青葉は秋夜の着物の袖を掴んで、屋敷の裏手に向かった。




 屋敷は高い塀に囲まれていて、屋敷の塀から一メートル程離れたところに等間隔に木が植えられている。
 この木に登って塀の上に飛び移るつもりだった。
 すでに青葉の思考パターンを掴んでいるのか、青葉が何も言わないうちに秋夜の表情は不安げなものになっていた。
「・・・・危ないからやめようよ・・・・」
「それ、わかってて言ってる?」
「わかってるよ。言ったってどうせ止めるつもりないんでしょ」
「うん。言うだけ無駄よ」
 それが当然だとでも言うように平然と切り返す青葉に秋夜は沈黙した。
「さ、無駄口たたいてないでさっさと行くわよ」
「・・・・・・・うん・・・・」
 秋夜は大きなため息と共に頷いたのだった。



 忍びこむのは簡単だった。
 まず木に登り、木のてっぺんから塀に飛び移る。秋夜が塀に届かずに落ちそうになったが、先に塀に登って待っていた青葉のおかげでなんとか塀によじ登ることが出来た。
 問題はここからだ。二人は屋敷に入ったのは初めてだ。当然屋敷の構造もわからないし、地図がどこにあるのかもわからない。一つ一つ探して歩くしかないのだ。
「秋夜は向こう探してね」
 一言そう言ってさっさと歩き出そうとする青葉。
「ちょ、ちょっと待って!」
 秋夜は慌ててそれを止めた。青葉は不機嫌そうに頬を膨らませている。
「なによぉ」
「二人一緒に行こう」
「別々のほうが効率良いでしょ」
「でも・・・・僕一人で行くのはちょっと・・・・・」
「んもぅ、仕方ないわね。わかった、一緒に行きましょ」
 二人はまず倉庫っぽいところを探してみることにした。
 しかしそれは、思ったよりも難かしい作業だった。
 屋敷の人間に見つからないように移動しつつ、それっぽい扉の部屋をすべてチェックしてまわる。
 すでに数えるのも面倒になるほどの部屋をまわった。なかには倉庫や物置っぽい部屋もあった。しかし地図は見つからない。
「どこにあるんだろ」
 ここまで誰にも見つからなかったせいか、青葉は行動が大胆になってきていた。そのたびに秋夜が慌てて注意するのだが、それも長く持ちそうにない。
 うろうろとしているうちに、とうとう屋敷の人間に見つかってしまった。しかし、二人を見つけたその人は意外な行動に出たのだ。
 目が合った瞬間、彼女はじーっとこちらを見つめた。
「屋敷の者ではないようだけど・・・・あなた方は何者ですか?」
「え? あ、えっと・・・・」
 自分たちの様子はどこからどう見ても屋敷の人間でない。にもかかわらず彼女は人を呼ぶでもなく、大声を上げるでもなく、冷静にそう聞いてきたのだ。
 さすがの青葉もどう対処していいものやらわからず、小声で秋夜に声をかける。
「ねぇ・・・どうする?」
「どうするったって」
 彼女の意外な行動に秋夜も戸惑い気味だ。彼女はしっかりとこちらを見据え、強気な口調で宣言した。
「あなた方は何者ですか? 答えないなら屋敷の者を呼びますよ」
 秋夜は改めて彼女を見た。
 年齢は自分より二、三歳上だろう。薄い茶色の髪と瞳。かなり高級そうな着物を身に着けている。
 二人は顔を見合わせた。秋夜が頷く。それを見て青葉は彼女に自分たちの素性と目的を簡潔に話した。
「まぁ、そうだったんですか。よろしかったら私の部屋に参りませんこと? もっと詳しくお話して頂きたいわ」
 その言葉に青葉、秋夜は絶句した。短い沈黙の後、秋夜が驚き隠さず彼女に問いかけた。
「あの・・・・・・本気?」
「ええ、こちらの事情もお話致します。そうすれば納得していただけると存じます」
 彼女はにこりと笑うとこちらの返事も聞かずに歩き出した。
 二人はとりあえず彼女についていくことにした。これまで散々探し回って見つからなかったのだ。新しい展開になりそうならそちらに行くほうが良いだろうと二人は考えたのだった。

 
 彼女に連れられて来たのは立派な部屋。彼女の自室なんだそうだ。そこで彼女は改めて自己紹介をしてくれた。
「私は華枝(かえ)と申します」
 華枝・・・・聞いたことのある名前だ。確かこの町の殿様の娘の名がそんな名前だったはず・・・・・・。
「え・・・・えぇぇぇぇぇぇっ!?」
 青葉が大袈裟に騒ぐ。
「お姫様・・・・?」
「はい。私、大人達の慎重論はもう聞き飽きました。書庫にある地図と文献を持って龍を探しに参ろうと思っているのです」
「凄い偶然ね。私達が忍び込んだ日と華枝様が行動に出た日が同じなんて」
「いえ、昨日いらしても一昨日いらしても多分私と会えたと思います。三日ほど前から同じことを繰り返しては失敗しておりますから」
「はぁ・・・・三日前から・・・・」
 どう答えていいものやら、秋夜は曖昧な相槌をうった。
 しばらく黙りこんでから華枝は俯いて、次の言葉を切り出した。
「お父様の言い分もわかるんです・・・・・・薄くなったとはいえ私も龍の血を引く者。多少ですが雨を弱める力を持っています。でもこのままで良いはずはありません。そこで、あなた方にお願いがあります。一緒にお父様にお会いしてお二人の事情を話して頂けませんか?」
「えっと・・・つまり、殿様に直接直訴しろってこと?」
「はい。もちろん私も口添えはいたします」
 二人は互いに顔を見合わせた。青葉の目がキラキラ光っている。渡りに船とでも言おうか、断る理由もなかった。それどころか自分たちにとってはかなりいい話と言えるだろう。
 二人は大きく頷いた。




 それは思ったよりすんなりといった。
 華枝の口添えもあったおかげか、殿様はあっさりと文献と地図を持ち出すことを許してくれたのだ。
 殿様の話を聞いていると、それにはこの前鈴音と祠に出かけたことも貢献しているようだった。
 とにかく二人は殿様の許可を貰い、改めて琴葉に事の顛末を話し、屋敷忍び込み事件から数日後には町を出ていた。

 まず二人が向かったのは月峰の里。
 鈴音の協力を期待してのことだった。

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