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 IMITATION LIFE〜裏話・風の声が聞こえる 2話 

「な・・・うそでしょぉ・・・」
 アリアはその場にへたり込んだ。
 とりあえず外に出ようと二人の意見が一致し、遺跡から出た直後のことだ。
 遺跡の出口は小高い丘の上にあった。ここがまわりより多少高いためか遠くまでよく見える。丘のふもとのさらに向こう、数キロほど先に大きな街が見えていた。
「なんだよ、一体?」
 この大陸の地理に詳しくないラシェルにはアリアがへたり込んだ理由がわからない様だ。アリアはその場に座りこんだまま、顔だけをラシェルのほうに向ける。
「あそこに大きな街が見えるでしょ?」
「ああ」
 ラシェルはアリアが指差した方向に視線をずらして頷いた。
「あの街はノイン。通称、闇都市ノイン。この大陸で一番治安が悪い街。なにか物を盗られた時、盗んだ方じゃなくって盗まれるようなスキを見せる方が悪いって言われるような街。奴隷売買、盗品売買なんて当たり前って感じの街よ」
「じゃぁフィズたちもそこに連れてかれた可能性は高いな」
 アリアは大きくため息をついた。
「そういうこと」
「んじゃ、さっさと行くぞ」
「ちょっ・・・ちょっと待ってよ!!」
 ラシェルは事の重大さをわかっていないのではないだろうか。自分の身を守れるだけの実力がなければ自分自身が危ない。ミイラ取りがミイラになる可能性は十二分にある。
 アリアは実戦経験など無きに等しく、今までクルニアから出たことが無いうえにそこそこ箱入りで育ってきた。ああいう街で自分の身を守る方法など全く知らないのだ。
 もちろん、セシルは大事だし絶対助けたいと思う。けれど作戦もなにも無しにいきなり飛びこむような無謀なことはしたくなかった。
「ったく、なんだよ」
 ラシェルは嫌々ながら振り返った。とくに感情を隠したりするつもりは無いようでその表情にはありありと苛立ちが浮かんでいた。
「いきなり飛びこんで入ったら、うちたちの身も危険なの! ちゃんと作戦考えてから行くの!」
「大丈夫だ。一緒に行動してるあいだはちゃんとあんたのことも守ってやるから」
 彼は思いっきり不機嫌そうに言った。一刻も早く彼女を取り返したいといった感じだ。これはいくら説得しても聞いてくれそうにない
「ほんとーね?」
 疑わしげなアリアの問いに当然だと言わんばかりに頷くラシェル。
 こちらの大陸のことなど全く知らないだろうになぜか自信満々のラシェルと、それに対して不安げなアリア。二人は街に向かって歩きだした。
 
 遺跡から北に数キロ。二人は闇都市ノインの北側入り口にいた。
 顔に傷がある人、ケバケバな衣装と化粧の女性、見た目は普通っぽい人もいたが、ほとんどはいかにもガラが悪そうといった感じだ。そんな人々が大勢街中を行き交っている。
「・・・・・・」
 アリアは驚きと恐怖でそこに立ちすくんだ。
「なにしてんだ、さっさと行くぞ」
 ラシェルは立ちすくむアリアの腕を引っつかみ街中へと歩き出す。アリアは思わずそれに抵抗した。ラシェルの動きが止まる。怒られるかと思ったが、振り返ったラシェルの表情は怒りというよりは呆れだった。
「あ・・・あの・・」
 ラシェルは大きくため息をついた。
「怖いなら外で待っててもいいぞ。ここまで関わったんだ、ちゃんとあんたの連れも助けるって約束する」
 アリアは俯いた。セシルを助けたいと、本当に心から思っている。けれどこの街が怖いのも本当だ。
 顔をあげるとラシェルと目が合った。
 沈黙・・・・そして、
「行く。うちが行かなきゃだめなの。うちが自分でセシルを助けに行かなきゃ」
 アリアはしっかりとラシェルの瞳を見据えて言った。ラシェルがふっと笑った。
「よし、オレから離れるなよ。オレは自分の目の届かないところにまで責任は持てないからな」
「うんっ」
 今度こそ、二人は街の中へと入って行った。



「う・・・・」
 セシルは顔をあげた。
 周囲は石の壁。正面に鉄格子があった。
 セシルは状況が掴めずその場で呆然とした。
「おはよ、大丈夫?」
 いきなり横から声がかかった。セシルは驚いて顔を横に向ける。
 そこには、十五歳前後――自分よりちょっと年上の女の人がいた。肩くらいまでの長さの桜色の髪で自分と同じような紫色の瞳をしている。
 セシルはできるだけ彼女から離れてから返事を返した。
「大丈夫・・・です。あの、あなたは?」
「あなたと同じ。捕まったのよ。多分あいつら奴隷商人でしょうね。んもぅ、妙な小細工までしてくれちゃって。おかげで逃げられないじゃない」
 言いながら彼女は自分の手元に視線を移した。彼女の腕に見覚えがあるブレスレットがはめられていた。本物を見たのは初めてだが、本で見たことがある。魔力封じのための魔法道具だ。装着者に薄い結界をはり、魔力が外に放出されることを妨害することによって魔法を使用できない状態にするアイテム。よく見ると自分の腕にもそれと同じものがあった。
 彼女は小さくため息をついてからにっこりと笑いかけてくれた。
「私、フィズ・クリスっていうの。あなたの名前は?」
 話を振られてセシルは俯いた。やはり初対面の人間と目を合わせるのは苦手だ。
「・・・・セシル・・ライト・・・・です」
「セシルか。不安だろうけど大丈夫よ。絶対助かるから」
 彼女はにこにこと笑っている。本当にまったく不安を感じていないようだ。
 どうしてこんな状況で不安を感じずにいられるのだろう。多分ここは奴隷の競売所、もしくは奴隷売買をする商人の家。自分が奴隷として売り払われてしまうかもしれないというのに・・・・。
 セシルは何も言わなかった。会ったばかりの人間に自分から話しかけるのは、セシルにとってはとても勇気のいることで、聞きたくとも聞けなかったのだ。
 しかしその疑問は顔に出ていたらしく、彼女は言葉にならなかったセシルの質問に答えてくれた。
「私、二人で旅してるの。あいつも私が捕まったのは知ってるからすぐに助けに来てくれるわ」
 二人・・・・・・セシルはアリアのことを思い出した。アリアは大丈夫だろうか。
 同じように捕まって別のところに連れてかれたか、それとも・・・まさかもう売られてしまったとか・・・・?
「大丈夫?」
 フィズが心配そうにこちらを見ている。
「・・・・・・・・・」
 セシルは小さく頷いた。しかし彼女はそれでは納得しなかったようだ。さらに問いかけてくる。
「顔色が悪いわよ。なにかあるんなら話してみない? それだけでもずいぶん違うと思うし・・・・」
 セシルは黙り込んだ。けれど不安を胸の中に押しつぶしておくことにも限界を感じ、ポツリポツリとだが自分の身にあったこと、今自分が感じている不安を話した。
 話が終ったことを確認してから、フィズはにっこりと大丈夫だと言ってくれた。フィズの言葉のおかげか、不安をすべて口に出したおかげか、少しだけ不安が小さくなった。セシルはやっとちょっとだけ笑えた。
「あっ!」
 その声にセシルはビクっとした。怯えたような瞳でフィズを見つめる。だがその視線はフィズの視線とは微妙にずれている。
 ・・・・・・目を合わせないように。
「ごめん、あなた全然笑わないんだもん。今のちょっと嬉しかったから♪」
 そう言ってフィズは笑った。フィズはセシルを見つめた。セシルが視線を逸らすとフィズはそれを追いかける。二人の目が合う。
「ね、絶対大丈夫だから・・・そんなに怖がらないで」
「・・・・・うん」


 アリアとラシェルは街の中心近くにある酒場に来ていた。昼をまわったばかりだというのに酒を飲んで酔っ払ってる人間が多い。
 ラシェルはとくに気にした様子も無かったがアリアは不安げに辺りを見まわしている。ラシェルがポンとアリアの頭に手を乗せた。
「あんまりキョロキョロするな。堂々としてないと目をつけられるぞ」
「う・・・うん」
 二人は奥まったところにあるテーブルに腰掛けた。
 アリアが一番に聞いたのはセシルを助ける方法ではなく、ラシェル自身のことについてだった。
「ねぇ、ラシェルはこういうとこ慣れてるの? なんかすっごく堂々としてたけど」
「まぁ、それなりには」
 それなりに・・・・?? それなりになんて曖昧な言いかたでは余計に気になってしまう。アリアは疑問に思ったことを素直に口に出した。ラシェルは気を悪くするようなことも無く、簡潔にだがアリアの質問一つ一つに答えてくれた。
 ラシェルの職業はトレジャーハンター。遺跡についてのことなどを自分だけで情報収集するには限界もあり、情報を売る商売をしている人間の手を借りる事もあるのだという。本当に詳しい情報を仕入れるために、この街と似たような雰囲気の場所に出入りすることは良くあることなんだそうだ。
「ふーん・・・・で、本題なんだけど・・・どうやってセシルを助けるの?」
 聞かれてラシェルは笑った。不敵な・・・というのがぴったりくるような、そんな笑み。
「それはもう考えてある。まずはあいつらの居場所を突き止めないといけないんだけど・・・――」
 

 ラシェルの話を聞いた後、二人は人通りの少ない裏路地に移動した。
「・・・・大丈夫なのぉ〜?」
「大丈夫。アリアがきっちりやってさえくれればな。それとも役目交代する?」
「それはもっとイヤ」
「んじゃ、決まりだな」
 言ってラシェルは小さな円盤状のものを差し出した。
 アリアは、緊張しつつ、それを受け取る。しばらくそれを見つめてから顔を上げた。
 ラシェルと目が合う・・・・・・真剣な表情だ。
「アリア。まかせたからな」
 ごくりとの喉を鳴らせて、アリアも真剣な表情でラシェルの瞳を見つめ返す。
「うん、まかせといて」
 二人はお互いに頷くと作戦決行のため、それぞれ別の方向に歩き出した。

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