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 IMITATION LIFE〜裏話・風の声が聞こえる 1話 

 魔術都市クルニアから歩いて一時間半ほど。アリアたち魔術学園の学生は校外学習――遠足のために近くの遺跡に向かっている。
 その遺跡は街から歩いて二時間程の場所にあり、遺跡の見学は毎年の恒例行事だった。去年遺跡に行った先輩たちの話によるとかなり退屈な場所らしい。すでに調べ尽くされ、観光地として整備が整えられている遺跡だ。この辺りは魔物も少なく、そこまでの道のりも簡単なもの・・・・・・・・・のはずだった。
「先輩のうそつき〜っ」
 誰かがそんなふうに悲鳴をあげた。
 周囲には十数体の魔物。学生たちは魔法で撃退しているが、戦い慣れしてないうえにまだ未熟な者が多い。人数ではこちらが勝っているが形勢は魔物の方が優勢な状況になっていた。
 最近魔物が増えているという噂を聞いたことはあったがまさかこんな場所にまで魔物が大量に現れるとは誰も思っていなかった。しっかりと整備された、街から遺跡までの街道での襲撃だ。
 アリア、セシルの二人も必死に応戦しているが、やはり魔物たちに決定的なダメージを与えられないでいる。
「全員下がって!」
 セシルが皆に聞こえるように声を張り上げた。アリアの返事すら聞かずに白い翼を広げ、空に飛びあがる。
 ある者は短距離転移で、ある者は走って、セシルの声にしたがって皆が魔物から離れた。
 セシルの周囲に風が発生した。髪が風に揺れる。
 風は次第に強く大きくなり、セシルを中心とした竜巻を作り出した。竜巻は魔物を全て巻き込んだところでその成長を止め、すぐに消える。
 そのあとには風に切り刻まれた魔物たちの姿があった。魔物は次々とその命を散らし、体も黒い霧と化し霧散する。
「すっごーいっ♪」
 地上に戻ってきたセシルにアリアが飛びついた。他の者たちもセシルの周りに集まってくる。
「セシルってばこんなすごいの使えたんだ」
「んもぅ。最初っから使ってくれれば良かったのに」
 皆はセシルを囲んで騒ぎ始めた。セシルはそのひとつひとつに小さな声で答えた。右手はしっかりアリアの服の裾を握っている。
 ひとしきり騒いだ後、クラスの委員長であるマイアが口を開いた。マイアはいつもこういうときにしっかり皆をまとめてくれる。
「戻る? それとも行く?」
 遺跡まであと三十分ほど。向こうに着けばほかの学生や先生とも合流できる。街までは約一時間半。皆の心情的には一刻も早く街に戻りたいというものがあったが、その間にまた魔物に襲われる可能性は高い。全員一致で、とにかく早く遺跡に向かおうということになった。


 運良く、そこから遺跡までの道のりでは魔物に襲われることはなかった。
 遺跡ではすでに見学が始まっていた。アリアたちはすぐに先生に魔物に襲われたことを知らせた。
 しかし・・・・・・。
「ああ、最近多いのよねぇ。でも建物近辺には出てこないみたいだから見学は安心してできるわよ。大丈夫、この辺じゃそんなに強いのは出てこないから落ちついて戦えば充分に勝てるわ。帰りは先生たちも一緒だし」
 軽くあしらわれてしまった。出てこないからといって魔物に襲われた後に遺跡見学という気分でもないが、こうなったら見学終了時刻まではここにいるしかないだろう。

「先生ってばのんきすぎるよぉ」
 遺跡の見学順路を辿り、アリアとセシルは奥へと歩いていた。
 帰りの不安はあるが、だからといってただただ不安がっているくらいなら遺跡見学でもして気を紛らわせた方がいい。二人はおしゃべりをしながらゆっくりと奥へと進んでいった。
 ふと、アリアの視線が横に逸れる。セシルもその視線を追った。そこにあったのは小さな横道。遺跡の見学順路からは外れているようだ。
「なんだろ・・・行けない場所にしても普通はなんか説明の看板が立ってるよねぇ?」
 アリアが疑問を口にするとセシルも小さく頷いた。
 二人はその横道に近づき、覗きこむ。途端、
 ドンッ!
 二人は後ろから誰かに突き飛ばされた。
 横道はかなり急な下り坂になっていたらしく、勢い良く飛びこんでしまった二人は止まる事ができずにそのまま下へと進むことになってしまった。
「とっ・・・とっ・・・とっと」
 二人はあまり広くもない部屋に出た。部屋は平らでそこまで来てやっと止まる事が出来た。
 部屋の中央には丸い台のようなものがあり、その台は淡い光を放っていた。
「なんだろ? コレ」
 アリアは興味津々でその台に近づいていった。
 セシルはその場を動かないままで台を観察する。
「綺麗な光・・・」
 セシルは素直な感想をもらした。アリアもそれに同意する。
「もっと近くで見てみない?」
 アリアはセシルの返事を待たずに手を引いて台に近づく。セシルもとくに反対しなかった。むしろアリア以上にその光に興味を持っていた。
 セシルは人見知りのせいで消極的な性格だと思われがちだが、実際はとても積極的で好奇心旺盛だ。最初は手を引かれる形だったが、台に近づくにつれセシルがアリアを引っ張る形になっていった。
 セシルは躊躇もせずにその台に乗ろうとする。
「ちょっと待って!」
 アリアが制止の声を上げる。セシルは不思議そうに振りかえった。
「? なぁに?」
「なぁにじゃなくって、・・・・大丈夫なの? 乗っても」
「さぁ。でも内側からこの光を見てみたいの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
 アリアが沈黙する。どうするべきか考えているようだ。セシルも沈黙した。アリアの返事を待っている。
「よし! 行ってみよっか♪」
 アリアはにっこりと明るい笑顔で言った。

 二人は手を繋いでその台の上に乗る。
 その途端、光が急に強くなった。周囲の景色が段々薄くなっていく。
 二人は驚いてその成り行きを見つめていた。
「!?」
 景色が完全に見えなくなる直前、セシルは部屋の入り口のところに人影を見た。
 ・・・・・・銀髪の青年。薄く、笑っていた。


 気がつくと景色が変わっていた。足元には淡い光を放つ丸い台。先ほどの部屋は真っ白い壁に囲まれていた小さな部屋だったが今いる部屋は先ほどの数倍近い広さがある。
「・・・・・・・どうする?」
 アリアはぽつりと言った。
「とりあえず外に出ようよ。ここがどこかわからないと帰れないし」
「うん、そだね」
 とりあえず正面に出口が見えたのでそこに向かった。
 しかし出口に着く前に通路の方から数人の男性が姿を現した。
 男たちは小声で短い会話を交わすと、止めるまもなくセシルの手を引っ張って走り出した。
「ちょっと! なにすんの!?」
 しかし男たちはアリアの声は無視し、回れ右をして通路に向かった。アリアは一瞬セシルが自分でなんとかしてくれることを期待したが、セシルは怯えてしまい完全に硬直している。これではなにも出来ないだろう。
 アリアは慌てて男たちを追った。
 ドカッ!
 部屋を出たアリアにいきなり何かがぶつかった。アリアはその勢いに負けてしりもちをつく。
「いった〜〜」
 ぶつけたところをさすりながらアリアは起きあがる。男たちが逃げていった方を見たがもう男たちは見えなくなっていた。アリアはすぐさま横を見た。相手もコケていた。
 年のころは十五,六。たいして珍しくもない青い髪と、珍しい赤と銀の瞳。
 勢いにまかせてアリアは彼に怒鳴りつけた。
「ちょっと!! なんでぶつかってくるの!! おかげであいつら見失っちゃったでしょぉっ!?」
 彼はバッと上を向いた。表情が怒っている。すっくと立ち上がり、アリアに負けないくらいの大声で怒鳴りつけてきた。
「そりゃこっちの台詞だ!! てめぇがいきなり目の前に現れるから避けきれなかったんだろうがっ!!」
「ひっどーい、うちのせいにする気!?」
「どこをどう見てもてめぇの前方不注意だろ!!」
「前方不注意はあんたのほうでしょ!?」
 相手も引かない。二人は真っ向からにらみ合った。フイっとアリアが視線を逸らす。不安げに呟いた。
「あぅ〜〜・・・・セシル大丈夫かなぁ・・・・」
 その言葉に相手が反応した。
「あいつらに連れてかれたのか?」
「うん。だから早く助けに行かないと」
 彼はいきなりアリアの腕を掴んだ。真剣な表情で言う。
「オレの連れもあいつらに連れ去られたんだ!!」
 二人は互いに相手の瞳を見た。ほぼ同時に大きくため息をつく。
「なんなんだよ、あいつら」
 アリアは腕組みをして考えこんだ。
「多分、奴隷商人じゃないかな」
「奴隷商人・・・・・って、えぇっ!? こっちじゃそんなのが横行してんのか!?」
「こっちって・・・よほど治安の良い街じゃない限りは暗黙の了解って感じで売買されてるよ」
「・・・・そうなのか・・・」
 彼は肩を落とした。しかし”こっち”というのはどういうことだろう。少なくともここまで旅をしてきたのならばこの辺りの治安状況ぐらいわかると思うのだが・・・。
「ねぇ、あんたどこから来たの?」
 わからないことはとりあえず聞いてみるに限る。彼の答えは予想外のものだった。
「東大陸から来たんだ。本当は中央に行きたいんだけどさ、そこまで行く方法が今のところフェゼリアの力を借りるしかなくってさ」
 彼の目的はわかったが、なぜフェゼリアを探すのに遺跡に入らなければならないのだろうか・・・・・。
 アリアは疑問に思っていることを全て相手にぶつけてみた。彼は意外にもその一つ一つにきちんとした答えをくれた。
 彼の言葉を要約するとこういうことらしい。
 彼は東大陸でトレジャーハンターをしていた。以前からサリス島に興味を持っていた彼は、偶然にもアルフェリア種族と出会う機会に恵まれた。
 彼女に長距離転移ができないか聞いてみたところ、サリスは無理だが西大陸になら可能とのこと。そしてその時に、フェゼリアなら見たことない場所への転移も可能かもしれないと聞き、この大陸を探索しつつフェゼリアを探していたのだそうだ。
「んじゃ、この遺跡いたのは単に興味があったから寄り道してみただけ?」
「そう。・・・・・にしてもあいつらぁ〜〜〜〜っ!! フィズをさらったことを後悔させてやる!!!!!!!!」
 彼がいきなり声を荒げて怒鳴った。それにつられてかアリアも怒りが込み上げてくる。
「そうよ!! あいつらっ、セシルを連れてったこと絶対に後悔させてやるんだからぁっ!!!!」
 二人が顔を見合わせる。
「・・・てめぇのことは微妙に気に入らないが・・・」
「・・・うちもあんたなんかムカつくけど・・・・」
 二人はがっしりと腕を組んだ。
「フィズを助けるために!」
「セシルを助けるために!」
 二人は同時に叫んだ。
「共同戦線張りましょう」
「おう」
 二人はコクリと頷いた。
「あ、まだ名前聞いてなかったね。うちはアリア・ディーレル。あんたは?」
「オレ? オレはラシェル・ノーティ」
 二人は互いの大事な人を奴隷商人の手から助けるため、一緒に行動することを決めたのだった。

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