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 IMITATION LIFE〜裏話・龍の住まう地 6話 

 朝――青葉は窓から零れる光で目を覚ました。
「・・・・・・あれ?」
 秋夜のとなりで寝ていたはずの羅魏の姿が無い。
 がばっと起きあがり慌てて周囲を見る・・・・が、すくなくとも部屋の中にはいない。
 半ば駆け足で青葉は外に飛び出した。
「あ、おはよう」
 羅魏は戸口のすぐ外にいた。青葉に気付いてくるっと振りかえる。
 まるで怪我なんてしてないような羅魏の行動。
 青葉はいつも秋夜にしているように怒鳴り声をあげた。
「なにしてんのよ、あんたはぁぁぁっ!!」
 あまりの大声に羅魏が耳を塞いで肩をすくめる。
「ちょっと散歩してただけだろ。そんなに怒鳴らなくたっていいじゃないか」
「青葉は羅魏のことを心配してるんだよ」
 多分青葉の大声で目を覚ましたのだろう、いつのまにやら戸口に秋夜が立っていた。
「大丈夫だって」
 羅魏はそこまで言うと一瞬言葉を止める。すこしだけ視線をずらして続きを言った。
「そりゃ・・・・戦闘しろって言われたらキツイけど、歩くくらいなら・・・・・」
 歩くくらい? 羅魏の傷はどこをどうみても致命傷だったはずだ。普通なら今意識があることさえ凄いことだろう。それが簡単な応急処置だけで昨日の内に意識を取り戻しただけでなく、今日にはすでに歩けるようになっている。人間らしからぬ脅威の回復力だ。
「戦闘できないと困るのよ。私ひとりで二人を守れって言うの?」
「一人?」
 羅魏は首をかしげて秋夜の方をを見た。
 青葉は嘆息して言葉を続ける。
「秋夜に戦力を期待しちゃダメよ。秋夜は護身術すら使えないんだから」
 それを聞いて、羅魏はあからさまにがっかりした表情を見せる。
「じゃあやっぱり出発はもう少し先かぁ」
「そういうわけだから、とっとと怪我治してくれる?」
 言うが早いか青葉は羅魏を部屋の中へと押し戻して、半ば無理やり布団に押しこんだ。
 羅魏が苦笑して言う。
「あのさ、だから歩くだけならそんなに支障無いってば」
 自分の怪我にまったく無頓着な羅魏をギロッと睨みつけて、怒鳴る。
「いいから、大人しく寝てなさい!!!」
 青葉のあまりの剣幕に、流石の羅魏も大人しく布団をかぶった。
「大丈夫なのになぁ・・・・」
 不満そうではあったが。
 
 それからさらに数日をそこで過ごして、羅魏と出会ってから約一週間後。出発が決まった。
 青葉から見れば驚きの早さだ。最初に羅魏の怪我を見た時、完治までは最低でも一月以上かかると思っていた。それがたった一週間でほぼ完治するなんて・・・。青葉はすでに羅魏は人間ではないとふんでいた。それは秋夜も同じのようだ。
 けれど二人とも、それについて特に羅魏に尋ねたりはしなかった。
 すくなくとも羅魏が妖魔ではないことは確信できる。だとしたら残る選択肢は妖怪。この世界では妖怪は人間と共存する、友好的な種族だ。妖怪だったからと言って別に何も困るところはない。
「そういえば・・・羅魏、最初すっごく発音しにくい名前言ってたよね?」
 三人はとりあえず近くの町に行って情報を集めることにした。そちらの方角に鈴音が行っているとは限らないが、月峰にいても何もわからないのだから。
「ああ」
「あれっていつもそう名乗ってるの?」
 しばらくここを旅したならわかるはずだ。いや、羅魏はわかっていた。自分の名前がここでは珍しいものであることを。
「まさか、普段は最初っから羅魏の名前を名乗ってるよ」
「じゃぁどうして私達には本名を名乗ったの?」
「助けてもらった相手に偽名を名乗るのが嫌だっただけ」
「へぇ、結構義理堅いんだ」
 青葉が感心したように言う。すかさず秋夜の突っ込みが入った。
「それ・・・ちょっと違うと思う」
 二人の見事なコンビネーションに、羅魏が忍び笑いを漏らした。


 そんな賑やかな会話を繰り返しながら、一行は町へと入った。
「まずは宿屋だね」
 町に入った途端、秋夜がテキパキと行動を開始した。
 二人を引き連れ宿屋に向かい、部屋をとり、宿の主人に情報が聞けそうな場所を尋ね、確認する。
 まるで別人みたいな秋夜の行動に、羅魏は驚きの色を隠せないようだった。
 青葉はクスクスと笑って羅魏に話しかける。
「秋夜って頼りないように見えて結構しっかりしてるのよ。ただし、町の中でだけね」
 秋夜は頭の回転が速いせいか、話術に長けていた。会ったばかりの人間からでも実に巧みに情報を引き出す。青葉といると青葉の強引さのおかげで頼りない部分だけが強調されて見えてしまうが、とんでもない。実際、場合によってはとてつもなく頼りになる存在なのだ。
 青葉の物言いに羅魏も小さく笑った。
「青葉ーっ。早く行こうよ、鈴音さんのこと聞くんでしょ?」
 話が終ったらしい。秋夜が手を振って二人を呼んだ。
「うんっ、今行く」
 そうして三人がやってきたのは居酒屋だった。
 宿屋の主人の話だと、この町の人間のほとんどが常連となっている評判のいい店なんだそうだ。
 時間的にまだ人が少ない可能性は高かったが、三人はとりあえず入ってみることにした。


 中は予想以上に混雑していた。お昼はとっくの昔に過ぎており、夕食にはまだ早い。そんな時間にしてはずいぶんと客が多い。
 しかし三人にとっては好都合だ。まず店の主人に話をし、それから他の人達にも鈴音のことを聞いて回った。
 鈴音のことは意外に簡単にわかった。
 ほんの数日前までこの町にいたというのだ。
 一週間ほど前にこの町に立ち寄り、結界を張りなおしてくれたのだそうだ。
 町を出たのは三日前。どの町に向かったのかも聞けた。
「・・・・・どうする?」
 宿屋に戻った青葉の第一声がこれ。
 今すぐ出発するかどうか聞いているのだ。三日前なら急げば次の町で追いつける。
「今すぐ出発するに決まってんだろ」
 羅魏は即答した。
 一方秋夜は、
「もうすぐ夕方だし、今出たら野宿になっちゃうよ」
「それは明日出発したって同じだろ」
 羅魏の言葉ももっともだ。次の町では歩いて五日ほど。今出ようが、明日出ようが必ず野宿することになるのだ。
「じゃ、行こっか♪」
 青葉はさっと荷物を持って立ちあがった。
 羅魏もさっさと自分の荷物を持って宿を出ようとする。
 秋夜だけが渋っていたが、二人はもう出るものと決めているし、どっちにしろ秋夜では青葉は止められない。
 心配げな表情だったが、とにかく荷物を持って二人の後ろから歩き出した。


「はぁ・・・・・」
 秋夜は二人の後ろを歩きながら、小さくため息をついた。
「何か文句でも?」
 強い調子で言う青葉。秋夜は諦めたような表情で、それでも文句を言ってみせた。
「たくさんあるよ」
「そう」
 青葉は秋夜の言葉をとくに気に留めるでもなく、あっさりと聞き流した。
 二人の掛け合い漫才らしきものに羅魏が横で爆笑しているが、無視。本人は、気付かれないように・・・と思っているらしいが、バレバレである。


 五日の行程。平和に済めばそれにこしたことはない。が、やはり途中で一度妖魔に遭ってしまった。
 敵はニ体。
「羅魏、そっちよろしくっ」
 言うなり青葉は妖魔の片方に向かって駆け出した。
 羅魏は一瞬迷ったような態度を見せたが、とりあえず残りの方に向かって行った。
 青葉は力はないが技術で勝負するタイプだ。敵の動きを先読みして避け、攻撃を繰り出す。自分の力では素手だと牽制程度にしか役に立たないこともよくわかっている。ある程度妖魔の動きを鈍らせてから持っていた小刀で妖魔の首を薙ぐと、妖魔は霧のように霧散して消えていった。
 
 羅魏の方はある程度妖魔に近づくと、それ以降は動かなかった。
 妖魔は羅魏のほうを認識したらしく、羅魏に向かって突進してくる。それでも羅魏は動かない。
 すぐ後ろで羅魏の様子を見ていた秋夜が思わず悲鳴をあげかけた時だ。
 羅魏が動いた。妖魔が繰り出した拳を上半身だけ軽く動かして避ける。体を傾けた反動を利用して蹴りを叩きこんだ。
 たまらず妖魔が大きくよろめく。
 羅魏はどうも相手が攻撃してきた隙を利用して攻撃する、カウンタータイプの体術を使うようだ。
 しかし羅魏はその体格から想像していた通り、力で攻めるタイプではないらしい。急所というものが人間と比べて少ない妖魔に苦戦している。
「なにやってんのよ」
 自分のノルマをクリアした青葉から声がかかる。
「そう思うなら、手伝えよ。そっち終ったんだろ?」
 妖魔の攻撃を避けながら羅魏が言い返す。
 が、青葉は手伝うつもりはまったくなかった。
「一対一でしょ、そのくらい一人でなんとかする! 武器持ってないの?」
 羅魏が黙りこむ。しばらく逡巡して、自分の荷物から何かを取り出した。
 青葉にも、秋夜にも全く見覚えのない道具だ。
 羅魏がそれを妖魔に向ける。直後、それから白い光が放たれた。
 白い光に貫かれて、妖魔が霧散した。

「・・・・・・なによ、できるんじゃない。なんで最初から使わなかったの」
「え? ここは銃って無いみたいだから・・・・」
「へぇー。じゅうって言うんだ」
 秋夜は好奇心いっぱいで、しげしげとそれを見つめた。
 二人の行動に羅魏が意外そうな顔をする。
「どうしたの?」
「いや・・・別に・・」
「・・・ま、いいけどね。妖魔も倒したし、さっさと先に進みましょ」


 それから数日後、三人は鈴音が向かったという街に着いた。

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